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解毒について

「それで……その、なんていえばいいんでしょうか。

私はこのお店の中にいれば日常生活に支障はないんですよね」


「ん」


 これは大丈夫の意味でしょう。

 首を縦に振っていますし。


「なら、お店の再開は何時くらいからできますか? 」


 そう言うとアスロックさんは王様に目を向けました。

 それからゆっくり、サラさんに目配せをしていました。


「店の再開はしばらく、一月ほどの間は自重してもらいたい」


 その言葉に今日一番のショックを受けました。

 お店をひと月も休むなんて……大赤字です。

 本当にお店を傾かせる原因になりかねないほどの大打撃です。


「休んでいる間の生活はこちらで保障しよう。

1日金貨1枚の支給を行うつもりだ」


「……多すぎます、人は過度に守られていると堕落してしまいますからその2割ほどで十分です」


「む……こういうのはもらえる時にもらっておくのが商売人だと思うが」


「それはたしかにその通りなんですけどね……」


 そう言いながらも乗り気ではありません。

 こういう保険などからお金をもらう、というのは気が引けてしまう性質なんです。

 

「ぎぃやああああああああああ! 」


 そんなことを放していると窓の外からけたたましい悲鳴が聞こえてきました。

 思わず立ち上がってそちらに視線を向けると手を抑えているニルセンさんが。

 それからすぐにドタバタという足音と、刀を握ったままの亮君が部屋に飛び込んできました。


「アスロック! これ龍の血取ってきた! 」


 その刃先にはべったりと血が付いていました。

 あれ、でも前にあれ刃がついていないといってたと思うんですが、どうやって血塗れになるようなことを……。


「ニルセンも快諾してくれてよかったよ。

今度元気になったら料理をふるまってくれって言ってたよ」


 そう言って笑って居た亮君でしたが、ここ最近見せることのなかった寂しそうな笑顔を浮かべていました。

 みんながいるのに一人ぼっち、そんな風に感じているかのような寂しさを見せられているようでした。


「……亮君」


「これで茜さんが元気になるんだったらお急ぎで頼むぜ、アスロック」


「ん」


 そう言って警戒に笑って見せる亮君と、刀を受け取ったアスロックさんでしたが先ほどの亮君の表情が気になってそれどころではありません。


「亮君」


「いやいや、霊薬の素材がこんな簡単に手に入って本当によかった」


「亮君! 」


「……なに、茜さん」


「ニルセンさんに何を言われたんですか」


 その一言で亮君はすべて理解したのでしょう。

 彼が思っているほどポーカーフェイスではないということに。


「……龍の血を使った霊薬は、確かに魔力量を増やしてくれる。

そのついでに魔力の回復量も上がるから、毒の効果はないに等しくなるだろうって」


「それだけではないですよね」


「……それらは霊薬の副作用に過ぎない」


 副作用、こちらの世界の人からしたらとんでもないことだと思うのですが……。

 それでさえ副作用扱いですか。


「本当の作用は不老長寿。

龍の血、というよりも龍の肉体を構成しているものは何であれ高密度の魔力なんだ。

下級のドラゴン程度ならただのトカゲと変わらないけど、ニルセンのような高位のドラゴンはだいたいが魔力の塊。

それは巨大な病魔と同等であり人間の魔力をすべて龍のそれへと変質させる。

あふれる魔力、それに呼応して肉体は活性化して、老いというものがなくなる。

寿命も延びて常人の数倍は生きながらえるだろうって……」


「はぁ……それは随分とありがたい薬なんですね。

なら私は飲まないでおきましょう」


 私がそういうと皆さん疑問符を浮かべています。

 特に亮君は目を見開いて驚いています。


「いえ、だってそんな薬飲んだら私亮君と一緒に生きるって決めてたのに達成できなくなっちゃうじゃないですか。

いやですよ不老長寿とか。

私は普通に生きて普通に死にます。

その時亮君を看取るか、看取られるかは別として私は普通の人間として死にますよ」


 私がそういった瞬間でした。

 

