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馬車

 あれから残った食材で賄いを作り夕飯を済ませて、片づけを終えたらすぐに寝てしまいました。

 残った食材はもったいないですけど基本的に廃棄、食中毒は怖いですから。

 仕込みが出来る物はしておきましたけど、食材の補給はどうしましょうか。

 本当なら明日の朝には食材が入荷するはずだったのですがこの状況ではそれは期待できません。

 お金は一応あるのですが……。


 そんな心配をよそに夜はぐっすり眠ってしまいました。

 朝になって朝食をどうしようかと考えていた時に異変に気が付きました。

 昨晩捨てたはずの食材がゴミ箱からごっそり消えています。

 さらに売り上げの一部がなくなっており、泥棒に入られたのかと思いました。

 京都で買ってきた木刀を握りしめながら家中を探索しましたが他にとられた物はなさそうです。

 それにこのお金もとられたわけではなさそうだという事が判明しました。

 いつも食材を置いている場所に、大量の段ボール箱が置かれていました。

 恐る恐る中を改めると食材です。

 いくつか開封してみましたが問題はなさそうなので毒見を兼ねて昼食に使いました。

 朝は食べないので昼食です。


「カレーにして明日まで持たせますか」


 昼からカレーというのは珍しいかもしれませんがうちでは裏メニュー扱いです。

 たまに天丼ツユ抜きにカレーをかけてほしいという要望もあります。

 今夜はお出かけですし適当でいいでしょう。




 そう考えていたんですけどね……。


 昨日のコスプレさんとその他大勢の鎧姿の人たちが店に押し寄せて大量の食材を消費していきました。

 一週間分あった食料の半分近くを一日足らずで使い切ったのは初めてです。

 うれしい悲鳴、という言葉がありますけどこの場合悲鳴を上げる暇もないほど忙しくて何度か倒れそうになりました。


「このかれぇというのは最高だ! 」

「天丼もう一杯! 」

「こっちは牛丼だ! 」

「ミックス丼! 」

「牛モツ煮込み!」

「お好み焼き豚玉! 」


「はいはい!

順番に出すんでちょっと待ってください! 」


 ひーひー言いながらもどうにかお客さんをさばききってぐったりしていたころ、昨日の青年が来ました。

 刀を渡すと照れたように頭をかいていたのでただのうっかりだったのでしょう。

 そのまま連れられて外に出ると馬車が待機していました。


 このご時世に馬車とはまた風流な、と思って乗り込むとひどい目にあいました。

 この馬車の揺れる事揺れる事。

 お尻が痛いわ酔うわ馬が糞をして臭うわで散々な目にあいました。


 それからしばらくカッポカッポという蹄の音と、ついでに吐き気と格闘しながら外に目をやると薄暗い街並みが目に移りました。

 すでに夕方、街灯がついていてもおかしくはない時間なのですがどういう事でしょう。


「あーそっか、お姉さんも迷い人だったよね」


「迷い人ってなんですか、私人生以外じゃ迷子になってないですよ」


「それは致命的な迷子なんじゃ……まあとりあえずイメージしてほしいんだけど良いかな」


「はい」


「膨らんだ風船を二つ」


 言われたとおり風船をイメージします、真っ赤な風船と真っ青な風船。

 どっちも空気が入ってぱんぱんです。


「それぞれが違う世界だとする。

片方は地球、もう片方は……不思議の国だ」


「不思議の国」


 男の子の割にはメルヘンな例えです。

 地球と不思議の国、うん風船の上に都会の街並みとウサギを書き込みました。


「この時地球の方がヘリウムが入っていて高いところに浮かんでいる。

だけど地球からうっかり足を滑らして落ちてしまった女の子がいました。

彼女は運よくすぐ下にあった風船、つまりは不思議の国に着地する事が出来ました。

この時の女の子が迷い人」


「つまり……世界を股にかけた迷子ですか」


「そう、察しがいいね。

それで俺やお姉さんもその迷い人だ」


 ……なんでしょう、いい歳して不思議の国の存在を本気で信じている人というのは痛々しいというレベルではないです。

 それもご丁寧に周囲の人間を巻き込んでまで……でもまったくわからない話でもないです。

 そうでないと街灯がなかったり、いびつな硬貨を使っていたりする理由もわかります。

 でもだとするとなんで言葉がわかるのでしょう。


「要約すると、俺たちは異世界から迷い込んだ人間ってことだね。

俺は変な能力に目覚めちゃったんだけどおねえさんはどう? 」


「能力? 」


「あーまあ今は内緒、ただなんか普段じゃありえないこととかなかった?

一晩じゃわからないかな」


 そう言われて思い出します。

 今朝の食材の補充、あれは普段じゃありえないことでした。


「心当たりがあるみたいだね。

たぶんそれがお姉さんの能力」


 私の能力……お店に食材を補充する事ですか?

 以前インターネットで見た広告じゃないですけど口に手を当てて驚きたくなります。

 私の能力しょぼすぎって。


「なんか納得いかないといった様子だけど、実際能力なんて大したことないもんだよ。

俺だってそうだ、メインは身体能力の強化が大きいかな。

ほら不思議の国の女の子だってひらひらふわふわな服装なのに大冒険できるくらいには強かだったように俺たちの身体もそれなりに強くなっているんだ」


「……今日のデスマーチで死にかけましたけど。

体力は相変わらずで力の方もあれですよ。

さっきかぼちゃを切ろうとして四苦八苦していましたから」


「……あれぇ? 」


 青年が素っ頓狂な声を上げます。

 予想外だったようです。


「おっかしいな……そんなことあるのかな。

お姉さん間違いなく地球の日本から来たんだよね」


「えぇ、名前は蒼井茜です。

間違いなく日本人ですよ」


「蒼井茜さんか、おれは御坂亮平。

今更な気もするけどよろしく……っとそうこうしている間に着いたみたいだ。

こっから先は人外魔境だから気を付けてね」


 いきなり脅されましたけどどういう事でしょう。

 人外魔境……いやな響きです。

 目の前のお城を見上げながらそう思いました。

 ここにはハートの女王様やトランプの兵士でもいるんでしょうか。

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