祝賀会の翌朝
気が付くと日が沈んで、そして再び日が昇っていました。
徹夜ではなく、いつの間にか眠ってしまったようです。
「う……ん……」
また頭痛がします、でもお酒を飲んだ覚えはないんですけれど。
それに加えて身体が動きません、妙な拘束感と心地よさがあり、息苦しさも有ります。
目を開けてみても何も見えないので身じろぎするとその理由がわかりました。
私は今亮君に抱きしめられているみたいです。
えーと……順を追って思い出してみましょう。
昨日は祝賀会を抜け出して、二人でジュースで乾杯をして……それから話のネタもすぐに尽きてしまったので映画を見る事にしたんです。
そうです、それで適当なおつまみとジュースを取りに戻って……床に置いてある缶はお酒みたいですね。
チューハイですね……あぁそういえば私が適当なおつまみ用意してもらっている間にジュースを出しておいてくださいって言って……大隊察しがつきました。
映画はホラーだったんですけど……私はそういうのが得意ではないので亮君にしがみついている間に抱きしめられて、そして寝落ちしてしまったのでしょう。
お母さんの趣味が映画鑑賞だったのでDVDを持っていたのですけど……まさか亮君がホラー好きだとは思いませんでした。
あぁなんかいろいろとフラッシュバックが……うわ、私亮君の膝に抱えられていましたね。
重くなかったのでしょうか、それに冷や汗かいていましたし臭いは大丈夫だったのでしょうか。
あれでも膝に抱えられていたのに今は対面で抱きしめられて……あれ?
あれ、私今ベッドにいますね。
まさか……いえ、ちゃんと服は着ていますね。
身体も……抱きしめられたせいで関節が凝り固まっているみたいですけど、こう裂傷とかの痛みはなさそうです。
うん、私はまだおぼこのようですね。
「亮君、起きてください、朝ですよ」
「ん……? 」
少しゆすると亮君は目を開けて、そしてさっきよりもぎゅっと抱きしめられました。
そのついでと言わんばかりに後頭部にも手が回されてしまい抱きしめられてしまいました。
苦しいけど……幸せです。
じゃなかった、幸せだけどこのままじゃだめです。
「っぷは、亮君! 」
「んー、おはよう茜さん……」
「はい、おはようございます」
「茜さん……やーらかい」
「私は抱き枕じゃないので一度解放してください。
べ、別に抱きしめるくらいならいつでもしてあげますので」
「わかった」
何やら言質をとられてしまった気がしますが、それは些細な事でしょう。
でも寝ぼけているという様子ではないですね。
もしかして全部計算されていたのでしょうか。
「う……頭がいてえ……」
「私もです、亮君昨日ジュースと間違えてチューハイ持ってきたんですよ」
「あーあれ酒だったんだ。
いやーうっかりしてたわ」
んー何か違和感があります。
もしかしてわざとお酒を持ってくるところまで計算していたのでしょうか。
いやでも最初のうちは普通のジュースを飲んでいた気がします。
……そこから計算を始めていたのでしょうか。
「亮君、もしかして最初からこうするつもりでしたか? 」
「ばれた? 」
「ばれてます、女性を手籠めにするような謀略を企てるような人にはそれ相応のお説教をしますよ」
「……言い訳いいですか? 」
「聞きましょう」
「あの、そういう事をするつもりはなかったんです。
ただ茜さんの可愛い姿を見たかったのと、あといつも大切なところでヘタレるからお酒の力を借りようと思いまして……」
「へぇ……」
ヘタレという自覚はあったんですね。
しかも重要な場面であればあるほど、ドジを踏むかヘタレるかという事に定評がある亮君ですからね。
右手と左手を間違えて指輪着けたことは一生忘れませんよ。
お墓に入るまでずっと言い続けてあげます。
「……私には嘘を見抜くような能力はありませんから旦那さんを信じます」
「ありがとう、茜さん」
そう言ってもう一度抱きしめられました。
いえ、いつでもといった手前拒否するつもりはありませんけどお風呂に一晩入っていないので臭いが気になってしまいます。
あと歯を磨いていないので口臭も大丈夫か不安ですし。
「ふぅ……いい匂い」
「嗅がないでください、お願いします何でもしますから」
「んーじゃあこのままでいさせて」
それは……いえ、これも言質をとられてしまったわけですけど何でもすると言ってしまったのは私ですからね。
このまま大人しく抱き枕にされているとしましょう。
実は私もこのままでいたいと思っていますし。
あぁでもやっぱり匂いが、その事さえ気にしないでいいのであれば遠慮なんてしないんですけど。
本当に惜しい事です。
「亮……君……」
少し、眠くなってきてしまいました。
亮君のぬくもりと、におい、とても落ち着きます。
「茜さん」
「は、い……」
「おやすみ」
「でも、お店、が……」
「どうせ今日も外は宴会騒ぎだよ。
たまにはゆっくりと休むのも大切。
だからいいんだよ」
亮君の言葉には魔法でもかかっているのでしょうか。
どんどん意識が沈んでいきます。
「う……ん……」
「だから、おやすみなさい」
「は、い……おや、す……」
そして私の意識は途切れてしまいました。
この後どれほどの時間亮君に抱きしめられていたのかはわかりませんけれど……生まれてから最も安心して眠れたのはこの時でしょう。




