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ヘブンズエッジ  作者: 夏坂 砂
Chapter4 – follen
30/46

どんなに深く沈んでも

「お待たせ!大丈夫?」

そういってエンケから降り立ったのはユッカだった。

コマドリの制服のスカートがエンジンをかけたままのエンケの上昇気流でひらひらとはためく。

彼女のあとに続いて飛んできた無人のエンケにカインが顔をむけると、ユッカはリモートだと笑って、手元のパネルをカタカタと弾いた。

空気の抜けるような音と共に、二機目もゆっくりと地面に下ろされる。

「ありがと。フレイはそっち行ったよね?」

「ああ、フレイさん。ええ、来たわよ。『金髪のガキが忘刻の森を南に抜けたとこにいるから、迎えに行ってやれ』と言って艦長室の方に行かれたわ。ガキって、酷いわよね」

くすくすと笑う。

「ガキ扱いか。まあ確かにそうだけど」

苦笑する。

街でも年長者によくガキだとか小僧だとか言われていたから、大して気にもならない。

(艦長室……か)

数刻前にフレイが言っていた言葉を思い出す。

『俺は今の艦長の代わりとして呼ばれたんだ』

そう言った彼は口元に笑みを浮かべながらも、リズの感情を思ってなのか何処となく複雑な表情をしていたように思う。

飄々としていてあまり目立たないが、あれほどコマドリを愛してずっと率いていたリズが突如艦長から降ろされショックを受けないはずが無い。

「……ユッカは知ってるのか? 新艦長のこと」

少し逡巡したが、エンケに乗り込みつつそう聞くと、振り返ったユッカの顔には、少し寂しげな苦笑が浮かんでいた。

「知ってるわ。フレイさんは能力者の中では有名な方なの」

「有名? 」

「類まれな念動力と、何より知識が凄いの。経験もね。外見は若々しいけど、ジェフよりも年上だったはずだわ」

「おっさんより年上って……」

ユッカの言葉にあきれる。カインが会ったあの男はどう見ても二十台半ばにしか見えない。

「四十は越えているはずだけど、実年齢は誰も知らないんじゃないかしら。ちょっと常人とは違ったところのある人だから……」

常人と違うところがあるですむ話なのだろうかとカインは苦笑する。それと共に、ふいに先ほど会った同胞の少女を思い出した。

ユッカの話では、フレイという男は得体の知れない男だが能力者の間では非常に有名な存在らしい。群れず大抵一人で各地を放浪し、彼自身の判断基準で各地の抗争などに手を貸す。様々な知識を所有し、あの男に掛かれば過去の事から今現在の事まで分からないものは殆どないとまで言わしめる、歩く古代図書館のような男だという。

(アイツだったら……)

あの男だったらカインの力の制御方法も見出せるかもしれない。

それにね、とカインの思惑に気づくことなくユッカは言葉を続ける。

「今回の要請も、ジェフの方から連絡したらしいの。リズさんにもその時ジェフから話したと聞いているけど……」

カインの乗る二代目との接続を、自身のエンケから解除し終わりユッカがふぅと息をついた。

リズの心にも、隊員達の中にも、しこりは残らないとは言えないだろう。

「ショックは、大きいよな……」

愛していた親族と、仲間達を失って意気消沈している時に、自分以外の人間が自分の代わりとして採用される。

精神的にどれだけショックを受けるかわからない。

(追い討ちになってなければいいんだけどな……)

コマドリから出てくる前に一度リズの様子を見ようと思ったが、艦長室のドアは固く閉ざされていた。

あの兄夫婦と数百人の仲間が乗ったドームが固い地面に叩きつけられてからずっと、艦長室の外に出たリズの姿を見たことがない。

彼女は自分のいる意味を、見失いやしないか。

守ろうとしたものを守ることが出来なかった自分とリズ、感じている気持ちは同じ無力感だろうか。

俺は。

(俺は、どう歩こうか)

