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転生人生、海辺の国家の第四王子  作者: 疲労感
第一章 幼少期編
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第5話 『セドリック』

セドリック回。

 セドリック・カルボン。

 継承権第一位、王家の長兄。

 勤勉であり博学。剣士としての腕前は既に下級騎士に届く。

 ロイド誕生時(よわい)10にして次期王位は確実と言われる秀才の王子だった。

 


 問題はロイド誕生の一月前。


「ふぅ……」


 既に公務の一部を担当していたセドリックは執務机に座りながら重いため息を吐いた。

 第三王子ウォーレンの暗殺騒ぎである。

 どうにか未遂に終わったが、肉体的にも精神的にも幼いウォーレンはそれだけで寝込んでしまう。

 暗殺を指導した者はいまだ見つかっておらず、当面の対処として護衛強化し隔離。



 セドリックの次期王位は確実。

 されど、より継承を絶対的なものにと他の王子の排除を狙う者は何時までも消えることが無い。

 当然、逆も。

 セドリック自体は警護も硬く、暗殺はまず不可能。

 第二王子フレッドも同様。

 だが、ウォーレンは違う。


 第三、第四王子の母、アシュリー・カルボンは二人目の王妃であった。

 第一、第二王子の母は既にこの世にいない。


 王家内では諍いも無く表面上は仲も良い。内心で何を思っているかは知らないが。

 ただ、臣下は先代王妃と現在の王妃(アシュリー王妃)の間で二つに分かれていた。

 圧倒的に勢力を持つは次期王を抱える先代王妃派。

 適度に邪魔で、適度に潰しやすい。力の弱いアシュリー王妃の王子は常時排除される危険を持っていた。


 アシュリー王妃は妊娠しており近く新たな王子が生まれる予定。

 新王子は暗殺騒ぎの首謀者が見つかるまでは大事をとってウォーレンと同様、外部から隔離する形で警護を固めることが決定した。

 

 セドリックも自身の派閥が暴走せぬようにと牽制の意味も込めて一人の侍女を送ることを決める。

 それがエリカであった。

 彼女は第一王子付きの侍女であり、短くない付き合いで信用もある。加えて戦闘技能も高い。

 

 

 

 暗殺騒ぎから一月。第四王子は無事に出産を終え、ロイドと名づけられた。


 ロイドに付けられた侍女は二人。

 

 一人はセドリックが派遣した侍女、エリカ。


 もう一人は…ラナ・アディンセル。

 アシュリー王妃の護衛であり最強の盾。

 ウォーレン暗殺未遂では、暗殺者における直接的な武力行使が行われた。

 その時暗殺者を撃退したのが彼女である。

 準二級魔道師という事になっているが、撃退時には一級魔法を使っていたという噂もあり、準二級に収まりきらぬ卓越した魔法技能からも実際の級位はより上である可能性が高い。

 その身元の一切が不明だが、王妃の庇護の下で城勤めが黙認されている。

 


 現在は城の隔離区画でラナ・アディンセルと共に護衛兼育児をしているエリカの報告によれば、ロイドは手のかからぬ聡明で大人しい赤子らしい。

 

 その後も定期的に入る報告では、体の成長は一般的それか、少々早熟。その程度。

 問題は中身である。

 ロイドは侍女達の話を確実に理解しており、生後直ぐに行った本の読み聞かせですら、内容を理解しているような反応を取ることがあった。

 早熟と表現できる範疇を超えている。

 中途半端に優秀なのは邪魔以外の何者でもない、懸念事項として頭の片隅に入れておく。


 


 ロイド誕生から一年。

 前年の暗殺者騒ぎの主犯を追い詰め処断するのにそれだけ時間がかかった。

 国王直属の組織が初期対応に当たっていたが一向に進展が無く、セドリックの派閥まで巻き込んで行動に起こした結果が之だ。

 今後不届き者が現れぬよう、見せしめもかねて盛大に粛清が行われた。


 事態の収束を受けて第三第四両王子の警戒レベルを落とし、軟禁紛いの隔離は終わりを告げる。

 ロイド誕生日前日の出来事であった。


 

