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大道芸

 夜が明けて、私と亮君はお店の外に出ました。

 待ち合わせ場所としてお店の前を指定していたのですが、昨日の大道芸人さんたちはすでに来ていました。

 さらに警戒の意味を込めて亮君が呼んだお客さんが数名、そこにはいました。

 見覚えのある方々で、ほとんどは衛兵や騎士の方々です。

 よく見るとジョンさんがお酒の瓶を片手にこちらに手を振っていましたので、お辞儀をしておきます。

 その横ではサラさんが欠伸をしながら目をこすっていました。


「お待たせしました、こちらへどうぞ」


 どうやら私たちが最後だったようなので、早速お店の裏手に案内します。

 ここは日当たりはよくないのですが、その分人気がなく空き地のようになっています。


「ほほう、これはこれは」


「少し狭いですか? 」


「いえいえ、十分ですよ。

では早速、いつも通りの形で我々の芸をお見せいたしましょう」


 そういって大道芸人のリーダーらしきおじいさんは一歩前に出て優雅に一礼して見せました。

 それを見てジョンさんがキュポンと音を立ててお酒の栓を開けました。

 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべています。


「ようこそ皆様方、我々はゴルディック大道芸団、私は団長のゴルディックと申します。

以後お見知りおきを」


 おじいさんもといゴルディックさんのあいさつに続いてほかの団員さんたちも一礼します。

 そしてすぐに芸が始まりました。

 最初は簡単なジャグリングに始まり、玉乗り、さらに驚いたことに魔法を使った芸まで披露されました。


 ジャグリングは最初は数本のピンを使っていましたが、徐々に数を増やしていき最後には20本近くを空高く投げ続けていました。

 私の知る限りジャグリングの限界って10本くらいだったと思うのですが、世の中というのは広いということですね。

 玉乗りの方は逆立ちをしたまま大きなボールの上に乗ってダンスを始めました。

 バランス感覚が優れているのでしょうね、ブレイクダンスというんでしょうか。

 頭で逆立ちしてぐるぐると回転を始めたときは驚きました。

 そして目玉なのでしょう、魔法を使った芸は多種多様な内容でした。

 最初のジャグリングの人が再び出てきて、たいまつでジャグリングを始めました。

 それらが空中にある間に魔法で火をつけていきました。

 夜であれば火の粉がキラキラと舞ってさぞかし綺麗なのでしょうね。


 次は玉乗りの人がボールに乗ったまま出てきました。

 コサックダンスのような動きで移動していたのは、結構面白かったです。

 しばらく見ていると魔法使いの人が炎のわっかを作り出して、その反対側に手のひらサイズのボールを置きました。

 今玉乗りさんが乗っているのは一抱えほどあるボールですね。

 準備を終えたのか魔法使いさんは玉乗りさんの乗っていたボールに火をつけました。

 あれは野球ボールのような作りなのかもしれませんね。

 わたわたと慌てたようなしぐさを見せてから、火の輪っかに飛び込んで反対側に置かれていた手のひらサイズのボールの上に着地して見せました。

 びっくりするような芸です。


 それからもいくつかの芸を見せていただき、最後に再び団長さんが前に出てきました。


「それでは最後に、私の自慢の芸で失礼いたしましょう」


 そう言って団長さんは数本のナイフを取り出しました。

 それを見て亮君とジョンさんが座りなおします。

 サラさんは最初から身を乗り出すようにして、目をキラキラと輝かせていたのですが食い入るように見つめていること以外に変わりはありませんね

 ほかの方々もにこやかですが、ピリピリとした空気を押し込めたような雰囲気を見せました。


「では! 」


 団長さんは取り出したナイフをくるくると回しながら踊り始めました。

 剣舞というんでしょうか、ゆったりした動きですが時折鋭く切りつけるような動作が見られます。

 その剣舞の途中、団員さんがリンゴのような果物を団長さんに投げつけました。

 その反対側にはお皿を持った団員さんがスタンバイしています。


 そして、団長さんは投げられた果物をすり抜けました。

 いえ、そのように見えただけで実際は違ったみたいです。

 空中ではらはらと皮が剥かれ、種と芯だけを残して食用部分だけが切り分けられてお皿にきれいに並べられました。

 空中で切った、と考えるとその後の起動も調節されたのでしょう。

 語彙の少なさを恨むほど賛辞を送りたくなる技量です。


 さらに続けて投げられたいくつもの果物を同様に切り分けてはお皿に盛りつけていきました。

 そして芸が終わるころには見事なフルーツの盛り合わせが作られていました。


「では本日はこれにて終了とさせていただきます」


 最後に一礼して、そして大道芸は終わりを迎えました。

 私たちは誰からともなく拍手が巻き起こりました。


「お見事でした」


「気に入っていただけましたか」


 団長さんは満面の笑みで応えました。

 私はおおむね満足できた芸でした。


「えぇ、ただ一つ気になることが……」


「何でしょうか」


 その言葉には答えず、地面を指さします。

 そこには散らばった果物の皮や芯が転がっていました。


「おっと、これは失礼しました。

すぐに片づけさせていただきます」


「いえ、そうではななくてですね。

これでも食べ物に携わる仕事をしていますので廃棄等は当然ありますし、過去に食べる以外の方法で使ったこともありますけど、それでも無駄を出すのは喜ばしくないんです。

