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4 生徒会長と副会長

4月9日の始業式が終われば、昨日とは違って講堂中のパイプ椅子を撤去する必要がある、

だから今日も今日とてお手伝いに馳せ参じることになった私の隣には、暗い表情をした親友がいる。


「ああ~面倒くせぇ」


椅子を折りたたみながら小声で、私にだけ聞こえるようにそう零したのは

見た目は撫子の花、お味はピリリと辛い山椒の実、私の異世界友でもある英 京歌だ。


「生徒会って雑用処理会でもあるからね」

「単に重い荷物が一つあるなら野郎に押し付けるだけで済むんだが

パイプ椅子の回収撤去となると単純作業だから全員参加なんだよな」


全校生徒分の椅子とあっては数が半端ない、だから今日は

私のように正規の生徒会メンバーでない人が沢山参加している。

特に女の子がよく目につくのは致し方ないことだろう。


「陽高先輩~!きゃーこっち見た!」

「今日はよろしくお願いしますねぇ♪」

「陽高くん手伝いに来たよー頑張るね」


キャッキャウフフ、ピーチクパーチク、

はい早速生徒会長が女子に囲まれている、手伝いに来たと言っている割には口しか動いておらず、更に会長の動きを制限することで彼まで役立たずになってしまっている。


「京歌お姉さま、あの小すずめちゃんたち何とかなりませんかね」

「パースー、ああいうのは俺の好むところではない」


本っ当にわがままだな、まあ好みって他人には意味不明な拘りでしかないけど。

私たちまで動きを止めたら、いつ終わるか分からなくなるので小声で会話しながらもたたんだ椅子を専用の台に乗せていく。

「他の人の迷惑になってしまうから、そろそろ作業をしようか」という真っ当で真面目な王子様のカリスマ性も、恋する乙女たちの前では無力だ。

黄色い声をBGMに、ようやく台車1台分のパイプ椅子を舞台下の保管場所に収める頃、ついに彼女たちに鉄槌が下る事となる。


「おい、そこのヤツら、邪魔をするなら帰れ」


自分は遅れてきたくせに、と揚げ足を取る勇気も無いので傍観を続ける私をよそに、陽高会長は慌てて彼を制す。


惟真(ゆいま)、わざわざ手伝いに来てくれてる子たちにそんな言い方は・・・」

「誰がどう見ても手伝ってるようには見えないんだが」


講堂内を静寂が包む、その中心にいる二人はそこに立っているだけで生徒たちの目を引いた。


湊都高生徒会長、陽高 晃人と

2年生で副会長、蔵王 惟真(ざおう ゆいま)


金髪の王子様である前者が、その名の通り 陽であるなら

後者は 陰、艶やかな黒髪と鋭い光を灯した瞳は自信と余裕に満ち溢れている。


当然ながら、うちの妹の攻略対象だ。

彼はパッケージイラストなんかでも大写しで描かれていて・・・ん?

こういう準主役級のキャラクター、ギャルゲなら”メインヒロイン”って呼ぶけど乙女ゲーの場合なんて言うんだろう・・・メインヒーロー?


話が逸れた、閑話休題。


蔵王の一喝を受けた女子生徒たちは顔を赤くして、小さな声で謝罪するとそそくさと立ち去って行った、ああ貴重な労働者が減っていく。


「惟真!自主的に来てくれたのに、悪いじゃないか」

「あんなの居ない方が捗るだろ、それより作業再開するぞ」


そう言ったきり無言になって端から椅子をたたみだす、念のためにもう一度確認しますが、会長は三年生で蔵王くんは二年生である。

偉そうだな、おいと思いながらもこちらに飛び火しないように皆が一斉に作業を再開したが、蔵王狙いの女の子たちはつつつと彼に近づいては、先ほどと同じように冷徹にあしらわれ、走り去り、また会長が諌めるように声をかけた。


