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雇用契約

「そうですね、お給金はこちらの平均くらいは出したいと思います。

仕事内容は接客と清掃がメインになると思います。

それ以外は……あぁ、3食賄い付きですね。

終業後でよければお酒の一杯くらいは出しますよ」


 目を白黒させている亮君は無視してこちらの条件を一方的に開示していきます。

 こちらとしても、人手がほしいところでした。

 今日はパーティに来る前にたくさんのお客さんがいらしたので大変でした。

 ピーク時はお店の外で、立ち食いで構わないという人まで出てきましたから。


「ま、まって蒼井さん。

いや、王様の命令は蒼井さんの身辺警護であって蒼井さんのお店で働けというわけじゃないんだよ」


「でも身辺警護ってことは私のそばにいる時間が増えるってことですよね。

特にお客さんが増える時間帯は厳しく見張る必要がある。

違いますか? 」


「それは……確かにそうなんだけど……」


「だったら働いてくださいよ。

お店の中でボーっとしていられるのも邪魔ですし威圧感出されるとこちらもお客さんもやりにくいです。

それにさっき亮君も言っていましたが、ただでさえ狭いお店なんですから、場所をとられても困りますし」


「ぐぅ……」


 ぐうの音って本当に出せる物なんですね。

 そんな感心をしながら持っているジュースを飲みほします。


「だけど副業ってことになるとなぁ。

出来ないことはないんだけれど、手続きが面倒くさいんだよね」


「そうですか、残念ですね。

せっかくインターネットが閲覧できる環境や、数は少ないですけど漫画が読める環境だったんですが」


 そう言ってこちらの情報を一つ開示した瞬間でした。

 コトリ、と音を立てて亮君がグラスをテーブルに置きました。

 そして私の手に有った空いたグラスを奪い取り、それもテーブルに置いて私の手を握りました。


「蒼井さん、あなたの為ならどんな過酷な仕事でもこなして見せよう」


 言っている事はかっこいいのですが、漫画とインターネットにつられた件については言い訳できないでしょう。

 現金な人というのは彼のような人のことを言うのでしょうね。


「決まりですね。

護衛は明日からでしたっけ」


「そうだね、一応今夜もお城の衛兵が見張りをしてくれるとは思うけど」


「では明日は朝7時に来てもらっていいですか。

お店を開けるのは夕方のつもりなんですが、こちらの人たちはみなさん腹ペコ魔人ですからね。

お昼には開店することになりそうです。

だからそれまではお話合いと研修を行いたいのです」


「研修は必要だよね。

俺もアルバイトはしていたけど工場だったから接客はよくわからないんだ」


「そうですか、ではその辺りも含めてという事で。

ちなみにこの辺りでの平均月収はいくらですか。

そこから割り出したいのですが」


 私がそういった瞬間に亮君が顔をしかめます。

 お金の話をこう言ったところでするのはよくなかったのでしょうか。


「ごめんなさい、今する話ではなさそうですね」


 謝罪しておきます。

 何かあれば即座に謝罪、接客業において実は重要な事なんですよね。


「あぁいやそういうわけじゃないよ。

こういうパーティって結構商談をする人も多いから。

ただ平均月収ってのは……難しいかな。

金貨換算は慣れていないだろうから日本円に換算するけれどいい? 」


「えぇ構いませんよ」


「こちらの世界が、この光景を見ればわかるだろうけれど平民と貴族、奴隷といった階級があるのはだいたいわかると思う。

この時お店の従業員として奴隷を雇う場合もあるけれど、その場合はお給料は出ない。

奴隷は所有物であって人に非ず。

購入にお金はかかるけれど先行投資みたいなものだ。

安ければ5万円あれば購入可能だね」


「奴隷……」


「あぁ奴隷と言っても攫われてきたってパターンはないよ。

いやまったくないとは保証できないんだけど、基本的に拉致監禁は重罪だし、無理やり奴隷にしたという事が発覚すれば死罪の可能性も出てくる。

リスクが大きすぎるんだ。

だから奴隷というのは一般的に犯罪者か、それに準ずる人がなるんだ」


 なるほど、つまり奴隷は刑罰の一環という事ですね。