そう考える。

ふいに頬へ振れた冷たい風に顔を上げる。顔を向ければユッカも風の流れてきた方向をじっと見つめていた。

夜空でちかちかとコマドリの青いライトが点滅している。黒々としたコマドリのシルエットは教会本部ビル『塔』の横で静かに停泊している。時折砲弾の音と、瞬く明かり。

だが、もう既に決着は付きつつあるらしい。多少の警護兵がいるにしても、ナイツが抜けた教会など研究者の集まりでしかない。そう攻略に時間はかからないだろう。

コマドリが打ち上げたらしい照明弾が赤々と東の空を照らしている。

「――私たちの中でもあまりにも突然のこと過ぎて、まだ何も消化できてない……」

ぽつりと、ユッカが呟き、その言葉は夜風に乗ってすぐに空気に溶けた。

「……はい、準備できたわ。味方機信号は必ず出してね。打ち落とされちゃうから」

彼女は気を取り直す様に笑い、「さてと」とエンケのエンジンをかけた。ふわっと彼女の機体が宙に浮きあがる。

「私戻るわね。子供達のお守りをする人がいないの」

「うん、分かった。俺は……」

どうしようか。このまま船に戻ってシンが姉であるサラ姫を助け出してくるのを待つか。

そう一瞬考え、カインは視線を落とし、口元を引き結んだ。


さあ、どう歩こう。『悪い話じゃないはずだ』

そういって、黒尽くめの長身の男は煙草を取り出し、律儀にも『吸っていいか』と聞いてきた。

それは自分が迷うもう一つの道の示唆。

――時間は少し前にさかのぼる。






フレイの壊れたエアボードは雑談をしている間にカインが直した。手持ちのバックパックに入れていた工具で事足りたのは不幸中の幸いといったところか。

どうコマドリに戻ろうかという話になったが、エアボードは一人乗りだった為結局フレイがコマドリに向かい、カインに迎えをよこすことになった。

そして、音も気配もなくその男が現れたのは、夜空にボードを滑らせるフレイを見送ったすぐ後の事だった。

くずぶっていた焚き火の前に座ろうとし、カインは突然感じた首筋を刺すような気配にとっさに背後に飛びのく。

ダンッ

重い音を立てて今まで自分のいた場所にサバイバルナイフが突き立ち、僅かに残っていた火を吹き消す。

(……っ! )

尋常ではないスピードで投げつけられたのが分かる、重い、重い音。

「誰だ」

とっさに腰に手を回して銃に手をかければ

「うん、いい反射神経だな」

そう、不意にあたりに低く静かだがどこか凄みのある声音が響いた。

あまりに場違いなことをのんびりと言いながら暗闇の中から姿を表したのは見覚えのない男だった。だがその男の持つ空気感と身につけた衣服で彼が何者なのかは明白でもあった。

黒い教会の戦闘服にコート。腰や足に括り付けられた物騒な武器の数々。

先日隠れ里で戦ったナイツの無骨な老人よりも、その存在感は上だ。

「……あんた、黒だな」

緊張で、喉が渇く。

カインの言葉に男はにっと笑みを浮かべて、「アランだ」と名乗った。軽くたばこをもった手を挙げて見せる。

「……随分物騒なことしてくれるね」

「なあに、単なる腕試しだ。避けられただろう? 」

「避けられなかったらどうするのさ。まだ若い身空で死にたくはないんだけど」

肩をすくめて答えながらも、腰をおとし銃の安全装置を外す。その微かな音に男は当然気づいた様で、だが無言で煙草を懐から取り出すと軽く振って『吸っていいか』と聞いてきた。