「……はは、ははははは、あっははははははっは」


 うつむいていた亮君が大きな声で笑い始めました。

 おなかを抱えて、涙を流して、苦しそうに笑っています。


「あぁ、やっぱり俺の嫁さんってすげえや。

ついでにこのことを予見したニルセンもすげえ。

霊薬を作れるアスロックもすげえし、その情報を手に入れた王様もサラ嬢も、その手伝いをしたジョナサンも騎士団長もすげえ」


「あら、ニルセンさんはこのことを予想していたんですか」


「あぁ、もし茜さんが望むなら霊薬を飲ませなさいって。

でも望まなかったら、その時はこれを焼いて粉末にして飲みなさいって言ってたよ」


 そう言って亮君が取り出したのは大きな鱗でした。

 ニルセンさんのうろこでしょうか。


「さっきも言ったけど高位のドラゴンの体は魔力の塊なんだ。

けどそれは心臓に近ければ近いほど密度が上がってくる。

血なんかは心臓を通るわけだからそりゃもう大量の魔力を含んでいるんだ」


 思わずアスロックさんに目を向けます。 

 血まみれの刀を持ったままアスロックさんは自分と刀を指さしてから指を3本立てました。

 これだけでアスロックさん3人分ということでしょうか。


「対して鱗や爪は出涸らしみたいなもので、それほど多くの魔力は有していないらしい。

いや、一般人からすればそれでも十分なんだけどさ。

さすがに霊薬ほどの効果はなくても一時的に魔力を活性化させるくらいのことはできるらしいんだ。

それをさらに焦げるまで焼いて粉末にすることで魔力量をさらに減らすことができるんだってよ。

なんか炎で魔力が分解されてどうのこうのって言ってた」


 何やら私にはついていけない話になってきました。

 料理の話であれば少しはわかるのですが、魔力だの薬だのといわれるとまったくの専門外です。


「そういうわけで、鱗を何枚か引っぺがしてきたんだけどニルセンが血も持って行けって」


「何でですか? 」


 もしニルセンさんが言う通り鱗や爪だけで十分なら血を流す必要はないと思うのですが。


「ドラゴンなりの試験だそうだ。

もしも霊薬を使うことを選んだなら、ニルセンはこの場を去って2度と茜さんの前には姿を現さないって言ってた。

自身を優先して、助けてくれた者たちに目を向けることができない愚か者にかかわるのは信条に反すると。

もし霊薬を飲まないといったなら、その時はいつでも好きな時に必要なだけ鱗を提供しようと言ってた。

それで俺には絶対に口出しをするなってくぎを刺してきてね。

もし口出ししたらこの国を滅ぼして去っていくといわれて、さすがに俺もどうにもできなかったんだわ」


「ちなみに亮君の表情から気づかなければ、亮君はどうするつもりでした? 」


「霊薬が出来上がってからそのことを伝えて、飲んだならそのまま茜さんに看取られるまで一緒にいようと思ってたよ」


「……それであんなにさみしそうな表情だったんですね」


 亮君は一人でこの世界に放り出された経験がありますから、私に同じことを味わわせることに思うところがあったのでしょう。

 都合のいい解釈というやつですが、亮君の人となりはそれなりに理解しているつもりです。


「寂しそうだった?

俺としてはどうすべきかいろいろ悩んでいたんだけど……」


「えぇ、もう迷子の子供みたいな今にも泣きだしそうな表情でしたよ」


「そっかぁ……」


「ちなみに、ニルセンさんが悲鳴を上げていましたけどあれは何だったんですか? 」


 窓がびりびりと震えるほどの絶叫でしたが、亮君の説明からは穏便に済んだようでしたが……。

 亮君が何かやったのでしょうか。

 たぶん刀にべっとりと着いた血がその答えでしょう。


「上から目線が気に食わなかったから爪をはがした。

刀でこう、べりべりっと」


 そう言って爪と肉の間に指を当てて、ぐりぐりと動かしている亮君はさわやかな笑みを浮かべていました。

 どうしましょう、私の旦那様怒らせたらいけないタイプの人です。

 昨日お尻に敷くなんて言った覚えがありますけど、これ私じゃ勝てないかもしれません。


「というわけで爪もあるから、アスロックにやるよ。

好きに使ってくれ、茜さんの方は鱗1枚で十分らしいから」


 そう言ってお店の外を指さしていました。

 ちらりと外に目を向けるとニルセンさんが手をぺろぺろとなめていました。

 犬みたいでかわいらしい動作ですが、あれ爪がはがれたのを治療しているんでしょうね。

 今度おいしいご飯をたくさん作らないといけませんね……。

本日2月24日 2度目の投稿です。

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