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まかないと……

 まだまだ暑いですが、カレンダーは9月。

 こちらの世界とは多少のずれがあるかもしれませんが、地球の頃から使っていたカレンダーが現役です。

 その理由の一つに、少々特別な日を用意しているからです。


 例えばクリスマスやハロウィン、それぞれそのイベントに応じた料理を提供しています。

 ハロウィンであればかぼちゃを使ったメニュー、クリスマスであればショートケーキです。

 ちなみにショートケーキを100個限定で売る日が毎月あったりします。


 それは22日、毎月カレンダーでは15日の真下にありますからね。

 つまり上に15、イチゴが乗っている日です。


「亮君、スポンジ焼けました? 」


「もうちょい、クリームは? 」


「ばっちりです」


 そうです、今日は9月22日。

 もうすぐ秋ですから夏メニューも終わり時。

 今日が夏季ショートケーキは最後になるでしょう。


 来月からは秋メニューのスタートです。

 栗ご飯に秋刀魚の炊き込みご飯、松茸に柿にと食欲の秋全開です。

 その代りにダイエットが大変ですけどね。


「蒼井さん、こっち焼き上がり。

あとはよろしく」


「はーい」


 焼きあがったスポンジを少し冷まして、切ってからクリームを塗って、フルーツを乗せて。

 うんいい出来です。


「はぁ、相変わらず綺麗にできるなぁ」


「亮君だってパフェとか上手じゃないですか」


「あれはまた別でしょ。

こういうの見ると蒼井さんも女の子なんだなぁって思うよ。

いつも料理している光景だとお母さんみたいでさ」


 む、なんかどう怒っていいのかわからないこと言われてしまいました。

 お母さんという年齢では、あるかもしれませんし女の子という年齢ではないのですが……。

 同級生は結構な人数が子持ちですし。


「女の子というのはもっと若い女性に対して言う事ですよ」


「俺と一つしか変わらないんだから若いと思うけど? 」


「26歳と27歳の間には決定的な差があるんです。

亮君はデリカシーという物を覚えた方がいいですよ。

そんなんじゃ女性にもてません」


「別にもてる必要はないんだけどね……」


 その後に何かつぶやいていましたが聞き取る事が出来ませんでした。

 顔が赤くなっていますがオーブンの前にいたからでしょうか。


「いや、オーブン使うと熱いね。

ははは、はは、はぁ……水もらうわ」


「えぇどうぞ」


 涼しくはなってきましたがまだまだ暑いですからね。

 熱中症や脱水には注意が必要です。

 特に厨房なんかは熱がこもりやすいので気を付けないといけません。


「ふぅ、んでこのケーキどうすんの? 」


「倉庫の大型冷蔵庫に入れておいてください。

そうすれば一日くらいはもつので」


「あいよー」


 そう言って亮君は丁寧に一つずつケーキを運んでいきました。

 いやぁやっぱり人手、それも男の子がいると助かりますね。


 そう言えばショートケーキだけというのもなんだか味気ないですね。

 お母さんは割といろいろなケーキ作っていた気がします。


 私もいくらか挑戦してみましょうか。

 でもモンブランとかよくわからないんですよね。

 チョコレートケーキやチーズケーキはできそうですけど……そういえば以前作ったなんちゃってミートパイの応用で何か作れないでしょうか。

 ケーキも必要数焼き上げましたし、材料も時間も有るので何か作ってみましょうか。

 冷蔵庫の中には余ったイチゴがいくつかありますね。

 他にはジャムとバター、あとはマーマレードと豆乳ですか。


 うん、ちょっとやってみましょう。

 まずジャムに豆乳を投入、なんちゃって。

 それをよく混ぜ合わせて少量のゼラチンを入れます。

 これで冷やせばゼリーのようになってくれるでしょう。

 続いて耐熱皿にバターを塗りこんで、両面にしっかりとバターを塗ったパンを敷き詰めます。