 朝食時、前日の報告を行ったセドリックに対して国王ジャン=ジャック・カルボンは夕食での家族召集を告げる。誕生日を祝うと。

 その場でセドリックはロイドへの伝言役を買って出た。

 之まで直接の面識を持たないセドリックにとって、良い機会だと判断したのだ。




 ロイドの部屋に向かうまでセドリックは考える。

 何を話そうかと。

 今まで手に入れた記憶の断片から最適な対応を選択する。

 そして、思いついてしまった。

 息子が笑ってくれない。

 父親の言葉を。


 笑わせるか。

 

 ロイドの部屋に入ろうとして手前の応接室でセドリックはエリカと鉢合わせをする。

 

「エリカよ、赤子はどうすれば笑う?」

「笑いかければ笑いますよ」


 了解した。と。

 何の疑いも持たずセドリックは勢い良く扉を開いた。

 扉の前に人がいないのは気配から分かっている。


 視界に入るのは一人の侍女と灰色に近い銀髪の赤子。

 第四王子ロイド。見た目はただの一歳児と変わらない。

 その視線がセドリックの腰に帯びた剣に流れた。瞳の奥に僅かな恐怖が見える。

 

 剣については理解している。


 良く観察するためにロイドの眼前にセドリックは腰を下した。

 此方の視線に対して同じように強い視線を返してくる。


「ふむ」


 見つめると見つめ返す。赤子の特徴であり別段不思議なところは見られない。

 頃合か。


 ニヤァと。セドリックにとっては満面の笑みのつもりで浮かべたものは歪な笑み…に近いもの。

 普段から無表情の多いセドリックの表情筋は凝り固まっていた。

 当然ロイドは笑わない。


 おかしい。エリカの話では笑うはずだが。


 終わり所を見失った状態で膠着した二人に終止符を打ったのは部屋に残る最後の一人。

 

「あのぅ…セドリック殿下、用があって来たのでは?」


 笑わないのならそれも構わない。

 そうだなと呟いてセドリックは国王が夕食に呼んでいることを伝える。

 用件を伝えた瞬間にロイドから笑顔が漏れた。

 言葉の意味を理解しているのだろうか。


 父上が嘆いていたとセドリックが伝えるとロイドは微妙な表情をした後再び笑った。

 

 続けて居座る理由も無いので部屋を後にする。

 扉を開けた直後に紅茶を準備していたエリカと出会ったので文句を言うが、冷静に問題点を指摘された。


 翌日、鏡に向かって笑顔の練習をする第一王子が目撃されることになる。




 夕食時には率先して話を振る。

 身振りを交えず目線と口頭だけで示した兄弟紹介では紹介される者に視線を動かしており、完全に言葉を理解していることが判断できた。

 報告では既に言葉を喋れる筈だが、食事中は静かに会話に耳を傾けている。

 

 一歳児にしては、聡明で理知的。セドリックはそう判断した。


 

 翌日、執務室で一歳児が魔道書の教本をスラスラ読んでいると報告を受けた時には思わずペンを落とした。聡明に過ぎる。


 警戒レベルを何段階かあげて、今後の対処にどうするか悩みながら二ヶ月を過ごし、ウォーレンの誕生日。 

 夕食時のカルボン王家一同の会食。

 何が楽しいのかロイドの方を見ては上機嫌になるウォーレンと、それを優しげな目で見守るロイド。

 ロイドを抱いているアシュリー王妃と同じ眼をしている。子供を見守る親のような目だ。

 その時点でセドリックはロイドを警戒するのを止めた。


 危険にはなりえない。

 根拠の無いただの勘だが、セドリックは自信を持ってそう思えた。




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