幸せな朝に
「…きて… 起きて……起きてってば!」
声が聞こえる。もう朝か……
「そんな大声だすなよ」
寝起きの頭にコイツの声は、ガンガン響く。
「これぐらいじゃあないと彰君は、起きないでしょ?」
目の前の少女は、呆れたように話す。
「ほら、遅刻するよ。速く支度してよね!」
朝から元気なコイツの名前は、朝凪 茜毎朝俺を起こしに来てくれる幼馴染である。
パッチリとした瞳にウェーブのかかった髪、美しいと言うよりも可愛いらしい女の子である。
いい奴なんだけど朝にこんな大声を出さなくても……
「もう……そんな時間か」
とても眠いな、くそ
「今日から高校二年生になるんだからしっかりしてよ。って! ねるなーー!」
「おぉ すまん。つい ウトウトしてしまった」
「もーー! 大丈夫?とっても心配なんですけど!」
「大丈夫だよ……すぐ準備するから。ちょっと外してくれ」
すると、茜はにっこりすると部屋から出ようとしたところで…
「制服着崩したらだめだよ。彰君は身だしなみをしっかりすればかっこいいんだから!」
相変わらず元気だな。
「ああ、大丈夫だ朝食準備していてくれ」
「えっ? 今日って私の当番だっけ?」
おいおい……
「お前は、いつもどこか抜けてるよな」
「やば! 速く準備しなくちゃ!」
「美味しいのを頼むぞ」
「りょーかい!明日は、彰君が当番だからね」
小さく頷いて返す。
「それじゃあ 下で待ってるから!」
そう言うと扉を閉めて去って行った。
すぐに小走りで階段を下る音が聞こえる。
せっかちな奴だなでも……
「母親ってあんな感じなのかな……」
小さくつぶやく自分は、母親というものを知らなかった。
俺が小さい頃に両親は亡くなったらしい…そのショックで俺はその時以降の記憶が無い。
何もかも無くしてしまった俺を助けてくれたのが茜だった。
茜のおかげで俺は、人の優しさや暖かさが分かった気がする。
ついでに俺は、夜神 彰。今日で茜といっしょに高校二年になる。
朝食の時は、何気ない話をする。
いつも通りのことである。
「美琴さん、またしばらく仕事で帰って来れないらしいぞ」
俺がなんとなく話す。
美琴さんは俺の叔母さんにあたる人で本名は、
森野 美琴身寄りのない俺を引き取って育ててくれた人だ。
独身で基本仕事で家には居ない。
だからよく茜が、家に来て手伝いをしてくれているのである。
美琴さんもこれは認めてくれている。
「ふーん……美琴さんも大変だね」
「俺も何か手伝いたいんだけどな……」
そう言うと、俺はコーヒーを一気に流し込む
「ごちそうさま」
「もう いいの?」
「ああ」俺は食べ終えた食器を持って台所までいくと
「彰君のお母さんとお父さん速く帰ってくるといいね……」
少し小さな声で茜が言う。
「……………」
少し間を置いて「そうだな……」と返す。
茜には、両親は失踪したと話している。
茜は、とても優しいやつだ。
きっと俺に変な気を遣うだろう。
だから本当のことを言ってもギクシャクするだけだと思うし、今の暮らしはとても幸せだった。だから小さなことでこの幸せが壊れてしまう気がしていた
「ごちそーさま!」
そう言うと食べ終えた食器を持って茜がトコトコやって来て、俺の横で食器を洗い始めた。
いつも通りのことだがとても幸せだった。
「いつも ありがとうな……」
聞き逃すかもしれないほど小さな声で言った。
茜は、少し驚いたようだったが
「こちらこそ……」
小さな声で答えた。