冒険の夜明け!
目が覚めたのは日がまだ近所の山よりも少しばかり顔を出した頃だった。
隣では裸の二人が無防備な姿で眠っている。
「・・・」
ムラッとしたが我慢だ我慢。明け方までハッスルしたと言うのに俺の体はまだ物足りないらしい。しかしそれは俺が良くても彼女達が困るだろう。
ちょっと揉むだけにしとこう。どことは言わんが。
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「おはようございます、婿殿。昨晩はお楽しみでしたね」
洗濯物を受け取り、カルネ老が言う。まさかこの台詞をリアルで聞く事になるとは思わなかった。寝起きの二人はしきりに下半身を気にしていたがスルーしておく。
「さて、俺たちは晴れて夫婦になったが・・・龍の巫女としての仕事ってどうなるんだ?」
本来ならばドラゴンが降り立った場所へと赴き彼らの言葉を伝えるのが彼女達の義務であるが・・・。
「旦那様が此処で私達にすることを伝えてくれた以上、『声を聞く』と言うことは達成されていますから次の段階へということになります」
「次・・・?」
「ええ、貴方がおっしゃっていた下界に来た『目的』を伝え、果たすお手伝いをすることですよ」
俺の目的はこの世界を適当に散策しつつ、時折乱れた地脈を正しくすることだ。
ついでに将来の伴侶でもと思っていたら可愛い嫁さんが二人もできたということだが・・・。ついでが先に達成されてしまったのは仕方ないので俺は二人に目的を告げることにする。
そもそも俺は霊峰での暴力沙汰で下界に降りざるを得ない状態で、その際に曽祖父ちゃん達の手が回っていない土地の管理を行うということだ。
「ということは・・・まずは我が国の土地を見回ってはどうでしょうか?」
何故かと尋ねると彼女は簡潔に理由を述べてくれた。
一つ、この国は教会と敵対している為対抗馬である龍の巫女を保護する立場にある。人間を自然と同一視する龍の巫女と違い教会は政治や民衆のあり方などにも干渉するため自然宗教を信じるリイツ王国の宗教や価値観と合わない事。
二つ、国王や国の重鎮達は龍の巫女達が最盛期の頃に生を受けた者がほとんどの為、実績を伴う彼女達に少なからず好感を抱いてくれている。信者もいるらしい。早い話がたくさん貸しがあると言うことだ。
国外へ行けば話は変わってくるがリイツ王国では龍の巫女の存在は非常に重要で国外で断絶してしまった分家や親戚筋を除いても国内に巫女は複数人存在するという。
「親戚か・・・」
「親戚って言っても血縁的にはほとんど他人ですけどね」
始祖が同じというだけで交流は務めの時のみでアキナも両親が健在の際にお披露目をした時に一堂に会した時が唯一の面識だという。
「そうか、まあとりあえずは地脈を調整しつつアキナの親戚筋に会いに行くか」
目的らしい目的もないので俺たちはまずアキナの親戚筋を辿り、その途中で地脈の調整をしていくことにする。
「それならまずはアクサ村に寄ってもらってもいいですか?」
「アクサ村って確かクラウディアの故郷か」
異論はないのでまずはアクサ村を経由して王都へ向かうことにする。旅なんて初めてだ。年甲斐もなくワクワクするな。
俺たちはそれから簡単に準備を済ませると荷物、といっても俺は手ぶらなので準備らしい準備もなく(靴すらも要るか怪しいくらい肌も頑丈なのだ)出発することになった。
「旦那様、本当にそんなので大丈夫なのですか?」
アキナが心配そうに尋ねてくる。そんな俺の今の服装はというと
・上は筒袖の小袖で半纏を羽織っている。
・下はズボン(ジーパンのような硬い頑丈そうな布)
・履物は草を編んで作った草鞋。
うん、典型的な農民もしくは町人スタイルである。マントがなかったので羽織っているのはアキナと旅の経験者であるクラウディアだけである。
「大丈夫大丈夫、霊峰に比べたらここは常春だよ」
ドラゴンになってからというもの体が異様に頑丈になったので旅先でも全然大丈夫だろう。心配してくれるのは嬉しいけど旅用の荷物はおろか鞄すら持ってないしな。
「ま、まあそんなことより早いとこ出発しよう!」
二人をどうにか宥めてカルネ老にこれからの予定を話すと弁当を作って持たせてくれた。ありがたや。アズ老人は一応の装備として短剣を持たせてくれた。
断ろうかと思ったが藪を払ったりするのにいるんだと思い出してありがたく受け取ることにした。短剣もそれ用の肉厚の鉈のようなもので何度でも研ぎなおしのききそうな頑丈さを示している。
「それじゃあお祖母ちゃん、行ってきます!」
「頑張るんだよ、くれぐれも体には気をつけてね」
別れの挨拶を交わすアキナと共に俺たちは世話になったカルネ老の家を出発する。森を道なりに進めば半日でアクサ村に着き、アクサ村からさらに数日の行程をへてアルカンという街に着く。アルカンは商業の盛んな街でそこからなら王都までは目と鼻の先だという。
森の中を道なりに歩き出すとのどかな風景が俺たちを出迎えてくれる。気温的に季節は初春といったところで先導する二人はまだ少し肌寒そうだ。
「あ、旦那様!脇道に避けてください」
アキナがそういうと道端に寄ったので俺もそれに倣って脇道に出る。すると向こうからなにやら豪奢な馬車が走ってきた。豪奢ってか成金趣味か?派手な色に彩られているがなんかセンスを感じられない。
「ケバい馬車だな」
ボソッとつぶやくと二人はプッと吹き出す。どうやら二人も同じように感じているようだ。内心どんな奴がこんな馬車に乗りたがるのかを考えていたのがいけなかったのか護衛らしき騎士が怖い顔でこちらを睨んでいる。
「無礼者!」
ヤバいと思って視線をそらしたが遅かったらしい。護衛の騎士が馬上から槍の石突で俺を殴打した。強かに打ち付けられたと思ったが・・・。
「イテっ」
感覚的には平手を乗せられた程度にしか感じなかった。ぶっちゃけ、あ、触れたな。って程度だった。しかしながらついつい癖でイテッと言ってしまうのはなんでだろうか。




