8 黄金週間・後半戦
五月に入ってゴールデンウィーク後半戦、京歌に一緒に遊ぼうよと言ってみたら、どうせ連休なんだからウチに泊りで来ないか、とのお誘いがあった。常葉 白羽としてお友達の女の子の家に泊めてもらうのはこれが初めてじゃないだろうか。お友達半分以上男だけど。
勿論お邪魔でなければと二つ返事でOKしていそいそと準備を始めると、妹と弟から思わぬ猛反対を受けた。
「悪いけど、姉さんがいないと食べるものに困る」
「え、でも和が」
「和は卵料理とか簡単な物しか作れないだろ」
「それにお姉ちゃんがいないと寂しいよ・・・」
この間の旅行もイベントを起こすことに失敗したし、あえて私が居ないことで二人っきりを強調する魂胆もあった・・・ん、ですけ・・・ど・・・。
・・・だめだ、この二人に縋られては、恋愛フラグ無視して姉バカフラグが立ってしまった。
こう頼みこまれては「デリバリーですませたら?」なんて冷たい言葉はとても吐けない。
「京歌にお断りの連絡入れないとなぁ」
「じゃあそのお友達にウチに来てもらったらどう?」
仕方なくお泊りを諦めると和の見事な発想の転換、ダメ元で電話してみたら「んじゃそうするか」とあっさりと承諾、そんなとんとん拍子で5月3日はやってきた。
「うぃーす」
「うぃー・・・って何ですかそのぱんっぱんの鞄・・・」
最寄りの駅へと京歌を出迎えに行くと非力を主張する美少女が、限界まで物を詰め込んだようなボストンバックを肩にかけ、尚且つ手には同じようにぱんぱんなトートバッグを持っている。一週間くらい何処かの山に籠って修業でもするおつもりでしょうか。
「乙女たるもの一泊二日でも身だしなみを整えるための用意が必要ですもの、ああそこのポーター、ちょっとこのトートだけでもお持ちなさいな」
誰が荷役労働者だ、あれは大抵男性だぞと突っぱねたいところだけどホントに重そうなので仕方なく持ってあげると普通に感謝された。しかし重い、一体何が詰まってるんだ。
我が常葉邸に到着する頃には両者息も絶え絶え、は冗談にしてもかなりふらつきながら辿り着いた。
玄関で二人が迎えてくれる、そういえばいつも話はしていたけど実際に京歌が和と水月に会うのはこれが初めてだ。
「いらっしゃーい、初めまして常葉 和です」
「どうも、弟の水月です」
「初めまして、白羽さんと仲良くさせて頂いております、
英 京歌と申します」
これ宜しければ皆さんでどうぞと菓子折りを差し出して、完全に猫かぶりモードです。何でしょうこれ、普段見慣れた玄関のはずが美男美女美少女の美尽くしで光り輝いている。肩身が狭い。
一人黄昏ていると、さっと水月がトートバッグを持ってくれた。
「これ重いけど、何が入ってるんですか?」
「みんなで遊ぼうと思って、ゲームを持ってきたんです」
「えっ?うちテレビはあるけどゲーム機無いですよ?」
「ええ、白羽さんに聞いていました、だからハードごと持ってきました」
それであんなに重かったのか!
