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開戦帝国戦

また三人称の話です。

ただし前回と比べると、人は死にますがコミカルなことになると思います。

 ガラガラと荷物を運ぶ馬車があった。

 それは戦地へ赴くものであり、半分は武器と食料と水である。

 では残り半分は何か。

 蒼井が用意した秘密兵器とでも呼ぶべきものだ。

 それらが数百台の馬車に積み込まれていた。


「雨には気をつけろ!

絶対に濡らすんじゃないぞ! 」


 馬上から怒声を響かせる亮平に、兵士たちは不安を隠そうともしない。

 運んでいるのは未知の物体。

 丸い金属を紙の箱に詰め込んだ物、薄い透明な紙の中に切り開かれた魚、陶器の筒に網、墨、木材に黒い何かを張り付けたような箱と、金属とも木ともいえない不思議な手触りの物体に網を張った物、そして同様の素材出来た薄い箱。

 それら全ての使い道が全く分からなかった。

 だが目の前の英雄は自信ありげにそれらを丁寧に運ぶように指示した。


「おい亮平、あれがなんなのかそろそろ教えろよ」


「あーいやだめだ。

この中に間諜がいないとも限らないからな」


「そりゃそうなんだがよ……」


 今回亮平たちが連れてきた兵士の数はおよそ20万人。

 前回の聖国相手の戦争と比べると、戦闘に特化した兵士たちを相手取るには不十分ともいえる。

 だがその兵士たちは、前回の防衛線に生き残って怪我が治った者達であり、これ以上は逆さに振っても出せないというのが現状だった。


「でもちょっとくらい教えてくれてもいいんじゃねえの? 」


「そうだな、獣人対策とだけ」


「そりゃ分ってるっての、でもお前と嬢ちゃんが話していた内容がよくわからなかったんだよ」


「ここでその話はするな、わずかな情報も敵には与えたくない。

大丈夫だ、使う前に注意点は教える」


「そうかい」


 それから二人は黙ってしまった。

 元より行軍中に会話は慎むべきであるとされている。

 体力の浪費、喉の渇き、敵に位置を教えかねないと様々な弊害があるからだ。


 結局それからは一切の会話なく、防衛拠点となる砦にたどり着いた。


 


 そして開戦当日の朝、亮平は兵士に最低限の注意を促した。

 合図をしたときは口と鼻を布で覆い、耳をふさげという物だった。


 ほぼすべての兵士はその理由はわからないままだったが、英雄の言う事だと従った。


「全軍、盾構え!

れいの物は全員持ったな!

100歩前進! 」


 亮平の号令に合わせて兵士が100歩前に進む。

 その手に持った盾は非常に頑強だが、剣を持っている者はほとんどいない。


 どころか兵士の半数は荷車を引いている。

 戦争をするという光景ではない。


 それを見て帝国軍は嘲笑した。

 何か芸でも見せてくれるらしいと笑ったのだ。


 それが命取りだった。

 帝国軍の将軍が矢を放てと号令を出す。

 それと同時に、亮平は全体に号令を出した。

 全軍後退、同時に耳をふさいでボタンを押せと。


 亮平が持ってきたのは大音量スピーカーとコンポ、バッテリーとCDだった。


 それらは多少矢が当たろうとも音が消える事はなく、最大音量で戦場にワーグナーの曲を鳴り響かせた。

 蒼井の店で、備品として購入した物だった。


 曲のチョイスは亮平であり、戦場で流すならこれしかないと言い張ったためだ。

 ただし蒼井も一昔前にはやったデスメタルをチョイスしていたので、そのセンスは同程度だろう。


 最大音量で他方から流される音楽、スピーカーの後方にいる亮平たちはまだいいだろう。

 だがその正面に立っている帝国からしたらたまった物ではない。

 特に音に敏感な猫やウサギの獣人は、その鼓膜を通して脳を揺さぶられその場に倒れる者、嘔吐する者、錯乱するものなどが現れ始めた。

 一部の勘の良い者は耳を咄嗟にふさいだり、石ころを耳栓代わりに詰めるなどして戦闘の再開をしたが、接近した瞬間に泡を吹いて地面に倒れ伏す事となった。


「うわくっせぇ! 」


 思わず亮平が声を上げてしまったのは、コンポの後ろで用意していた物が原因である。

 七輪に網を張って、魚を焼きだしたことだ。

 それは日本で最もくさいと言われる、くさやだった。


 パチパチと音を立てる七輪であぶったくさや、それをうちわで煽ぎ風を送る事でさらに可燃させる。


 その臭いは、犬の獣人のようなにおいに敏感な者にとっては地獄のようだった。

 日本でもよく掃除していないトイレの臭いだ、風呂に入らなかった人間のようなにおいだと様々なモノに例えられるその悪臭をもろに受けた獣人たちは思わず後退した。

 それは賢明な判断だったのだろう。


 亮平たちは追撃することなく、その軍団を見送った。

 死者はほとんど出ていないだろうことから、何かしらの対策を立てて攻めてくるだろう。

 そう考えていた物の、その対策もすでに立てられていた。

 今回の作戦は半分嫌がらせのようなもので、相手の動きを鈍らせる事が出来たら御の字というようなものだったが、想像以上の効果があったことで亮平率いる軍の士気大きく上がった。


 対して帝国軍の士気は落ちるところまで落ちてしまい、コッソリ逃げ出すものまで出る始末だった。

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