二人の処遇
今まで聞いた話と、話したことを全て亮君と王様に話すと二人は目を細めて考え込んでしまいました。
それからしばらくして、亮君が口を開きました。
「この二人、迷い人というのは本当だと思う。
表にやたら高そうな車が置いてあったし」
「わかりますか?
ロールスロイスの最新モデルなんですよ。
あの重低音とかもう最高ですよね」
「俺こっち着た時免許持ってなかったから知らんっす」
東先生が盛り上がりそうになったところで亮君が水を差しました。
というか免許持ってなかったんですね。
「車……といったか。
あれはどういう物なのだ? 」
車を知らない王様はそちらに興味があるようです。
確かに馬車と比べると形状がだいぶ違いますもんね。
「馬車の荷台が自動で動くと思えばいいよ、それより本題はそこじゃない。
まずこの二人をどうするかだ」
「う、うむ、それもそうだな。
まずは迷い人であることはほぼ確定であるという事はわかった。
だがその保護をどうするかが問題だ。
これが表ざたになればまた……いや、何も言うまい」
おそらく王様はこの二人が戦争の火種になると考えたのでしょう。
けれどここでそれを伝えるのは酷な事ですし、放り出すのは最悪の一手と考えたのでしょう。
「あのー」
「どうしたの茜さん」
「とりあえず同郷のよしみで私が保護するというのはどうでしょう」
「却下で」
「却下じゃ」
亮君と王様が声をそろえて却下しました。
そんなにバッサリと切り捨てなくても、と思うんですけどね。
「茜さんは危機感というか……犬猫じゃないんだからもっと気を付けるべきだよ。
女子高生はともかくもう一人は男だよ。
男は狼だから気をつけなくちゃいけないんだよ。
それと俺の奥さんという事を自覚してくださいお願いします。
見知らぬ男を泊めるとか俺が死にたくなるからやめてくださいマジで」
必死な亮君に気圧されて頷いてしまいました。
でも確かに亮君の言う事ももっともです。
奥さんの自覚は足りませんでしたね。
だけど狼というなら亮君も狼ですよね。
この人だけは、なんて信じたら頭からぱっくりと食べられてしまうかもしれません。
乙女のピンチになってしまいます。
……まあ相手が亮君ならいつでも歓迎なんですけどね。
「迷い人とはそれぞれが強力な力を有しておるからのう。
もしかしたら蒼井嬢や亮平よりも強いかもしれん。
それを考えるとここに住まわせるのは、じゃがそうすると他に寝床を用意するにも……」
「だったらこのお店の裏手を貸してもらえればいい」
王様が意見を述べている最中にむっちゃんがそう言いました。
睦美なのでむっちゃんです。
「私たちは幸介の車で寝泊まりするから。
ただ毛布とか食料は分けてほしいです」
「待ってください、睦美だけでもどこか安全な場所に寝泊まりさせてやってください」
「だめ、私は幸介と一緒じゃないと嫌」
「だけど睦美、僕には君を安全に家に送り届ける義務があるんだ」
「嫌、幸介と一緒」
なにやら二人がいちゃつき……いえ、口論を始めてしまいました。
さっきは付き合っていないと言っていましたけど、この二人もしかして本当は……いえ考えるのはやめておきましょう。
表の騎士さんたちの仕事を増やすのは心苦しいです。
「お二人さん、はっきり言ってあんたらが付き合っていようが結婚していようがしっぽりやっていようがどうでもいい。
だけど今は当面の問題の話だ。
あんたらをどうやって確保、もとい保護するのかが問題だ。
それを易々と逃げられる場所においておくわけにはいかないってのも理解しておいてくれ」
額に青筋を浮かべた亮君が二人に声をかけました。
すっかり二人っきりの世界に入り込んでいたむっちゃんと東先生もその気迫に驚いたのか、必死に首を縦に振っています。
仕方がないのでテーブルの下で亮君の手を握っておきました。
これで少しは落ち着いてくれるでしょう。
「……失礼、ついきつめの口調で言ってしまった。
けど実際あんたらをそんな風に扱う事はできない。
そこでだ、この近くには大工が寝泊まりしている宿舎がある。
その横に今後ここで店を開く商人の宿舎もある。
幸いなことに商人の宿舎は男女別になっているからそこに泊まってもらいたい。
食事と寝床はこちらで用意しよう。
その代りあんたらには見張りをつけさせてもらう。
言い方が嫌なら護衛と言い換えてもいい」
「それではこちらにメリットが多すぎます。
そちらのメリットはなんですか」
「さっき王様も言っていたが、迷い人ってのは例外なく強力な力を持っている。
わかりやすく言えば兵器みたいなもんだ。
そいつらを自国の手の内に収めておけるというのは十分なメリットだ。
仮にあんたらが帝国や聖国のスパイだったとしてもその動きを制限できるというのは大きい」
「……帝国や聖国というのはよくわかりませんし、話を理解したわけでも納得したわけでもありません。
ですがその話に乗りましょう。
睦美、我慢できるよな」
「……幸介が寂しくないなら」
「別に寂しくないからこれで決定な」
「幸介……」
半眼で東先生を睨みつけるむっちゃんは、小動物が威嚇しているようでとてもかわいらしいです。
私が男だったら狼になっちゃっていますね。
それを耐えている東先生の事を少し信用してもいいかもしれませんね。
「王様、そういう事でいいよな。
あとは俺達で話し合っておこう」
その言葉に王様は深くうなずいて、そして手を二回たたきました。
すると外で待機していた騎士の一人が中に入ってきて王の目の前でひざまずきました。
「この二人を商人用の宿舎に泊まらせる、手配を」
「はっ」
騎士さんは短く返事をすると外に出て、指示を飛ばし始めました。
練度の高さがうかがえます。
「さて、と。
では話もまとまったし生を……」
「まだこいつらの処遇は決まってないだろ。
寝床を提供することが決まっただけだ。
つーわけでビールはおあずけな」
「そんなぁ……」
「うっせぇ仕事しろ爺」
「しかたないのう……」
この後王様がビールにありつけたのは時計の針が8時を過ぎた頃、つまり数時間たってからでした。




