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祝賀会

「かんぱーい! 」


 お店の中に入りきらない人たちがあちらこちらでお酒を飲み交わしています。

 まだ朝だというのにあんなに飲んで大丈夫なんでしょうか。


 というかさらっと王様が混ざっているのですが、職務は大丈夫なんでしょうか。


「王様はメインの仕事は外交だから大丈夫。

というか王様は忙しい時と暇なときしかないから」


「日本の会社員みたいですね」


 私は学校を卒業してすぐにお店を継いだので、サラリーマンの事はよくわかりませんが、昔の友達や来店したお客さんがそんな話をしていました。

 その友達はあまりに暇なので動画を見ていたら上司に怒られたという自業自得な話もしていましたけどね。


「ところで茜さんや、この包囲網はどうするべきだろうか」


「亮君や、大人しくしていましょう。

目を合わせなければ襲ってこないはずです」


 実は私たち先程から身分年齢お構いなしに女性に囲まれています。

 そのほとんどが亮君の側室にしてほしいという話をしていますが、片端からすべてお断りしている亮君に惚れ直しそうです。

 中には明らかに私より胸が大きい人や、美人な人、可愛い人、胸の大きい人もいますが全てバッサリと断っています。

 その内容が、俺には十分すぎる嫁さんがいるから側室がいても永遠の処女だよという一言。

 中にはそれでもと食い下がる人もいますが、その時は邪魔になるからと切り捨てています。


 これ、後が怖いですね。



「亮君お酒飲みます? 」


「今酔ったら何するかわからないから遠慮しておく」


 何か話題を探さないといけないのですが、男女の仲になったと意識すると照れてしまって何を話していいかわかりません。

 今まではあんなに普通に話せていたのに不思議ですね。


「えーと、亮君これ美味しいですよ」


「ん?

お、本当だ、美味いなこれ。

なにこれ」


 亮君がそういった瞬間女性の垣根から悲鳴が上がり、そしてモーセのように道が出来ました。

 そこにはネズミの満載された籠を持ったいつぞやの料理人のおじさんが立っていました。


「うそだろ……」


「安心しろ、衛生には気を使っている」


 前もこんな話していましたね。

 でもやっぱりネズミって結構おいしいんですね。

 

「それとこいつも使っている」


 そういって料理人さんが取り出したのはカエルと蛇、そして蝙蝠を手に持っていました。


「蛇とカエルの毒は全て抜いてある、味の保証はする」


「命の保証をしてください」


「命くらいならどうにかなる」


「健康面は? 」


「………………」


「なんとか言えよ! 」


 亮君が声を上げて抗議しますが、料理人さんは素知らぬ顔で調理に戻ってしまいました。

 こんな調理器具もまともにない屋外でこれだけの料理を仕上げるとは恐れ入ります。


「茜さん……よく平然と食べられるね」


「美味しいですよ? 」


「あぁ、うん」


 なんでしょう、先ほどまでは慈愛に満ちた目をしていたのですが今は異形の生物を見るような目になっています。

 更に周りにいた女性たちも数歩後ずさって、そして口々に適当な挨拶をして離れて行ってしまいました。

 なんでしょうこの扱いは。


「茜さん、謎肉がほっぺについてる」


「どこですか? 」


「……ん」


 亮君に場所を教えてもらおうと思った瞬間、ぺろりとほっぺを舐められてしまいました。

 周囲からは歓声と悲鳴と罵声が……亮君もう本当に許してください。

 私何か悪い事しましたか?


「あの……亮君、人前でそういう事は……」


「見せつけてやったんだよ」


 にっこりと笑っていますが、目は笑っていません。

 お酒は絶対に飲ませないようにしましょう。

 それから今後は護身を考えた方がよさそうです。

 一対一であればある程度はなんとかできますけど囲まれたら降参するしかありません。

 せめて痛くないように脱力するくらいです。


「あ、茜さん。

そのジュースとって」


 亮君が近くに置いてあった瓶を指さします。

 さっきから何かを飲んでいたみたいですが、これだったんですね。

 芳醇なブドウの香り、ブドウジュースでしょうか。


「それお酒よ? 」


 ……衝撃の事実を教えてくれたのはサラさんでした。

 おさけ……という事は今亮君は酔っているという事ですか……?


「どうしたの? 茜さん」


「な、なんでもないです。

でもこれお酒らしいですよ、さっきはもう飲まないって言っていたんですし普通のジュースでも……」


「もう、遅いよ」


 そう言った亮君は鬼か悪魔か、とにかく私には恐怖の大王に見えました。

 もう1999年はとっくの昔なんですけどね。


「サラ嬢、申し訳ないが俺は酔ってしまった。

少し席を外して茜さんに介抱してもらうよ」


「えぇごゆるりと」


 そう言って亮君にお姫様抱っこでお店の奥、つまり居住スペースに連れ込まれてしまいました。

 去り際にサラさんがいい笑顔で手を振りながら舌を出していたので確信犯でしょう。

 絶対に許しませんよ。


「それじゃあ茜さん……」


「何雰囲気で押し通そうとしているんですか。

絶対だめですよ、キスもまだですし酔った勢いなんて認めません!

それにまだ日も高いです!

明るいし周りには人がいるしで恥ずかしいです! 」


「……いや何もしないって。

サラ嬢が熱心に進めてくるから酒だなと思って飲んだふりしてたの」


「え……? 」


「それとも嫌よ嫌よも好きのうちってこと? 」


 亮君の言葉に顔が真っ赤になっていくのがわかります。

 昨日に引き続きこんな醜態を……もうお嫁に、は行くんでしたね。

 だとするとなんていえばいいんでしょうか。


「あー茜さん、一つ提案があるんだけどさ。

このまま家の中で2人でのんびりしているってのはどうかな。

外に出ても求婚攻めと嫉妬攻めだけだからさ。

二人でゆっくりと飲み交わして」


「……そうですね、その提案に乗ります。

どのみち二人で家に入ったのだからどうしたって誤解はされるでしょうしね」


 この際なので恥はかき捨てます。

 ついでにお店には今日限定で立ち入り禁止のルールを設けました。

 普段は夜間の立ち入り禁止だったのですけどね。


「さて、そんじゃ俺は秘蔵の酒でも……」


「ほどほどでお願いしますよ、ムードは大切ですからね。

さっき言った通り酔った勢いというのもいやですから」


「俺も、茜さんとの初めては思い出に残したいからね」


「…………亮君恥ずかしくなるので勘弁してください」


「初心な茜さんってのもいいもんだ。

まぁそんなにアルコールの強いお酒じゃないから大丈夫」


「なら私は適当なおつまみ作っちゃいますね」


 そう言って亮君は自室へ、私はキッチンへ向かいそれぞれ用意を済ませて私の部屋に戻ってきました。

 お店の周りではどんちゃん騒ぎになっていますが、二人で静かに乾杯をしました。

9月28日4回目の投稿です。

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