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パーティ

「こんばんは、蒼井さん」


「……こんばんは」


「その様子だと手ひどくやられたみたいだね」


 亮君が笑いながらそう言ってきます。

 この様子だと何をされたのかわかっていますね絶対。

 ドレスを着せる際にもコルセットだのなんだのと散々苦しい思いをしました。

 やっぱりジーパンが一番楽です。


「俺もやられたんだよメイドさんたちに……死にたくなるほど恥ずかしかった」


「それは……えぇ」


 私からすれば同性ですが亮君にとっては異性ですからね。

 それはまあ恥ずかしいでしょう。

 たぶんあの様子だと痴態も……いえ、これ以上は亮君のためにも黙っておきます。



「ま、まあ気を取り直して今夜は俺がエスコートさせてもらうよ。

といっても気楽なパーティだから適当に楽しんでおけばいいからさ」


「そんなもんですか? 」


「そうそう、俺最初参加した時はガッチがちだったんだけど女性にやたら声かけられてさ。

あ、これ合コンと同じだって思ったら一気に楽になったよ」


 国を挙げてのパーティと合コンを同列に考えるセンスはすごいと思います。

 肝が座っているというかなんというか。


「それでは、お手をどうぞお嬢様」


「……亮君亮君」


「はい? 」


「お手」


「……なんですか急に」


「いやなんとなく」


 なぜか亮君を見ていると犬を思い出します。

 うちは飲食店なんでペットを飼う事はできませんでしたけどなんとなくそんな気がします。


「……これで満足ですか?

それじゃあ行きますよ」


「よろしくおねがいしますね」


 そう言えば男の子に手を握られたのはいつ以来でしょうか。

 恋人が出来たためしはなかったですけど居酒屋ですからおじさんたちに握られることはありましたけど……若い子に触れられるのは本当に久しぶりです。

 水仕事で荒れた手に触れられるのはちょっと気が引けますけど、亮君は優しいから平気でしょう。

 

 それからしばらく歩いたところでやたら大きくて豪勢な扉の前につきました。

 たぶんここが魔境パーティ会場なんでしょう。

 ……そういえば初めてのパーティなのに緊張しませんね。

 それにいきなり異世界とか言われたのに落ち着いていられます。

 これが亮君の言っていた肉体補正の一環なのかもしれませんね。

 あとで話を聞いてみましょう。


「さて、ではお嬢様。

覚悟はよろしいですか? 」


「素敵なナイト様が守ってくれるのでしょう。

だったら覚悟など必要ありませんよ」


 私の言葉に亮君がはははっと笑って見せました。

 それからそれだけの度胸があれば十分と微笑んでくれました。

 いい歳して純粋な私にその笑顔を向けると勘違いしてしまいますよ。


 そうこうしている間に亮君が扉を開けて中に連れ込まれました。

 海上は予想通りというかなんというか、広いホールに赤い絨毯、テーブルに山盛りの料理、きらびやかなドレスを着た人たち。

 昔見たフランス映画のパーティそのものでした。


「国王陛下、このたびはお招きいただきありがとうございます」


「ありがとうございます」


 しばらくその光景に見とれていると亮君に手を引かれて男性の前に連れていかれました。

 昨日見たひげダンディこと王様です。


「楽にしてよい、今日は呼びつけた側だからな。

蒼井茜だったな、昨日の飯はうまかった。

また食べに行くこともあるだろうがその時は仕事に専念してくれて構わない、たのむぞ」


「はい、お待ちしております」


「亮平よ、しばらく任務を与える。

この娘の護衛を頼む」


「はっ、かしこまりました」


「では二人とも、宴を楽しんでくれ」


 そう言った王様にもう一度頭を下げて亮君と会場の隅っこへ行きました。

 日本人特有なんでしょうか、こういう広い場所にいる時は隅っこの方が落ち着きます。


「亮君、このパーティはどのくらいの間続くのですか? 」


「大体二時間くらいかな。

はやくもつかれた? 」


「いえ、ペース配分の問題です。

私はお酒は強くないので」


「居酒屋なのに? 」


「お酒を扱っているからと言って強いわけではないですよ。

むしろお酒の怖さを知っているから飲みたくないんです」


「……あぁなるほど」


 そこで一度会話が途切れました。

 ふと思い出したように亮君が給仕さんからグラスを二つ受け取って、片方を渡してきました。

 お礼を言って受け取って、のどに流し込むと果実の香りが口の中に広がります。

 オレンジジュースに近い味わいですね。


「おいしいですね、これ」


「でしょ、実は買うといいお値段する果実を使っているんだよ。

流石王族貴族だね」


「……お値段は聞かないことにします」


「それが賢明。

んで、ちょっとまじめな話良いかな」


 亮君が顔つきを変えて話題を振ってきました。

 先ほどまでとは打って変わってやわらかい雰囲気はありません。


「どうぞ」


「さっき王様が言っていた通りしばらく護衛としてお店の周りにいると思う。

ちょっと鬱陶しいかもしれないけれど良いかな。

ダメと言われても困るんだけど」


「周りにって……別にお店にいてもいいですよ」


「そうしたいんだけど邪魔じゃない?

忙しい時間とか」


 確かに一番忙しい時間に店にいられても邪魔ですね。

 だけどいい方法があります。


 俗にいう私にいい考えがあるというやつですね。


「亮君うちでアルバイトしませんか? 」


「は? 」

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