3 幼馴染と生徒会長
4月8日、入学式。
「和、戸締りOK?」
「オッケーだよ」
「水月、忘れ物は無い?」
「大丈夫」
私と和は在校生、水月は新入生として今年から湊都高校の生徒となる。
私はついさっき、朝食中に起こった出来事に高鳴る胸を抑え、必死で冷静を装いながら玄関の鍵を閉める。
我が常葉家は恋愛ゲー並びにラノベ系統お約束の”両親元気で常に留守”をしっかりと守り、父の単身赴任に母がついていく形で今は高校生の子供三人だけが住んでいる。
プラス未だに夫婦ラブラブのおまけ付きだ、普通多感な思春期の子供放置しますかね。
いえまあ、そのおかげでさっきみたいなゲームに無いイベントを拝むことが出来たんだけれど。
「お姉ちゃん、今日は私たちと一緒で良いの?生徒会のお仕事有るならもっと早く行かないといけないんじゃない?」
「平気平気、生徒会のお手伝いは式が終わってから、だから今日の私は生徒会席じゃなくて保護者席に座って写真いっぱい撮るのよ」
本日の私の仕事は講堂の椅子を入学式モードから始業式モードに変えるだけ、だけと言っても結構大変な作業なんだけれどね。
歩きながらコンデジをちらつかせると水月から「小学生じゃないんだから」と冷ややかな返答。
「お母さんとお父さんに送らなきゃいけないんだから、目線くらいは頂戴ね」
「水月、ポーズもとったら?」
「絶対に嫌だ」
談笑?しながら角を曲がると赤いポストの前に、栗色の髪をした水月と同じ真新しい、少し大きめの制服を着た背の低い男の子が待っていた。
「おう、水月、白羽姉、和、おはよー」
「十理、おはよう」
水月が駆け寄るとわんこみたいな可愛い笑顔を咲かせた、
彼は保坂 十理、私たち三兄弟の幼馴染にしてこのゲーム”スノードロップ”の情報屋ポジションなのである。
情報屋、ゲーム内でその名の通り情報やアドバイスをくれるお助けキャラ。
攻略対象との親密度を示唆したり、目当てのキャラの好きな物を教えてくれたり時にはそっと背中を押してくれる、重要な役割だ。
「とーりおはよう、制服似合うね!」
「おはよう十理くん」
彼の笑い顔を見ていると、こちらも笑顔で応対したくなる。
この作品のキャラはみんながみんなお気に入りなので優劣が付け辛いけど、彼と和のエピソードはかなり好きなものだ。
攻略当初、彼とのルートを模索したファンは多いと聞くそれもそのはず、たった今和に褒められた彼は顔を真っ赤にして。
「えっ似合う、かな?・・・あ、ありがとな和」
どう見てもOPの時点から主人公に好意を抱いているようにしか見えなーい!
誰が見ても和が好きなのに、彼女の恋を応援し、気弱になった時には励まし、他の誰かと結ばれた時には祝福する。
そんな健気な彼を何とか幸せにしてあげたいと果敢なプレイヤーたちが挑み、彼のルートに至った時には更に十理くんの株が上昇した。
だってそれはこのゲームのバッドエンドに当たるエンディングだったから!
他のキャラとの恋に破れ、傷心のヒロインのもとにこの一年で少し背の伸びた彼がやって来てついに想いを告げるのだ。
ちなみに十理くんに情報を聞く回数が多く、他の攻略対象との好感度が低いと和からの告白イベントが起こる二つ目の恋愛ルートがある事も人気の理由だ。
「十理くん今日親御さんは?」
「ん、後から来るって」
四人ならんで通学路、本来なら二年生の和と一年生の水月と十理くんの男女二対一という比率は、某野球アニメとかでもあった憧れる環境よね。
そこに混ざってしまっていることに少しの申し訳なさを感じつつ男女二対二で朝の道を急いだ。
* * * * *
「と言う訳でこのゲームはバッドエンドが至高のハッピーエンドなのさ」
「うわぁー都合が良いデスネー」
所詮ゲーム世界はご都合主義!
主人公は結ばれ、モブは見守る、これが道理。
話を急に生徒会室に戻し、ハムカツサンドの最後の一口を飲み込んだ。
いつもはキチンとお弁当を作っているけれど今日に関してはいつご飯を食べられるか分からなかったからコンビニで簡易的なものを購入しておいた。
京歌の昼食もそんな感じだ。
「さぁて、飯も食ったしそろそろ帰りますかぁ、生徒会の仕事がここまで長引くとはな」
時計を見るともうすぐ三時になろうとしている、ああ夕食の材料を買わないといけないけど、スーパーの値引きに合わせるならいったん家に帰ろうかな。
自分の持ち込んだゴミを片付けていると、ふと疑問。
私が生徒会の仕事を手伝うのは、全て妹の為じゃあ京歌が生徒会 書記なのは何のためだろう、今まで聞いたこと無かったな。
そんな風に問いかけると「お姉さまには権力が要るからだ」という謎の解答が返ってきた。権力とはなんぞや。
「白羽になら分かるだろ?お姉さまにはネームバリューが必要不可欠なんだよ、
あの、あの 英 京歌様が私の事を好いている、ってな」
あ、あ~?
悲しいかななんとなく分かるような、少女漫画や乙女ゲーでもよく使われる手法だと思う。
あの には『あの、容姿端麗で、文武両道で、ご実家がお金持ちで、学内でも一目置かれている』
あの方が!私の事を好き!?・・・と、こういう特別感を与えるのか。
「俺はこの通り才色兼備で博学多才、と天に二物も三物も与えられているが」
「おだまり舌先三寸」
「残念ながら家は金持ちじゃないから、生徒会っていう箔をつけてるんだよ」
え?京歌の家ってお医者様じゃありませんでしたっけ?
「まあ、娘が私立校に通ってんだから貧乏じゃないけどさ
忙しいだけで儲けが多くない小さな町の診療所って所だよ」
ふぅうんと相槌を打ったタイミングでガラリと生徒会室のドアが横にスライドする、
やば、大きな声で話してて外に聞こえてないといいけど。
扉が開いてまず飛び込んできたのはふわふわの金色に光る毛髪、ああこれだけでもう
誰だか分かってしまった。間違いなく、陽高 晃人くんだ。
「常葉さん、英さん、まだ残ってたのかい?今日はお手伝いしてもらってすまないね。」
金髪碧眼、まるで御伽噺の王子様みたいと名高い生徒会長様だ、物腰は柔らかく誰にでも優しく、勉強をやらせたら学年主席。
女子が憧れるのは勿論、男子にも慕われている、スノードロップの攻略対象だ。
彼については攻略を進めていく度に明らかになっていく、とある秘密があるけれど
今それを知っているのが私だけだと思うと少し優越感を感じてしまう。
「いえ、お邪魔でなければいいんですが」
「私たち今から帰るところですのよ」
すぐさま猫をかぶってお嬢様モードになる京歌に唖然しながらツッコみを心の中に留めて帰宅しようとする私たちを会長がそっと呼び止める、何かと思えば手渡されたのは小さなチョコ菓子。
「これ良かったら、心ばかりで悪いけどお礼だよ
数が無いからみんなには内緒、ね?」
唇にそっと人差し指を押し当てて内緒のポーズ、王子様がやると様になる。
有難く頂いて帰路に着くと、優しく見送られた。
廊下に出て靴を履き替え、校舎から出て校門に向かうとようやく口角を下げた親友が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「俺あいつ苦手だわー」
「いや、イケメンに会うと毎回言うよねそれ」
お付き合いくださりありがとうございます
完結出来るよう頑張ります・・・!