なので今後似たような芸をするのであれば皮や芯もちゃんと回収して食べられるようにしていただきたいのです」


「……皮や芯をですか? 」


「えぇ、ちょっと失礼しまして」


 近くで団員さんが持っていたフルーツの盛り合わせをぱくりと食べます。

 味もリンゴに似ていますね、少し酸味と渋みが強いですが甘みもあって癖になる味ですね。


「そちらの果物を一ついただいてもよろしいですか? 」


 そういって団員さんから皮のついたままの果物をいくつかもらいます。

 それらをもって団員さんと、芸を見ていた皆さんでお店に入ります。

 接客は亮君にお任せして私は調理に専念します。

 まずリンゴのような果物の皮を厚めに剥いて、帯状になったものを短冊状に切り分けていきます。

 それらをオーブンに入れて軽く水気を飛ばします。

 そして適当な紅茶の茶葉をティーポットに入れて、果物の皮も入れます。

 その上から一度沸騰させてから少し時間を置いたお湯をポットの一割くらいまで注いでから回します。

 それを少し放置してもう一つの準備を。

 果物の芯から種と、完全に食べることのできない中心部分を取り除いてゴリゴリとつぶします、それをヨーグルトに混ぜ込んで小皿に盛り付けてからパン耳で作ったラスクと大皿に盛り付けます。

 残った実の部分もすりおろして小皿に入れておきます。

 時間があればアップルパイかジャムにしたんですけどね……今回は短時間でできるものですからこれが限界ですね。


 それらの準備を終えると頃合いでしょう、ポットにお湯を注いでテーブルに運びます。

 簡易的なアップルティーと、付け合わせの完成です。

 渋みと酸味があったので紅茶にはぴったりなはずですし、ラスクにつければおいしくいただけるはずです。


「お待たせしました」


 そういってから皆さんに同じ物を配ります。

 お茶はそのままにしておくと渋くなってしまいますので注いだものを出しました。


「ほう、果物の皮がこんなに良い香りを出すとは……。

見事なものです、酒場の店主も職にたずさわる者、専門家は伊達ではないということですね」


 そういって一口お茶を飲んだ団長さんはほっと一息ついたようでした。

 さらにラスクをかじってヨーグルトや摩り下ろしを載せて味の変化を持たせてと食べています。

 後ろではサラさんがニコニコしています。


「ラスクって油使うから太りやすいんですけどね」


 お代わりを持ってくる際にぽそっとつぶやくとびくりと肩を震わせていました。

 そのついででお漬物をいくつか持ってきます。

 スイカやメロンの皮で作ったお漬物です。


「こういったものも作れますよ」


 それらを皆さんシャリシャリポリポリと食べてうなずいていました。

 私も一つつまんでみましたが満足のいく味です。


「これは保存食ですかな、いい味だ。

心が落ち着く、まさか果物の皮をこんな形で利用するとは思わなんだ」


 そういって団長さんは一気にお茶を飲み干しました。


「いやはや、仕事の話がなければ酒を注文していたところでした。

それで、せかすようで申し訳ないのですが……我々の芸を買っていただけるのか否かをお聞かせいただけますかな」


「うーん……」


 私としてはお断りするつもりはないのですが、この場合私が大道芸団の皆さんを一時的に雇用するということになりますよね。

 いくらお支払いすればいいんでしょうか。

 それに場所代とかを承認の皆さんからはいただいているので、そのあたりの考慮も必要ですよね。


「相場はいかほどですか」


「国にもよりますが、金貨5枚程度ですな。

今回のような町の一角を借りる場合は場所代を引いていただいた金額が普通ですね」


 金貨五枚……場所代を差し引いて……。

 えーとややこしいですね、日本円で換算できれば手っ取り早いんですけど。


「……サラさん、助けてください」


「知らないわよ」


 あ、これさっきからかったこと怒っていますね。

 どうしましょう、ジョンさんは目をそらしてしまいましたし、亮君はにこにこと笑っているだけです。

 ……最後の手段です。


「サラさん、実は春限定のケーキを試作しているんですが味見役を探しているんですが」


「そうね相場は金貨五枚だというなら金貨四枚が妥当だと思うわなにしろ治安が良くて周囲にお店があってお酒も飲めて集客率は抜群となればいくらでも人は集まるしそちらで稼ぐこともできるでしょうからケーキ食べたい」


「ありがとうございます、ということでどうでしょうか」


「ふむ……では一つ、我々の宣伝をしていただければその金額で手を打ちましょうぞ」


「そうですねぇ……いいですよ」


「では交渉成立ですな」


「はい、ちょっと待っていてくださいね」


 裏の金庫に向かって、そこから金色の硬貨を四枚取り出します。

 それを団長さんに手渡して、二枚の紙とペンを用意しました。


「こちらに契約成立のサインと、どなたか仲介人としてのサインを。

こちらは貴族令嬢のサラさんが仲介人としてサインしますのでそちらからもお1人」


「ほっほっほ、さすが商売人ですな。

しっかりしていらっしゃる。

しかしなぜ二枚? 」


「こちらとそちら、双方で保管するためです。

どちらか片方でも残っていて、互いが保管するのは契約者のサインと、相手が用意した仲介人のサインが入ったものであれば偽装はできませんからね」


「なるほどなるほど、それは有用だ。

今後の参考にさせていただきます」


 そういって団長さんはしっかりとサインをしました。

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