21 修学旅行・1日目その2
迷子くんの手を取って歩き回ること数分、ゲストサービスまで辿り着くと予想通りご両親は既に別の迷子センターにいる様で、急いで駆け付けてきた親御さん方に男の子を無事引き渡して私たちはホッと安堵の息を漏らした。
「再会できて良かったですね」
「そうだね、常葉さんの適切なアドバイスのおかげだよ」
いやそれは結果論なんだけど、しかしながらいいことをすると気分が良い。フラグあれコレは脇に置いて、二人並んでテーマパーク独特の賑やかな異国情緒あふれる街並みの中を軽やかに歩く。
「じゃあ戻ろうか、確かジェットコースターの辺りに英さんが居るんだよね」
「はい、よろしくお願いします会・・・じゃなかった、陽高くん」
ついさっきお願いされたことを思い出し慌てて訂正すると、くすりと笑われてしまった。京歌もそうだけど端正な顔立ちの人って少し頬を緩めるだけでどうしてこんなに様になるんだろうか・・・そんな考察に耽っていると、ざわざわと急に周囲がより騒がしくなっていくのに気付き足を止める。
「え、何?」
「常葉さん、ほらあそこ」
陽高くんが指さす方向には私たちと同じく立ち止まった人たちがいて、その中心に立つ観光客らしい人々が突然、軽快な音楽が流れだすと同時に踊りだした。その動きは決して素人のものではない、え?え?何コレすごい!
「サプライズショーだよ、ここでは時々こうして観客を楽しませるための即興劇が行われてるって、話には聞いていたけどこうして近くで見ることができるのは、俺たち相当運がいいね」
「わー!あ、制服の子まで踊りだしたよ!」
音楽が徐々に大きくなっていくとともに人数が増え、楽器の演奏も始まってダンスも激しくなっていく、それに見蕩れること数分、ショーが終わると同時に序盤に比べて数倍に増えたギャラリーが一斉にパフォーマーに盛大な拍手を送る。彼らが後始末をして颯爽と姿を消していくと周りにいた人々も瞬きする間に散り散りになっていく。はぁ~いい物見れたなぁ。
人の輪の中にはうちの制服を着た子もちらほら見受けられるが、最前列は人で一杯なので建物の入口付近、丁度小高くなった広間から見下ろすようにしていたため、目立つ会長が一緒でもこちらには気付かれなかったみたいだ。感極まって振り向き様に彼の方へ声をかけると、ぱちりと目が合ってしまった・・・はれ?
「陽高くん!今の凄かった・・・ね?」
「うん、そうだね」
ついさっきまで目を奪われるような素晴らしいショーが行われていたのに、何で視線が噛みあうんでせうか。つまり彼は、ずっとこっちを見て・・・?いやいやそんなそんな。
「ご、ごめんなさい、もしかして私はしゃぎ過ぎだった?」
自分以上に浮かれている人がいたからきっと引いちゃったんだ、そうに違いない。修学旅行中だからってちょっと気を抜きすぎかもしれないね、しかも今現在絶賛迷子中なのに!
「いや、そんなことは無いよ・・・うん、寧ろ少し安心したよ」
「安心、ですか?」
この問いかけに彼は、西洋風の建物の白い柱に背を預けて、真意が読めなくて少し戸惑う私に向かってにこりと微笑んだ、どういうことなんでしょうか。
「俺、常葉さんは笑顔が印象的な人だなって思ってたんだ、悪い意味じゃなくて良い意味で居るだけで空気が暖かくなる人だなって、でも六月のあの大雨の次の日から、君は平気な顔をしているのに殆ど笑わなくなってたからずっと気になってたんだ」
六月の大雨の日と言いますと・・・紛れもなく和ショックのことで御座いますね、ハイ。穂積にも同じ様なこと言われた気がするけど、私ってそんなに馬鹿みたいに笑ってたのかなー・・・心当たりがありすぎる、あんな妹惚気話に付き合ってくれた京歌さんマジ親友。
「その節ではお世話になりました・・・いえ、今も心配かけ通しでごめんなさい」
でも決してまだ凹んでるわけではないんです、寧ろそれまでが異常なくらい浮かれていて、いまやっと平常心に戻った所なんです。と平謝りに謝るしかないこの状況、というか私はあの一件でどれだけ人に迷惑をかけているんでしょうね全くお恥ずかしい限りです、って自分で言うのも白々しいかな。
「いや、俺が勝手に心配していただけだし、もし辛いことを思い出させてしまっていたらゴメンね」
「ううん、心配してくれて有難う」
もう大丈夫、という意味を込めてもう一度微笑んで見せる。陽高くんとのやり取りは何だかとても癒される・・・ここ数日殺伐としていたからなぁ、いやせめて今だけ修学旅行中だけは腹黒のことなど忘れるんだ!腹黒退散!邪気もろともに脳内から消去してやろうと躍起になっていたその時。
「でもやっぱり君が笑ってくれると嬉しいな、俺は常葉さんの笑顔が好きだから」
「・・・・・・えっ?」
・・・私が脳内の何かと戦ってる間に、何だか大きな爆弾が落とされたような。私の疑問形での返答にはっと我に返った陽高くんは急に赤い顔であわあわと慌てだした。
「ご、ごめん、俺変なこと言ったよね!」
「い、いえ、人間やっぱり笑顔でいるのが一番良いですよね・・・」
「そ、そうだね!悲しい顔より笑顔の方が好きなのは普通だよね!」
哀より喜が好きなのは当たり前ですよねーと、二人で必死に収拾をつけようとするけどさっきよりも白々しいのはどうしてでしょうね!
