サンタガールからの贈り物
「智子、クリスマスは何か欲しい物は無いの?」
「何?買ってくれるの?」
「んな訳ないでしょ。昔はサンタに欲しい物をお願いして、靴下飾ってたなぁって思ってね」
普通の家庭の食卓。両親と三人でご飯を食べていたとき、お母さんが急にそんなことを言った。
今日は12月24日。世間的にはクリスマスイブ。なので、今日寝れば、明日の朝には枕元にサンタクロースからのプレゼントが置かれている。子供の時なら。
もう、17歳になったのだ。今更サンタクロースにプレゼントを頼んだりしない。自分で稼いで買う。
まぁ、なんでも欲しい物が貰えるというのは、とても良いことだなぁと。あの時、私はなぜお金を頼まなかったのか。
そんな子供いやだな・・・。
と談笑しながらご飯を食べ、お風呂に入り、ふつうにパジャマに着替え、部屋に行く。
当然ながら、寝てもプレゼントが現れる訳ではないし、隣に彼氏がいる訳でもない。
願っても、サンタはプレゼントをくれない。
そう思ってた。
12月24日、午後23時頃。私と彼女の3時間が始まる。
「はぁ、毎年のことだけど、改めて気にすると、なんか・・・、悲しいなぁ」
小さな頃は、サンタさんまだかな?って大騒ぎして、いい子にしてないとサンタさんは来ないよ、って言われて仕方なく寝て、朝枕元の箱を開けるのを楽しんでたのに。
今も、小さい頃みたいにお願いしたら、プレゼント来たりするのかな・・・。
試してみるだけでも。
何かバカなことでもすれば、少しくらい笑えるだろう。
せっかくのクリスマスなのだ、楽しまなければ。
一戸建ての二階、私の部屋にはタンス、ベッド、机、本棚、小さなテレビとテーブルが置かれている。
私はタンスから一つ靴下を取り出すと、壁のハンガーに洗濯バサミを使って靴下をぶら下げる。そして、少し下がり両手を胸の前で合わせる。お願いしますのポーズだ。
昔はこんな風お願いしてたなぁ。
今はないけどクリスマスツリーが部屋に合ったら、そこに飾ってもいいだろう。
そして、お願い事を口にする。
「えーと…。彼氏が出来ますように。あと、お金がもらえますように。それから・・・」
「一つにしなさいよ」
それもそうか。
少し考えてから一つの答えを出す。
「じゃあ、お金下さい」
別に今彼氏はいらないし、お金が一番かな。
「現金な奴ね。お金だけに」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何か突っ込みなさいよ」
あれ?私誰と話しているの?
この部屋には私しかいない。誰も入ってきていない。
ゆっくりと後ろを振り返る。
「どうしたの?まるで幽霊でもいたかのような振り返りかたして」
「あんた誰よ!どうしてここに!なんで!?なに!?」
「混乱しないでよ。そんな早口で言われてもわからないわ」
すぐにドアの方へ向き直り、開けて外へ出る。
いや、出れない。
ドアが開かない。
「ちょっ!どういうこと!ていうか、こんだけ騒いで誰もこないって!?」
謎の訪問者はベッドから立ち上がり、こちらに歩いてくる。
その訪問者は女性だった。
背は私より20センチ以上高い。180近くはあるだろう。
すらりとのびた足には白いモコモコのルームソックスを履いている。そして羨ましいくらいに真っ白な肌だ。赤いミニスカートから覗く太ももにも引きつけられるものがある。
上には、白いニットに赤いカーディガンを着ている。その線は細いのに、胸はとても大きい。
首から上は、とても日本人とは思えない、綺麗な顔立ちをしている。先端に白いボンボンのついた赤色の三角帽子の下から、金色の髪が背中まで伸びている。目は青色で、深い海のような、吸い込まれてしまいそうな感じがする。
そんな彼女が歩いてこちらに向かってくる。
うぅ・・・。私、どうなっちゃうんだろう。
すると、ドアの前でへたり込んでいる私に彼女は手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
外国人にしては流暢な日本語だなぁ、と感心しながらその手をとる。
差し出された手を払いのけられるほど、私の肝はすわっていない。
とりあえず落ち着きましょう、という彼女の言葉に素直に応じる。
私は彼女と、部屋にあるテーブルをかこんで座った。
私は、目の前の女性の一つずつ質問していった。
「あなたの名前は?」
「サンタガールです。あなたは?」
サンタガール?ふざけているのかな。
とりあえず、突っ込まずに質問を続ける。
「私は智子です。次、あなたはどこから来たんですか?」
サンタガールは、智子ね、と頷きこちらの質問に答えた。
「どこだろう。気付いたらここにいたの」
「ここに来る前の記憶は?」
「ないですね」
