5 君とデート?
一学期が始まって最初の土曜日、晩御飯を食べ終えてTVを見ながらまったりタイム。
今日のメニューはハンバーグ♪チーズとじゃがいもが入ったとっても美味しいハンバーグ♪
さりげなく心の中で自画自賛。
常葉家の家事当番は和が朝ご飯、私がお弁当込みの昼食と夕食、水月が食事の後の片付け、と完全に分担されている。
水音をBGMにクイズ番組を見ていると水月から「明日、十理と出掛けるから」との申告があった。
「分かった、気を付けてね・・・あ、お出掛けするならちょっとお小遣いいる?」
十理くんと美味しいお昼でも、って気遣うと「子供じゃないんだから」と素直じゃない返答、元社会人から言わせてもらうと学生なんて本人が思うよりずっと子供の内なんだけどな。
「和は明日何か予定ある?」
「私は多分文房具屋さんに行くかも」
成程、明日暇人なのは私だけか。
うーんでも文房具か、新学期だし色々と入り用なのよね、キチンと揃えたつもりでもいざ授業が始まるとあれが無いこれが無いということがよくある。
「文房具屋さん、そういえば私も買うもの有ったっけ」
独り言のようにポツリとこぼすと、突然和の瞳が爛々と輝く。
満開の笑顔だ、美少女オーラがまぶしい。
「本当?じゃあお姉ちゃん一緒に行く?」
「えーっと、私一緒で良いの?お友達と行くんじゃないの?」
ふるふると首を横に振る、何でも友人にはみんな先約があって、でもどうしても欲しいものがあって一人で行くつもりだったそうな。
だからお姉ちゃんが一緒に行ってくれたら嬉しいとはにかんで言われたら、姉バカとしては返す言葉がない。
うちの妹可愛すぎる。
二人で盛り上がっていると洗い物を終えた水月が輪に加わる。
「二人で行くの?俺たち付き添おうか?」
態度はつんけんなのに、性格は優しいというか過保護というか。
しかしながら女子だけで行動して、大事な妹に悪い虫でも付いたら困るしここは幼馴染ズで団体行動をとるのもわいわいして楽しいかも、そう思っていたところ。
「ダメ、水月はとーりとお出掛けでしょ?」
不思議と和が阻む結果に驚いていると、彼女はもう一度花の笑顔を咲かせて言った。
「お姉ちゃんは私とデートなの」
我が常葉家にとってなごみスマイルは切り札だ、はい試合終了。
姉バカ弟バカに対抗する手段などない、甘やかすにもほどがある。
それにしても同性の、姉との買い物に、密会という単語を使うとは、恐るべき女子力。
数値が高すぎて私のスカウターでは計測不能だ。
* * * * *
翌日、水月と十理くんを見送った私たちは、最寄り駅近くのショッピングモールへと足を運んだ。
目的は文房具店だけだけど、どうせなら色々見て回ろうという魂胆だ。お、女の子ですもの。
「確か五階だったよね」
電光掲示板を見ながら目的の店を指さす和は、丈の短めな桃色のワンピースにレギンスパンツを合わせた、ラフでいて尚且つ可愛い格好だ。
こちらは杢グレーのパーカーに膝丈プリーツスカートという大人しめの衣装、隣に美少女がいると比較されるのが目に見えているため、少し緊張する。
広大な建物の中で五階までエスカレーターに乗って移動する、最中色々と話をしてみる。
「和は文房具屋さんで何買うの?」
「えっとね、授業用のノートと手帳」
「手帳?」
「うん、手帳って一月始まりと四月始まりがあるでしょ?」
そうだね、確か十月始まりなんてものもあったはずだ。
「学生だと一年度は四月からだから、この時期に買った方が使いやすいの」
「手帳なんてつけてるんだ、偉いね」
あ、そういえばスノードロップのセーブポイントは手帳形式だったことを思い出す。
私も学生の頃手帳を買って、すぐ飽きてしまった経験がある、マメだなぁ。
「偉いなんてことは無いけど、その日あった楽しかったことや嬉しかったこととかを書く一言日記帳みたいなものなの、後から見返すと元気になれるから」
「あ、そういうのなら私もやってるよ」
勿論ガッチリ鍵付きをチョイスして日々のときめきを記録しております。
1ページ丸々使うような日記は余程几帳面な性格じゃないと長続きしないからね。
そんな談笑を続けていると五階はすぐにやってきた、広い店内には色とりどりの商品が所狭しと並ぶ。
「ところでお姉ちゃんは何を買いに来たの?」
「ん?シャーペンの芯とボールペン」
・・・それだけ?