それに無言でうなづいて返す。

カチ……とジッポーに一瞬男の顔が赤く照らされ、ふっと消えた。ゆっくりと紫煙を吸い込む。呆れるくらい余裕の動作だ。

「若い身空ね……。――ま、当たるとは思ってないが、当たった時はそこまでだったという事だろう。俺がわざわざこうやって声掛けに来ることもない」

「はっ……何を言いにきたのかな。隊長さん」

茶化した言葉を吐きながら、低くした体勢を少しだけ上げて口元に笑みを浮べてみせる。

要求はなにか。

降伏か、――追従か。

だが、男の発した言葉はカインの想定外のセリフだった。

「単刀直入に言おう。――お前、ナイツに来る気はないか」

「……っ?!」

「正確には俺のところだ。白じゃない。もちろん、行動の自由も制限はされない。部隊の規則にはしたがってもらうが、それもうちの黒では大したもんじゃない。精々猫に餌をやりすぎないように、程度だ」

「何を、突然」

ナイツには自分の捕獲要請も出ていたはずだ。それなのに、アランの口から出た言葉は「おとなしく捕まってくれ」というよりも「俺の隊に入れ」という意味合いにしか取れず、カインは困惑した。

何が狙いなのか。カインが逡巡するわけもアランは分かっているようで、少し面白そうに目の前の少年を眺めた後、口を開いた。

「与えてやれるのは、――お前の力の制御方法」

そういって腰に手をやる。銃を抜くかと思ったがそうではないらしい。アランが取り出したのは、一振りの剣だった。鞘に収められたその剣は、白い鞘にはエメラルドの繊細な文様が描かれている。

「力の大きな者は、それだけその力を制御するにも労力を要する。と、聞いた。俺は異能力なんてこれっぽっちも持っていないからうちの研究者から聞いたまんまだがな。今お前は力の放出のし過ぎでオーバーヒートを起こしている。思うように力が使えないはずだ。違うか?」

「……」

アランの言葉に数刻前のことが脳裏をよぎる。使いこなせるようになった筈の力が、うまく放出する事が出来なかった。

「で、お前の波形を持ち帰って、作らせたのがコレだ」

鞘に包まれた切っ先をこちらに向けてぶん、と振ってみせる。

「教会の力の象徴である沙羅姫は扇子を用いて自分の巨大な力を制御している。あとは、教会側も弟の命を盾にして、少しばかり姫の目を弄って力をおさえたらしいが……でないとあの娘はビルを破壊して逃げるだろうが、なんとも不憫だな」

(シン……)

沙羅姫とはシンの姉のことだろう。丁度今コマドリ総出で救出に向かっている教会のシンボル。決して外部に姿を見せはしないが、教会がカインのもといた街ブレンを治めるときにも、口上や公開文書にその姫の名が出ていたように思う。実際その力を目にしたものは、その神々しさと絶大な力に息を呑むという、一部の者のカルト的な信心を受けていた存在。

「その姫は扇子。――お前にも必要だろう」

(だから……わざわざ?)

ナイツへと勧誘する為に用意したのか。ならば、何故そこまで自分を引き込みたがるのか。

「――何を、たくらんでる」

「質問を返すようだが、お前は何処まで理解してる? まさか今までの一連の闘いが、唯の教会とコマドリの武力対立だけで終わるとは思っていないだろう」

「…………」

鋭い男だ。舌打ちして抜きかけていた銃を戻す。こんな物で用心してようが、この男が本気を出せば直ぐにでも自分を気絶させ、抱えて連れ帰るだろう。この体の経験量じゃ到底太刀打ちできない。まだ自分は慣れていない。……まだ。

(教会への手土産にするわけではなさそうだけど……)

「確かに悪い話じゃない。頭から信じられる話でもないけどね。この話を持ってきたのがアンタじゃなければ首を縦に振ってるところかもしれない」

この男は殺した。長老だけじゃない。……クレアを殺したのも、この男の部下だ。

「たしかに、俺が言っても何の信用もないな」

そういって口元に笑みを浮かべた男は口元に煙草を持っていき、一口吸い込んだあとにその鋭い瞳を向けてきた。

「だが、お前も探しているだろう。自分で立つ方法を。そして知りたいはずだ。自分が何者なのかを。俺はそれを自由に調べる環境も作ってやることができる」

「……」

「立つ方法なんざ自分で探せと思うし、お前は十分自分で立てるやつだろう。だがお前が何者かはコマドリではお前に教えてやれない。それどころか……今、お前に不審の眼を向けだしているだろう」

