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亮君のありがたみ

 今日は亮君がサラさんのところへダイエットの手伝いに行っています。

 最近はお客さんもうちのシステムに慣れてきたらしく、メニューの説明をしなくてもお気に入りの料理を頼んでくれるようになってきました。

 ただ初見のお客さんもたまに来ますので、やっぱり一人だと忙しくなりますね。

 私もある程度その忙しさに慣れているつもりだったんですけどね、亮君に甘えていたのがよくわかります。

 お客さんをお待たせすることがちょっと多くなってしまいました。

 やっぱり一から準備するメニューが増えた事も原因なのでしょうけれどね。


「おーい蒼井ちゃん、こいつにロシアンたこ焼きを」


「はーい」


 こういったジョークメニューも結構人気なんですよね。

 皆さんお酒を飲んだ時の冗談に選んでくださって、結構楽しまれています。

 いざという時のためにチーズのサービスも用意していますので、フォローもばっちりです。

 辛い物を食べたときは乳製品を口にするのがいいんですよね。

 逆にお水を飲んでも一時的に冷却されるだけで、その後はまた辛みを取り戻します。

 カプサイシンを分解する成分が乳脂だとか、乳製品の脂肪分が粘膜を保護するとかいろいろな理由を聞いたことがあります。


 食べた後におなかが痛くなることまでは防げませんけどね。



「蒼井ちゃん、コークハイ、こいつにコーラを」


「はい、ただいま」


 飲み物だとコーラが人気ですね。

 一見さんはその色と泡をみて毒と言い出す人もいますけど。


 あと口にしたときに爆発したと驚く人もいますね。

 テレビが見れるのであれば人が箱に入っていると驚かれるのかもしれませんね。


 あぁテレビといえば番組は見れませんけどDVDとかがあれば見れますね。

 でも私あまり持っていないんですよね、DVD。

 今あるのは漫才百選と昔やっていたドラマ、あとお父さんが隠してそのままになっていたアダルトな奴だけですね。

 今度亮君にあげてしまいましょうか。


 お父さんが残したものといえばどの国のものかわかりませんが謎のお土産の山。

 巨大なお面や、よくわからない絵画です。


 全部物置になっている部屋に放り込まれていますけどね。


「コークハイお待たせしました。

コーラです。

見た目が似ていますのでご注意ください」


 お客さんに注文された品物を運んで、すぐに次の調理に移ります。

 食材を刻んで、お鍋を火にかけて、お魚を焼いて。

 ふぅ、忙しいですね。


「お待たせしました、ロシアンたこ焼きです」


「おう、お前から食えよ」


「うっし……かれぇ! 」


「はっはっは、ならこいつだ! かれぇ! 」


 うちのロシアンはひとつだけセーフという、逆ロシアンです。

 でも頼まれれば通常通りのロシアンも用意しますよ。


「うぅ……蒼井ちゃん、あれくれよ。

チーズ」


「はいどうぞ」


「おう……あぁなめらかでうまいな。

死ぬかと思ったぜ」


 お客さんはぱくぱくとチーズを食べてお酒で流し込みました。

 あぁそんなに一気に飲んだら酔っちゃいますよ。


「くぅ、こののど越しが最高だぜ。

ビール、うまいなぁ」


「……蒼井ちゃん、こっちにもビールだ」


「お?