・・・うん。
学内の購買でも買えるラインナップに和は少ししゅんとする。
ツインテールなことも手伝って、捨てられた犬猫のようだ。
「ご、ごめんね、もしかして無理に付き合わせちゃった、かな」
「そんなことないよ大きいお店の方が色数多いから、ちなみに今日は薄茶色とシアンのペンを買おうと思って」
「シアンって?」
「水色っぽい青緑色」
ほえーと驚く妹を安心させるように私も笑う。
最近ペンを集めるのが趣味なんだよね、社会人としてしばらく学業から離れていた身としては、授業を受けたりノートをとったりという学生時代は面倒で堪らなかったことが割と楽しかったりする。
更に授業中の内職や居眠りもまた大人になると出来なくなることの一つだしね!
それぞれ目当てのものを選び取り店を出る、結構熟慮したため時計を見るともうランチをとってもいい時間帯だ。
お食事処は地下に固まっているからと、今度はエレベーターで移動しようとしたところ、背後から「あれ、和ちゃんとお姉さん?」と聞き覚えのある可愛い声が響く。
「あーっ花鳥!」
「やっぱり、和ちゃんだ!」
うちに遊びに来ることもあるので私とも顔見知り、和のお友達、泉谷 花鳥ちゃんだ。
「こんにちは花鳥ちゃん、今日は一人?」
「ううん、お母さんと一緒なんです」
色素の薄い柔らかな髪に内気でおっとりした性格、ひらひらのワンピースがとても似合う。
和と並べばここだけ妖精の国みたいだわ。眼福眼福。
和の友達にはもう一人、気が強くてお洒落な渡瀬 李奈ちゃんがいる。
彼女たちはゲーム内ででエンディングこそないものの、二人の好感度を上げるとパラメーターの上昇に関わるイベントを起こしてくれる、特に花鳥ちゃんには学力の底上げに一役買ってくれてとてもお世話になった。
っていうか蔵王!あんた主役級攻略対象のお約束とは言えパラメーターの要求値が高すぎるんですよ!スノドロには学力・運動・容姿の三つのパラが有るけど、全数値200越えしろって!攻略本見ないでやるといつも崖っぷちになるよ!水月の希望値100っていう控えめさを見習って!!
・・・こほん、花鳥ちゃんはお母さんが待っているためすぐに分かれることになった。
手を振りあう二人はとても可愛らしい、いえ私には某親友の様な趣味は御座いませんが。
「お姉ちゃんごめんね、お待たせ」
「大丈夫だよ、それよりお昼何食べたい?」
何にしようか、自分が作らなくていい場合これを考える時間は女子のお楽しみだ。
いつものお店にしようか、それとも新規開拓で新しいお店にチャレンジするのも相手が親しい間柄なら楽しめる。
和と花鳥ちゃんの会話中何度か見送ったエレベーターが再度この階にやって来て、ポーンと明るい単音を発してドアが開く。
けれども私たちはまたそれに乗ることが出来なかった。
「・・・ん?常葉か」
「・・・最上くん!?」
まさかこんな、こんな人が多いところで、和と一緒にいる時に出会うとは思わなかった。
最上 萌成、五人目の攻略対象・・・!