* * * * *
「遅かったですね、心配していたんですよ白羽さん」
「実にすいません」
その後不思議と気恥ずかしくなり、しゃかしゃかと早足でジェットコースターまで移動したけれどそれまでの寄り道の時間が長く、京歌とは小一時間振りの再会となった。
「ごめんね英さん、俺が常葉さんを引き留めちゃったから」
「いえ、迷子くんが無事にご両親と会う事が出来て本当に良かったですわね」
それじゃ俺はこれで、と去って行く会長にもう一度お礼を言うと、軽く手を振って返してくれた・・・うん、さっきのは言葉の綾だろう、気にしない事にしよう。
「遅っせーんだよ」
「猫の皮破り捨てるの早くないですかね」
顔色はもう戻っているものの、京歌はめちゃくちゃ不機嫌だ、まあ私のせいだから仕方ないけど。
「待たせちゃってホントにごめん」
「いや、待ってるのは別に良いんだが、この美少女が体調悪げに一人で居るものだから、看病に託けたナンパがウザいことこの上ない、まあうちの生徒以外は蹴散らしてやったが」
美少女見かけて、ちょっぴり勇気を出したナンパ少年たちが憐れデスネ。合掌。
「お詫びに自由行動の日の昼食は私めが奢らせて頂きます」
「うむ、なれば不問に付す」
「ははー有難き幸せ」
殿様ごっこしつつ、テーマパークでの自由行動を京歌と楽しむ。途中お化け屋敷に入ろうとするのを必死で制止したり、もう一回ジェットコースターに乗りたいという願望を今度はあっさり拒否されたりと、残りの数時間は楽しいながらも足早に過ぎていった。
* * * * *
「いい湯でした」
「こっちも結構部屋のシャワールーム浴槽広かった」
やっとお宿で一風呂浴びて一日目終了、早かった様な何だか色々あった様な。京歌はホテル備え付けの浴衣を着ているけど私はパジャマ持参、だって浴衣ってどう足掻いても朝にはあられもない格好に着崩れる物よねぇ・・・え、私の寝相が悪いだけ?
大きなボストンバッグを開けて荷物の整理点検、よし。
「後は歯を磨いて寝るだけかな~」
「おいおい何を言ってるんだ、白羽」
はい?と振り向くとそこには京歌さんがドヤ顔で立っていた、まだ少し濡れた髪が艶っぽい。
「今夜は・・・寝かせないぜ?」
真剣な瞳と動作から、その言葉が本気だと直感する。
何故ならば、ヤツは右手にはトランプ左手には枕を持ってびしっとポーズを決めていたからだ、とりあえずぐーぱんちで左手の枕を叩き落としておく。二人でまくら投げとか、寂しすぎるでしょ。
「じゃあトランプな」
「二人でトランプも寂しい気がするけど・・・まあ明日は強行軍の日だからほどほどにしてちゃんと寝ようね」
あと髪ちゃんと乾かせ、ていっとタオルを投げつけると見事に頭でキャッチした、曲芸師か。ロングは乾くまで時間かかるよね、京歌は拭きながらこちらに向き直る。
「寂しいならほかの部屋に混ざりに行くか?修学旅行のお約束だろ」
「あー、それなんだけどね、どうもうちの学校見回り厳しいらしいよ?」
「そーか?私立の緩い学校なイメージなのに」
私もそう思うんだけどね、受験を間近に控えた三年生ですから慎みを持った行動をしないとって怒られてしまうらしいよ。
「だから夜に男子の部屋に遊びに行ったりしちゃいけないって、和が言ってた」
「・・・和チャン、まじで抜かりねぇな」
「・・・はい?」
△白羽は乙女ゲー最強防御魔法「えっ?」を習得した
失踪を疑われそうな更新速度でこんにちわ、修学旅行二回目です
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