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戦いが終わって臭気

 その日亮平たちは意気消沈していた。

 帝国軍を退けた、それは華々しい戦果である。

 だが、それ以上に砦を支配するシュールストレミングと吐瀉物の臭気に耐えきれなかった。

 

「こんな事なら消臭剤を持ってくるべきだった」


 そう言う亮平だったが、この臭いにどれだけ通用するのかわからない。

 堀に浮いている敵もどうにかしなければならないだろう。

 残された敵の死体以上に、その場に残った臭気と吐瀉物の処理に困っていた。


「亮平……」


「いうな、俺もここまでひどい事になるとは思っていなかったんだ」


 本来であればシュールストレミングの臭いにひるんだ敵を堀に落として数を削り、上ってくる敵には原液デスソースとシュールストレミングの降下で対応して、その隙に弓や槍で応戦する手はずだった。

 しかしその前に敵は撤退してしまい、残されたのは死体と臭気と吐瀉物だけだった。

 正確に言うならそこに獣人が死亡した際に、臭気のあまり漏らしてしまったため排泄物なども残っているが敢えて見なかったことにしている。


 そして何よりの問題が、兵士が持っていた武器や鎧、そして食料の大半に臭いが移ってしまったことにあった。


 この臭いは多少防臭効果がある物を使ったところで消えるようなものではない。


「おい亮平」


「わかってるよ、あーもう臭いに当てられて死んだとか言えねえよな」


 シュールストレミングによる死者は帝国だけではなかった。

 亮平の率いる軍でもその臭気に当てられ舌が痙攣し、喉の奥に入り込んで窒息する者、吐瀉物をのどに詰まらせて死亡する者、思わず姿勢を崩して落下死する者と多少の被害が出ていた。


 確かに防衛戦は成功した。

 しかし、砦に染みついたこの臭い、よくて引き分けというべきだろう。


「これ怒られないか? 」


「たぶん、めっちゃ怒られる」


「だよな、ほぼ自爆しましたっていうようなもんだもんな」


 亮平は頭を抱えていた。

 今回の戦闘、亮平に全指揮権が与えられていたため責任の所在は亮平に有った。

 そしてその指揮権を与えたのは有力貴族と国王であり、失敗は彼らの失墜を意味していた。

 今回は成功とは呼びにくい物だが、失敗ではない。

 その事だけが救いだった。


「あー全員注目、我々は明日帰還する。

この後片付けは引き継ぎの軍隊に任せて我々は知らぬ存ぜぬを貫くぞ。

いいか、この臭いの原因は帝国だからな。

俺たちは悪くない、だからお前たちには責任はない。

いいな」


 亮平の言葉に誰もがうなづいた。

 酷い惨状である。

 敗残兵でもまだもう少しまともだろう。


 勝ったはずの亮平たちがこれである。

 負けた帝国の状況は推して知るべしだった。


「……シュールストレミングを塗ったパンとくさやで乾杯、死にたくなる光景だな」


「あの犬っころどもはどうする」


 ジョナサンの言う犬というのは捕えられていた獣人だった。

 およそ50人の帝国獣人を地下牢に勾留していたが、その大半は臭気で死にかけていた。

 臭いの届きにくい地下だったことが幸いして臭いが完全に届くことはなかった。

 そのため戦闘中は大した被害を受ける事はなく、せいぜい数名が気分が悪いと言い出した程度だった。


 問題は戦闘終了後に夕飯を運んできた兵士だった。

 一時的にとはいえ外部との道が開かれた事でそこから流れ込んだ臭いと、兵士が身に纏った臭いにほとんどの獣人が気を失ってしまった。

 そんな彼らの食事をどうするかという事だった。

 この状況でシュールストレミングの臭いが付いた食材を与えるのは、まさしく死刑宣告に等しい行為だった。


「くさやあげとけ」


「死ぬんじゃないか? 」


「でも臭いがついていないのはあれしかないぞ」


 真空パックによって守られたくさやだけが、この場でシュールストレミングの汚染を受けていない食材だった。

 そのもともとがくさいのは、言うまでもないことだが。


「あー炭でも作って防臭マスクでも作ってやるか」


 亮平は彼らを連れ出すときのことを考えていた。

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