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大道芸人

「てな話があってね」


 亮君は帰ってきてすぐに会議の内容を話してくれました。

 こういうのは機密なんじゃないでしょうか。

 というより猛獣を引き連れた一団ですか……。 

 


「もしかしたらなんですけど……あの人たちですか? 」


 私が指差した先にいたのは色とりどりの服を身に纏った団体さん。

 先ほど来店された方々です。

 見た目の派手さに反してその態度は紳士そのもので、非常に応対しやすいお客様です。

 問題は敷地内に動物を連れ込む連れ込まないで小しもめていた程度でしたから、悪い人達ではないですね。

 その動物も丁寧に説明したら敷地の外で檻を置いてその中で待機させるという事で落ち着きましたし。


「……ちょっと待っててね。

えーとすまない、俺はこの国の騎士なんだけどあんたたちの素姓について教えてもらえないか」


 これもお仕事と割り切ったのでしょう。

 亮君は警戒の色を見せながらお客さんに近づいていきました。

 いざという時のために、主に亮君が暴走した時の対処として私も身構えておきます。

 しかしそれは杞憂に終わりました。

 亮君が話しかけたお客さんの中で、最もお年を召されたと思しき方が対応してくれました。


「我々は道化組合といいまして、大道芸で小銭を稼いでおります。

この度はこの辺りに歓楽街が出来たと聞いて我々も一枚かめないかと思いはせ参じました」


「……はぁ、大道芸ですか」


「えぇ、もし許可をいただけるのであれば明日にでも披露させていただきたいのですが。

もしかして責任者の方をご存知でしょうか」


 物腰柔らかなご老人はニコニコとしたまま亮君に語りかけています。

 その人柄ゆえでしょうか。

 亮君もすっかり毒気を抜かれてしまったらしく、先ほどまでの張りつめた感覚は霧散してしまっています。


「…………責任者、ねぇ」


 ちらりと私の方に視線を投げかけてきたので小さく頷いて近づく事にしました。

 亮君としてはどうするか伺いを立てていたのでしょうけれど、私としては隠す理由も有りません。


「周囲一帯の土地を所有しています、蒼井茜と申します」


「……これは驚いた、貴方のような若い娘さんが責任者だったとは。

しかも酒場の店主ときた、これは予想外でした」


「えぇよく言われます、それで大道芸という話でしたが……」


「あぁそうだった、歳をとるとつい話し込んでしまっていけませんね。

お話は聞いていたと思われますが、ぜひ我々の大道芸を披露させていただきたいのですがいかがでしょう」


 大道芸、この場合サーカス団のような物でしょうか。

 そうは言いますが判断が難しいですね。


「んーひとまずお金の話は横に置いておくとして、内容によりけりです。

危険が伴う物であれば、ここには子供もいますし下手に真似をして取り返しのつかないことになっても問題なので……」


「そうですね、では簡単な物をいくつか」


 そう言ってご老人は立ち上がると椅子をつかんで傾けました。

 椅子は今一本の足とご老人の手によって支えられている状態です。


 そんな不安定な状態の椅子に、ご老人は手をかけたまま両足を浮かせてふらふらとしながらも天井に向けてつま先を向けました。

 今一本脚の椅子の上で逆立ちをしています。

 これはすごいですね、危なっかしいようにも見えますが実際はかなり重心が安定しているのが見て取れます。


 更に近くに座っていた人たちがボールを取出し、一斉にご老体に向かって放り投げました。

 それらを頭や空いた方の手で打ち上げて、足でジャグリングをして見せました。

 思わず拍手をしてしまい、それにつられて他のお客さんや亮君も手を叩いていました。


「お見事です」


「ご満足いただけたようで」


「えぇ、けれど実際に披露してもらうならば事前打ち合わせを行いたいですね。

今のも危険が全くないわけではありませんが、そもそもまねできないのでそこは気にしないでいいでしょう。

でも他の芸で、危険なものがあるかもわかりませんからね」


「それはごもっとも」


「そういうわけで、亮君。

東先生とむっちゃんにも一緒に見てもらって判断を仰ごうと思うんですがどうでしょう。

特に東先生は教育機関に身を置いていたことがありますから、この手の危機管理には敏感だと思いますから」


 私の言葉に亮君は強く頷きました。

 そして話してくると言ってお店を出て行ってしまいました。


「まったく、まだ話は途中だというのにあわてん坊さんですね」


「いやいや、若さゆえの特権でしょうぞ」


「それで、どうしますか。

今日はお酒も入っているようですし、明日にでもと思うのですが……如何せん場所がないので」


「ふむ、失礼ながら言わせてもらえればこのお店では先程のような木端な技しか披露できませんからね」


「えぇ、普段はどのようにして芸を披露していますか? 」


「そうですな、道端で行う時も有れば酒場に用意された台を使う事も有りますので一概にこれという事は難しいのですが……」


「そうですか、なら明日の御昼過ぎにこのお店の裏手で見せていただくというのはどうでしょう。

このお店は敷地の中心ですけど、私の生活空間の一部ですからあまり人も寄りつきませんし」


「それはありがたい提案です。

是非ご検討願いますぞ」


 そう言って笑うご老人の表情は子供のように無邪気な物でした。

 まるでテストで100点をとったような、初めての成功を母親に報告するような笑顔を浮かべていました。

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