サラ
「そういえば亮様はどうしたのかしら、見当たらないけれど」
「今日は騎士団のお仕事があるそうなので出払っていますよ、私の旦那様は」
「へぇ……それは挑発ととっていいのかしら? 」
「あらそんな事はありませんよ、サラさんも美人ですから素敵な旦那様はすぐに見つかりますよ。
亮君以外なら」
「いいでしょう表に出なさい、その胸を整地して……あげるまでもなかったわね」
「いい度胸ですねサラさん」
久しぶりに会ったので軽口の一つでも、と考えていましたがサラさんは随分と可愛らしくなられました。
以前は張りつめた空気を纏っているようでしたけど、今は温和な空気です。
冗談に冗談で返せるほど余裕のあるイメージはありませんでしたが、ダイエットから随分と考え方も柔軟になったみたいですね。
でも胸が平らといったことは許しません、ケーキをもう一つ食べてもらいましょう。
「ぐ……こんなおいしそうなのを見せられて食べないのは女の恥……でも食べると懐が痩せてお腹が……」
「いらないのなら私が食べますが? 」
「……降参ですわ、そのケーキをください」
ふふ、この勝負は私の勝ちですね。
でも甘い物と言えば横にいるジョンさんはすでにパフェを二桁ほど完食されていますが……大丈夫なんでしょうか。
「それにしてもこのタイミングで騎士団のお仕事、ね」
「何かあるんですか? 」
「いえ、最近この国の発展について方々でうわさを聞いていたからちょっと気になって……。
妙な事でなければいいのだけれど」
そう言って考え始めたサラさんは、それでもケーキを食べる手を止めませんでした。
確実に太りますねこれ。
「考えても仕方ないわ、それよりも隣は何のお店なのかしら」
「隣……?
あぁむっちゃんのお店ですか。
遊戯屋さんですよ、お金を払って遊ぶお店です」
「お金を払って遊ぶ?
いかがわしいお店の事? 」
「違いますよ、たしかうちにもいくつかあるからちょっと持ってきますね」
そう告げて生活スペースからトランプや花札を持ってきました。
今手元にあるゲームはこのくらいです。
「このカードを使って遊ぶんです。
でも汚れたりしたらいかさまにつながるからお手入れが必要ですし、最悪の場合買い替える必要も有るのでいくらかお代をいただいて場所と道具の貸し出しを行っているんですよ」
「へぇ……しばらく見ないうちにこの辺りも様変わりしたのね。
元は何もない平原だったのに」
「どんなものでも最初は更地ですよ。
そしてどんなものでもいつか成長して変わっていくんです」
「あなたの胸以外ね」
「サラさんのお腹と違って大きくなる機会は多くありませんね」
サラさんとの間で火花を幻視しましたが、話を戻しました。
そしてようやくパフェを食べ終えたジョンさんがタバコを咥えたので、マッチで火をつけてあげます。
「ありがとよ」
ぷはーと煙を吐いたのをサラさんが嫌そうに睨みつけました。
やはりこちらでもタバコを嫌がる人というのは一定数いるようです。
うちは狭いお店なので分煙はできないんですよね……。
「でもそのトランプっていうのはあなたがいた世界の遊戯なのよね。
という事は噂になっている迷い人ってもしかして」
「えぇ、そうですよ。
あともう一人教師をしている人がいます」
「あら……教育と遊戯とはまた対極的な組み合わせね」
「そうでもありませんよ、遊戯を楽しむためにはルールを学ぶ必要があります。
それだって学習と教育ですし、中には計算や読み書きができないといけない遊戯も有ります。
そう考えると二つは遠からず近からずの距離を保っていると思いますよ」
あくまで持論なので強く出る事はできませんが、私はゲームを通して学ぶという事については賛成派です。
無理に勉強だけをさせていても人は育ちませんからね。
もし、私が子供を授かったとして同じことが言えるかどうかはわかりませんけれど。
それでも今はそう思います。
「……あなた今子供が出来たらとか考えたでしょう」
「えぇ、亮君との間に元気な子供を授かった時はどんな教育をするべきかなと思いました」
「……ケッ」
サラさんが吐き捨てるようなしぐさを見せました。
それは乙女としても貴族としてもアウトな行為だと思いますけど……。
「まあいいわ、亮様は今日は戻ってこないでしょうしケーキも堪能したから帰らせてもらうわ。
お勘定はそこの筋肉が持つから」
そう言ってサラさんはお店を飛び出していきました。
一瞬食い逃げと叫びそうになりましたし、ジョンさんは唖然としていますがここは涙を呑んでもらいましょう。
お勘定、ケーキとパフェと紅茶で合わせて14,800円です。
こっちの金額だと銀貨5枚でしょうか。
なかなかの大金ですけど、ツケは効きませんからね。




