動きだす狂気
「臭い」
ボソッとひとりごとを言う。
明日から土曜日で学校も休みだというのに俺の心と空は曇ったままだった。
近道をするという選択は、少し失敗だったかもな。
裏道はあまりにも汚く生ゴミなどが散乱している。
速く帰れるが、衛生上の問題がある。
そんな事を考えていると頭上から冷たいものが降ってきたのを感じた。
とうとう雨も降ってきたか傘も無く最高に嫌な気分だ。
さっさとシャワーを浴びたい。
俺は走って帰路を急ぐそして、曲り角を曲がろうとした瞬間だった……!
「グチョ! プシュ……」
異様な音が聞こえた。
すぐに足を止める、道の先は薄暗くよく見えないが、何かが道の先にいることは分かった。
なぜかそれは見てはいけない物のような気がした。
しかし雨の臭いや生ゴミの臭いに混じって微かに臭う、嫌な臭い……
体全身から冷や汗が吹き出る。
脳が危険だと信号を送るが体は全く動かせない。
この嫌な臭いを俺は、知っているこの臭いは……
「チノニオイダ………」
「最近 彰君学校に行くのがたのしそうだね」
朝食を食べていると茜がそんなことを言った。
言われて驚いた。そんなに分かるのか?
「確かにそうだな……」
「へえ? 何で?」
友達が出来たんだと答えると少し茜は顔を曇らせたような気がした。
「どうした?」
あの明るい茜が暗い顔をするなんて珍しい。
「何でもないよ。それより今日も一緒に帰ろうね!」
「そうだな最近通り魔がここら辺に出るらしいからな……気を付けないと」
そう言うと、茜は驚いた様子で言った。
「え? ほんとに?」
「最近噂になってるだろ」
少し呆れた様子で俺が言うと
茜は
「大丈夫!彰君は私が守ってあげるよ」
と笑顔で言った。
準備を済ませて外に出ると昨日の夕方から降り出した雨がまだ降っていた。
「雨か……やだな」
少し悪態をつく
「私は、好きだよ! 雨の日は」
「へぇ 以外だな……でも何で?」
雨の日のいいところなんて、なかなか浮かばない。
「何か 全てを洗い流してくれそうじゃん」
「そうかな?」
俺には、分からんな……
月曜日の学校は嫌だなとか思いながら。学校に入った。なんだか校内が騒がしい感じがした。
「なんかあったのかな?」
茜が聞いてきた。
「さあ? なんだろうな?」
そんな話をしていると。
見知った顔がいたので聞いてみた。夜水だ……
「夜水、今日って何かあったか?」
夜水とは、あの日以来普通に接することを努めている。彼女が言わないのなら聞く意味もないだろうと考えている。
少しうろたえた感じがあったが。すぐに
「何か、集会があるらしいですよ。なんでも通り魔の事に関することだとか……」
「へえ……そうなのか」
それにしてもこのざわつきは変なのでは…
夜水は、俺の後ろにいた人物に気付くと声をかけた。
「朝凪さん……ですか?」
「そうですけど」
茜は、少し戸惑った感じで返事をした。
「はじめまして。黒川 夜水といいます。夜神さんから話を聞いてお会いしたいと思っていました」
「い いえ! 大丈夫です!」
変な事を言っている。
その様子に思わず笑ってしまう。
茜は、どうやら夜水のおとなしい感じが苦手でどうにも噛み合わないらしい。
話しているうちに、校内放送で集会があることが伝えられる。
「話は本当みたいだな……体育館まで行こうぜ」
「そうですね」「そうだね!」
こういう時は息ぴったりなんだな……
体育館内は、少し騒ついていた。
いつもそんなに静かなわけでもないが、今日は特に騒がしかった。
俺は茜と別れると、俺と夜水で6組の生徒が集まっている場所に行く。
生徒達を見てみると皆落ち着きがないのが分かる。
「なんで、こんなにも騒がしいんだろな?」
夜水に聞いてみた。
夜水は、少し考えこむと落ち着いた声で言った。
「日本は平和な国ですからね。こういう非日常には、対応出来ないんだと思います」
「夜水は、落ち着いているな」
「夜神さんだってそうじゃないですか」
確かに今の自分は、いつも以上に冷静だった。
どうしてなんだろうな?
