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転生人生、海辺の国家の第四王子  作者: 疲労感
第一章 幼少期編
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第6話 『アンソニア少女』

「ん?」


 突然、大きな影に覆われる。

 空を見上げると一頭の竜が通過していくところだった。


 ただいま4歳。

 もう少ししたら剣を学ぼうか。



 その後も頻繁に竜が上空に現れた。

 一部の竜は籠を体に結び付けられていて竜車と呼ばれ、上級貴族の移動手段として利用されている。

 籠をつけていない龍はその護衛。

 僕は王子であるが竜車には乗ったことが無い。そもそも城から一度も出たことが無かった。


 城の警護に地上付近を度々飛んでいる所を見かけるだけで、普段は余り竜を見る機会は少ない。

 物珍しさから暫く空を眺めていると、一際大きな、他の竜とは一回り以上も違う竜が通過する。

 下から見れる籠に描かれた紋章は赤い(たてがみ)の獅子。

 確か隣国の国章だったか?過去の授業から記憶を引っ張り出す。


 カルボン王国。

 大陸中部の沿岸に面し、1500万程の人口を抱える中堅国家。

 三日後には長兄セドリック15の誕生日。

 この世界の成人は15歳であり、次代の王の成人式である。

 他国からも多くの使者が訪れ、盛大な式が始まろうとしていた。




「うぅ…どうしよう…」


 ウォーレン君が頭を抱えて唸っていた。

 上二人の兄が活動的だった事もあってこれまで表に出ることは無かったが、ついにウォーレン君も政界デビューを飾るらしい。

 夜の舞踏会の為にダンスレッスンの仕上げを行っている。

 僕も一応練習していたがその結果ダンスが壊滅的に苦手であることが判明し、今回は踊る必要はない。



 

 城の中は普段の静けさと違ってどこか慌しい。

 僕が通ると皆さん頭を下げて動きを止めてしまうので、邪魔にならないためにも部屋に篭るか喧騒の届かない城の寂れたエリアをふらついている。

 まだ外へ出る許可が下りないので、だったら城内を制してやると日々城の散策を行っていた。


 大理石で出来た静かな廊下に響く足音は一つ、僕のものだけ。

 実際に歩いているのはラナさんとエリカさんを含めた三人である。

 僕の後ろを固める二人は足音がしない。どこの暗殺者だ。


 僕が脳内マップを保管していると、小さな音が聞こえた。

 シクシクと、まるで泣き声のような小さな音だ。

 頭に浮かんだのは幽霊。異世界だし実在するかもしれない。

 エリカさんが斜め前に移動する。


 廊下のまっすぐ先から聞こえるようで、進むたびに声は大きくなりる。

 聞けば聞くほど女の子のすすり泣く声だ。


「幽霊…とかかな」

「聖符で城は守られております。死霊が発生することはありません」


 エリカさんがすぐさま返答を返す。

 幽霊自体はやはり存在するらしい。だが城には居ない。

 なら急ぐか。

 場外からの来客が集まっている今、親についてきた子供が迷子にでもなっているのだろう。



「うぅ…お父さぁん…うぅう…怖いよぅ…」


 廊下の突き当りを曲がった所で案の定、同い年ぐらいの女の子が座り込んで泣いていた。

  

「どうしました?」


 エリカさんが声をかけるが、反応は無い。

 耳を塞いで、目もふさいで、完全に外部をシャットダウンしている。

 トントンっと、エリカさんが肩を叩く。


「キャァアアア!!!」


 まぁ、そうだね。分かってた。

 事前に耳を塞いで被害を回避しながら、エリカさんが一歩離れて再び視線を合わす。

 エリカさんは少女を思って優しげに微笑んでいるし、ラナさんは基本的にニコニコしていることが多い。少女は肩を叩いた瞬間こそ恐怖で混乱していたが、此方が視界に入って徐々に落ち着きを取り戻したようだ。


