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ミナ

「な、なんで殺さない」


 ミナちゃんが冷や汗を流しながらそう叫びました。

 プルプル震えて、汗をだらだら流しながら凄んでもかわいいだけだと思うのですが。


「店が汚れるからにきまってるだろ」


 それに対する亮君の回答は冷たい物でした。

 いや、まあその通りなんですけどね。


「どこまで本気で……いえ、どこから嘘だったんですか? 」


「最後に殺そうとしたところから嘘。

あぁいや、お店の能力が効かないって所からかな。

実際は少し効いてた。

その理由も俺が一応は店員という立場で、困った客への対抗としての行為だからある程度は見逃されたってこと」


 なるほど、強盗に立ち向かう店員さんという図ですか。

 でも強盗の対処法って基本的には言われるがままにするべきなんですよね。

 

「それじゃあ亮君」


「ん? 」


「選んでくださいね、その子を殺す事をあきらめるか。

それとも解雇出禁にされるか。

私としては前者を選んでほしいんですけどね」


「…………酷い二択だね」


「私だってこんな選択肢だしたくないですよ。

でもミナちゃんを見殺しにしたくないので」


「……今度はこっちが降参する番かな? 」


 そいう言って亮君は手を上げて首を振りました。


「ちなみに俺がこの子を外でこっそり殺したらどうする? 」


「泣きながら怒ります」


「ちょっと見てみたいけど……あ、いえ何でもないです」


 亮君の妙な性癖を垣間見た気がしますけど今は触れないでおきましょう。

 というか触れたくありません。


「それでミナちゃん、私たちは何も見なかったし聞かなかったので逃げる事をお勧めするのですがどうしますか」


「……いつか、いつかそいつを殺す」


「んー平和ボケしている人間の意見としては復讐なんてやめてほしいんですけどね……。

でもそれが生きるための糧になるならそれもまたよしという事で」


 よく復讐にとらわれては、とか復讐はむなしいだけという話がありますけどそれは嘘ですからね。

 生きるためにはどんなものであっても目標がなければいけませんから。


 ちなみに私は週刊誌の来週号を読むまでは死ねないと考えながら日々を過ごしていました。

 今は週刊誌が買えないので、コミック新刊を読むまではに変わりましたけど。


「まぁおれは別にいいんだけどね。

死ぬつもりもなければ、殺されるつもりもない」


「亮君、そんなにかっこつけているとうっかり死んじゃいますよ」


 さっきそれらしい発言もしていましたし、結構危ないかもしれませんね。


「……俺は蒼井さんと添い遂げるまでは死なない」


「それ添い遂げたら死ぬってことじゃないですか」


「…………孫の顔を見るまでは」


「せめて抱っこしてあげてください」


「………………孫が小学校に上がるまでは」


「この世界小学校あるんですか? 」


「……蒼井さん、降参するからもうやめてください、何でもするんで」


 あら、これはちょっと意地悪しただけだったのですが言質をとってしまいました。

 何でもですか、何してもらいましょう。


「あの、蒼井さん?

悪い顔しているけど限度があるからね」


「そうですか、じゃあ今日このお店には誰も来ませんでした。

お昼は私が自分の分をこぼしてしまい、残りを二人で分け合いました。

これでどうですか? 」


「……その程度の事でよければ」


「はい、決まりです。

ではミナちゃん、ちょっと待っててくださいね」


 そう言ってお店の裏手に行って、個人的なおつまみ用の缶詰を持ってきました。

 それとペットボトルの御茶を数本。

 それを余らせていたカバンに収めてミナちゃんに渡しました。


「これなに」


「缶詰っていう保存食です。

こうやって開けて、食べてください。

切り口が鋭いので手を切らないようにしてくださいね。

こっちはお茶ですのでこうやって開けて飲んでください」


「……礼は言わない」


「子供は素直が一番なので、言ってほしいんですけどね」


 しつけをする上では挨拶やお礼は言えるようにしていないといけませんからね。

 それでも憎めないのはこの子の人柄ゆえでしょうか。


「ふん……」


 そしてそれらを持ってミナちゃんはお店から出ていきました。

 少し窓を開けて外を見ると駆け足でお店から離れていくミナちゃんが見えました。


「意外だね、てっきりお店で雇うとか言い出すかと思ったよ」


「だめですよ、労働基準法に引っかかっちゃいます」


「……この世界にはない制度だよ」


 それは知っています。

 街に出るとミナちゃんよりも小さな子が普通に働いていますから。

 

「本当の理由は? 」


「メリットとデメリットの兼ね合いです。

お店に置いた時のメリットは全くありません。

でもデメリットは山ほどついてきます。

事有る毎に亮君の命を狙って騒動を起こしますし、酔ったお客さんとのいざこざも増えるでしょう。

なにより、元敵国の子供を働かせるというのは、双方にとって良い感情は出ないでしょう? 」


「まぁ……倫理的には言っちゃいけないけどそうだよね」


「他に聞いている人もいませんからね」


 窓の外を見るとミナちゃんはもう見えないほど小さくなっています。

 でも、経営者というのはこういう事も考えて人道よりも経営の事を考えなければいけない時も有ります。


「でも、完全に割り切れてはいないよね」


「そりゃそうですよ、子供を単身放り出すような真似、普通にはできませんよ」


「……まぁそうだね」


「含みのある言い方ですね」


「いや、あの子供は多分暗殺者として育てられているからね。

だいたいのことは一人で何とでもできると思うよ」


 暗殺者、さっきも言っていましたね。

 あんな子供が……いえ、子供だからでしょうか。

 世知辛いですね。


「聖国は保護という名目で子供を集めて教育する施設がある。

そこでは名前と戸籍を取り上げられて、聖国に対して不利益を働くものを始末する教育が施される。

殆どはその人格も破壊されるんだけど、あの子は兄として慕っていた存在がいたおかげで意思を保ち続ける事が出来たんだろうね。

けどその存在が死んだことで独り立ちするきっかけを与えた、皮肉だよね」


 そう言う亮君はどこか満足げな表情をしていました。

 何がそんなにうれしかったのでしょうか。

 子供が一人、明日を生きられるかもわからない生活をするというのに。


「さっきも言ったけどあの子供は大丈夫だと思うよ。

見事にやりやがった」


「何がですか? 」


「財布、すられた」


 そう言ってポケットをひっくり返して見せた亮君は笑っていました。

 満足げだけど悲しそうな表情というのは珍しいですね。

 子供の独り立ちを見守るような気分でしょうか。


「蒼井さん、お給料の前借を」


「だめです」


「あの」


「だめです、ご飯は作ってあげますからね」


「あ、はい」


 お給料の前借という制度は害悪です。

 それは前借をすることで、さらに前借をしなければいけない状況を作り最後は破滅します。

 だからそれは許しません。


「ちなみに貯金とかはないんですか? 」


「……騎士ってそれほど儲からないんだ」


「それもまた、世知辛い話ですね」

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