しばらくすると校長の話が始まった。
校長の話は15分程続いた内容はやはり通り魔のことだった。
集団で帰ることやひと気のない所には行くななどの話だった。
いつもなら騒ついていて話などあまり聞こえないのに今日は、とても静かで校長声がよく聞こえた。
校長の話が終わると、次に名前は忘れたが確か2年2組の担任の教師が壇上に上がった。
この教師の始めた話は全校生徒を一瞬で騒つかせることになった。
「金曜日の夜から2年2組の犬飼 守と言う生徒の行方が分からなくなっている。誰か心当たりのある奴はいないか?」
この瞬間、全校生徒が一瞬で騒ついた。
落ち着いていたと言っていた俺自身、悪寒が走るのを感じた。
教師は行方不明としか言わなかったが、ここにいる全ての生徒が分かっていると思う
犬飼は通り魔にやられたんだと
俺達が狙われる立場になってもおかしくないんだと
その事が生徒達に目に見えない恐怖を与えていた。
集会が終わった。
皆ぞろぞろと体育館から出る。
結局犬飼の行方を知る手掛かりを持っている生徒いなかったようだ。
俺は、夜水に気になることがあって聞いてみた。
「犬飼って一年の時転校して来た奴だよな?」
そんな話を聞いたことがあったような気がした。
「ええ……確か京都の高校から転校して来たって言っていたような……そういえば一年の時同じクラスでした。おとなしい感じの人でしたね」
「へえ… …一緒のクラスだったのか」
「全く喋ったことはないんですけどね。」
「そうか……まあ何にせよこれからしばらく気を付けないとな」
「大丈夫ですよ……」
夜水にしては以外な返答だった。
俺は、少し驚く。
夜水は続けて。
「夜神さんは、私が絶対守りますから……」
その夜水の真剣な表情に俺は何も言えなくなった。
校舎に入ってすぐに茜が後ろからやって来た。
茜は、一瞬夜水を見て複雑そうな顔をしたような気がしたがすぐに笑顔になっていた。
あれ? 気のせいか?
「校長の話長かったね!」
茜が明るい声で言った。
お前はどんな神経してるんだよ……
「朝凪さん不謹慎ですよ」
夜水が小さな声で注意した。
「まさか校長の話を長かったと言うのが不謹慎と言われる日がくるとはね」
茜が複雑そうな表情で言う。
「まあ……確かにそうだなでも今のお前はとても不謹慎だぞ」
そんな話をしていると。
急に茜が気になることを言い出した。
「そういえばこの事件を生徒会が調査してるっていう噂があるらしいよ」
「へ? 生徒会がか?」
素っ頓狂な声が出た。
夜水もその話に興味があるらしく
「本当のことなんですか?」
と少し食いついた。
「さあ? あくまでも噂のレベルだからね」
「生徒会がその事件を調べてもメリットあんのか?」
「さあ?私も聞いただけだから」
歯切れが悪そうにそう言うと
「それじゃそろそろ教室に行ってるね」
と元気に駆けて行った。
「ああ……またな」
茜と別れを告げてしばらくすると、やはり生徒会の話になった。
「どう思いますか? さっきの茜さんの話」
「生徒会が事件を調べてるってやつか?」
「ええ……」
俺は、即答した。
「単なる噂だな、生徒会に事件を調べる理由が無いと思うそれに、所詮生徒がどれだけ頑張っても無理なことは優秀な生徒会なら分かってるだろ」
そう生徒会は、優秀なのだ毎年生徒会長には以外にたくさんの生徒が立候補する。
その中から全校生徒が一人を選んで投票する。
つまり顔の良さや性格の良さ頭の良さが全てそろっている人が生徒会長に選ばれるのだ。
そしてその選ばれた生徒会長が副会長や書記を任命していくという少し変わった制度になっている。
今年の生徒会長選挙は圧倒的な票数の差つけて
「赤坂 凜」と言う生徒が生徒会長になった。
見たことはないが、とても美人で優しい人らしい。
まあ会長以外の名前は知らないが生徒会長の名前ならこの学校の生徒なら例え新入生でも知らない人がいないくらい有名で、優秀な生徒なのだ。
夜水ならこの意見に賛成すると思ったが以外にも
「そうでしょうか……私は以外にあると思いますよ。」
「へえ? 例えばどんな?」
「それは、はっきりしませんが……なんだかこの事件には裏があるような気がして」
俺もなぜかこの事件には裏があるような気がしていた。
「どっちにしても生徒会が動く理由がないだろ」
俺がそう言うと、夜水はしばらく考えていると小声で……
「関連性は無いとは言えない……調べてみる価値はあるかも」と言った。
「えっ? それってどういうこと……」
「あ! いえ……気にしないでください。」
なんだか深く考え込んでいる様子だった。
「まあ、なんかあったら相談してくれよ」
そう言うと夜水は、少し考えてから。
「相談……そうだこれからは一緒に帰りましょうよ!」
え? 少しビックリする。
「な? なんで?」
「いいじゃないですか! 通り魔が出るんですよ女の子一人で帰るのは危ないじゃないですか!」
そうなると俺の身も危ないんだけど……
つーか相談じゃなくてお願いじゃねーか!!