うちは見ての通り基本的に放任だけど母がゲーム類を善しとしないから、私もパソコンはノートを持っているけれどコンシューマーのゲームは出来ない。
水月なんかはゲームだけ買って、十理くんの家でやらせてもらっていたりする。
「何もって来たの」と聞けば「色々」って適当な返答、ははぁさては思いつくだけ突っ込んできたな。テキパキとセッティングして最初に取り出したソフトは四人対戦が目玉のパーティーゲーム。
「イージーにしましたから初心者でも問題ないと思います」
その口調いつまでやるんだろう、そのうちボロが出るんじゃないだろうか。心配そうにじっと見つめると和と水月に背を向けて「なめんな」って口パクしてきた。私の友人が怖いです。
「あっちょっと水月ずるい~!」
「計算勝ちって言ってほしいね」
「和さん、そのアイテムを使ってみて」
「!」
「やった!水月からコインゲット!」
「先輩、和を使って首位に立つとか、意外と策士だな」
「うふふ」
私の心配を他所にゲームを始めてみると一気に馴染んでしまった、水月は和にコインを奪われて首位脱落、変わって二位だった京歌が一位に君臨。私といえば親友の口調に慣れなくてイマイチうまく進まない。今の変動で和に抜かれて四位転落だ。
「白羽さん、あまり振るいませんわね、ゲームは不得意ですか?」
この野郎、私の不調の原因を分かって言っている。コントローラーを使ったゲームは前世ぶりなんだから仕方ないじゃないか。
結局その回は水月が食いつくものの京歌の単独首位で幕を閉じた。くぅ、私があのミニゲームさえ成功していれば大量に京歌のコインを奪取して水月の勝ちになったのに。
さてもう一勝負と今度は難易度をノーマルにしたところで、玄関チャイムがピンポンと高らかに鳴った。
「ちーっす」
「とーり!」
「遊びに来たー、白羽姉これ母さんから」
マーブル模様のパウンドケーキを頂いてしまった、十理くんのお母様お料理上手なんだよね。昔何度か教えてもらったことがあって、今では大体の料理は作れるようになったけど、だし巻き卵だけはあの味が再現出来ない・・・ふわっふわで砂糖をいっぱい入れてるわけでもないのに優しい甘さがある。
「初めまして、白羽さんのクラスメイトで英 京歌です」
「あ、どうも、近所に住んでる保坂 十理です」
意識をあさってに飛ばしていたらもう自己紹介までステップが飛んでいた、さっきは気付かなかったけどこれ”綺麗なお姉さんは好きですか”フラグとか立っちゃわないかな、京歌見てくれだけは純和風美少女だから。見てくれだけは。
時計を見るともう午後5時を過ぎている、ふむ。
「じゃあ十理くん私と交代しようか、そろそろ晩御飯の用意しなくちゃ」
「それなら私もお手伝いしますわ」
「さんきゅ白羽姉、水月、和、勝負!」
「受けて立つ」
「負けないよ!」
ゲームを三人対戦モードに変更してすくっと立ち上がる京歌、はて料理とかできるんでしょうか。リビングを見渡せるオープンキッチンで三人のゲームの行方を見守る、やはりゲームに慣れ親しんでる十理くん優勢、何とか水月が食いついている。
「白羽さん、夕飯のメニューは何かしら」
「まだその口調続けますか」
すかさず突っ込みを入れると表情は笑顔のまま小声で
「俺みたいな美少女がいきなり男言葉使ったら、お姉ちゃんの友達変な人ってなるだろ」
まあ確かにそうなっちゃうだろうけど、
自信家なんだか気ぃ使いなのかよく分からないなぁこの人は、・・・ん?そういえば。
「もしかして実家でもそんな感じなの?」
「んー、まあもうちょっと崩してるけど、普通の女の子っぽい話し方にはしてる」
うわ、性別が変わってしまうのってやっぱり大変なんだな。そう思う反面私の前でキャラを作ったりしないのはそれなりに信用されてるのかな、なんて思ってしまう。
「で、今日のメニューは?」
「好きだって言ってた鶏のから揚げとカボチャのお味噌汁、後は付け合せに温野菜の胡麻和え」
「おっ良いねェ」
その反応はそこはかとなくおじさんぽいですよ、そんな言葉は唾液と共に飲み込んで。
