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プロローグ

前回、『ドラゴンになったので世界を救うためにハーレム目指す』を読んでいただいた方はお待たせしました!はじめましての方は閲覧いただきありがとうございます!

朝日が昇る。山からのぞく太陽に目を細めながら俺は店のシャッターを開けた。今日も今日とて俺の仕事が始まるのだ。


「あ、先生!おはようございます」


シャッターを開けると店の前で順番待ちをしていた老若男女が俺を見て挨拶をしてくれる。中には俺よりも年嵩の人や背広に身を包んだ壮年の男性も混じっているがその人たちも含まれている。


「どうも、遅くなってしまったかな」


今は朝の5時だが順番待ちはもうすぐ10人を越えようとしていた。本当は9時に開業するんだがどうにも評判になってしまったらしくリピーターが集まってくるのだ。待たせるのも悪いので徐々に開業時間が早くなっていく・・・弟子でもとろうかな。


「いえいえ!先生に無理を言っているんはこっちですからね」


先頭のお客さんが手を振って笑顔で答える。彼らの中には病の身を押して通ってくれる方もいるのでもう少し早めたいがこちらも限界がある。


「それじゃはじめますからできるだけ中に入って待ってくださいね」

「はーい、それじゃあよろしくたのんます・・・最近また腰が痛くなってね」


俺は手をアルコールで消毒してからお客さんを一人呼び、ベッドにうつぶせに寝かせる。そう、俺はこの町で腕利きの鍼灸医なのだ。鍼灸・ほねつぎは餓鬼の時分から勉強と実践を重ね手伝いから数えると20年はやってるだろう。師匠だった祖父が死に、父が他所で働いている今この鍼灸院を継ぐ奴どころかお手伝いすら居ないのが唯一にして最大の悩みだ。


「うーん、こりゃ腰だけじゃないな首の怪我が原因だな。首の施術が途中だったもんなぁ」

「ああ、そういわれりゃそうだねぇ・・・あんときゃカミさんが倒れたもんな、

先生がいなけりゃどうなってたかしれねえな」


お客さんの源蔵さんは今年70歳になる元気な御爺さんだが寄る年波には勝てないのか度々通院している常連さんだ。彼はこの町の商店街の会長さんを務める御仁で祖父の代から此処に通っている。先週は彼の奥さんが倒れたので緊急で往診に向かいどうにか一命を取り留めたドタバタがあったばかりだった。


「腰の痛みが嘘みてえだ・・・しかし信吾先生は本当に達者になったなぁ。宗達大先生超えちまったんじゃねえのかい?」

「さてねぇ、『教えることはもうねえ』なんて言われてからもう10年になるが・・・師匠をこえるのにゃあまだまだ掛かるだろうなぁ」


ハハハと笑いつつも関節の歪みを取り除き、鍼を打って筋肉の緊張を取り除いていく。一人当たり短くても30分以上掛かるのでどうしても待ち時間が長くなるがそれでも待っててくれるんだから手は抜けない。

三人に灸を施し、源蔵さんと背広のおじさんに鍼を打って寝かしていると商店街で働く若いのが血相を変えて走りこんできた。


「センセー!大変だ!」

「おう、酒屋の若いのじゃないか」


肩で息をする若いのに水を出して訳を尋ねると最近の悩みの一つが商店街にやってきたとのことだ。


「まったく懲りねえな・・・そろそろキツいのを据えてやるか」

「ありがてえです、今明美婆さんの店で暴れてやがって手がつけられないんで」


近所の商店街は近隣の奥様からオフィスビルに勤めるリーマンたちの憩いの場として長年やってきたがどうにも最近大きなショッピングモールを立てたいどっかのバカが地上げをやってやがるらしい。やり方が無茶苦茶なので警察も動いているがどうにも近所の駐在さんでは心もとないのだ。

