盗賊戦
翌朝、患者を大量に捌いた後なので皆は疲れていたようだった。なので昨日の夜の御勤めはナシだった・・・ぐすん。
「とりあえず此処には何日くらい滞在することにしようか」
割合無目的なので急ぐ理由もあんまり無い。それに一日滞在しただけでクラウディアの生まれ故郷をスルーしてしまうのも勿体無い気がした。しかし彼女は意外にも感じる所は少ないようで。
「両親には何回も会ってますから別に大丈夫ですよ?」
とあっさり、なんでも前回の帰郷は二週間前でフィアンセ事件のホンの一日前まで自宅でのんびりしていたそうだ。
「それに貴方に嫁いだ身ですから、ね?」
口止めもした手前、ほいほいと会いに行っては良からぬ噂が立たないとも限らない。文通程度できれば問題ないとのことだった。
それに加えてアクサ村では嫁いだばかりの嫁が実家に戻るのは宜しくないそうだ。新婚の妻が夫と居らず単身で実家に戻るのは公然と夫に不満を抱いているという意味になるという。
「不便なもんだ」
「まあ新婚ですし帰って来たいなら子供の顔見せくらいの理由が必要でしょう」
「つまり早めにこ、子供を作っ・・・あうあうあー!」
自分でいっときながら恥ずかしくなったのかクラウディアは真っ赤になり、釣られてアキナも真っ赤になる。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに・・・まあ、可愛いからいいけどさ。
結局アクサ村は緊急の病人の処置が済み次第出発することになった。
「それでは長くとも2~3日で我々は出発しますので」
「ありがとうございます」
午前中に再び村長さんに急病人を優先に治療することと近々出発する旨を伝えると残念そうだったが龍の巫女は慈善団体ではないのだ。本来は割安だが賃金を必ず受け取るのだと強く言い含め、修行中ゆえに今回は無料なのだと付け加えておく。龍の巫女が治療で路銀を得ていた場合俺達の軽率な行動で食いはぐれるのを防ぐためだ。
それからも病人やけが人を何人か治療しつつ、路銀に困るだろうと何かとサービスしてくれる女将さんに感謝して二日目の滞在を迎える。
ランドは初日以降会うことは無かったが無体を働いたので父親に絞られているのだろうとクラウディアも特に心配した様子は無かった。
しかしその日の昼下がりに大事件が村に起こった。
「大変だぁ!」
昼食後、そろそろ午後からの診察でもと考えて居た時に見知った顔が慌てて駆け込んできた。
「俺達の村と繋がる道で盗賊が出た!」
息を切らしてそういう男は先日ランドと一緒にいた取り巻きのディズだった。
「盗賊か、数はどれくらいだ?」
「わからねえです、でもランドの兄貴が・・・此処にくる途中で盗賊たちに鉢合わせてして、俺は助けを呼ぶ為に逃がして貰ったんでさ!」
「なんだと!?」
どうやらランドが襲われているようだ。事態は一刻を争う。
「急ぐぞ、死なせちゃ可哀想だ」
そう言うと二人は二つ返事で用意を整え、アキナは杖をクラウディアはメイスを片手に立ち上がった。
「全速力で行くぞ!」
俺は二人の返事を待たず、二人を抱えて一足飛びに飛び上がる。二人がなにやら悲鳴を上げているがそれどころではない。人の命が懸かっているのだ。
「ひぇえええええええ!」
「は、速いです!死にたくないです!」
走っている時間が惜しいが翼を出せない以上飛んで行くわけにも行かないので小さいジャンプを繰り返して移動している。道は舗装されていないので歩きにくいがジャンプする上では関係ない。
10分ほど移動すると怒声が此方に聞こえてきた。そこからさらに数回ジャンプするとランドが盗賊相手に奮戦している様子が見て取れる。
相手は15人ほどだが既に3人ばかりが倒れている。
「掛かってきやがれ!このランド様が相手だぜ!」
ネズミ顔のランドが挑発すると面白いくらいに相手は挑発に乗ってくる。そこをすかさずランドは杖で殴打し、動きが止まったところをゴルフクラブのようにフルスイングして盗賊の一人を殴り飛ばした。
「このネズミ野朗、存外やりやがる!お前等!囲んじまえ!」
そう言うと残った10人ほどがランドを取り囲む。
「お、俺様をそんな程度で仕留められるとおもってんのか!」
強気に振舞っているが焦っているのが手に取るように解る。存外に腕自慢のランドも包囲されるとさすがに辛いようだ。
盗賊たちは輪から離れて指示を出す頭目の指示を受けてジリジリと包囲の輪を縮めていく。
「奇襲攻撃と行こうか・・・スゥゥ・・・ゴァアアアア!」
俺は口からファイアボールを吹き、輪の一部の盗賊を吹き飛ばした。
「ぐわっ!魔道師がいるぞ!」
二人を地面に降ろして駆け出すとアキナが詠唱を始め、クラウディアが俺に続いて走り出す。
「はっ!」
クラウディアがメイスを振るう。盗賊はその一撃を慌てて剣で受け止めるがそれは悪手であった。
「うぇ?!・・・ぐはっ!」
パキン!と音を立てて剣が中ほどで折れてしまい、二回目のクラウディアのメイスの一撃をモロに喰らう羽目になった。
「あ、兄貴!」
「兄貴?・・・とりあえず助けに来たぞ」
ランドが尊敬のまなざしを向けてくるので若干驚いたが気を取り直して盗賊たちに向き直ると盗賊二人が剣を向けて突っ込んでくる所だった。
「右をやれ、俺は左をやる」
「了解でさ!」
確認を取って地面を蹴ると俺は突きを放ってくる盗賊の剣を体を捻ってかわし、顎に拳を叩き込む。ランドは元よりリーチの差があるらしく杖を同じように突き出すと盗賊の腹に深く突き込んでいた。
「野朗・・・!」
盗賊たちが歯噛みしつつも残った戦力を集めて体勢を整えようと集まっている。
「今度は陣を組んで戦うぞ!」
盗賊たちはそう言って声を上げるがもう遅い。少し離れて魔法の詠唱をしていたアキナが杖を振り上げて高らかに叫んだ。
「罪人に裁きの光りを!フォールライトニング!」
「ギェエエエエエエエエエ!!!」
暗雲が盗賊たちの頭上に集まるとその瞬間に雷が轟音を立てて煌き、一箇所に集まった盗賊たちに直撃した。




