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なぜかうちの店が異世界に転移したんですけど誰か説明お願いします  作者: 蒼井茜


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会議

本編は前話の後、お店で蒼井さんが料理の研究をしている裏で起こった話です。

その為三人称視点での進行です。

 円卓会議、迷い人御坂亮平によってそう呼ばれた会議がひらかれた。

 手元を照らす明かりのみを使い、音の漏れない地下で行われるその会議は、密偵を防ぐ事、発言者の特定を防ぐ事と様々な目的があったが、不気味という一言に尽きる物だった。

 更に言ってしまえば議論が白熱してくれば身振り手振りを交える物もおり、聴覚の鋭い物であれば声色から相手の特定も可能である。

 無駄も多かったが無いよりはましとして続けられていた。

 議題は迷い人についてというもの。

 本来迷い人とは300年に1人いるかいないかというものだった。

 それがここにおいて2人、それぞれが別方面に秀でた能力を有しており、また特定の国に現れたことが問題となっていた。


「ゼスメリア帝国の方はどうだ」


「残念ながら我が国を糾弾する動きを見せております。

迷い人をどうやって手に入れたのか、禁忌に手を出したのではないかという疑いをかけて戦争の準備を進めているようです」


「ケロイメア聖国はどうだ」


「だんまりです」


「ふむ……」


 少し唸り声をあげて現状を把握した王と貴族たちはため息をつく。

 現在この国の状況は非常にまずい。

 あらぬ、とはいえ疑いをかけられているのは国として大問題だ。

 知らぬ存ぜぬと言い張っても証拠がある、証明にならなくとも証拠であると言われてしまえばそれで反論はできなくなる。


「どう思う」


「どうもこうも、俺や蒼井さんがこの世界にいるのは偶然の産物だろうに。

こんなもんは押し問答だ、こちらが何を言おうと向こうは適当にこじつけてきやがる。

特に帝国は領土拡大を狙って今までも、俺がこっちに来てから5年経っているがその間に4つの国を占領している」


「ならば……」


「戦争になるだろうね」


「やはりか……」


 再び会議は重苦しい雰囲気に包まれた。

 ため息と嘆く声が地下の会議室にこだまする。


「致し方あるまい、領土内の集落全てに戦の可能性が有る事を伝えよ。

また各地の砦に備蓄を進めよ。

兵士、武器、鎧、食料、水、金銭に限度はあるがそろえられるだけ揃えよ」


「あと提案、蒼井さんはしばらく店から出さない方がいい」


「だろうな、聞いた限りコメリダ殿が酷い目にあったと聞いている」


「ぶひゃ! 」


 王の発した言葉に円卓の一角から声が上がった。

 潰れた豚かカエルのような声だったがだれも気に留める事はない。


「あの店はある種の要塞だ。

たぶん鉄壁、絶対に貫けない最強の盾、不条理の権化みたいなものだ」


「それはお主でもか」


「むりむり、一度建物を本気でぶん殴ったけど酷い目にあった」


 そう言って影の中で亮平は頬をさすった。

 ガラス張りの引き戸を本気で殴ったにもかかわらずダメージを与える事はおろか、自身にその威力を上乗せして跳ね返してきた。

 その事実だけでも十分な脅威であることが分かった。


「なれば、あの建物を取り上げて我らが拠点、もしくは倉庫にでもしてしまえばいいのではないか」


 誰かがそんなことを言った瞬間だった。

 途方もない殺気を貴族たちは全身に浴びる事になる。


「お前ら誤解するなよ、俺がここにいるのは友人であり上官である王がいるからだ。

お前ら貴族を全員死なない程度に殴り倒して今後一切そんな発想が出来ないようにしてやろうか」


 亮平の怒気を含んだ言葉に貴族たちはガタガタと震えながら何度も頷いていた。

 残念なことに影のせいでその動作が見えなかったためか、亮平が殺気を抑えたのは王の制止が入ったからだった。


「まあなんにせよ、あの店には手を出すな。

結果的にこの国にとっては不利益になるぞ」


「というと? 」


「あの店は俺の攻撃だろうが跳ね返す事が出来る。

それでいて食料の補充も可能だ。

更に相手の侵入を防ぐ方法もある。

さっき言った通り要塞そのものだ。

確かにそれを欲しいという気持ちもわかるが、それは蒼井さんがいなければ使えない。

当の本人は店の経営が続けられればいいという理由で金銭を稼いでくれる。

店、というよりあの建物に執着があるようだから出て行けというのは不可能だと考えろ。

けれど納税を求めれば、それが常識の範囲内なら断る事はないだろう」


「なるほど……」


「ただしあくまでも常識の範囲だ、それを超えるようなことがあれば俺はこの国を捨てる」


「貴様! 」


「俺が恩義を感じているのは王様だけだ。