「家が、俺と逆方向なんだけど……」
「気合いでなんとかしてください!」
どうやら俺は気合いで下校の道を往復しなければいけないらしい。
「朝凪さんを家まで送り届けた後に学校まで戻って来てくださいね!」
「俺の気持ちが配慮されていない!」
俺は、インドア派たぞ!
体力は、ある方ではない…
「そうだ! 他の奴に頼めば……」
「そうですか……友達を見捨てるのですね」
「くそ! ここまでか!」
その言葉は卑怯だ!
「一緒に帰りましょうね!」
俺は、仕方ないといった感じで頷いた。
「やったーー!」
夜水は、満面の笑顔で喜んだ。
でもまあこの笑顔が見れるならいいかな……
「それじゃ約束ですよ!」
「仕方ないか……」
俺は少し無愛想な感じに言った。
俺は、茜を探していた。
約束してしまったが、茜に伝えておかないと後で何を言われるか分からないからである。
4組の教室に行くと茜は、クラスの子と楽しそうに話をしていた。
「よう! 茜!」
「あれ? 彰君が訪ねて来るなんて珍しいね!」
茜は、少し嬉しそうだった。
俺は、さっき夜水と約束したことを茜に説明した。
「ダメだよ! そんなの彰君が危ないよ!」
茜は、本気で心配してくれているようだ。
俺は、改めて茜に申し訳ないと思った。
いつも俺が心配をかけてばかりだな……
「別にいいよだって。 それに夜水のことも心配だし」
「最近、ソイツのことばっかだよね……」
とても 冷たい声で言った。
「えっ?」
今まで、聞いたことの無い声に少し驚く。
茜がそんな声を出すなんて知らなかったからだ。
「あ! 今言ったことは忘れて!」
笑顔で言ったが、その笑顔は何か取り繕っている感じがした。
「とにかく俺は大丈夫だから気にするな」
「そういうわけにはいかないよ……じゃあ私も黒川さんの家まで着いて行くよ。それなら彰君が私の家に寄る必要も無くなるし!」
確かにいい提案だったが、俺はそれを聞き入れられなかった。
茜が少しでも危険な目に遭う可能性が高くなってしまうのだ。
茜の身に何かあったら俺は、自分を許せなくなる。
「大丈夫! 大丈夫! 俺が約束したんだから、俺が責任は持つよ」
と笑って言った。
「でも……」
「おいおい しつこいぞ」
俺が笑いながら言うと、茜は不機嫌そうにしていた。
「じゃあ、そういうことで」
そう言って教室に戻ろうとすると……
「せめて……せめて夕飯までには帰って来てね」
茜は悲しそうに言った。
俺は、大きく頷いて返した。
「約束だよ………」
俺は、振り返らないように自分の教室に戻った。
朝凪茜は彰が去って行ったのを見送り、大きな溜息を吐いた。
「あんたの彼氏浮気しちゃうよーー!」
教室にいた友達が冷やかしてきた。
「そんなんじゃないよ。 もう……」
呆れた顔で言う。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
と言って教室から出る。
とても授業を静かに受けられる気分ではなかった。
とてもムシャクシャする。
私は、屋上に行くことにする。
屋上に着くと以外に風が強くて気持ちいい。
叫びたい気分だがそういうわけにはいかない。
黒川が現れてから私はイライラしてばかりだ。
さすがに彰も薄々気付いてきていると思う。
もっと慎重で冷静にならなければ……
やっとこの幸せな生活を手に入れたのだ
あの地獄のような日から
失うわけにはいかない
黒川の奴はいずれ潰すがまだ強攻策にでる必要もない。
しかし警戒しなければ
「くそ…… 絶対殺す!」
つい言葉が出てしまう。
落ち着こう……黒川のことは今どうでもいい、考えるべきは[アイツ]のことだ。
[アイツ]は私の『罪』を知っている。
何者だあの………
「『罪人』は……」