2 友達を紹介しましょう
「と言う訳で朝からすっごい楽しかったの!」
「そいつはよかったデスネー」
昼の二時、生徒会室で少し遅めの昼食をとる。
室内にはキャッキャと笑う私と、呆れがちなじと目で棒読みの返答をする友人の二人っきり。
だからこそ私も声を抑えることなく、本日早朝目の当たりにした萌え話を全力で語っている。
なぜなら彼女、英 京歌は私の、異世界友である。
「はー、今日も幸せだわ」
「良いことデスネ、なんたって幸福は義務ですからね、市民」
「はいUV様!私は完璧で幸福な市民ですから!」
こんな風に時折ゲームの話題を織り交ぜたりして。
京歌と出会ったのも確か、前世なら誰でも知っている流行のアニメのセリフを口走ってしまった時だった。
今では秘密を共有する大切な親友だ。
「スノードロップねぇ、アニメ化するって話があったからタイトルは覚えてるけど、内容は全く知らん」
天使の輪が光り輝く腰まで伸ばした黒髪に大人びた顔立ち、口角が上がるだけで、闇色の瞳に見つめられるだけで、男性だったらドキドキして舞い上がってしまうだろうその容姿。
「そうそう、アニメ化するからって直前にリメイク版が出たんだよね
ああ~アニメ誰オチだったんだろ・・・見たかった!」
「恋愛ゲームのアニメ化って、結局誰とくっつくかってとこだけが主要になるよな
・・・いや、いいじゃん白羽は目の前で見れんだからさ」
実際校内で京歌に憧れている男子生徒は多いと聞く、ゲームをやっていた時にはそんなキャラはいなかったけれど、京歌に限らず主人公常葉 和の姉、常葉 白羽なんて人間はいないはずだった。
学校の中で噂になるくらいの美少女が居るなんて、乙女ゲームの進行に問題があるんじゃないか・・・と、京歌と仲良くなる前までは案じていたけど。
「俺としては心残りなのは彼女がいなかったのと死ぬ前に自分で自分のパソコンを
処分出来なかった事だな、家族に中身を見られていたらと思うとゾッとする」
・・・一体彼のパソコンに何が詰まっていたのやら、
そう、英 京歌の前世は 男性である。
「転生して性別が変わるのってやっぱり大変だよね」
「まーな、男と女じゃ細々とルールの違い?みたいなもんがあるし
何よりあったものが無いのはすっげぇ違和感!」
「こちとら前世も今世も染色体XXなのでそういうネタはお控えください」
私としては黒色ロングヘアの、かぐや姫みたいな美少女が平気な顔で男性のように振る舞ったり下ネタを言う方が違和感を感じるんですが。
「しかし、女になったってことも大きいんだろうけど生前とは考え方が変わるよな、
俺前世でさ、生まれ変わったら美女になって馬鹿な男ども誑かして貢がせるんだーって思ってたんだよな」
「あーそういうのよく聞くね、というか貴方のその容姿なら余裕で実現可能な夢じゃなかろうか。」
「おう、俺もそう思う」
どやっとキメ顔をこちらに向ける。
うざっ、うざいがやっぱり美人さんだなと思うと同じ女性として少し悔しい。
人間顔じゃないよね!?でも美少女の和やイケメンの水月と同じ血が流れてるはずなのに私だけなんか地味なんですよねー。
多少肌とか綺麗になってるけど前世とそんなに大差ないと言いますか、いえいえ決して不細工だなんてことは無い、筈だと信じている。
「でもな、心が男の身としては男を口説くとか口説かれるとか絶対御免なんだよ」
あ、まだ続いてた。
「男は要らん!女の子こそ至上!
