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転生人生、海辺の国家の第四王子  作者: 疲労感
第一章 幼少期編
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第9話 『竜人』

 先日5歳になり、ついに剣技の指導が始まる。

 明日は先生となる人とのご対面だ。

 体を鍛えることも人生で初の試みとなるので、魔法と同様楽しみで胸が躍る。



 僕の生活空間は主に二部屋。

 ベットや、机、服を入れたクローゼットからなる寝室。

 寝室と廊下の間にある、ソファーや本棚が置かれ、多目的に使う私室。

 私室の方は、メイド二人の侍従室なるものとも繋がっている。


 自分で出来るようになってからは着替えは自分の手で行っていた。

 寝起きに手早く着替えると、私室に移る。


「おはよう御座います、ロイド様」

「おはよう」


 私室ではエリカさんとラナさんが顔を洗うための水の入った桶と布を持って出迎える。

 メイドさんは早起きだ。


「おはよう、ロイド」


 ソファーで白騎士物語りを呼んでいたソニアも此方に気づいたようで、顔を上げながら挨拶をした。


「おはよう」


 僕はソニアにも挨拶を返して、水で顔を洗う。

 ふぅ。頭が冴えてきた。


 …ここにいる筈のない人が居た気がする。

 彼女とは三ヶ月前のセドリック兄成人式以来会っていない。

 まだ寝ぼけているのだろうか?

 もう一度顔を洗う。やはり消えない。


「…ソニア?」

「そうだよ?」


 ソニアは少しキョトンとした顔で此方を見ていた。

 故郷に帰ったと聞いたが、何故此処にいるんだろう。

 

「え~っと…何故此処に?」

「お父さんがね、こっちでお仕事見つけたの」


 男爵なら領地を持っていると思ったんだが、そういうわけでもないのだろうか?

 詳しい話は分からないが、彼女は今後こっちに居るようだ。

 思ったより早い再会になってしまった。

 まだ上手く踊れないことを伝えると、私も踊れないよと笑われた。


 


 普段ならこのままソニアと喋っていてもいいんだが、今日は先客がある。

 それを聞かないばかりはのんびりしている訳にもいかない。


「エリカさん、剣の先生は何時頃いらっしゃいますか?」

「ソファーの裏で寝ておられます」


 …やはり僕は寝ぼけているらしい。

 そんな馬鹿なと、ソファーの裏を覗くと、白髪(しろかみ)の女性が寝ていた。

 酒瓶を抱えて気持ちよさそうに寝ている。


 ほら、剣の先生なんて居なかった。

 剣の先生というからには鍛え上げたおっさんと決まっている。

 こんな細身のお姉さんである筈がない。

 それも酒飲み飲んだくれとか、ないない。


「起きてください、フリーデさん」


 エリカさんが肩を揺すると、フリーデと呼ばれた女性は小さく唸ってゆっくりと身を起こす。

 半開きの瞳と、ぼさぼさの髪に気だるげな雰囲気。

 僕の想像した剣の師匠像とは大分かけ離れた人だ。


「んん?どこだ此処」


 フリーデさんは暫く辺りを見渡すと、合点がいったように手を叩いた。


「なるほど、指南役を受けたんだった」


 大丈夫…なのだろうか。




「今日からロイド様の剣の指南役をすることになったフリーデ・アーベル、です。よろしく…お願いします」


 後付感満載の敬語でフリーデさんは自己紹介してくれる。

 

「あぁ、難しかったら敬語は無しでいいですよ」

「そう?助かるよ。敬語は苦手でね」


 違和感しかしないので敬語は無しで言いと伝えると、あっさりと素に戻った。


 彼女は間違いなく剣の師匠となるようだ。

 さっきは突然のことで混乱していたが、此処は異世界。魔法的あれを使えば彼女のようなあまり鍛えているように見えない女性でも剣士になれるのだろう。

 その事を聞くと、魔法は使えないと返された。

 ではどうやって?


「あたしは何歳ぐらいに見える?」


 僕が疑問に思ったのを感じ取ったのか、フリーデさんが質問を飛ばしてきた。

 年齢が答えに関係してくるのだろうか?


