誕生日と
ニルセンさんが住み着いて早七日、ついに来てしまいました悪夢の日。
私の誕生日です。
こうしてまた一つおばさんになってしまいました。
28歳、アラサーというやつですね。
「おはよう茜さ……顔色悪いけど大丈夫?
生理? 」
「亮君、いくら夫婦でもその発言はデリカシーが無さすぎます」
女性に対してそういう事を聞くのはたとえ旦那さんであっても許されることではありません。
あ、でも子供が欲しい人が生理周期を把握するためにっていう事も有りますから一概に言い切る事もできませんね。
世の中って難しいです、こういう時はお母さんが良く使う魔法の言葉の出番ですね。
【それはそれ、これはこれ】ってやつですね。
「で、なんで落ち込んでいるの? 」
「……私はまた一つおばさんになってしまいました」
「おばさんにって……もしかして今日誕生日?
おめでたい話だけど……一概にそうも言えないのか。
でもまだ二十代なんだしそんなに気にすることじゃないと思うけど……」
「それは男性の感想です、アラサーと呼ばれて違和感のない年になってしまったというのは由々しき事態なんです」
「でも27も十分にアラサー……ごめん俺が悪かったから涙目やめて」
涙は女の武器と言いますけど本当に有効なんですね。
あくびをこらえただけだったのですが……。
「でも誕生日か……プレゼントは後日ってことでお願いします」
「あら、てっきり俺がプレゼントだとか言うのかと思ったんですけどね」
「それは……俺の誕生日に全裸にリボンで言ってもらいたいかな」
「えーと……が、がんばってみます」
自分から振った冗談なのに顔が赤くなってしまいました。
まさかこんな返し方をしてくるとは思わなかったもので……。
最近亮君が強いです。
「と、とりあえずそろそろお店の準備をしないと……」
「あ、それなんだけど今日はがれきの撤去でお店の前が慌ただしいから休業にした方がいいかも」
「そうなんですか……?
困りましたね……」
「まあ仕方ないね、というわけで一緒にのんびり過ごすというのを提案したいんだけど」
ふむ、のんびりと過ごす……悪い提案ではありません。
けど何をしましょうか。
お母さんのDVDもあらかた見てしまいましたし……どこかに遊びに行くような気分でもないですね。
窓から外を眺めてみても面白い事は……あら?
「どうかした? 」
「いえ……あそこにニルセンさんとむっちゃんが」
私が見つけたのは珍しい組み合わせでした。
二人は正面から向き合っているようです。
大きなドラゴンさんと小さな女子高生が向き合っているというのは面白い光景ですね。
ちょっと見に行ってみましょう。
「むっちゃん、ニルセンさん、何をしているんですか? 」
「うむ、今この娘から将棋という遊戯を教わっていてな」
「あら将棋ですか」
私はよく知らないのですがお父さんがおじいちゃんとやっていたのを見たことがあります。
難しそうなので私は早々にルールを覚える事を放棄してしまったんです。
「このトカゲは理解が早い」
「とかげと呼ぶな」
「じゃあニルっち」
「うむ」
いいんですね、そんな適当なあだ名で。
でもむっちゃんは本当に人と仲良くなるのが上手です。
接客業に携わる者としてはうらやましい才能ですね。
「これ覚えたら同じようなゲームがあるからそっちも教える」
「うむ、ぜひ頼むぞ」
「仲がよさそうでなにより……そういえばそんなゲームのボード何処に持っていたんですか? 」
「幸介の車に積んでいた。
文化祭でレトロゲームセンターをやる予定だったからいろいろ積み込んでいた」
レトロゲームセンターですか、面白そうな企画だったんですね。
「何が役に立つかわからない、人生って不思議」
「うむ、その年の割には達観しているな娘よ。
いっそそれを仕事にしてはどうだ」
「仕事……? 」
「うむ、我はここの守護を仕事とするつもりでいる。
そもそも遊んでいるだけの者を養う意味はないからな。
主の旦那は教育を生業とするつもりのようだがそれでは主はどうなる。
ただの厄介者、御荷物でしかない。
なれば主の特技を生かし、娯楽の提供者となってはどうだ」
「娯楽の……蒼ちゃん、お願いがあるんだけど」
場所を貸してくれ、という相談でしょうね。
まったく、この子は決断も早い。
若さゆえの特権ですね。
「わかりました、許可します。
その代りお店の近くでやる事、いざという時は亮君が助けに行きますからね」
「わかった! ありがとう」
こうして私の誕生日は、むっちゃんの人生に指針を持たせる日となりました。
ある意味、人生で一番おもしろかった誕生日ですね。
秋刀魚がほしいです。