 そして先ほどのジャム入りの豆乳をパンを濡らす程度に流し込んで、イチゴを敷き詰めてオーブンへ。

 時間は10分くらいでしょうか。

 その間に残ったジャム入り豆乳は冷凍庫で冷やします。


 取り出すとイチゴとバターの香りがするパンが焼きあがりました。

 このままでもおいしくいただけますが、残ったジャム入り豆乳をスプーンでかき出しながら流し込みます。

 短時間でしたが冷凍庫だったため、固まり始めています。


 そして最後にもう一度、30秒ほどオーブンに入れて少しとかしてから冷蔵庫へ。

 一時間ほど待てばなんちゃってイチゴパイの完成です。

 豆乳の香りとジャムが程よくマッチして、バターの甘い風味が鼻を抜ける一品です。

 ただちょっと溶かしすぎたのか、パンがべっチャリしていますね。

 もう少し改良は必要ですが、まかないとしては十分でしょう。


「あまーい! 」


 亮君は大丈夫か心配していましたけど、ハムスターのようにカリカリモフもふとかじっています。

 そして時折ほうじ茶を飲んでため息をついています。

 おいしそうに食べてくれるからうれしいんですよね。


 それから時間外にジョンさんが来たので一緒に食べてもらいました。

 パフェを食べているときのような笑顔を見せてくれたので、悪くない出来だったと判断しておきましょう。

 よかったよかった、と思った瞬間ジョンさんはそれを打ち破ってくれましたけど。


 以前アスロックさんが追い返した帝国が、再び軍備を増強して攻め込んできたそうです。

 今のままではひと月で交戦開始とのこと。

 相手には人間以外に獣人がいるそうです。


「獣人ってなんですか? 」


「二足歩行の犬や猫。

その血の濃さで犬の耳や尻尾があるだけだったり、完全に犬だったりって違いはあるけど共通しているのは耳と鼻がいいってことと、人間よりも圧倒的に身体能力が高いってこと。

だから前のような不意打ちや毒は使えない」


 亮君が渋い顔をしています。

 相当不味い相手なのでしょう。


「今回は50万の軍勢、内八割が獣人の兵士だそうだ、どうだ亮平。

勝てる見込みは」


「無理、今この国の兵士集めても焼け石に水。

俺やお前が前線に出張っても押し切られる可能性の方が高い」


 それはつまり、どうやっても死ぬしかないという事でしょう。

 でもそんなのは嫌です。

 亮君はもちろん、ジョンさんやアスロックさんにも生きていてほしいです。

 何か私にできる事があれば、戦う力があればいいんですけど……。


「蒼井さん、ここにいれば安全だから絶対に外に出ないでね」


「そんな……でも……」


「いいかい、相手は獣人。

気配を察知する事も出来るし普通に戦っても強い。

鼻もいいから気配を殺しても臭いでばれてしまうんだ。

そんな相手と戦うのに蒼井さんが前線に出てもできる事はないんだ」


「亮君今なんて言いました? 」


 思わず聞き返してしまいます。


「蒼井さんが前線に出てもできる事はない」


「その前です」


 臭いで居場所がばれてしまう。

 それは、つまりそれだけ嗅覚が優れているという事です。

 そう言えばさっきもそんなことを言っていましたね。

 それに耳がいいとも……これはもしかしたらもしかするかもしれません。


「亮君、賭けがあるんですが乗りませんか? 」


「賭け? 」


「えぇ……………………」


 私の考えを亮君に伝えます。

 そして逡巡、深く考え込んでからニコリと笑顔を見せました。


「いける、たぶんそれなら確実に行ける」


「そうですか、なら準備は任せてください。

あ、でもこれってお店のお金を使うので協力という事で国から援助とかでませんか? 」


「そこは掛け合ってみるよ。

とりあえず俺今から行ってるから後よろしく」


「はい、あとお店にクローズって出しておいてください」


 そうと決まれば準備開始です。

 さて、本当にうまく行ってくれればいいんですけどね。

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