下味をつけておいた鶏肉を冷蔵庫から取り出して軽く水気をきって、薄く小麦粉をまぶす。
「俺は何すればいい?」
「・・・料理できるの?」
「多少」
じゃあそこにある野菜を一口サイズに切って、シリコンスチーマーに放りこんでと簡単な作業をオーダーすると、慣れた手つきでブロッコリーやニンジンを切り分けている。むむ、こやつできるぞ。
優秀な助手のおかげで食事の準備は一時間ほどで終わってしまった、三人の方はと言えばパーティーゲームから協力プレイが肝のアクションゲームへと変わっている。
「みんな、ご飯の準備終わっちゃったけどどうする?」
「6時半か、ちょっと早いね」
「とーりはどうする?食べてく?」
「や、お客さんいるのにそんなに邪魔するのも悪いし」
「いえ私は構いませんし、そんなに気を使わないでください」
「いやいや気なんて、それに家で夕食作ってると思うんで」
喧々囂々、とはちょっと違うけど何だかみんな慣れない展開に気を使いすぎているようだ。一人ぽかーんとした顔でのん気にしているのは私だけ。それにしても十理くんの敬語とは、なかなか珍しい物を見ている気がする。
和から「でも今日お姉ちゃんのから揚げだよ」という情報が得られると、十理くんは「うぐっ」っと動きを止めた。みんなから揚げ好きだな、私も好きだけど。
「うーん、白羽姉のから揚げ美味いんだよなぁ」
「じゃあパウンドケーキのお礼にちょっと取り分けるね、おばさまによろしく言っておいて」
「マジで!?やったー!」
「よかったね、とーり」
「ちょっと十理、大声近所迷惑」
打開案を出してみるとと小型犬が尻尾を振って大喜びだ、良いことをした。京歌が来るから多めに用意しておいてよかった。
十理くんを見送って、その後は4人で晩御飯を食べた。学校の話やゲームの話をして、苗字だと誰だかわからないからお互いに名前で呼び合おうなんて件を経て、食べ終わる頃には京歌もすっかり馴染んでしまっている。
「そういえば京歌さん、今日はどこで寝るの?お姉ちゃんの部屋?」
「さあ、どうなんですか?白羽さん」
「京歌にはお母さんの部屋で寝てもらうつもりだよ」
見た目は美少女だけど中身は男性だから、同室では寝づらいという意味合いが半分。もう半分はうちは全室ベッドオンリー、お客様用の布団というものが無いのだ。本当はあったんだけど数年前の大掃除で古くなっているのを捨てて以来、新しい物を補充し忘れているんですよねー。
そんなこんなで夕食後、後片付けをして順番交替でお風呂に入って自室に戻って今に至る。私はごく普通の前開きのパジャマ、所々にいるにゃんことその足跡がアクセント。
変わって京歌はというと、ネ グ リ ジ ェ だと・・・!?
「よく着れるなぁ」
「誰かさんと違って寝相が良いですから」
誰かとは誰だというツッコみは相手の思うつぼだからあえてスルーして、彼女は半袖のワンピースタイプの寝巻でボストンバッグの中をごそごそと探っている。
そういえばリビングでゲーム機を出したのはトートバックの方からだった。
「その中には一体何が詰まっているんですか?」
「んー、おススメのPCゲーなどを少々」
ホレこれだと手渡されたのは箱庭系やら経営系のシミュレーションゲーム、おおーこういうの好きなのよね。他にも推理物アドベンチャーやパズルゲームなどがどんどこ出てきた。
「やりたいのあったら貸すぞー」
「じゃこれからやってみたい!」
早速パソコンの電源を入れてゲームを進めていくと夜は早々と更け行き、物音に心配した和と水月が覗きに来た時には眠気が飛んでベッドの心配など必要なくなって、結局4人で朝まで遊んでしまった。
ま、またこのパターンか、ゴールデンウィークだからってだらけ過ぎだ。
京歌は流石に帰り道にあの大荷物を持つ力などなくてタクシー呼び、それを見送って3人ともばたりとリビングのカーペットに倒れこむはめになった。
うー、ゲームしすぎて頭痛い。自業自得か。
昨日のから揚げのお礼にやってきた十理くんが死屍累々の居間に悲鳴を上げるまで、あと数十分。
カウント 3