「サンタガールって?本名?」
「どうでしょう。なぜかそう名乗らなければならないな、と思って」
「ちゃんと答えなさいよ!」
思わず突っ込んでしまった。いや、突っ込むべきだろう。
わかっていること、名前はサンタガールらしい、なぜかここにいた、記憶はほとんどない。
「ふざけてるのかな」
「あれ?笑顔なのに目が怖いです」
サンタガールらしき人は、少し怯えたように言った。
「笑ってる内に本当の事話しなさい」
そういっても、うーんだの、んー?だの、まともな返事が帰ってこない。
「真面目に答えなさいって言ったよね?」
「だって、言ったら何するか分かんないじゃないですか!」
本気で怯えてみせるサンタガール。
「別に何もしないよ!」
なんだ、このやりとり・・・。
ぜんぜん話が前に進まない。
「何か覚えてることないわけ?」
すると、サンタガールは、あ!とわざとらしく思い出したように言った。
「何しに来たかは分かります」
「なら、それを早く言いなさいよ」
これで、少しは話が進むだろうか。
が、そんなことはなかった。
「私、智子にクリスマスプレゼント渡しに来ました」
サンタガールは笑顔で答えました。
しかし、余計に話が分からなくなった。
「クリスマスプレゼント?私に?」
「はい。欲しそうにしてたので」
そんな理由で?たしかに、少し貰えたらいいなとは思ってたし、靴下までぶら下げてあそんではいたけど。
「たしかに、あなたサンタガールだもんね」
「はい。サタンガールじゃないです」
ふふん、と満足げに言った。
「・・・そうね」
もっと突っ込んで下さい!と喚くサタ・・サンタガールを無視して、考え事をする。
「ていうことは、あんたは私の欲しい物を持って来たってことよね!」
「まぁ、そうなりますね」
「なら、早く出しなさいよ!そしたら歓迎してたのに!」
「手のひらくるくるですね」
さっきまで疑って、無視してたのに・・・。
悲しげな表情を見せるサンタガール。笑ったり悲しんだり、忙しい人だな。
サンタガールは、どこからともなく大きな袋を取り出した。
「それどっから出てきたの?」
「秘密です!」
そうして、テーブルの上にコップを2つ、大きなペットボトルのオレンジジュースを袋から取り出して置いた。さらに、お菓子の袋をいくつか。
「これが、私の欲しいもの?」
「はい。厳密には違いますが、これでもいいです」
どういうことだろう。まぁ、何か飲みたかったしいいか。
順応し始めた私は、コップにオレンジジュースを注ぐ。よく見るとこのコップ、サンタやトナカイ、雪だるまや雪の結晶などが描かれている。
けっこう可愛いな。このサンタガール、結構良い趣味してるのかな。
サンタガールはお菓子の袋を開けて、食べ始めている。
種類もいくつかあり、ポテトチップスやらチョコクッキーやら棒状のお菓子やら。
「智子は、彼氏はいないんです?」
ぶふっ!げほっ、げほっ。と吹き、咳き込む。
「いきなり何!?」
「いないのかなっと」
サンタガールの純粋な疑問なんだろう。表情にからかうような感じは見られない。
「いないよ。いたら、クリスマスイブに1人でいないでしょ」
こんな時間だから外にはいないと思うけど、昼間は外にもカップルが多い。クリスマスだからと恋人を作る人もいるだろう。私も興味はあるし、いたらいいけど。
「告白したりは?」
サンタガールは、ジュースを飲みながら聞いてきた。
「したことない。別に男からされたいとかそんなんじゃないけどね」
「好きな男子は?」
「うーん。とくに」
ちょっといいなと思った男子でも、付き合うってことが想像できない。あんまり、好きになることもないかも。
「女性のほうが好きとか?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
だからといって、同姓を好きになったことはない。
綺麗だなと、憧れることはあるけど。それは恋ではないだろう。たぶん。
「憧れから始まる恋もありますよ」
びっくりした。サンタガールが、私の心を見透かしたようにそう言ったのだ。
だから、ちょっと焦った。
落ち着かせるために、こちらから質問した。
「そういうサンタガールはどうなの?」
もう、サンタガール呼びが定着していた。
「どうですかね?いたかも?いないかも?」
そういや、名前とする事以外覚えていないんだっけ。
恋してたかも分からないのか。なんか・・・。
そこで、続きはどこかに捨てた。目の前で楽しそうにお菓子を食べている相手に、そんな印象は抱かなかったからだ。
なので、考えを別の方向に向ける。
同姓への恋。
レズビアンに特に興味はない、周りにそういう人はいない。いや、言わないものか?単に私が知らないだけで、周りにはたくさんいるのかも?