配達用のバイクを借りて商店街へと急行すると明美婆さんといかにもな奴らが押し問答を重ねている。


「ババア!こんなボロ店とっとと畳めってんだろうが!」

「やかましいよ!先生の前じゃ何もできない癖に粋がるんじゃないよ!」


明美婆さんは戦後の焼け野原からの古豪なのでチンピラ風情に負けはしないが店としては大変だ。客もチンピラたちに批判のこもった視線を向けているが相手は本職の後ろ盾を持っているので抵抗は視線だけに留まっているようだ。


「邪魔するぜ」


バイクを停めて店の暖簾をくぐると明美婆さんが笑顔になり、チンピラたちがギョッとした顔で俺を見る。


「て、てめえ今は診察中じゃ・・・!」

「御蔭さんでまだ途中だ・・・それで?お前さん達はどうする?叩き出される前に帰った方が賢明だぞ」

「う、うるせえ!お前は関係ないだろ!」


そういうとチンピラ達は俺を囲み、思い思いの武器を此方に向けてくる。


「考えてものをやれよ、掛かって来た奴から脱臼させてやるからな」

ほねつぎを長いことやってると外すのも戻すのも自由自在だ。自分の間接をどうにかするのは難しいが他人のは両手でできるから簡単なことだ。


「うっ・・・」


俺が指の関節を鳴らすと全員が一斉に顔を青くした。全員一回ずつ脱臼させた経験があるから当然だろう。治療も滅茶苦茶に痛くしてやったからまだ体が覚えているはずだ。


「今回は二箇所にするか、三箇所にするかな」

「えっ・・・『ゴキッ!』『ボコッ!』うぎゃあああああ!」


そういうと俺は早速近い奴に飛びつき、右肘と左肩の間接を狙って脱臼させる。外された奴は絶叫しながら地面を転がる。伸びきった関節は外しやすい。


「ひぃぃぃ!あ、兄貴おねがいします!」


一人が手ひどくやられて怖気付いたのかチンピラのリーダー格が入り口に向かって叫ぶとついに本職が出てきた。いかにも修羅場を潜っているだろう貫禄に店内の空気がどんどん冷たくなっていく。


「アンさんが噂の『鍼師のシンゴ』さんかい?」

「いかにも鍼師ではあるがね・・・堅気に手出すって事は俺も本気出すがいいのかい?」

「こっちもメンツがあるんでね、今回はこうさせてもらう」


そう言うと本職はあろう事か拳銃を抜いてきやがった。お客さんの中には悲鳴を上げる奴も出る。


「アンタのタマ取ってくりゃここらで逆らう奴は居なくなるんでな・・・堪忍してくれや」

「ヤクザの理屈にコッチがはいそうですかと従うと思ってんのか?」 


銃にびびらない俺に多少面食らってやがるがそれでも拳銃を仕舞う気配はない。マジでハジく気でいやがる・・・そこまでやるってんなら俺も取っておきを出すしかあるめえ。相手は拳銃、ミスったら即命取りの状況で俺が頼れるのは己の体と鍼師としてやってきた技術だけだ。

長い間、静寂が辺りを包む。


「・・・っ!」


乾いた破裂音が響いた。それと同時に血飛沫が飛び散る。


「ぐ・・・こんなことが・・・」

「っ・・・鍼師なめんじゃねえよ」


銃弾は肩を掠ったらしい。肩から血が出ているがどうって事はない。対するヤクザの指には俺が咄嗟に投げた針が刺さっていた。ツボを刺激して手の感覚を麻痺させる一撃だ。

俺は指の関節を鳴らし、がっちりとヤクザの肩をつかむと震える奴に笑顔でこう言ってやった。


「覚悟しな、二度と拳銃握れねえ様にしてやる」


その後、警察には全身脱臼したヤクザを引き渡し、ようやく診察に戻ることができた。ボコッたヤクザの元締めは俺に怪我をさせたということで顧客の警察官の偉いさんの怒りを買ったらしく事務所ごとなくなっていたそうだ。何はともあれ悩みの種は一つ無くなった。

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