アランの言葉にすう、と目を細める。

『力があるのに、何故助けてくれなかったの』そんな声なき声。

「……アンタ、俺を捕まえるのが仕事なんだろ」

「確かにそうだ。だが、捕まえるのニュアンスなんてものは幾らでも変えられる」

笑うというよりも、微笑むといった方が合う笑みを浮かべる。

(……厄介な)

なんとも喰えない男だ。

この男は、自分を使って何かを成し遂げようとしている。仕事の範囲外で。だが、そのしたいことが読めなかった。

「――何がしたい」

俺を使って。

カインの質問に男、アランは再度紫煙を吐き出してから視線を背後の塔に向ける。

「なあに、今までの仕事に飽きてきただけだ」

「……」

塔。ひいては教会そのものが黒々とそびえ立つ。

男の挙動に気を配りながら視線をそちらへやる。

ここ数十日で自分に見えた、幾つもの光景が浮かんでは消えた。

(この、タイミングなのか)

いつかは決めなければと思っていた。このまま流されていても、何も見えないのだと判っていた。

だけど、一度見つけた居場所を離れる踏ん切りもつかなかった。

(動かなければならない)

もう、迷っている時間はない。

「何も……見えていない訳じゃない。行き着く先は大方想像が付いてる」

「だろうな。だが、まだ決まったわけじゃない。そして、それ以上の何かをお前はただ自分の不安の中に抱え込んでいる。このままじゃそのまま終わることもわかってるだろう」

「お見通しってわけか」

自分よりもコチラの事を見抜いている。忌ま忌ましさに口元を歪めたカインに、ふ、と笑ってみせてアランは再度口を開いた。

「……まあ、お前が迷っている事は大方これだろう」

指をたてる。一本。

「いまいる場所で動くか」

二本。

「それとも別の場所で動くか」

「…………」

単純な話だ。そういってゆっくりと足を進める。

「……っ」

カインの目の前で足を止めた長身の男は、カインのの目を覗き込むように腰を屈め、囁く。

「下手に一人で生きてきたからこそ、暖かさに迷う。自分に厳しい癖に、他人に甘いからこそ苦しむ。したたかな癖に、透明でありたいと思うからこそ動けなくなる」

お前は、そういう奴だ。

煙草を持った手をおろし、深い藍色の瞳はがさらりとした黒髪の下からカインを見据えた。

「汚れる覚悟が出来たら呼べ」








突然の閃光が夜空を切り裂いたのは、ユッカが「先にいってるから」と手をふったその時だった。

ドォォォオン!

「……なっ?!  」

「何?! 」

不意に鳴り響いた砲撃の音と爆風に、二人は音のした方向を振り返り息を飲む。

夜空を切り裂く、白い光。

「あれは……! 」

美しい文様で縁取られた白い巨大戦艦のシルエット。

まばゆい光と共に現れたのは、ミンディア国境上で以前やりあった、あのナイツ白の飛行戦艦ニケだった。

「もう戻ったのか……! 」

(後少しだったのに! )

威圧感のあるその巨大な機影はサーチライトの中で白々と光り、刻々とコチラに接近してきていた。数千の小型機リガと、数十の巡洋艦を従えたその姿はまさに圧巻といえるものだ。

にわかに夜空は慌ただしさに包まれる。高い警報が鳴り響く。

普段だったらキャサリンの聴力によりこれ程まで近づかれる事もないが、先日の一件で精神を摩耗したキャサリンの意識は未だ戻らない。

小さな反乱軍が、ここまで攻め込めたのは一人一人の研ぎ澄まされた能力と連携が成した技であり、今のコマドリはその点で危うい線上に入ることは明白だった。一点一点が確実に力を欠いてしまっている。その状態でここまで来てしまった。