 だけどそんな犯罪者を身近に置くというのは危険ではないでしょうか。


「奴隷には特別な首輪がつけられるんだ。

いざという時は毒針が出て奴隷を殺す首輪。

それは自力では外せない造りになっていて、所有者と連絡が一定期間取れない場合は自動的に針が飛び出す仕組みになっている。

それに合わせて所有者やほかの人に危害を加えようとしたら針が飛び出す仕組み。

誤作動とかの問題も結構多いんだけどね」


「システムとしては結構穴がありますね」


「まあね、以前は魔法使いが隷属の魔法をかけていたんだけど、そっちはコストの問題があったし、何より魔法使いって希少なんだよ。

だいたい一つの国に5人いれば多い方。

この国お抱えの魔法使いは3人しかいない」


「魔法使い……いるんですね」


「あぁ、俺も一回だけ見たことがあるけどすごかったよ。

人の背丈ほどありそうな炎がドーンって」


 そんなにすごいのですか、一度見てみたいですね。

 あぁだけどそれだけ希少という事は私には使えないのでしょう。

 使えるなら花火とか打ち上げたかったんですけどね。


「話を戻すと奴隷階級に対しては給料って概念がない。

それで平民だと職業ごとにばらつきが出る。

例えば農民だとまったくお金が入らない月もあれば、まとまったお金が入る月もある。

年収で言えば180万くらいかな」


「随分と安いですね」


「半分は自給自足だし、こっちの世界は物価が安いから。

それにこれは稼いでいる人の場合。

普通程度の農民だったら100万いかない場合もあるよ」


「同じ仕事でも格差は大きいわけですか……」


「そうだね、商人なんかはもっとわかりやすい。

大手の商人は1000万を超える金額を稼いでいるけれど、平平凡凡な商人は300万くらい。

街でやってる個人商店だと200万くらいかな。」


「だとするとうちもそのくらいを考えればいいんでしょうか」


「んー蒼井さんならもうチョイ稼げそうだけどね」


 別にうちはお金を稼ぐためにやっているわけじゃありませんからね。

 儲けたいのなら一般企業に入社します。

 このお店はおじいちゃんが街の人との触れ合いを大事にしたいと作ったお店を継いできただけですから。


 まあ……儲かるに越したことはないんですけどね。


 でも年収が200万円、12で割って月16万と少し。

 お店の売り上げと考えると随分安いですね。

 それを考えると昨日お店で大金を出した兵士さんは随分とお金持ちだったみたいですね。

 宝石とかありましたし、あれ庶民のお給料何年分なんでしょう。

 いただいた15000円分のお金、というのも結構高額だったみたいですね。


「月16万円の収入ですか、昨日と今日で稼いじゃいましたね」


「ひと月分が二日か……」


「あ、でも食材の半分使っちゃいましたし週で言えば30万円とちょっとですよ」


「蒼井さん、それ月々120万、年間で1400万以上稼いでる計算になるよ」


「仕入とかで半分以上とんでいきますから。

手元に残るのは3割くらいですね」


 それでも年収350万くらいでしょうか。

 可もなく不可もなくといった収入ですね。


「それでそこから計算したのですが、アルバイトですけれど月給払いで銀貨60枚でどうでしょう。

時間は朝掃除、昼接客、洗い物、片づけ等々、夕方は後片付けと翌日の仕込みで。

日本円換算だと月18万円くらいですね」


「その半分でいいよ」


「だめです、正当な仕事には正当な対価を。

これは社会の基本です。

……とかいいつつ残業代は出せないので申し訳ないんですけどね」


 働いてもらっている以上はその分のお金を払わなければいけません。

 いわば私は亮君から時間を買っているわけですから、そこを曲げるのは私のポリシーに反します。

 その代わりサボりは許しませんけれど。


「意外と強情だね蒼井さん。

わかった、それで行こう。

残業分はお酒とおいしいご飯をお願いするよ」


「わかりました、あとついでに新作の味見とかもお願いしますね」


「強情なうえにしたたかだね」


 こうして私、蒼井茜と亮君こと御坂亮平君は雇用契約を結びました。

 明日からは少しだけお仕事が楽になりそうです。

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