「23ぐらいですか?」


 自分で考えても関連性など思いつかないので、素直に思ったとおりの年齢を伝える。 

 僕の返答が満足のいくものだったのか、ニッとフリーデさんは口角を吊り上げた。


「桁が一つ違うかなー」

「2.3歳?!」


 逆だよ、と突っ込みを入れられた。見た目は大人、中身は子供ではなかったらしい。

 曰く200歳。細かい数字は覚えていないとのこと。

 え?この世界の人間ってそんな寿命長いの?


「人ってそんなに寿命ありました?」

「人間はあたしの半分も無いな」


 普通の人は僕の知っているような寿命らしい。


 

「あたしは、竜人なのさ」


 そう言ってフリーデさんは髪をかき上げて小さな鱗の生えたうなじを見せる。

 此方を見る瞳は爬虫類のように瞳孔が縦に割れていた。

 蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。あれだ、捕食者の瞳だ。

 僕が硬直していると、フリーデさんはフッと笑って目を閉じる。

 再び彼女が目を開いた時は、人間と同じ丸い瞳孔に戻っていた。


「初めて見ると大体そんな反応になるね。こっちは亜人は殆ど居ないから、仕方ないっちゃぁ仕方ない」


 そうだろう、と、静かに傍観していたラナさんにフリーデさんが同意を求める。

 ラナさんの方は苦虫を噛み潰した表情をした。


 亜人。ファンタジー世界だけあってしっかり存在するらしい。

 僕はその事実と、初の人以外の種族との遭遇でテンションが上がっていた。

 見て見たいよね、エルフとか、猫耳とか。


「竜人はそれこそ人間と比べたら力が天と地ほどに違う。女だろうが、細身だろうか、人間と竜人の差の前には些細なものさ」


 そう言ってフリーデさんは立ち上がると、傍に立てかけてあった剣を取ってソファーから少し距離を置く。


「ちょっと剣を抜いていい?」


 エリカさんの方を向くと、頷いている。問題無いらしい。

 

「いいですよ」


 僕の返答を確認して、ゆっくりと鞘から剣が引かれる。

 鈍い金属光を放つ本物の剣だ。

 1.5メートルほどのそれは僕では持つことすら出来ないだろう。

 フリーデさんは此方に一度だけ目配せして、一閃。

 続けて二度、三度と剣を振った。


 目で追えない。それ程に速い熟練した剣捌き。


「不安は解消した?」


 それはもう、綺麗さっぱり。




「その人は剣の先生なの?」


 満足げにフリーデさんが剣を鞘に納めていると、これまで沈黙を保ってきたソニアが僕に聞いてきた。

 その目はフリーデさんの剣に釘付けである。

 あぁ、騎士になりたいって言ってる子だもんなぁ。


「私も剣を教えて貰えないかな?」


 期待の篭った目で見つめてくる少女に、教えて貰えるよと言ってあげたい所だが、あくまでフリーデさんは仕事である。ただ働きはしてもらえないだろう。

 あぁ、でも現実を突きつけるのも…。

 縋るようにフリーデさんに視線を向けると、


「最初は基礎だけだから二人や三人一緒に見ても効果は変わらない。その子がして欲しいなら、一緒に見てあげてもいいけど?」


 あっさり承諾した。

 流石です師匠。

 

 歓喜するソニアがフリーデさんに抱きつく。

 その手には白騎士物語りを持ったままだ。

 始めは満更でもなさそうに受け止めたフリーデさんだったが、ソニアの手にある本を見て限界まで目を見開いた。


「げぇ!白騎士物語り!」


 フリーデさんの口から女性らしくない声が漏れる。

 その目は心底気分が悪そうに歪んでいた。


 確か白騎士物語りは百年ぐらい前の実話を元にしたお話だったか。

 主人公である白騎士の容姿は、真っ白な全身鎧に、白い髪。

 フリーデさんは結構な高身長で、白騎士と同じような背丈。

 作中では白騎士の性別は明確にされていない。実は女だった可能性もある。

 挿絵が当時を元に作成していたのなら、ふと頭に浮かんだ白い鎧を着たフリーデさんは白騎士のイメージにピッタリだ。


「まさか、ね」


 取り合えず、一つ質問が出来た。





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