「憧れから始まる恋かぁ」
色々と考えを巡らせそう呟くと、サンタガールは立ち上がり、私の横に来た。
そして、わたしの手を握る。
「何?」
サンタガールは目を閉じて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「ドキドキします?暖かいと思います?離したいと思います?他の場所も触れてみたいと思います?それとも、私に帰ってほしいと思います?」
突然の質問にびっくりしていると、サンタガールは私の手を自分の胸に当てた。
「私は智子の願いを叶えるために、プレゼントを渡すために来たんです。言われれば何でもしますよ」
その言葉に思わずドキドキしてしまった。
というか、手が暖かい。柔らかい。こんなにも違うのか。
でも、相変わらずサンタガールの顔にからかいの様子は見られない。別に人の感情に敏感というわけではないが、なぜか、そんは様子が見られないように思う。
「何でもって、何でも?」
心を落ち着けるように、言葉を繰り返す。
「はい。あ、でも・・・」
「でも?」
「エッチなのとか、エッチなのはだめですからね~」
きゃ!とサンタガールは顔を赤くする。
あ、なんか冷めた。
「じゃあ、とりあえず離れて」
「え?いや、でも」
「ていうか、このゴミどうするのよ」
「あ、それは私が片付けます」
そういい、サンタガールは持っていた大きな袋にゴミを入れた。
「そこにいれるんだ!」
「いきなり耳元で叫ばないでください~」
「ていうか、結局私へのプレゼントって何なのよ」
「なんでしたっけ?」
がくっと肩を落とす。
はぁ、なんだろう。疲れた。
「遊びましょう!」
なんだかんだ一時間がたった頃。日付が変わろうとしている頃にサンタガールはそう提案してきた。
テーブルに、最初のように反対の位置に座り直した。
「もう、遊んでるようなもんじゃない・・・」
「智子疲れてます?」
「誰のせいよ!」
こいつのせいです。サンタガールのせいでつかれてるんです。
さっきから突っ込ませやがって。
「私あんまり突っ込みしたことないんだもん。疲れるよ」
「突っ込みしてました?」
どうだろう。してたような、してないような。
「あ、じゃあ、私が突っ込みしたいです」
そういうのって、大体・・・。
「いいけど、じゃあ私がボケればいいのね」
といっても、どうすればいいんだろう。狙ってボケたことないし。
「じゃあ、そういえば最近・・・」
「なんでやねん!」
「早いよ!まだ何も話してないでしょーが!」
見事に突っ込んでしまった。
思った通りだったよ。結局私が突っ込む。
「別の遊びをしましょう」
どうやら、サンタガールは飽きたようだ。
「トランプでもしませんか?」
「トランプかぁ、まぁいいけど。なにする?ババ抜き?神経衰弱?」
定番所だろう。あとは、人数がいれば大富豪とか、七並べとかかな。
「ピラミッド」
「それ1人用!」
「クロンダイク」
「それも1人用!」
クロンダイクとはソリティアのことである。
というか、こいつわざとやってるだろう。
さっきからニヤニヤしてるし。満足げに頷いてるし。
「じゃあ、ババ抜きしましょう」
「普通ね。ボケてよ」
「ひどい!私がいつでもボケてるみたいじゃん」
とりあえず、ババ抜きでもしましょう。
私には策があった。
まず、このサンタガール、すぐに表情に出る。ジョーカーの位置さえ分かれば取らずに勝てる。
そして、このサンタガールは私の欲しいものをプレゼントしにきた。なら、私が勝ちたいと望めば、勝てる!
はい。負けました。
普通に負けました。表情を逆手に取られて普通に負けました。というか、終始ジョーカーが私の手札にありました。
「私を勝たせなさいよ!」
「そんな横暴な!」
肩を揺らすと、サンタガールは困った表情でもう一戦しましょう、と提案してきた。
そうして、二戦目。
勝ちました。
「・・・・・・」
「あれ?智子?」
なんか、すごい手を抜かれて勝った。
勝負中。
「あー、そこジョーカーなんだよなぁー、とられたらやだなぁ」
「こっちはジョーカー?違う?ちょっと見せて」
「こっち、とって」
「まけたー」
「むかつく」
「ひどい!」
手を抜かれるとむかつくな。真剣勝負で勝ちたかったのに。
まぁ、ずるにのった私も私なんだけど。
25日、時刻は午前0時30分頃。
「よし、次は何しましょうか」
再びテーブルについた私たちは、袋から当然のようにお菓子とジュースを出し、食べながら話していた。
「智子、眠くはないですか?」
「うん。まだ大丈夫。あんたは寝るの?というか、私が寝たらどうするの?」
そういえば聞いてなかった。こいついつまでいるんだろう。
「私は智子が寝たら・・・、帰ります」
「帰るって、どこに?」
「どっか?」
適当だなぁ。それでいいのか?
