新メニュー
「うーん……」
「どうしたの蒼井さん」
「帳簿をつけていたのですが、なかなか売上が伸びないんですよ」
黒字ではあるのですが、油断はできない状況です。
仕入れ、納税、お給料などのことを考えれば月々トータルで見れば黒、というような状況です。
「どれどれ……原価の高いものがよく売れているね」
「そうですね、茶碗蒸しに餃子に焼売等の既製品系がよく売れていますね」
「前から思っていたけど作れば安く済むんじゃない? 」
「そうなんですけどね……私お店を継いで半年位でこっちに来てしまったので、いわゆる修業中の身というやつなんです。
うちのお店は母の日と父の日を用意していて、それぞれお母さんが手伝いに来た日とお父さんが手伝いに来た日にはメニューに変化があったんですよ」
母の日はお母さんの得意な中華が充実して、父の日はお父さんの得意な洋食が充実していました。
私は和食の方は作れたのですが、茶碗蒸しは半分冗談でおいていたので既製品を使っていました。
だっておつまみとして頼む人はほとんどいませんでしたから。
「でも餃子と焼売は似てるし簡単に作れるでしょ。
レシピだって探せばあるし」
「え、あるんですか? 」
「蒼井さん……インターネットつながっているでしょ」
「あ……」
失念していました。
そんな便利なものがあったのを忘れていました。
「来週休みをもらっていろいろ試してみたら?
餃子と一口に言ってもいろいろあることだし」
「そうですね、この際だから三日くらいお休みいただいて料理の研究というのもいいかもしれません」
インターネットを見ればレシピがあるということもわかりましたし、新メニューの研究もしてみましょう。
それから一週間、時間を見つけてインターネットからいろいろなレシピを見つけてきました。
ちゃんと餃子のレシピも調べてきましたよ。
まず薄力粉と強力粉をつかって皮を作ります。
種は野菜の割合や種類を変えたものをいくつか用意しました。
それと皮はミキサーで作った人参ペーストとほうれん草ペーストを加えた赤いものと緑のものも用意してみました。
それらを組み合わせたものを焼いていきます。
お皿には2つずつのせてそれぞれアルファベットで区別します。
「んーAはにんにくが効きすぎているかな」
「そうですね、Bはぎゃくに少なすぎて味気ないです」
「人参のやつには多いほうがいいけど、ほうれん草はにんにく少なめの方が合うね」
「えぇ、野菜の味をいかせますね。
あ、普通の皮はEが一番美味しいです」
「お、本当だ。
これはどの配合? 」
「えーと野菜を多めにしたやつですね。
玉ねぎ、ネギ、にんにく、キャベツ、白菜、ニラを入れた奴ですね」
「うん、とりあえずはこれでいいんじゃないかな」
「そうですね、何かを変えるにしてもこれをベースにしましょう」
餃子はすぐによさそうなものが出来上がりました。
ペーストを混ぜて作った餃子も、一つの候補に絞り込むこともできました。
続いて焼売を作ります。
左手でOKサインをつくって、輪っかの上に餃子の皮をのせて種を乗せます。
それをOKサインの輪っかに押し込んで成形したものを蒸すだけです。。
結構簡単なんですね。
「うん、あまり変わらない」
「食感に変化はありますけど、それでも大きな変化はわからないですね」
焼売の方は難航しましたけどどうにか最後の一つに絞り込めました。
もういいや、と諦めかけた亮君がコイントスで決めたんですけどね。
「さて、それでは今回見つけた私のお気に入り料理を出すとしましょう」
「俺もこれはいいなって思った奴があるからそれを作ってみるよ」
「おねがいしますね」
「蒼井さんも、期待しているよ」
とはいえ二人共隣に立って作業しているので内容は丸わかりですけどね。
なんかこうして二人で厨房に立っていると新婚さんみたいですね。
「んーこんなもんかな」
「私はもう少しかかりそうです」
亮君はだいぶ出来上がってきたみたいですけどこちらはまだです。
少し時間がかかってしまってますね、短縮できそうですけど練習が必要ですね。
「よし、こっちも完成です」
「それじゃ食べてみようか」
まずは亮君が作った料理を、先に出来ていましたけど待ってもらったので冷めてないといいのですが。
でも居酒屋ですからちょっとくらい覚めても美味しい方がいいのかもしれませんね。
「アスパラの肉巻き、在り来りなメニューだけど簡単に作れて摘みやすいものを選んだよ」
お皿に6つのお肉に巻かれたアスパラがあります。
それぞれ爪楊枝に刺さっていて、お酒を飲みながらでもつまめますね。
添えられているレタスを一緒に食べて味の変化も楽しめそうです。
横に盛り付けられたマヨネーズをつけても美味しそうですね。
実際それぞれ食べ比べをしてみるととても美味しかったです。
それにお肉、これ豚肉で巻いたもの、ベーコンで巻いたものと分けられていて飽きないです。
それにご飯に合いそうです。
「これは採用ですね。
ものすごく美味しいです。
シャッキリとしたアスパラがお肉の旨味を吸っていて、うん美味しいです。
語彙が貧相なのが申し訳ないですね」
「喜んでもらえたなら良かった。
肉を使った料理が食べたかったからさ。
なにかないかなと思ったらこれが見つかったんだ」
「なるほど、亮君らしいですね。
では今度は私の番です。
レンコンのはさみ焼きです」
私が作ったのはレンコンでお肉やお魚のすり身を挟んで焼いた料理です。
すり身に下味をつけているのでそのまま食べられるようになっています。
「おぉ、これひき肉のと鯖のすり身なんだね。
レンコンの食感とすり身やひき肉のふわふわとした対比がいいね。
味もくどくないし、お酒との相性も良さそう」
「亮君のアイデアを貰うなら四等分して爪楊枝をさせば食べやすいですね」
「だったらおつまみセットってどうかな。
さっきの焼売と、レンコンのはさみ焼きと、アスパラの肉巻きに爪楊枝をつけてセットで出す。
もちろん単品でもだしてさ」
「それいいですね、今度試験的にやってみましょう。
お客さんの反応が良ければそのままメニューに加えてしまいましょう」
後日特別メニューとして紹介したところ、お客さんからの評判は良く3日間連続でおつまみセットは注文数一位を取ることとなりました。
残念ながら手軽さという理由から亮君のアスパラの肉巻きに二位の座を奪われ、レンコンのはさみ焼きは焼売と餃子の次点、五位でした。
試行錯誤の末に作り上げた茶碗蒸しは、こちらも手軽さという理由から注文が減ってしまったのも残念でした。
けど新しい方が美味しいという意見が多かったのでこのまま継続です。
またこういう研究はしようと思います。




