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パーティ終了

「さて、それじゃあ話もまとまったしそろそろパーティを本格的に楽しもうか」


「本格的に? 」


 そう言った私に笑みを向けたまま亮君は手を取ってきました。

 やはり男の子と手をつなぐ、というのはどうしても慣れません。

 そのまま亮君に連れていかれた先はパーティ会場のど真ん中。

 よくみると他にも私たちのように手をつないでいる人がいます。

 あと私を睨みつけている人がちらほら見受けられます。


「俺がエスコートするから蒼井さんは合わせて」


 亮君がそういった瞬間、腰に手を回されてしまいました。

 これは手をつなぐよりも恥ずかしいです。


「右足を下げて、左手を上げる。

そこで二歩引いて、今度は一歩前に出てターン。

それを繰り返して」


「えっと下がってあげて引いて出て下がってターン? 」


「違う違う」


 ははは、と笑いながら亮君にダンスを教わります。

 何事かと思いましたがこれダンスだったんですね。

 耳を澄ませると喧騒の中で小さく音楽が聞こえます。


「ちょっとリズムを変えてみようか。

さっきのパターンの最後にドレスの裾をつまんで一礼、やってみて」


「はい」


 言われるがままに体を動かしてみます。

 時折亮君が腕やら身体やらを使って動きを矯正してくれるので、それほどひどい事にはなっていないと思います。


「うん、うまいうまい」


 まるで子供をあやすような言い方ですね。

 たぶん私の方が年上ですよ。


 でも、悪い気はしません。


「はい、ここで手を放してまたスカートのすそをつまんで一礼」


 そう言いながら亮君は一歩下がって胸に手を当てて一礼しました。

 私もそれに合わせて一礼、どうやらひとまずこれで終わりのようです。


 そして、周囲から拍手が聞こえます。

 夢中で踊っていたので気づきませんでしたが結構注目されていたようです。


「お見事でした、御坂様」

「さすがは迷い人、そちらの御婦人もお見事でした」

「相変わらず流れるような動作、目を見張るものがありますな」


 いろいろな人が亮君に話しかけています。

 何人かは私にも話しかけてきましたが、長年居酒屋で培った感性が違和感を伝えてきます。

 何というんでしょうか、目が笑っていない。

 うわべだけの言葉を並べている、そんな感じです。


「こんばんは、亮平様。

本日は珍しいですね」


 そういって亮君に話しかけたのはきらびやかなドレスを身に纏った女性でした。

 私がドレスに着られているのに対して、その女性は見事に着こなしてます。

 日ごろの成果、というやつなんでしょう。


「そちらの女性は……? 」


「蒼井茜さん、たぶん俺と同郷の迷い人。

明日からは俺の雇用主になるのかな」


「まぁそれはそれは……調子に乗らないでくださいませ」


 亮君に聞こえないように言ったのでしょうけれど、他の男性の応対に追われている亮君がちらりとこちらに視線を向けました。


「蒼井茜と申します」


 その視線の意図を理解して、無視して自己紹介を済ませます。

 名刺があれば頭を下げて差し出していました。


「あらあらこれはご丁寧に。

わたくしはサラティーナ・ロイ・アルフォースと申します。

亮平様をお慕いしておりますの」


「まぁそうでしたか。

容姿端麗、素行もよく、それでいて市民からの人気も高い。

素晴らしい男性ですものね。

そのお気持ちはよくわかります」


「そうでしょうとも、貴方のような庶民よりも私の方が亮平様の妻にふさわしい、そう思いませんこと? 」


「まさしくその通りでございます。

私のような下女と亮平様では釣り合いが取れませんものね」


「あらあら、身分をわきまえているのね。

気にいりました、亮平様を雇用するというお話を聞かせていただきましょうか」


 ……ふぅ、お酒に酔ったお客さんの相手もそうですけれど自分に酔った相手の対応というのはいつも疲れます。

 客商売ですから正面から受け止めず、反発するようなことはせず、相手に同調すること、それだけでもある程度は印象操作ができます。

 人によってはしっかりと意見を述べないと反感をかう事もありますけどね。


「実は私飲食店を営んでいました、お店ごとこちらへ迷い込んでしまいました。

それで御坂殿が国王陛下をお連れしまして、その際にふるまった異世界の料理をたいそう気にいられたご様子でした。

そして本日改めて国王陛下にご挨拶をさせていただいたところ、御坂殿に私の監視と護衛をするよう命が下り、その期間は私の元で従業員という形をとるという事で話がまとまりました」