それになんか間があった気がしたけど、なんだろう。
「次はビンゴをしましょう」
「ビンゴって、大人数でやるものじゃなかったっけ」
二人で楽しいのだろうか。
そんな疑問には答えず、サンタガールは袋の中からシートと数字の書かれた玉の入ったガラガラ回す装置を取り出した。
サンタガールは、はい、とシートを渡してきた。
「これ、揃ったら何かあるの?」
「じゃあ、なんでも欲しい物を一つあげよう」
「ほんと?」
「ただし、私より先にそろったらね」
まぁ、そうだろう。ババ抜きの時のようにはいかないよ。
「やったぁ!揃ったよ、ほら!」
「わぁー、負けちゃったぁ」
「わざとらしく言うのやめろ!ずるしたみたいだろ!」
してませんよ、してませんからね。
「さぁ!私の望む物を出すのよ!そうね…、何にしようかな?」
「じゃあ、目を閉じて。今から出すから」
「え?まだ何か言ってないけど?」
「選べるとは言ってない」
「こいつ・・・」
まぁ、こいつが私の欲しい物を知っているのなら大丈夫、だろうか?心配だ。
「さぁ、目を閉じて下さい」
私は、ドキドキしながら目を閉じる。
なんか、鶴の恩返しみたい。
あけちゃだめだよね。だめだよね・・・。
「長くない!」
目を開けると、サンタガールが目の前にいた。
「何してるの?」
「あーあ。目を開けちゃった」
あ・・・。
「なんてね。まだだよ、目を閉じて」
目を閉じる。しかし、
「何してるの?」
「キス」
「ちょいまて」
少し後ろに下がる。
「冗談です。さぁ、ほんとのプレゼントです」
「つぎふざけたらなぐる」
おーこわいこわいとサンタガールは言いながら、少し離れる。
私も目を閉じて、なにが起きるのかをただ待つ。
時刻1時頃。
「サンタガール?そろそろいい?」
遅いな。何してるんだろう。
体に触れられてはいないから、キスだのなんだのはないけど。
私の欲しいもの。
彼氏?お金?あとは、なんだろう。
「ちょっと?開けるよ」
何も言ってこない。ならいいかな。
目を開けると、そこには誰もいなかった。
振り返ってみても、とくに誰もいない。
「あれ?サンタガール?」
部屋には彼女の持っていた袋が一つ。
となれば、
「そんなところ隠れてないで出てきなさい」
しかし、反応はない。
さっきまでは、私と彼女の笑い声が響いていたのに、今はそんなことなど、まるで夢であったかのような静けさが部屋を包んでいる。
こうなると、少し寂しくなってくる。昔と違って、1人だからと泣いたり、悲しくなったりはしないけど。
「サンタガール・・・」
そこにあった白い袋。
それはサンタガールの持っていた、なんでも出てくる魔法の袋。
彼女は言っていた。私が望めばそれが出てくると。
私はその袋に手を入れてみる。
すると、パクッと何かに手を食べられた。
「うひゃあ!」
手を引っ込めると、指先が少し濡れていた。
袋の中を覗いてみると、そこには。
「やぁ!また会ったね!」
「ちょっと、指食べないでよ。びっくりするじゃん」
「美味しかったよ?」
自分の指を確認する。
良かった、減ってない。
「で?私へのプレゼントってなんなの?」
「ここまでやってわからないのですか?鈍いですね~」
そんなこと言われても。
「まぁ、いいです。さぁ、次の遊びをしましょう」
「展開早いなぁ」
「はい。もう、あんまり時間がないですから」
午前1時20分頃。
「最後?はなにするの?」
「そうですねぇ。ババ抜きは私の勝ち、ビンゴは智子の勝ち。次で最終的な勝ちが決まる訳ですが・・・」
「なら、次は力で勝負ね」
ババ抜きは知力、ビンゴはなんか引き当てる勇気、ならあとは力を試すのみ。
「では、無難にアームレスリング、腕相撲でどうですか?」
体格的に勝てそうにないけど、
「いいよ。絶対負けないから」
「良い勝負が出来たらいいですね~」
ニヤニヤとサンタガールは言った。
ムカつく顔・・・。絶対負けない!