ギクシャクしているように見えるけど、カリスマ会長と憎まれ役の俺様という組み合わせ、二人はとてもいいバランスなんだと思う。

実際ゲーム内でも二人はかなり仲が良かった。



*  *  *  *  *


「ふぃ~」


あれからは着々と進んで、残すところ三分の一となった、生徒の数も最初に比べて三分の一程になっているけれど。

皆さん逃げるのがお上手ですこと。


春だというのに激務に勤しんでいると暑くって堪らない、私は脱いだジャケットを鞄の上に置き、制服の裾を折って腕まくりする、隣を見ると京歌からも疲労の色が見える。

床に直に腰を掛けた京歌は、私と二人の時は平気で胡坐を組むくせに衆人環視のこの場では、か弱い感を演出した横座りだ・・・芸が細かい。


「もうちょっとだね」

「お嬢様の体力の無さを何と心得る・・・」


何だか意味不明なことを言っているのでスルーして、私も少しだけ休憩しようと床に座ると突然、上から清涼飲料水と誰かの手が降ってくる。

さっと振り返ると、飲み物を差し出す蔵王惟真と目が合った。

「これ貰って良いの?」という疑問の“こ”を発音する暇もなく、彼の言葉に遮られる。


「勘違いするな、喉が渇いたからダースで買ってきただけだ、・・・欲しければやる」


瞬間呆然とする私に気付いて、代わりに生徒会長が声をかける。


「あれ惟真、居ないと思ったら皆の分の飲み物を買って来てくれたのか、ありがとう、暑かったから嬉しいよ」

俺の(・・)!喉が渇いたからな・・・飲みたければ勝手に取ればいいだろ」


うわ、出た。

思わず手で口元を隠すくらい、にやけてしまう。

彼はもう一度私を見て「飲むのか、飲まないのか、どうなんだ」と半分睨みながら聞いてきたので謹んで頂戴することとする。

私と京歌にそれを手渡し、他の人たちにもドリンクを配る彼を見送ると小声でお隣さんに話しかける。


「京歌さん京歌さん、ご要望のツンデレですよ?」

「野郎のデレなんかいらねーよ」


正しくこれが彼の人気の秘密、ゲーム開始序盤は睨まれたり無視されたりとまともに会話にすら出来ないのに、攻略中盤から途端に現れる”俺様のツンデレ”略してオレデレ。


人見知りな猫みたいな性格だからめったに見ることが出来ないんだけど、そういえばファンの間で会長は人懐こい金毛のわんこ、副会長は高貴で気ままな黒猫に例えられることが多かったっけ。


「・・・ところでさ」

「ん、なにさ親友」


貰った飲み物を有難く飲んでいると隣から、同じく喉を潤しやや体力が復活した友人から声がかかる。


「ふとさ、白羽の恋愛イベントを見守るっていうやつ結構難しいんじゃないかと思ったんだけど」

「どういうこと?」


「ゲームでは女の子は主人公だけしかいないみたいな進行具合だけど現実ではそうは行かないだろ?」


むむ、それは確かに。

水月と十理くんについては問題ないとしても、会長あんど蔵王くんとあともう一人の攻略対象、彼らと和はまだ出会ってもいない状態だ。

尚且つ会長たちはとてもおモテになるようだし、ひょっとしたら私の知らないうちに彼女でも出来てしまうんじゃなかろうか。


「いや、それも有るかもしれないけどさ、彼らがお前に、常葉白羽に惚れる可能性は無いのかなってちょっと思って」


大きく、限界まで目を開いて 一度二度、瞬きをして


「そりゃないでしょ」


バッサリと切り捨てた。


「じゃあ白羽は?あんなに好き好き言ってるキャラが目の前に居るんだぜ?

リアルにイケメン揃いだし、惚れたりしないのか?」

「それもないね」


また飛んできた言の葉を辻斬りの如くぶった切る、切り捨て御免。

だって、


「だって私は、和と一緒にいる彼らが好きなんだから」


そう言うと、きっと呆れた顔をするんだろうなと思っていたら、彼は複雑そうな表情をした。


携帯から見づらくてすいません。

たくさんのお気に入りありがとうございます。

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