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レシピ! 売るよ!

 サラさんが来訪されたのは翌日の晩でした。

 普段はお化粧もしっかりして、髪もきれいに整えているのですがこの日ばかりは目元に隈を作り、お化粧などもそこそこになっていました。


「やっとひと段落したというのに紅茶とケーキを楽しめないというのは悲しいものね……蒼井、お店の再開はいつなのかしら」


「本当ならすぐにでも、と言いたいところなんですけどね。

残念なことにまだ眠り続けている旦那様が許してくれないんでお薬ができたらということになります。

そこからまだしばらくは許可が下りないでしょうし……早く見積もってもひと月後ですね」


 ひと月、小さなお店にとっては大打撃となりますからどうなるか不安なんですよね。

 私が眠っていた期間も含めれば二月くらいにはなりますし……お得意様が離れたするには十分な期間です。

 幸い貯金があるのでそちらを切り崩せば5年は生活できますし、お店を経営するにも同様の期間は問題ないでしょう。

 お店を諦めるのであれば十年は生活もできるでしょうか。

 その事は今も腰に抱き着いて眠っている亮君とお話ししなければならないことですけど、お店を閉めるというのはまず無い選択肢ですね。


「ひと月……長いのね」


「そうですね。

長いといえば昨晩の騒動はどうなりましたか。

随分長いこと続いていたみたいですが」


「結果だけを見るなら作戦は大失敗、ただ得る者はあったわ。

昨日このお店の周辺をかぎまわっていたのはやはり帝国の密偵。

その証言は大道芸人の一団からも取れているのだけれど……その……密偵は捕まると分かった瞬間には毒薬を飲んで……」


 あぁスパイ映画なんかではおなじみですよね。

 敵に捕らえられて情報を漏らすくらいなら命を絶ってでもというのは。

 でもそれって私は後ろめたいことがありましたと言っているのと同義だと思うんですよね。

 それに身元も割れてしまっては……もしかしてその密偵さんはあまり熟練していないのかもしれませんね。


「それにお父様にとても怒られてしまったのよ。

冒険者ごっこ程度ならまだ容認することもできるが、戦線に立つような真似を許せるかって。

王様の付き添いとかいろいろ理由をつけてお店に通っていたけどそれも難しくなるわ……今日はいっそのことと思って抜け出してきたけれど」


「サラさん、やっぱりジョンさんが言う通りおてんばですね」


「そうよ、昔から書斎にこもるよりもダンスの御稽古のほうが好きだったし幼いころはお屋敷の探検なんかもよくしたものよ。

貴族の家だから隠し通路なんかもあったから探索する場所はいくらでもあったわ。

あの頃が懐かしいわ」


「子供にとっては全てが新鮮に感じますからね」


「そうよ、それなのよ。

新鮮なこと、それこそがすべてなの。

冒険者のお仕事も新鮮だし、貴女のお店も新鮮なのよ。

亮様に魅かれたのもそれこそ見知らぬ異邦人だったというのが大きいと、今になって思うわ」


 確かに私もお店に外国の方が来店された時なんかは、今では慣れてしまいましたが最初の時はガチガチに緊張していましたしね。



「ねえ蒼井……物は相談なのだけれど……」


「なんでしょうか」


「ケーキのレシピを売ってくれないかしら。

言い値で買うわよ」


 レシピですか……一応著作権とかあるのでおいそれと売るわけにはいかないのですがここは異世界ですし……。

 それに今は少しでも貯金を殖やしておきたいところなので引き受けてもいいと思うのですが……うーん。


「お願いよ、ケーキのない生活は色のついていない絵画のようなものなのよ」


「白黒の絵というのも趣があると思いますけど……そうですね、一種類につきこんなものでいかがでしょう。

条件として私がレシピを売ったということは伏せて、サラさんが通い詰めてレシピを見抜いたということにするというのはどうでしょう」


 そう言って指を2本立てます。

 銀貨2枚、少し高めですがそこは目を瞑ってもらいましょう。


「ならチーズのケーキと、モンブランだったかしら、あと基本のクリームと果実のケーキもほしいわ……あ、チョコレートとかいうやつもほしいわね。

その4つだから金貨8枚ね! 」


「え? 」


「え? 」


 今金貨といいましたか?

 私は銀貨のつもりだったのですけど……。


「もしかして20枚だったかしら……そこまでの値段だとさすがに即金とはいかないのだけれど……」


「いえ銀貨2枚のつもりでした」


「……いい、蒼井。

レシピというのはそれがあればある程度の味の再現は可能なの。

そして今この店で食べられるケーキは、この世界にあるどんなお菓子と比べても頭二つとびぬけているの。

その対価に銀貨2枚というのは破格を通り越して詐欺よ」


「そうなんですか……? 」


「えぇ、だから金貨を受け取りなさい。

先ほど言った銀貨二枚という話は聞かなかったことにするから」


 金貨ですか……なんか申し訳ない気持ちが増えました。

 条件を付けている上にそんな大金なんて……。


「ただし、わからない事があったら教えてちょうだい。

直接料理人に指導しろとは言わないから」


「うーん、そうですね。

わかりました、ではそのお値段で」


「さすが蒼井ね、じゃあこれが約束の金貨よ。

さあレシピを教えなさい! 」


「いいですよ、えーと……そこの本棚の上から二番目の棚。

そこの右から三番目ですね、そうですそれを取ってください」


 そう言ってサラさんにレシピ本を取ってもらいます。

 それから亮君をひきはがして、PCの隣へ。

 スキャナー機能もついたプリンターなのでコピーもできる優れものです。

 これを使ってページをコピーします。

 日本語で書かれた本なので、勉強しているサラさん以外には判読できないでしょう。


「その道具はそんな風に使うのね……仮にあなたの国と戦争することになったら3日と持たずにこの国は亡ぶだろうと思うわ」


 そんな事を呟いたサラさんでしたが、少なくともこの世界と日本が戦争することは無いでしょうね。

 私と亮君、むっちゃんに東先生、そして過去にこの世界に来たという人の中で世界の行き来ができた人はいませんし、方法は亮君を含めたたくさんの方々が模索したでしょう。

 それに私もこれといって良い方法は思いつきませんから、国単位での行き来はまずないでしょうね。


 そんなことを思いながら、ふとプリンターを操作する手が止まりました。

 そういえばこういった紙なんかの日用品や、食材なんかはどうやってここに現れるのだろうかと思ったからです。

 日本から転移してきたのか、それともほかの方法なのか。

 なんにせよわからないことにはどうにもできませんから、すぐに考えるのをやめて次のレシピの載ったページを探すべくプリンターから本を取ってぺらぺらとページをめくりました。

 後ろでうきうきとしているサラさんのためにも。

皆様お世話になっております。

先日無事退院と、発売の至りとなりました蒼井茜です。

この度は皆様にご心配をおかけしましたことと並びにご報告を一つ。

現在発売されている初版本ですが乱丁が発見されました。

増版の際には修正されるそうですので、詳しくはアース・スターノベル様のサイトに掲載された謝罪文を一読していただければを思います。

ご指摘いただいた皆様、ご購読ご指摘ありがとうございました。

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