俺がこの国に来たとき、お前らがなんていったのか俺は覚えているぞ」


 黒い髪などけがらわしい、みよ目玉まで黒いぞ、見世物にちょうど良い、国王は面白いペットを飼っている、ゴミを育てるというのはまたおつな。

 それら全ては亮平に向けられた言葉だった。

 いちぶの王族をよく思わない貴族たちはこれ幸いと国王の株を下げる事まで言い出す始末となっていた。

 それを覆したのはとある内乱が原因だった。


 ある貴族の次男が村娘を誘拐し、無理やり行為に及ぼうとしたことに反抗され、怒りに任せて村娘の腕を切断するという事件があった。

 この村娘は今でこそ事件前の明るく活発な性格に戻り、片腕でもできる職に就いて、旦那と二人の息子と幸せに暮らしているが当時は酷い物だった。

 純潔は守りぬいたが代わりに片腕を失った娘、その心境をくみ取った者たちが貴族に反旗を翻した。


 亮平はこの内乱、反乱によって名を上げる事となった。


 そちらに付くというのであれば、もう援助はできんぞ。

 当時王はそう言った。

 友人として、仲間としてどうにか引き留めたいと考えていた王だったが亮平は悲しげに笑みを返すだけだった。

 王という立場は貴族に守られているが故に、貴族をないがしろにすることはできない。

 人の腕一つと人の命で釣り合いが取れないように、貴族と村娘ではその重要性に歴然とした差がある。

 だが人の尊厳という物を無視する事も出来ず、王は決断に迫られていた。


 貴族を捨てて民をとるか、民を捨てて貴族をとるか。


 結果として王はどちらも選べなかった。

 つまり援助を行わなかったのである。


 貴族に援助を送ればそれは民を殺すことになる。

 だが民に援助を送れば貴族を殺すことになる。

 どちらの選択も危うい賭けだった。


 亮平には同じ、第三者としてその場にいてほしかったが亮平は民の支援をするといって貴族と相対した。

 

 奇しくも友の出撃という事態が王を決断へと導いた。


 友への援助、人とのつながりを重視した行為であり民も貴族も関係ないと言ってのける行為だった。

 当然ながら貴族からの反発は途方もない物だった。


 しかしながら勝てば官軍という言葉の通り、亮平は英雄と呼ばれるようになった。

 戦場で剣を拾って戦った。

 力任せに叩き付け、鎧の隙間に差し込んで、投げつけてと様々な方法で貴族の私兵を殺していった。


 腕を無くした娘がたずねた。

 なんでそこまでがんばれるの、と。


 亮平は答えた。

 気に食わないから、と。


 最終的に貴族は問題を起こした次男を引渡し、罪を認めさせて謝罪と賠償と贖罪を行うと約束する事となった。


 こうして小さな反乱は終わりを迎えた。

 貴族の次男はその後不要な戦を招いたとして処刑されることとなった。

 腕を無くした娘には多額の賠償金が舞い込んだが、娘は自分の治療を終えるとその残りの全てを自分のために戦った人たちへの礼として配り歩いた。

 その中には亮平もいた。


 亮平反乱から数日間戦場となった場所にいた。

 遺品を剥ぎ取り死体を一か所に集めていた。


 その行為はただの追剥にしか見られず、方々からの罵声や投石を受け続けた。

 それでも亮平は辞めなかった。


 ある日すべての遺品を剥ぎ取り終えて死体の山に火を放った。

 三日三晩燃え続けた死体の山の前で、亮平は両手を合わせ目を閉じて祈り続けた。

 そして遺品を貴族に引渡し、遺族への返却を求めた。


 そのことを知った者たちは亮平に謝罪した。

 贖罪であると知らずになんて非礼を、と。


 亮平はそれを許した、それと同時に語った。

 人を初めて殺した、いやな感覚だったと。


 この話はあらゆる国々に英雄譚として語られることになった。


 こうして英雄は、なし崩し的に貴族にその存在を認めさせることとなった。


「俺が言いたいのはだ。

迷い人2人、攻守そろった2人を相手に国はどう戦う。

こっちはその気になれば一生閉じこもって過ごすことも可能だ。

そうなれば泥仕合、勝者も敗者もいなくなるけどな」


「……抑えよ」


「わかっている、だがあと一言だけ喋らせろ。

お前ら、俺と蒼井さんに手出ししてみろ。

腕だけじゃ済まねえぞ」


 そういって亮平は席を立った。

 本来このような場で王の許しなく、また閉会の合図無くして席を立つというのは無礼に当たる。

 だが亮平はあえてその無礼を働く事で自身の意見を示して見せた。


「あでっ」


 そのまま外に出られたらの話だったが。

 真っ暗な空間では石畳のわずかな凹凸でさえ足をとられる。

 結局外に出るまでに2,3ど転びかけたり誰かにぶつかったりとへまをして見せた亮平を、それでもだれも止める事はなかった。

 

「なんというか……締まらない男だのう」


 王様の発言に貴族は一同深く頷くのだった。

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