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ヘブンズエッジ  作者: 夏坂 砂
ヘブンズエッジ 第二部 ==================
40/46

プロローグ

酷い空の色だった。

眼球を覆う水の膜は、冷たい空気に触れ冷える。だが、ただ少年は目の前に広がる漆黒の、いや……様々な色を飲み込んだ結果、限りなく黒に近づいた、吸い込まれるような色の空を見つめた。

空が飲み込んだのは、様々な嘆き、怒り。そして絶望だ。

外壁どころか、内壁までもが崩れ、階下に降りることすら難しくなった四十五階建ての高層ビル。その屋上から見渡せる世界は、終焉と呼ぶに相応しい光景を視界に広げていた。黒く焼け落ちたビルの群れ。至る所に倒れ伏した、今はもう何も発さない人々。

どこまでも現実味のない世界を呆然と見つめ、そしてその光景に、少年は『自分は何もしなかったのだ』と理解した。

光るネオン。高くそびえ立つ高層ビル。人々の希望を乗せ、天空へ駆け上がる為の宇宙港。楽園と呼ばれた光と緑と科学に包まれたローエンティア。その全てが、あっけなく終わりを迎えようとしていた。この繁栄を極めた世界が保持する膨大な数の機械は、人間の制御から解き放たれ、動く全ての物を標的にして世界を「安寧」に導こうとしている。

安寧。それはヒトのいない世界。

ニナ=ファルナ。

星々をつなぐ宇宙港ヴァーラス・キャルーヴの他星交信担当であり、星の危機を救う力を持つと呼ばれる『ディーヴァ』の少女。

その年若いディーヴァが、全てを見限ったのだと、――大切な存在を失った怒りに我を失い、その強大な力の矛先をヒトに向けたのだと、昨晩避難した廃ビルで出会った、「今は死んだ誰か」が言っていた。

星を守る筈のディーヴァは怒り、「星を壊すヒト」を壊す。ヒトを呪って彼女は息絶え、ローエンティアはまた星を守る新たなディーヴァを創りだす。

それが自分なのだと、つい数日前までヒトであった少年は悟っていた。明らかに異なるマナの流れ。世界中にあふれた星の力が、自分が願いさえすれば自分一人の中に流れ込んできた。

(だから、どうだって言うんだ……)

溢れそうになった嗚咽を唇を噛み締めて押し殺し、少年は己の体を抱えて蹲った。声を上げれば自立駆動監視機器ガーディアン達が攻撃を仕掛けてくるかもしれない。声を漏らしてはいけない。そう念じ彼は息を押し殺した。

彼はまだ七つ。新たなディーヴァとなった今でも、彼は自身に何が出来るのか、何一つ分からなかった。

力など、どう使えば良いのか分からない。

何をすべきかも、自分が何を成したいのかも分からない。

涙に濡れた瞳を開けば、睫毛に水滴が絡まり目に刺さった。瞬きながら見つめた町は、どこもかしこも埃と血と油にまみれ、漆黒の夜空と壊れた世界の間では、何度も何度も赤い炎が瞬いては消えた。

星の悲鳴が聞こえる。全ての生き物の嘆きが、怒りが聞こえる。

ディーヴァになんて、なりたくなかった。

噛み締めた唇の血の味と、吐き気。

はやく。

誰かがそう言い、少年の手を引き、彼を無理やり立ち上がらせた。

ぼやけた視界の先で、少年に視線を合わせたその人物は、彼の両頬を冷たい両手で包み込む。

「許さなくていい」

首に回された指先に力がかかり、ゆっくりと少年の体が仰のく。

「恨みなさい」

次に目が覚めた時、少年は全ての記憶を失い、崩れかかった古ぼけたビルの床に転がっていた。

薄汚れた軍人崩れの男が少年の服に手を掛け、抵抗できず揺さぶられていた少年を一人の老人が助けた。

何一つ自分のモノを持っていなかった少年は、やがて辺り一帯に住み着いていた孤児達の一人となり、自分を助けた老人がスラムからほど近い町に住む機械工だと知ると、その老人の家に押しかけた。一人で、まっとうな仕事をして生きていける様に。

朝から晩まで、無口で職人気質な老人の下で少年は働いた。

そして九つになった朝、――少年はカインという名前を得た。

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