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むっちゃんと東先生

「はーい順番に並んでくださいねー」


 今私がやっているのは炊き出しです。

 この寒い中でお仕事をしている大工さんたちへ温かいスープを作っています。

 私のお店でもドアのがたつきなどを直してもらったのでそのお礼も兼ねています。

 大工さんたちはただでいいと言ってくださったのですが、炊き出し用の大きな寸動鍋などを購入したので結果的には赤字になっています。

 経営者としてはよくないのですが、こういう事もたまにはいいかなと思います。


「どぞー」


 隣ではむっちゃんも無表情ながらにお手伝いしてくれています。

 最初は亮君や東先生も手伝ってくれていたのですが、受け渡しの列が私とむっちゃんに集中したので今は別のお仕事をしてもらっています。

 主にお野菜を切ってもらったり、ソーセージを焼いてもらったりしています。

 お店近隣の改装中という事で久しぶりの長いお休みですが、お客さんのおかげでたくわえがあるので数か月は贅沢をしても大丈夫です。


 ちなみに出しているのはお野菜たっぷりのコンソメスープとホットドッグです。

 できればコッペパンも焼きたかったのですが、オーブンがお店の中にあるうえに数が足りないので断念しました。


「ケチャップとマスタード、他のソースはご自分でお願いしますね」


「そっちです」


 無表情のままむっちゃんがケチャップなどを置いた台を指さします。

 こういう時は掌を上に向けて示すべきなんですけどね。

 あとで教えておきましょう。


 ちなみに用意したのはケチャップ、マスタード、チーズソース、たらこマヨネーズです。

 チーズソースは温めた牛乳とチェダーチーズを混ぜてとろとろにしたもので、たらこマヨネーズはおつまみのフライドポテトの付け合せに作った物です。

 たらこの皮に切れ目を入れて、包丁で卵をそぎ落としてマヨネーズに混ぜた物です。

 残った皮はグリルであぶればそのままおつまみになるので昨日の晩に亮君と消費しました。


「茜さん、追加のカット野菜持ってきたよ」


「はい、ありがとうございます。

そこにおいておいてください」


 亮君が持ってきた野菜は軽く茹でたサイコロ状の物です。

 長時間煮込むと荷崩れしてしまい、スープの味も濁ってしまうので器にあけてスープとは別においてあります。

 それをお出しする時に合わせて入れてあります。

 それとスプーンは使い捨てにできるプラスチック製の物です。

 

「蒼ちゃん、ソーセージ焼けたって」


「わかりました、東先生にパンにはさんでもらいましょう」


「幸介のソーセージ……」


「……むっちゃん」


「なんでもない、うんなんでもないよ」


 不穏な空気を感じ取ったのですが気のせいだったみたいですね。

 あまり気にすることでもないので今はお仕事に専念しましょう。


「亮君、そろそろスープが切れそうなんで準備お願いします」


「あいよー」


 お店の中から亮君の声が聞こえます。

 スープも寸動鍋1つでは足りないので、お店の中で普通のお鍋でスープを作って、外では穴を掘って石で周りを固めた焚火炉で冷めないようにしています。


「こういうの楽しいね」


 珍しく口元に笑みを浮かべているむっちゃんがそう言ってきました。

 数日の付き合いですが、この子は表情に出ないだけで感情の起伏は激しいという事がわかりました。


 例えば先日、東先生が胸元の開けた服を着た貴族女性に目を奪われた時は無言で耳を引っ張ってお仕置きをしていましたし、余ったデザートを食べているときは幸せそうにしていました。

 その分気になる事が1つ。

 偏見も含んでいますが、彼女のようなタイプは髪を染めたりしないと思っていました。

 もしかしたら地毛なのかなとも思ったのですが、付け根の部分が黒くなっていました。


「むっちゃん、一つ聞いてもいいですか? 」


「なに」


「答えたくないなら答えなくていいんですけど、むっちゃんてなんで髪を染めているんですか?

よく見るとピアスもしていますよね」


「幸介の好み」


 予想外の、いえある意味予想のうちなんですが、最も答えてほしくない答えが返ってきたので存外動揺してしまいました。

 それはつまり東先生に頼まれたという事でしょうか。

 ピアスも染髪も校則違反だと思うのですが。


「幸介の持っている本にはこういう格好の女性がいっぱい載ってたから」


「…………つまりギャル系? 」


「うん、ガングロとかは嫌いみたいだけど清楚系ギャルのページはボロボロになってた」


「ちなみにそれを見たのは東先生のおうちで? 」


「うん、幸介は私の幼馴染。

産まれた時から近所に住んでた」


「あら、という事は東先生って結構お若い? 」


 むっちゃんの幼馴染という事は……いえでも東先生の方が年上なのは確かですがむっちゃんの幼いころから仲が良かったと考えるとちょっと年が離れている可能性もありますね。


「今年で35」


「……ちなみにむっちゃんは? 」


「睦美さん17歳」


 倍以上離れていました。

 完全に犯罪ですよね。

 通報してもいいでしょうか、どこに通報しましょうか。


「愛があれば歳の差は関係ないよ、蒼ちゃん」


「その通りだ茜さん」


「きゃっ」


 いつの間にか背後に回っていた亮君に横槍を入れられました。

 思わず変な声が出てしまったので、照れ隠しにほっぺでも抓ってやろうかと思いましたが、手に持ったお鍋を見てやめておきました。

 そう言えばさっきスープの追加をお願いしたんでしたね。


「でも35歳か……みえねえな」


「たしかに、お若いですよね」


 東先生は高校生の制服を着てもらったらそのまま学生で通用しそうです。

 ……未成年者略取に加えて詐欺罪も適用してもらいましょうか。

 女性の敵ですね、太らない、老けない、浮気性は三大女の敵です。


「幸介の若さの秘訣が知りたい」


「私もです」


 意識しないようにはしていたのですが、サラさんやむっちゃんの珠のような肌を見ていると……。

 不摂生かつ不健康な生活を送っているので仕方のない事なんですけど。

 私結構肌荒れているんですよね。


「俺は茜さんの事が大好きだから気にしないよ」


「亮君、私が気にするんです」


 だから亮君はデリカシーという物を覚えてください。


「そういえば……むっちゃんがみた本ってなんですか? 」


「女の人が裸で写って合体してた」


「俺ちょっと東さん絞めてくるわ」


「私の分もお願いします」


 未成年の目に付くところにそんなものを置いていた東先生にはお仕置きが必要です。

 手が離せないので亮君に代わりにお願いしましょう。

 未成年者略取、詐欺、猥褻とどんどん罪状が増えていくのは……もう擁護できないですね。

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