亮平の決意
亮平の話を第三者視点で描きます。
「作戦は以上だ、各自明日出発する。
それまでに親しい者への挨拶を済ませておくように。
これはこの軍最高司令ヴェリス直々の命令である」
軍服を身に纏った騎士が声を張り上げた。
そこは城の軍事会議室である。
その中には亮平の姿もあった。
「亮平、切込み隊長の務めを果たせ」
「了解」
「それと、あの店。
なんといったか。
あの店主にも挨拶を済ませておけ」
「いや、良いですよ別に」
ヴェリスの言葉に亮平は刀を引き抜いて答えた。
そのまま刀身のゆがみや、握った具合を確かめる。
「年長者の言う事は聞いておけ」
「今更話すようなことはありませんよ。
それに絶対に帰るって約束しているんで、他愛ない話であればそれから話しますよ」
「……俺はそう言って死んでいった奴を何人も知っている」
「でしょうね、俺も十人くらい知っています。
だけど今は行けません」
亮平はあえて行けないという言葉を選んだ。
「行かないではなくか」
「はい、今行ったら……たぶん俺が逃げ出したくなります。
死にたくない、その一心で蒼井さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「お前がそんな弱音を吐くとは珍しいな」
「今まではもうどうでもいいと思っていました。
たぶん元の世界に戻れないとわかって自棄になっていたんですよ。
でも今は、絶対に死にたくないと思っています」
亮平は刀を鞘に戻して窓の外を眺めた。
外では鳥が羽ばたき、雲が流れと戦争とは裏腹に穏やかな空気が流れていた。
「だから行けません。
そして俺は生きます」
「そうか……そう言うならいいが、今回お前が相手どるのは聖国だ。
個々の技量は低いが盲信的な兵士たちは死を恐れない。
手ごわいぞ」
「わかっています、俺は何度もあの国で死にかけたから」
「そうだったな、ならばあの店主にも……」
「それは大丈夫です、店から出ないように言ってありますし王様も兵士を派遣してくれるそうです」
その兵士は王家直属の近衛兵であり、信頼できる者である。
亮平は裏表両方の世界を使って調べ上げていた。
それと同時に予防策をいくつか用意していた。
「……蒼井さん」
亮平の呟きは誰に聞かれることもなく会議室に響いた。
命のやり取り、戦争、それらは経験していたが死にたくないと思ったのは初めての事だった。
やはりそれは、蒼井茜という存在が原因だろう。
同郷の人間がいない状況で、故郷の味を二度と口にする事が出来ないと思っていた矢先に彼女は現れた。
亮平の能力に遠視と看破という物がある。
遠視は文字通り遠方にある物を見る事ができる。
それに合わせて看破はその正体を見破る事が出来る。
店の存在を知ったのも、その安全性を知ったのも、また店の能力を見抜いたのもこれらの能力があったためだった。
最初勢いよく飛び出した亮平を止める為に国王とその他数名の兵士が苦労する事となったのは余談である。
「さて……相手は狂信者共。
遠視と看破だけじゃ心もとない。
そうなると……あれだよな」
亮平の持っている能力は5つ。
うち二つは感知に特化した遠視と看破であり戦闘向きではない。
残る三つのうち二つは戦闘向きの能力だった。
だがそれらの使用を、亮平は嫌っていた。
努力して得た力ではないというのはどうでもいい話だった。
問題は、その能力がえげつないという事。
ほぼ一撃必殺といえるそれは相手の事を考えると躊躇してしまうようなものだった。
だが、今回亮平はそれの使用を決めた。
行ってらっしゃいと自分を送り出してくれた人の下に帰ってくるために。