つーわけで俺は百合に生きることに決めている!」
百合、花の名称。
女性の同性愛の象徴でもある。
かつて二次元を好んだものとして、それくらいの知識は持っている。
「うん、まあ自分の人生なんだし好きに生きるといいデスヨー」
勢いよく立ち上がりガッツポーズをする京歌、
今度は私が憐みの瞳で応対する番だ。
「お姉さまに気安く話かけないで!っていうイベントは起こさないでねー」
「それは大丈夫、ちゃんとフォローしてる」
さっと身なりを整え両手を前で合わせ、シャッと背筋を伸ばしお嬢様ポーズをすると小鳥のように顔を傾げながら微笑んで言った。
「白羽さんは気兼ねなく何でも話せる大切な親友ですのよ」
ここでさっと頬を薔薇色に染めて、続ける。
「貴女といると、鼓動が高鳴って・・・同じようには出来ませんけれど」
「前世でどちらかの劇団に在籍されてました?」
「女は生まれながらにして女優・・・!俺は今世でそう思い知ったね」
呆れるほどの演技力に圧倒される、まあ嘘は言っていないし和の恋愛を見守るという悲願さえ邪魔しないでくれたら何でもいい。
「あ、あとうちの妹には手を出さないでよね」
「・・・あー、和ちゃんねぇ」
彼は、一瞬目を泳がせて「可愛いけど俺の好みじゃないかな」とのたまった。
「わっがままー」
「俺は“可愛い”じゃなく“綺麗”がすきなのー、あえて、もっと分かりやすく言うとツンデレが好ましいです」
ツン・・・、
確かに和はゲームでも素直に想いを伝えるタイプだったかな。
「何か話が飛んだけど、スノドロってどんなゲームなんだ?」
椅子に座りなおしながら、話を変える友人をじーっと見つめながら自らの一番好きなゲームについて思い返してみる。
転生してから18年近く経っているのに、未だ色褪せない記憶。
「基本は訪問型のシミュレーションだよ、期間は一年、ミニマップにキャラが表示されないんだけど、大体各々の好きな場所が決まってて」
「ああ、シミュじゃよくあるタイプだな」
「ああいうのって好感度によってランダムでイベント発生してキャラの同じセリフが
何度も繰り返されて飽きてくるんだけど、スノドロはセリフの数がとにかく多いし
同じイベントがかぶらないように配慮されてて、3周目でも初めての会話を見つけられたりするところが好きなのよ」
「へー、普通に良ゲーじゃん」
でしょでしょ。
好きなゲームを認められるって、何の関係もないのに自分が褒められた気になる。
「ちなみにエンディングは卒業式の日、校舎裏の丘にある教会跡で伝説のスノードロップの花を見つけられたら、好感度の一番高い攻略対象がやって来てハッピーエンドなのよ」
「卒業式・・・伝説・・・花・・・」
「みなまで言うな、気持ちは分かる」
実際にスノードロップに関してはそういう伝説が有るんだよね、元々二月の後半から三月の頭、雪の降る一番寒い時期に咲く花で、年が変わる前に見つけられたら来年は幸福が約束されるという言い伝えがあるらしい。
「湊都の卒業式は2月のはじめだから・・・咲く前っつー意味ならギリギリ伝承圏内か?」
「かな?制作側もそういうことで作ったんじゃないかな?」
全く食べ進まないタマゴサンドを小さくちぎり口の中へ放り込む。
時計を見るともう30分も話し込んでいる。
「ところでさ」
「なーに」
「口癖みたいに妹の恋愛を見守るって言ってるけどさ」
うむ、今日の入学式、生徒会の仕事を手伝って生徒会室で遅めの昼食を食べているのも、攻略対象の一人が生徒会長だからですが何か。
「もしバッドエンドを迎えたら、その時はどうするんだ?」
反抗して無理やり妹と誰かをくっつけようとする?
そんな意図の質問だろうか、さすがの私も可愛い妹にそこまで非人道な事をするつもりはないし、仮に私の知らない人を好きになっても応援したいと思う・・・が。
「残念ながら当ゲームに、バッドエンドは御座いません」
私はニヤリとドヤ顔を返して、その証拠として今日の早朝に話を戻そう。