テーブルの上を片付けて、試合を行う。
勝負は三戦。二回勝った方が勝ち。
まずは一回戦。
「うりゃあ!」
「ちょっと!まっ・・・」
私は始まりのカウントを行わずにいきなり勝負開始。
しかし、
「負けた・・・、だと・・・」
「ズルする人には負けません」
ズルしたうえに負けた。一番傷ついたかも。
二回戦。
正々堂々と勝負。
「勝った!」
「あれ?負けちゃった」
私の勝利でした。なぜさっき負けた?
「手、抜いてないでしょうね?」
「そんなことしたって、面白くないでしょ」
当然のようにサンタガールは言った。
まぁ、そうだな。
三回戦。ここで勝った方が勝ちとなる。
ファイト!と声を出し、勝負を開始すると、二人の手は真ん中で止まったまま動かない。
私はサンタガールに話しかけた。
「私は一度あんたに負けてる。もう、負けない!」
「そんな決死な覚悟で戦わずとも、楽しめばいいんだよ」
「いつまでも、そんなこと!」
ぐいっと押していくと、サンタガールは呟いた。
「ふふ。力、強くなったね」
1時30分頃。
二人はまたテーブルの上にお菓子やジュースを広げて談笑していた。
話に一段落ついた時、サンタガールが言った。
「そろそろ智子は寝る時間だから、ベッドに向かおうね」
たしかに、だんだん眠くなってきた。
でも、眠ったらサンタガールは帰ってしまう。
「まだ・・・、まだ大丈夫」
もっと話していたい。となりにいて欲しい。
「だめよ。私が帰れないもん」
眠いと意識し始めたからか、だんだんまぶたが重くなっていく。
「何か、聞いておきたいことはある?」
ある。いくつかある。
「まず、あなたの正体は?」
「サンタガールだよ。それ以外の何者でもない」
「答えになってないし・・・」
「他には?」
「これは夢?」
視界が暗くなり始める。
「後でわかるよ」
「私たちはどこかで会った」
「そうだね」
「まだ、小さいときに」
「うん」
暗い空に星が見える。
「離れたくない・・・!もっと話したい・・・!」
「自分の胸に聞いてみよう」
「私が一番欲しかったものは・・・?」
「なんだろう」
机に突っ伏したまま、まぶたは落ちて。
そして私は深い眠りに落ちた・・・・・・。
午前7時。
目覚ましの音で目を覚ます。
ベッドから体を起こし、目覚ましを止める。
まだ寒いけど、ベッドから出て窓を開ける。
12月の冷たい風が吹き込んでくる。
残っていた眠気も飛んでいった。
そう、これは夢。いつかの日の少女がみた光景の続き。
もう一度会いたい、その少女の声が作った夢の世界。
昔、私がまだ6歳の時。
クリスマスに合わせて外国に旅行に行っていたのだが、私は星を見ようとホテルの外に勝手に出てしまい、1人夜道を歩いていた。
寂しくて、暗くて、怖くて、泣いて歩き回ってた私に、1人の女性が話しかけてきてくれた。
その時の私よりは大人だった、街の小さな明かりに金髪が映えていた。
私は外国語は話せなかったから、日本語で助けを求めた。
すると、その女性は日本語で返してくれた。明らかに外国人だったのにとても流暢に日本語を話していた。
私はその女性と3時間ほど、一緒に過ごした。
その女性はバッグを持っていて、その中からはいろんなものがでてきた。
お菓子、ジュース、おもちゃ。今でも不思議なバッグだ。
最初は彼女の持っていた物で遊んだり、食べたりしていた。
彼女はホテルの近くまで私を導いてくれた。
私はこっぴどく怒られたけど、その女性が私の両親をなだめてくれた。
次の日、私はその女性と待ち合わせして、遊びに行った。
楽しかった。親戚や家族以外の大人とはほとんど遊んだことがなかったので、ずっとワクワクしてた。
その女性は子供っぽくって、当時はよくわからなかったけど、ふざけたり、ボケたり、私に突っ込みを強要したり。不思議だったけど、そんなところが、馴染みやすかった。
私が最後にその人を見たのは、母に抱っこされた状態で、とても眠かった。でも、泣いていたと思う。また会いたいと、会えるかなと聞いたと思う。
そして、彼女は言ってくれた。
「望めばそれを君に贈ろう。私はサンタクロースさ」
けど・・・、
「見習いだからね。私自身を贈ることは出来ないんだ」
「だから、せめて思い出を贈ろう。クリスマスくらいは私の事を思い出してね。私の事を呼んでくれたら行くから」
そして・・・。
私は、朝の気持ちの良い空に向けて一言呟いた。
「私の事は、サンタガールと呼んでね」