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クリスマス

多少予定は前後しましたがクリスマス会です。

 十二月末、もう早いもので年末です。

 けれどそれ以上に大きなイベントがひとつ、私を待ち構えていました。


「めりーくりすます」


 抑揚のない声でむっちゃんがそう告げてクラッカーを鳴らしました。

 音だけで紙テープの出ないクラッカーです。

 このためだけにわざわざ注文することになったのですが、無駄遣いというのも悪くはありません。


「というわけで蒼ちゃん、これプレゼント」


「ありがとうございます。

それとごめんなさい、私はケーキくらいしか用意できずに……」


「むしろそれがいい」


 サムズアップしてみせるムッちゃんを見て、こういう古臭いリアクションは東先生仕込みなんだろうなと思います。

 横では亮君も苦笑していますが、それ以上に東先生が居心地が悪そうです。


 ちなみにむっちゃんがくれたのはストラップでした。

 もともと使っていたものらしいのですが、お古で申し訳ないと謝られました。

 今むっちゃんと東先生は厳戒態勢の中で過ごしていますから、町に行くこともできずまともに買い物も出来ないそうです。

 なので手元にあるもので代用するしかなかったといっていました。


「幸介は後で私をあげるから」


「それは遠慮しておきたいな。

不満って意味じゃなくて我が身可愛さで」


 先日亮君から尋問を受けて少々痛い目にあった東先生は冷や汗を流しています。

 亮君も刀に手を伸ばしていますので威圧感はかなりのものでしょう。


「りょーには蒼ちゃんがいるんだから嫉妬は見苦しいよ」


「35のおっさんが女子高生と付き合ってたら誰でも同じような反応する……」


「付き合ってないからね、まだお互い学生と教員だから」


「あら、まだということは今後そうなる予定もあるということですね」


「う……いやそれは……でも……」


 少し揚げ足を取ってみたら顔を赤くして黙り込んでしまいました。

 なるほど、以前むっちゃんが幸介は可愛いと言っていましたが納得しました。

 確かに可愛らしい反応です、年齢を考えなければ。


「りょーにはこれ」


「お、さんきゅ。

でもなんだこれ」


「持ち運び用のオセロ」


 むっちゃんが亮君に渡したのは小さな箱でした。

 緑色でマス目がついているそれは確かに二つ折りにされたオセロ板なんですけど、私が知っているものから比べると随分小さいです。

 持ち運び用だからなんでしょうね。


「そんじゃお返しにこれだ」


「……綺麗」


 亮君がムッちゃんに渡したのは赤い小さな宝石のついたネックレスでした。

 華奢な鎖に繋がれたそれは、淡い光を放っています。


「東さんには色違いな。

王様から街への入場許可が出ればこういった店も教えてやるから」


 さらりとペアにした亮君には、さっきのむっちゃんじゃないですけどサムズアップをしてみたくなります。

 他人の恋愛沙汰というのは見ていて面白いですね。

 でも迷惑にならない範囲でちょっかいを出しながら見守ることにしましょう。


「そんで茜さんにはこれ」


 そう言って亮君が差し出してきたのは2本のヘアピンでした。

 一見なんの変哲もない髪留めですが、手に取ってみると面白いことに気づきます。

 装飾に使われているのは赤い宝石で、その光は炎のように揺らいでいます。

 もうひとつの方は青い宝石なのですがこちらは水のようにうねるような光を放っています。

 どちらもとても綺麗です。

 それにピンの部分は銀製かと思ったのですが、普通の銀よりも鮮やかな感じです。


「亮君、これってとてもお高いのでは? 」


「奥さんへの贈り物くらい、奮発させてよ」


 あまりに男らしい発言に思わず顔が火照ってしまいます。

 先程までは温かく見守る側に居たのに、いつの間にか立場が逆転してしまいむっちゃん達からは生暖かい視線を送られました。

 

「ありがとうございます」


「うん、じゃあ最後に僕から。

といっても大したものじゃないんだけどね」


 そう言って東先生が取り出したのは手のひらサイズの木工細工でした。

 どこかで見たことがあるような、ふくよかな方たちを模した彫り物。

 これは七福神でしょうか。

 でも三体しかいませんね。


「蒼井さんには恵比寿天、商売繁盛の神様。

御坂君には布袋尊、夫婦円満の神様。

んで睦美には弁財天、知恵財産の神様」


 説明を受けながら差し出された木工細工は、ナイフで削ったようでところどころ角張っています。

 けれど愛嬌があって私はこういうのは大好きです。


「ありがとうございます。

本当にケーキしかお出しできないのが悔やまれます」


「ありがとうな東さん」


「弁財天は縁結びの神様でもある、そういうこと」


  むふん、と鼻息を荒くしてたむっちゃんに対して距離をとった東先生は、むくれ始めたむっちゃんを見てクスクスと笑いながらその頭を撫でていました。

 いい夫婦というよりはいいご兄弟といった様子です。


「さて、それじゃあそろそろ、茜さんのご馳走をいただこうか」


「ご馳走って……有りもので作っただけですよ」


 できる限りクリスマスっぽいものは揃えたつもりですが手羽先やおでん、サラダに餃子とものすごく適当なメニューです。


「たしかに……手羽先はチキンだしサラダもそれっぽいけどおでんと餃子は謎」


「まぁ、そうだね」


 むっちゃんと東先生からの感想に苦笑いを浮かべるしかありませんでしたが、最近は休業中なので必要最低限の材料しかなかったのです。

 調理法によってはもう一品増やせたんですが、クリスマスっぽい調理法を選んだためにボツとなりました。


「まあまあ、こういうのも乙なもんだろ。

メリークリスマス、ってことで乾杯! 」


 亮君の音頭に合わせて全員がグラスを掲げました。

 私は甘口の白ワイン、赤ワインと比べて悪酔いしないから好きなんです。

 むっちゃんはオレンジジュース、未成年ですからね。

 東先生はウォッカ、しかもロックで、意外とお酒には強いみたいですね。

 亮君は熱燗で、みんなバラバラですがそれでも楽しいパーティです。


 さて、あとは年末年始です。

 初詣ができないのは残念ですけどね。


 それと……私にとって最大にして最悪とも言ってもいいXデーがそのあとに待ち構えています。

 あぁ、思い出すと憂鬱なので今はお酒を楽しみましょう。

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