料理研究と発覚と嫌な予感と
「よしっ」
うちに帰って早速ありあわせの材料で料理の再現と改良を試みました。
例えば野菜炒めもどきのジョネル、これは炒めるというよりも火を通してスープ化した物を塩コショウで味付けして、水溶き片栗粉でとろみをつけます。
そこにトンカツやてんぷらを投入してご飯に載せて完成です。
異世界風ジョネル丼……とは言ったモノの原型から乖離しているんですよね。
一口食べてみましたが五目餡かけのような味です。
亮君がいればいろいろ味見もしてもらえたんですけどね。
お腹いっぱいだしちょっとお城に呼び出されたからとどこかに行ってしまいました。
何か悪い事でもしたんでしょうか、亮君はいい人ですけど悪い子ですからね。
最近は毎日一緒にいたのでお店が広く感じます。
でも気を取り直して別の料理も作ってみます。
フィフォン、これは焼いた小魚にスパイスの効いた餡をかけた料理でしたね。
この餡をカレーで代用しようかと考えましたが、それじゃただの焼き魚カレーで面白くないです。
なので魚にまぶす小麦粉にカレー粉を混ぜてみます。
餡は醤油とお酒と砂糖で作ってを薄めたものを用意して一匹ずつ中をくぐらせるだけ。
上からかけてしまわずに表面に光沢を出します。
焼き魚の表面はきつね色に、さらにその外側をきらきらと餡がコーティングしてくれているので見栄えもなかなか。
パセリなどを使って盛り付ければ完成です。
一口食べてみると魚の淡白な味にカレーの風味、その後押しで醤油の香りが鼻を抜けます。
他の料理の再現は難しいのでパス。
特にキュロス、肉塊なんてありませんし一人で食べきれる量でもなさそうです。
「ふぅ、今日はいっぱい食べて満足です」
食べ過ぎてお腹が出ていますね、こんな姿は亮君には見せられないです。
「さて、亮君の分は作りましたし明日来たときに味見してもらいましょう。
それでお客さんに無料で試してもらって評判が良ければメニューに加えましょう」
片づけをして明日の準備をします。
料理の下ごしらえとお店の清掃、包丁を研いで洗い物を済ませました。
それからお風呂を沸かします。
今日はちょっと疲れたので入浴剤を投入。
足は伸ばせないですけど、このお風呂が気にいっています。
のんびりとお湯につかってレシピを考えます。
お肉、お魚、お野菜、今日見たものではお豆やお芋もありましたね。
いろいろな料理の案が浮かんできますが、あまりのんびりしているとのぼせてしまうので手短に体と頭を洗って、ついでに無駄毛の処理をしてお風呂から上がりました。
シャンプーも備品扱いで補充できるのでしょうか、私は肩甲骨まで伸ばしているので意外と消費してしまうのです。
明日試してみましょう。
だめだったら石鹸でいいですけど。
「ふぃー」
パジャマに着替えて自室に戻ります。
本棚とパソコン、テレビとゲームとベッド、物が所狭しと並んでいます。
このテレビはもともと視聴用ではなくゲーム用に買った物なので番組は写りません。
ふと昼間の亮君との会話を思い出してPXを立ち上げてインターネットにアクセスします。
そして、私のお店の名前を打ち込みました。
「………………」
このお店はホームページを作っていません。
私にそう言った知識がない事に加えて、依頼するお金も持ち合わせていなかったからです。
けれど口コミサイトなどが何件かヒットしました。
そしてひとつ、気になる物が。
「東京郊外の飲食店が地盤沈下により倒壊……しかし建造物の残骸は発見できず。
経営者の女性が行方不明……」
その文字を見て愕然としました。
表示されている住所は私のお店、つまりこのお店のあるべき場所でした。
「へぇ……」
思わず漏れたのはそんな声でした。
驚いている、怖がっている、そう言った感情ではありません。
こんなことになっているんですね、というだけの感想しか浮かんできません。
完全に他人ごとです。
「やっぱりおかしい」
確かに私は図太い神経の持ち主だったと自負しています。
けれどこんな話を見て、それでこれだけの感想しか出てこないというのは異常です。
やはり、これが補正というやつでしょうか。
「……御坂亮平」
逡巡してを検索します、亮君の名前です。
するといくつかニュースがヒットしました。
御坂亮平というピッチャーが甲子園へ導いた、という見出しと今よりも幼い様子の亮君です。
そのほかにもいくつか。
そして、大学野球選手が行方不明。
甲子園で名をはせたあのピッチャーという話にも、というニュースに行き着きました。
つまり私たちは地球で行方不明になっているという事ですか。
そうして最後には動画サイトにたどり着きました。
亮君の出た試合を映したものです。
はぁ、なんか黄色い声が四方八方から飛び交っていますね。
亮君モテモテですね。
まあ確かにかっこいいですし、野球のスター選手ともなればこのくらいは当たり前ですからね。
甲子園に導いたヒーローですし。
「……ん? 」
なにかいらいらし始めましたね。
これは嫉妬でしょうか。
感情がなくなったわけじゃなさそうですね。
そのことに一安心です。
「むぅ、なんか釈然としませんが明日亮君に見てもらいましょうか」
死んだとかではないので大きなショックはないでしょう。
いやある意味ショックでしょうけど。
でも亮君こっちに来たときは大学生だったんですね。
ニュースには載っていませんでしたけど、お酒の経験があるという事とこっちに5年以上いるという話でしたから26歳くらいでしょうか。
下手をすれば23歳という可能性もありますが、もしそうなら未成年でお酒を飲んだという事になります。
居酒屋としてそれは許容できません。
もしそうなら……ちょっとお説教が必要かもしれませんね。
今時結構な人数が未成年のうちにお酒を飲んだことがあるでしょう。
冗談だったり、その場のノリだったりというのはよくある話です。
だけどもしそれが公になった場合、裁かれるのは飲んだ人だけでなく勧めた人や提供したお店も含まれます。
そのことを考えると……しっかり確認する必要がありそうですね。
「いろいろ考えていたらお腹が減ってきました」
裏口に置いてある大型の冷蔵庫からプリンを取り出して、お湯を沸かします。
それから床下収納に隠していたカップラーメンにお湯を注いで3分間。
その間にプリンを楽しんで、ラーメンをチュルチュルっと食べてしまいます。
身体に悪いというのはわかっているんですけど、おいしいのでやめられません。
「ふぅ、御馳走様でした」
それらを食べ終えて、水洗いを済ませてゴミ箱に放り込みました。
ゴミはちゃんと洗わないとゴキブリが湧いてくるので気を付けないといけません。
……はて、こちらの世界にもゴキブリっているんでしょうか。
たぶんいるでしょうね、生物のような何かですから。
いなかったとしても私がお店ごと連れてきてしまった可能性もあります。
その場合私は外来種を連れてきてしまった犯人ですね、ここは火星じゃないので爆発的な進化はしないでしょうけど……ゴキブリが魔法とか覚えたら怖いですね。
お腹がいっぱいになったので眠くなってきてしまいました。
歯を磨いて布団にもぐりこみます。
最近忙しくて布団を干していなかったので臭いがちょっと気になりますね。
明日朝一番で干しましょう。