お前酒やめてたんじゃなかったか? 」


「ばっか野郎、あんなにうまそうに飲まれて我慢できるかってんだ」


 忙しいですけど、この喧騒を別の視点から独り占めできるというのも悪くはないですね。

 楽しいです。


「蒼井ちゃーん、次こっちの注文よろしくー」


「はーい、すぐ行きまーす」


 さてさて、今日はまだまだ忙しくなりそうです。




 えぇ、忙しくなりました。

 少々風変わりなお客さんが来店されましたから。


「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ」


 接客はいつも通りにこなしますが、その方々が来店された瞬間他のお客さんたちが一気に静かになりました。

 先ほどまでは笑顔で語り合っていたお客さんたちが侮蔑や、恐怖を含ませた視線をそのお客さんたちに送っています。

 その人たちは、いえ人と言っていいのでしょうか。

 とにかくそのお客さんたちは、獣人でした。


「魚を、新鮮なものを頼む。

そうだな、生の魚があればそれを」


「かしこまりました」


 生魚ですか、そうなるとお刺身ですね。

 今まで需要があまりなかったので供給量は減っていますけどたまに怖いもの見たさで頼むお客さんもいらっしゃいます。


「ちっ、獣風情が。

生が喰いたいなら川で勝手に取って食えってんだ」


 お店の一角からそんな声が聞こえてきました。

 基本的にお客さん同士のいざこざにはノータッチなんですけど、見過ごせなくなったら注意しましょう。


「おまたせしました、お刺身です。

そちらの小皿にお醤油、えーとその黒い液体のを注いでそれにつけてお召し上がりください。

お好みでその緑色の、ワサビを付けるとおいしいですよ」


「む、鼻に来る匂いだが悪くない香りだ。

いただこう」


 そう言って獣人さんはパクリとワサビをそのまま食べてしまいました。

 私が静止しようとした時にはすでにスプーンでよそられたワサビがお客さんの口の中に。


「む……?

むぅ、むむむうううううううう! 」


 それから口と鼻を抑えて地面を転がりまわる獣人のお客さんの姿が。

 私、ワサビ単体で食べてくれなんて言ってないのですけどね。


「ぎゃははははは! 」

「何やってんだ犬っころ! 」

「ばっかみってえ! 」


 お客さんがおなかを抱えて笑い転げています。

 けれどこちらとしてはお客さんを笑うわけにもいかないのでコーラを持ってきて飲ませてあげます。

 ワサビの辛さにはコーラが効く、昔何かのテレビ番組で見た内容です。


「ふぅ……ひどい目にあったぜ。

なんだこりゃ、この店はこんなもんを食わせるのか」


「あれはそのまま食べるのではなく、ほんの少しだけお刺身につけて食べるんですよ。

私お好みでつけて食べてくださいって言いましたよね」


「まったくだ、犬っころは鼻が利くからきつかったんだろ。

どれ俺が手本を見せてやる、蒼井ちゃん俺にもその刺身を」


「あ、はい」


 しぶしぶといった様子で席に戻った獣人のお客さん用に新たにわさびを擦って、それからもう一つお刺身を用意します。


「どうぞ」


「おう、よく見てろいぬっ頃、これが人間様の……ほびゃああああああああああ! 」


 やっぱりというかなんというか、ワサビをパクリと食べて口と鼻を抑えて転がり始めてしまいました。

 人間だ獣人だ関係なくあれはきついですって。

 うちのお店では皮をむいたワサビをサメの皮ですりおろしていますからとても辛いんですよ。


「バーカバーカ」


 その様子を見てにやりと笑った獣人のお客さんが声をあげて笑います。

 先ほどまでは険悪だった空気がいつの間にか霧散しています。

 なんだったのでしょうか。


「お会計」


 気になっていましたが、お客さんから呼ばれたのでそれどころではなくなってしまいました。

 あわててレジでお会計をして、そして他のお客さんへの対応をします。

 なぜかワサビの一気食いがはやってしまい、今日はコーラが飛ぶように売れていきました。


 獣人のお客さんはお刺身を堪能された後霜降りステーキ丼を三人前平らげて退店されました。

 最後にまた来るといって、人間のお客さんと笑いあっていたのが印象的でした。


 でも、今回は気さくなお客さんに救われましたけど私一人では問題になっていたでしょう。

 これも亮君に頼りきりだったツケというやつですね。

 今度勉強しておきましょう。

9月18日二度目の投稿です

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