「もう大丈夫ですよ」


 エリカさんの一言が鍵になったのか、少女はエリカさんに抱きついてまた泣き出してしまった。

 どうしますか?取り合えずつれて帰ろう。

 ラナさんとやり取り短く確認すると、しっかりと会話を聞いているエリカさんと共に来た道を戻る。

 少女は抱きついたまま、抱っこする形になっている。 



「僕はロイド。君は?」

「…アン、ソニア…」


 涙声を混じらせながらも話せる程度に回復した少女は、アンソニアと名乗った。

 エリカに抱き上げられたアンソニア少女と平行して歩きながら、簡単な質問を続ける。

 

 話を纏めると、父親がセドリック兄の成人式へ出席するために王都へ来て、アンソニア少女もそれに付いて来た。

 城の中を進んでいるうちに気がついたら父親がどこかに行って、自分がどこに居るのかも分からなくなり泣いていた。完璧な予想通りの迷子ですね。


「お父さんのお名前は分かる?」


 届けるためには必要だろうだが、アンソニア少女は首を横に振った。名前は分からないらしい。父親はお父さんで覚えているようだ。

 質問を変えよう。

 

「家名は分かる?」

「クレイトン」


 知らない家名だ。知っている家名なんて殆ど無いが。

 その名前にエリカさんが反応を示す。

 

「クレイトン男爵のお嬢様でしたか」


 知り合いだろうか?

 疑問を解消するようにエリカさんが続ける。


「今夜開かれるセドリック殿下主催の晩餐会に参加予定者として名が記されていましたので」


 名前が記されていたって…全員覚えているのだろうか?

 この次期の晩餐会なら100人以上は居ると思うが…末恐ろしい記憶力である。


「現在の時間帯でしたら謁見控え室で待機中でしょうか?探索を行っている可能性もありますが」


 探索を行っていたら此方からはどうしようも無いので、まずは謁見室に向かうとする。

 泣きつかれたのか気がついた時にはアンソニア少女は眠りに入っていた。



「あぁ!ソニア!良かった、無事だったか!」


 謁見室に向かうまでも無くクレイトン男爵は発見された。

 城内で名前を呼びながら走って居たので直ぐに分かった。

 男爵はエリカさんに抱かれているアンソニア少女を発見すると、何度も何度も頭を下げる。


「あぁ、ありがとう御座います、なんとお礼を言ったらいいか」


 最後には涙まで流す始末である。優しそうなお父さんだ。

 平伏する男爵を宥めてエリカさんがアンソニア少女を男爵へあずける。


「ん…うぅ…」


 抱いている人間が変わったのに気づいたのか、アンソニア少女が眼を覚ました。


「…お父さん?…あぁ!お父さん!」


 覚醒一番、目の前に居るのが父親だと気づいたようで力いっぱいその顔を抱きしめる。

 幼い少女は安心しきったような笑みを浮かべていた。

 これにて一件落着。



「あぁ、私としたとこが無礼なことを。名前を名乗っておりませんでした」


 最後の最後、そのまま帰ろうとした所で男爵に呼び止められる。


「私はハドリー・クレイトンと申します。陛下から男爵の爵位を頂いております。後日改めて御礼に伺いますのでお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」


 …どうしようか。

 ココで家名を告げたら卒倒しないだろうか。

 取り合えず名前を告げる。


「ロイドです」

「ロイド様ですね。…ロイド?………」


 男爵は長考に入ってしまった。

 固まった男爵をアンソニア少女がぺしぺしと叩くが反応がない。


「あぁあ、あの、家名は、まさか、いや、あの」


 やっと動いたら酷く混乱した答えが返ってきた。

 どうしたものかと対応しかねていると、横からラナさんが顔を出す。


「ロイド・カルボン様です。予想のとおり第四王子様ですよ!」


 言ってしまった。満面の笑みだ。完全に楽しんでいる。

 再び固まった男爵の頬をアンソニア少女が引っ張るのを見ながら、時間だけが過ぎていった。




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