リズが居ない今、どう隊員達の指揮をあげることができるのか。

信頼を失った。仲間を守れなかった俺で、出来るのか。


だが。


『……聞こえるか』

不意に脳内に響いた声に驚き、顔を上げる。

「シン……君? 」

「声が……」

『コマドリ諸君。リズに変わり戦陣指揮を取らせてもらう、シン=エドナーだ。艦からの指揮は艦長代理のフレイが行なう。俺からは余計な情報は伝えないが……』

一瞬の沈黙。そして静かな声。

『皆の目となろう』

(あいつ……! )

淡々とした声は全てのコマドリ隊員へと届いているのか。

カインとユッカ、二人の目の前で、現れた戦艦ニケの前へとコマドリの空挺一団が展開していく。そして戦陣を切る一機のエンケ

(……シン! )

『右舷第二、四時方面より外郭を狙え。左舷第四、敵主砲を集中的に爆破。残りは主砲が破壊され次第、塔の最上階へ』

的確に指示を下していく声は、少し緊張の色を帯びてはいるが確固とした意思のあるもので頼もしい。回線を味方にだけ開くように、自分の思念を伝えているのだろうか。

『見えるか、聞こえるか。皆の背後を俺が見よう』

安心しろと伝えるかのように。

全ての戦況を、あの一対の黒い瞳が見通し、伝える。一人ひとりの周囲を誰よりも鮮明に把握し、映像として相手の意識下へ。

「……すごい……こんなことが」

ユッカの呟きが耳に入る。

姉に劣ると呼ばれた『君』の力。その一人の少年の桁外れの統制力を誰も想定していなかったに違いない。

あの観察眼と冷静な判断力、そして知識。

目の前の力を打ちのめす為の力を持たずとも、彼の能力は使い方によっては驚異的な力となる。

(アイツ……きめたのか)

隠し通していた力も、全てをさらけ出しても――闘うことを。(――負けられない)

自分を守ろうとしていたら、本当に成し遂げたいことなど、欠片も成し遂げられないに違いない。

傍らに立てかけてある剣を見やり、手にとる。これを使ったらアランはまた自分の前に現れるのだろう。それは鋭い牙を持つ豹の前にその身をさらすような事かもしれない。

それでも。

(負けられない)

あの少年の決意はとても尊いもので、とても清らかな空気で。

自分のこの憎しみに染まった腕が、あの決意とうまく相対する事も、同胞達の憎しみを消し去る事もできるかなど分からないけれど。

息を吸い込めば、肺の奥深くまで冷たい空気が流れ込んできた。

覚悟を決めよう。歩き出すのだ。少しでも前へ。

掌に吸い付くように握った剣はひんやりとした感触を伝えてきた。程よい重さ。

どこか懐かしい感覚が一瞬したように思えたが、急いでベルトを締めると片手でエンケの操縦桿を握り、カインはアクセルを踏み込む。

「カイン君……?! 」

ユッカの声。

浮遊感。

上昇気流と、闇に溶ける空。 自分は、透明でいたい。


夏の青い空の下で一人やりきれないほど心細くなるあの瞬間や、自分にほんの一時許された優しい人達の温もりに暖まる心。

古ぼけた旧市街のビルの屋上で、一人眺めた渡る空の美しさ。

そんな世界を見つめて、ただ切ないほど嬉しく、――どこまでも透明に近づけるあの時の気持ちを。

失いたくない。

きっとここから先、今までとは比べものにならないほど自分は汚れて、腐ってゆくのだろうけど。

――失わない。

闇の中にどんなに深く沈んでも、空の青は消えない。そう信じて。


いこう。


そうきめて、操縦桿を強く横へ切った。




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