サラの作戦?
翌日、朝になっても目を覚まさずに夕方まで寝続けていた亮君は目を覚ますや否や体を起こして飛び出そうとしていました。
それを思わず、服の裾を私がつかんでしまったために顔面から地面に落下したのは申し訳なかったと思います。
「あの道楽お嬢様は何を考えているんだ! 」
珍しく激高した亮君でしたが、普段悪口になれていないのもあってか妙な呼び方になっているだけでした。
道楽お嬢様……いえ、まあたしかに道楽なんでしょうけどね。
「落ち着いて下さ合い、亮君。
サラさんにも考えがあるみたいですし、ここはひとつ任せてみませんか? 」
「いや、だけどそれじゃあ! 」
「まず、昨日の夜から今まで眠っているほど疲労していたことに対するお説教がありますからおとなしく聞いてくださいね。
それからサラさんの作戦の概要を亮君は知らないわけですから、外に出ても邪魔にしかなりませんよね。
だったら一緒にここにいてくれますよね」
少し気迫を込めて亮君を説得してみます。
うん、たじろいだ様子ですので、これはあと一息ですね。
「こういった方が亮君には効くんでしょうか。
私のそばにいてくれないの? 」
少し上目遣いもしてみます。
慣れない表情に顔の筋肉が悲鳴を上げていますが、あと5秒でいいのでこらえてください私の表情筋。
「……わかった、だからその表情やめて、思わず押し倒したくなる」
「さっきまでしがみついていたのに何をいまさら……でもまあ観念したところで何か食べますか?
さっき東先生がおかゆ作ってくれたんですよ。
全部このお店で仕入れた食材なので私が食べても問題はないそうです」
「へぇ……茜さんはもう食べたの? 」
「いえだから、さっきまで私抱き枕にされていましたから」
制悪に言うなら東先生が来たのが二時間前で、抱き枕にされたのはその一時間後くらいからでしょうか。
シャワーを浴びて、トイレに行って、お水を飲んで、まだおなか減っていないから亮君起きるまで一休みと思いお布団に入ったらがっちり拘束されてしまいました。
やっぱり男の子ですよね、どんなに頑張っても振りほどけないどころか背骨が折れるんじゃないかというほど強く抱きしめられてしまいました。
「それは……ごめん、いい匂いがしてたんだと思う……」
「はいはい、別に怒っていませんからそんな捨て犬みたいな目をしないでくださいね」
そう言ってから私もベッドから降ります。
そのまま亮君の手を取って、階下に用意されたおかゆを食べに向かいました。
土鍋の中に入っていたのは白くてサラサラとしたおかゆです、これならおかかが一番でしょう。
とろとろのおかゆなら玉子とお醤油を入れたのが一番好きなんですけどね。
それをじっくりと温めるていると亮君が冷蔵庫の中身をあさっていました。
ほとんどの食品は賞味期限が切れていたと思ったんですけど。
「どうしました? 」
「いや……ここに入っていたはずの酒がいくつかなくなってる……」
亮君の言葉を聞いて、冷蔵庫の中をのぞき込んでみると確かにチューハイなどの亮君の晩酌用のお酒がなくなっていました。
もしやと思って棚を見ると日本酒やワイン、ウイスキーや、調理酒みりんにいたるまでアルコールと名のつくものは全て消え失せていました。
その代わりにレジスターの前には金色の硬貨、つまりは金貨が数枚置かれていました。
……サラさんですね。
「亮君、犯人はわかりましたが泥棒ではないみたいですしおとなしく部屋に戻っておきましょう」
金貨を見せたことで亮君も納得したのか、小さく頷いてから二人でおかゆを食べてから部屋に戻りました。
それからは、私が眠りこけていた時間を取り戻すかのように二人でいろんなことを放しました。
私が来るまで亮君がしていたこと、私が眠っている間に起こっていたこと、私がこの世界に来るまでに会った奇妙なお客さんのこと、私が学生時代にアルバイトをしていたバーのことなどを。
そうして夜も更けてきたころのことでした。
外からワイワイとした声がきこえてきます。
これは争いとかの声ではなく、むしろききなれた……酒盛りの、そう宴会の音です。
ということは何か作戦がうまくいったのでしょうか……いえ、サラさんならすべてが終わると同時にこの部屋に飛び込んできてケーキをよこせと騒ぎ始めますね。
その様子がないということはこれも作戦の一環なのでしょう。
ならおとなしくしているのが吉ですね。
「亮君、さっき起きたばかりで眠くないかもしれませんが布団に入ってしまいましょう、ちょっと寒いです」
「そうだね、ついでに恥ずかしいだろうから電気も消しておこう」
……何を考えているんでしょうか亮君は。
外に人がいっぱいいて、いつサラさんが飛び込んでくるかもわからない状態でそういうことをするわけないじゃないですか。
それに避妊具だってレジの下に置いた金庫の中に入れっぱなしですし。
「わかってるって、冗談冗談……うん冗談」
半眼でにらみつけていると亮君は目をそらしながらそう言ってきました。
冗談であるならいいんです、冗談ならね。
それから電気を消して、二人で狭いベッドにもぐりこむと外の声がやけに響いてくることがわかりました。
お酒の味に関する話や、仕事の愚痴、たまに歌声なんかも聞こえてきます。
そんな喧騒を子守唄に、うとうとしていたころでした。
「不審者確認! 」
「確保! 」
「確保! 」
「不審者を地下牢へ収容せよ! 」
「店主と英雄を保護せよ! 」
「無駄口叩いている暇あったら捕まえてふんじばって拷問にかけるのよ!
拷問よ拷問、とにかく拷問にかけなさい! 」
外から怒声と物騒極まりない言葉が聞こえてきました。
えーと、いったい何をしているのでしょうか。
最後の拷問を進めていた声はサラさんでしたよね……。
でもこれって深く聞いたとしても絶対に答えてくれませんよね……。
……こういうのは気にしない方がいいですね、気にしたら負けです。
ということで、一瞬にして目が覚めてしまいましたがこのまま眠ってしまいましょう。
亮君もそのつもりらしく、また抱き枕にされていますから。
皆様、お久しぶりです。
まだ入院中ですが、経過は順調です。
患部が深かったため体液が分泌され続けているため管が取れませんが、先日は外出許可もいただけましてそれなりに自由の身となりました。
ですが今後も入院生活が数字う間続くと思われますの。
つまり、主人公:蒼井茜と作者:蒼井茜は病院と自宅に缶詰にされているということですね。
さて、こうして更新ができている理由ですが看護師さんにどうか使わせてくださいと懇願したところ精密機械に関係ないフリースペースであればいいですよとの許可をいただきました。
ですが長時間座っていることが厳しいので一日に何度も更新をすることは難しいと思われますのでご了承ください。
最後に宣伝となりますが、明日3月15日
ついに【なぜかうちの店が異世界に転移したんですけど誰か説明お願いします】第一巻の発売となります。
私はすでに出版社の方から見本をいただきましたが、イラストレーターの方が書いてくださった茜さんがかわいらしすぎて悶えております。
そしてサラ嬢の挿絵もこれまたかわいらしく、そしてなぜか端役だったはずのアスロックの奥さんであるジェーンの異様な完成度が目立つ本作。
ご購入いただけたら幸いです。
ちなみにネタバレにならない範囲でいわせていただきますと、書き下ろし用に描かれた一枚絵は作者の私が悶えるほどの出来栄えでした。




