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戦争の始まり

 暑さも本番になってきたころです。

 亮君がお店をしばらく休ませてほしいと言ってきました。

 西にある帝国と東にある聖国、二つの国から戦争を仕掛けられているそうです。


 もともと帝国からは過激な挑発行為が続いていたそうですが、昨日正式に宣戦布告を受けたそうです。

 またそれに合わせて聖国からも神への冒涜を理由に宣戦布告を受け、今街は大騒ぎになっているそうです。

 ある人は荷物をまとめて逃げ出したり、ある人は軍に志願したりと。


 また合わせて逃げ出した人たちを狙う盗賊の動きも活発になっているそうです。


「そういうわけで蒼井さんは絶対にお店の敷地から出ないで待っていてほしいんだ」


「……承服しかねます。

と言いたいところなんですけどね、私が外に出て何かあれば亮君の、ひいてはこの国の迷惑になるでしょう。

もともとインドア派ですしね。

でもお店は開けますよ」


「それは問題ないよ、蒼井さんはこのお店にいる限りほぼ無敵だからね。

俺でもどうにかできるかなってレベルだし」


「あら、どうにかできちゃうんですね」


「本気でかかればね」


 珍しくまじめな表情をしている亮君に、不謹慎ですがドギマギしてしまいました。

 いつものふざけた様子はなく、未来を見据えたような表情です。


「蒼井さん、絶対帰ってくるからその時は美味しいご飯よろしく。

軍の携帯食料がもう不味いのなんのだからさ」


「わかりました、その時は腕によりをかけて提供させてもらいますね。

だから、死なないでね」


「……蒼井さんが敬語じゃないのって初めて聞いたかも」


「あら、そうですか?

敬語が癖になっちゃっているんですけど、たまにポロリと出てしまうんですよ」


 ちょべりばとか言っていた時代もありましたね。

 その頃の感覚がまだ残っているので、気を付けてはいるんですけどね。


「でもいい物が聞けたよ。

また顔を出すと思うけど、一度言っておくよ。

行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


 その日を境に、お客さんも売り上げも減りました。

 幸い貯金があったので仕入れの数を減らす事でお店は維持できています。

 けれど、普段は狭く感じていたこのお店が広く感じてしまいます。

 それに1人の時間が増えたからでしょうか。

 普段は考えないことが、今は妙に気になります。


 戦争、人がたくさん死ぬのでしょう。

 私はその悲惨さを知りませんが、沢山の人が亡くなるのでしょう。

 もしかしたらうちのお店に来てくれた人たちも、亡くなられるのかもしれません。


 うちのお店で商談をしていたあの人や、このお店で指輪を渡してプロポーズしたあの男性、お酒に飲まれて服を脱ごうとして取り押さえられたあの女性、パフェが好きなジョナサンさん、少食で下戸だけどハンバーグが好きなアスロックさん。

 そして亮君も。


 平穏な一生が送れるとは思っていませんでした。

 でも、戦争に巻き込まれるというのは考えていませんでした。


 亮君は決して語りませんが、お店に来た騎士の方がポロリと漏らしたことがあります。

 迷い人が二人も、特定の国に現れるのはおかしい、禁術を使って呼び出したにきまっている、それが今回の戦争の原因だそうです。

 それはつまり、私にも責任があるという事。

 いえ、それは違いますね。

 私は口実に使われたのでしょう。


 それでも、責任を感じずにはいられません。


「よう、しけた顔しているな」


「ジョナサンさん」


「ジョンでいいっての。

んで、亮平が戦争に行くことが原因か? 」


「それも有ります、ご注文は何パフェにしますか? 」


「全種類持ってきてくれ。

も、ってことは他にもか。

おおかた迷い人としてこの世界に落ちてきたことを気にしてんだろうが、そんなのは台風で家屋が壊れた程度の話だ。

言わば言いがかりで吹っかけられた戦争なんだよ」


「わかっています。

それでも家屋が壊れる原因になったのは、私の掲げていた看板が風に飛ばされたから。

無関係ではありません」


「まったく、お前も亮平も変に真面目というか……。

異世界人っていうのはみんなそうなのか? 」


 ジョナサンさん、いえジョンさんがそう言ってパフェを手に取りました。

 彼の前に並べられたパフェは全部で5つ、なんかこの人と話しているとお腹を壊さないかとか、糖尿にならないかという方が気になってきます。


「いいか、亮平は俺と一緒に切り込み役だ。

つまり真っ先に死ぬ可能性が高い仕事だ。

だから伝える事があるなら、俺が伝えてやる。

だから思い残す事は無いようにしろ。

薄情にも亮平の奴は何もないと言っていたがな」


「私も、何も有りません」


「おいおい、夫婦そろって薄情だな」


 夫婦ではないんですけどね。

 でも大切な人ではあるかもしれません。

 これが恋愛感情なのかは、私にもわかりませんけどね。


 俗にいう吊り橋効果かもしれませんしね。


「亮君なら帰ってくるんですから、わざわざジョンさんに伝言を頼まなくてもいいでしょう。

それだけの話です」


「けっ、薄情かと思ったらのろけかよ。

本当に食えねえ女だ。

だけど気にいった、俺が絶対に亮平を連れて帰ってきてやる。

だからお前はそれを受け止めろ、もし拒絶なんかしたらぶっ飛ばすぞ」


「そうですねぇ……百年の恋も冷めるという言葉がありますけど、そうなっていなければ拒絶はしないでしょうね」


「……そこは嘘でも受け止めるって言っておけよ。

でもまぁなんだ、あいつはいい女捕まえやがったな。

俺もまたくるぜ、そんときゃうまいパフェを頼む」


「お待ちしておりますね、それと今日のお代は次来た時に払ってください。

食い逃げは許しませんからね」


「おぉ、怖い。

そんじゃ言ってくるぜ」


「はい、亮君をお願いします」


 お店を出るとき、ジョンさんは小さな声で任せな、と言っていました。

 あの人の不敵な笑顔には助けられます。

 普段はパフェを食べすぎてお腹を壊しているジョンさんですが、とても頼りになる男性です。

 無事帰ってきてもらいたいものです。

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