「あらそうなの。

へぇ、亮平様が……いいでしょう、お店の場所を教えなさい。

亮平様が勤めている間は通ってあげるわ」


 うげっという声を呑み込んで、亮君に視線を向けます。

 それに気づいたのでしょう、男性貴族との話を切り上げてこちらに体を向き直らせました。


「彼女のお店は辺鄙なところに転移しまして、街の外にあるんですよ。

なので魔物からの護衛も私の仕事なんです。

サラ嬢が来ていただけるというのはありがたいのですが、多少の危険を含んでおります」


「むぅ……たしかに街の外に行く許可をお父様が出すはずがありませんね……」


「それにサラ嬢のお父様、モルディッド卿も庶民の料理を食べに行くなど許可することはできないでしょう」


「……それもそうです。

残念ですが機会を待つことにします。

ただし、亮平様が働いている期間しか行くことはないでしょうから、その機会がないこともあり得ますけれどね」


 そう言って立ち去って行ったサラさんを見送って、亮君にお礼を言いました。


「フォローありがとうございます亮君」


「いや、良いって。

俺も毎日あの人と顔合わせるとなると……ね」



 思わず周囲を見渡しましたが貴族の皆さんは既に散り散りになってパーティを楽しんでいる様子です。

 こちらに集中している人はいませんから、今の発言を聞かれるようなことはなかったでしょう。


「亮君、人前でそういう事を言うのは接客業としてはだめですよ。

そういう話はこっそり、二人きりでするべきです」


 本当はするべきじゃないのですが悪口は潤滑油となる事もありますから一概に否定はできません。

 何事にも良い面と悪い面がある物です。


「申し訳ない」


「わかればいいのです、ではパーティに戻りましょう。

いろいろ教えてくださいね。

こちらの料理にも興味がありますから」


「お任せください、お嬢様」


 お嬢様という歳じゃないんですけれどね。

 でもこういうお姫様扱いみたいなのは何歳になってもうれしい物です。


「あ、でもこっちの世界の料理にはあまり期待しない方がいいかも」


「はい? 」


 亮君の言葉に不吉な物を覚えつつ、手近な料理を口にします。



 ……なんというのでしょうか。

 素材の味を生かしているというか、他に味がないというか。

 お肉は塩を振らずに焼いただけの物、サラダにはドレッシングなどはなく、豆類もそのままの味。

 そんな料理が会場に所狭しと並んでいます。


「……亮君、これは? 」


「この国……というか世界はまだ調理技術とかが未熟なんだ。

一部の種族は独特の調理技術でおいしい物を食べていたりするんだけれど、門外不出の調理法だったりで人間に伝わる事はないんだよね」


「……種族? 」


「エルフとかドワーフとか」


「あ、いるんですね」


「うん、長寿だからこそ日々の楽しみをってことで調理技術が進展しているんだ。

西の方に行けばエルフの国もあるんだけど……あいつらは魔法と似た技術が使えるから戦闘は強いは技術はあるわで傲慢な奴が多いんだ。

なかには普通の奴もいるんだけどね、国ぐるみでは付き合いたくないって人が多いよ」


「へぇ……ちなみにドワーフは? 」


「ひきこもり、追放されない限り自分のいた国から外に出ないってのがざらにある。

彫金技術の高さがそのまま調理技術につながっている種族だね。

あと酒飲みで、それに合わせたつまみがほしかったからって理由もあるみたい」


 聞いた限り、どちらも残念な種族みたいですね。

 あぁでも人種でひとくくりにするのはよくないことです。

 いつかお客さんとしてくることもあるでしょう。

 その時に偏見を持っていては失礼ですからね。


 あと私も割とひきこもり体質なので、本格的にドワーフさんを笑えません。


「他にもいろんな種族がいるけどそれは追々説明するから」


「お願いします」


 それからは料理を食べてそれらの研究を行い、時折貴族のみなさんに話しかけられては対応をして、最後に王様に挨拶をしてパーティは終了となりました。

 パーティ終了の合図をを王様が出しましたが、その後も何人かは会場に残ってお話をしたり料理を食べたりしていました。

 私たちは早々に引き揚げて、別室で御着替え。

 泊まって言ったらどうだという話も出ましたが、明日の仕込があるので失礼しました。


 今日はいろいろなことがわかりました。

 料理の事、貴族の事、マナーの事、馬車には乗りたくないという事、他にもたくさんの事が。

 あしたからそれらの事が生かせれば、良いんですけどね。

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