薬完成
サラさんにレシピを売ってから早一週間が経過した日のことです。
アスロックさんが緑色の粉末の入った小瓶を持ってきました。
たぶんあれが龍のうろこで精製した薬なのでしょう。
「ん」
「えーと、飲めばいいんですか? 」
差し出されたそれをじっと見つめてから尋ねると、アスロックさんは静かにうなづきました。
……粉末のお薬って苦手なんですよね。
「すみません、アスロックさん。
そこの棚に白い箱があると思うので取ってもらえませんか?
えぇ、その赤い十字の箱です」
我が家に常備してあるお薬は全てこの箱に詰まっています。
もう一つ救急箱はあるのですが、そっちは怪我の手当て用としてお店の方に置いてあります。
「ん? 」
「あぁこれはオブラートといって、粉のお薬を飲むときに使うんです。
恥ずかしながら、苦いお薬は苦手で……」
「ん」
「この箱にオブラートを立てられるので、そこにお薬をサラサラと流し込んで……こうやって折りたたんで飲むんです。
便利でしょう? 」
そう言ってオブラートに包んだお薬をお水で流し込みます。
……ちょっと大きかったので喉につっかえてしまいましたが、どうにか飲み干すことができました。
「これであとは効果が出るのを待てばいいんですよね」
「ん」
私の言葉にアスロックさんが頷いた瞬間でした。
「薬は一日くらいたてば効果が出るらしいから、明日一日は家の中で大人しくしていた方が良いみたいだよ」
窓から声がしたので目を向けると亮君がそこにいました。
ここ二階なんですけどどうやって……あぁ、よく見るとニルセンさんの頭が見えます。
なんか簡易エレベーターみたいですね。
「さんきゅーニルセン」
「気にするな、我とて見舞いに来たのだ。
そのついでである……欲を言うなら何か美味い物をもらえたらうれしいがな」
ちゃっかりとそんな要求をするニルセンさんに亮君が苦笑いを見せています。
それから救急箱を入れていた棚からドロップ缶を取り出して、その中身をすべてニルセンさんの口に流し込んでしまいました。
「おぉ……おぉ、これは……なんと甘美な……うぅむ、この突き抜けるような爽快感も……おぉ、これぞ人類の秘宝か」
ドロップで大げさ感動しているニルセンさんをよそに、亮君がアスロックさんに近寄っていきます。
その手には緑色の瓶が一本、あれは何でしょう。
「ありがとうなアスロック、これジェーンの姉御と一緒に飲んでくれ」
「ん」
「気にするな、これは個人的な礼だよ。
お前が個人的に作ってくれた薬に対するな」
「……ん」
少し悩んだそぶりを見せたアスロックさんでしたが、笑顔を浮かべてその便を受け取っていました。
たぶんあれはお酒なんでしょうね。
「そんじゃ……どうしようか」
「どうする、とは? 」
「いや、アスロックには経過を見るためにもここに残ってもらうし、俺もここにいる予定なんだけど茜さんが寝るつもりなら一度席を外そうと思うんだ。
その間はニルセンが見張っててくれるし」
「そうですねぇ、最近お昼寝のし過ぎで頭が痛いので今日は起きていようと思ったんですが……あ、そうだ外に出なければ問題ないんですよね。
ならちょっとお料理の練習をしたいんですけど手伝ってもらえませんか? 」
ここ最近料理とは無縁の生活をしていたので腕が鈍ってしまっているはずですから。
お店再開を考えるならしっかりと勘を取り戻さないといけませんからね。
「料理か……二階にあるキッチンでやるなら大丈夫かな」
「ん」
よし、二人の許可も取れたので早速……。
「あの、ごめんなさい。
ちょっと着替えたいので……」
今はパジャマ姿なのでこのままというのはちょっと……。
亮君はともかく、アスロックさんやニルセンさんの前でパジャマで行動するのはちょっと恥ずかしいです。
「わかった、アスロック、ニルセン、ちょっと席を外してくれ」
「……亮君もですよ? 」
ここで見学していようという魂胆のようですがそうはいきません。
柔肌を見せつけるつもりはありませんから。
「いやでもほら、何かあった時に誰かいないとさ」
「……亮君も、ですよ? 」
ちょっと語気を強めてみます。
ここは譲れません。
「夫婦だし何度も見ているんだから……だめ? 」
「だめですよ?
それと他の人の前でそういうことを言うのは、デリカシーにかけていると思いませんか?
ねえ亮君? 」
「あ、はい、ごめんなさい」
「わかればよろしい、それに着替えるといっても数分ですから何も起こりませんよ。
あ、でもちょっと手を貸してもらっていいですか?
立ちくらみとかは怖いので」
「喜んで」
そう言って亮君の手を借りてベッドから降りて少しストレッチをします。
うん、立ちくらみも起こりませんし調子もいいですね。
「それじゃあ少し待っててくださいね。
あと覗かないでくださいね? 」
「……わかった」
「今の間は何ですか? 」
「何でもないよ、うん何でもない」
まったく、亮君は本当に男の子ですね。
さて、早く着替えてしまいましょうか。




