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忘却のアルテミス  作者: 二四野 鏡
落ちこぼれの編入生
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別の理

 レアルが学院に編入してきて数日が経過した。

 初日こそ、クラスメイトやその他大勢に注目されたが、今ではそれもぱったりと消えた。元々レアルが平民で気に留めることでもなかったからというのも理由の一つだろう。

 けれど、その日から別の問題が発生していた。

 物珍しさでレアルに注目する生徒はいなくなったが、レアルを目の敵のように睨んでくる生徒が増えたのだ。主に男子生徒に。

 その理由はレアルのクラスメイトであるアイシャとの関係だ。

 アイシャはこの学院の中では有名人だった。

 普通ならば舞踏会などでしか会うことのできない相手。貴族なら誰もがお近づきになりたいと思うだろう。

 そんな彼らにこの学院はとても都合がよかった。

 たまにしか会えない舞踏会で彼女に求婚してもいい返事は貰いえない。

 けれど、この学院にいる間なら毎日会うことが可能だ。貴族たちは卒業するまでに親しくなっておけばあるいは、などと考えているのだろう。

 レアルは一人の少女に固執しすぎだと思ったが、公爵家の長女というブランドは思った以上に貴族を引き付けるようだ。それに王家の血を引いているというのもあるのだろう。

 爵位や分家であることを抜きにしてもあの容姿だ。男なら何かしらの関係を持ちたいと考えることも不思議ではない。

 そんな中現れたのがレアルだった。

 学院に編入してきたただの平民(貴族から見たら)。その平民が食堂でアイシャと親しげ(実際はそんなに親しげではない)に話しているという状況は貴族たちには好ましくなかった。

 平民に先を越されたと思い、勝手に自分の自尊心プライドを傷つけて逆上するのに時間はかからなかった。

 編入二日目の朝、教室に行くとレアルを見て小声で話す生徒が増えた。

 その理由は学院に流れた噂が原因だ。

 アイシャの事を脅している、汚い手を使ってアイシャを無理やり従わせているなど、根も葉もない噂が学院中を飛び交っていたのだ。

 これにはレアルも呆れるしかなかった。一瞬、この学院の生徒はどうなっているんだと学院長に問い詰めようか考えたくらいだ。

 だが、この件に関しては学院長は特に関係はなかったので断念した。

 噂の方にしても数か月の辛抱だと自分に言い聞かせて完全に無視することに決めたのだ。

 そして、そのレアルが今何をやっているかというと、

「・・・・・Zzz」

 爆睡していた。

 この数日でレアルの指定席のようになった一番後ろの窓際の席で温かい日差しを浴びながら、鼻提灯でも膨らませそうなくらい気持ちよさそうに寝ていた。

 元々、レアルはこの学院に編入する気なんてなかった、というか編入すること自体知らなかったので授業もまともに受ける気はなかった。

 編入当初はあまり目立たず受けているふりでもしていようと考えていたが、編入二日目でもう色々と吹っ切れたのだ。

 噂の所為でこの学院でのレアルの評価はどこぞの悪人並に悪いのだからこれ以上落ちるところもないだろうと思い、レアルは自重することをやめた。

「レアル・フリーシア!」

 けれど、授業中にそんなに堂々と寝ていれば起こされるのは当然で、流石に無視するわけにもいかずレアルはむくりと起き上った。

 教卓の方を見てみるとレアルの方を睨みつけている教師がいる。それはこのクラスの担任でもあるミレイナであった。

「どうして、毎回寝ているのですか!」

「いや、ちょっと寝不足で」

「それ昨日も聞きましたよ?」

「じゃあ、今日も寝不足で」

「言い直しを要求したのではありません!」

 他の授業の教師はすでにレアルに注意することを諦めているというのに、つくづく真面目な人だ。

 ミレイナは疲れたようにため息をついて手に持っている本に目を落とす。

「では、レアル・フリーシア。個人が扱える魔法の種類について答えなさい」

「・・・・えっと、『基礎魔法』、『属性魔法』、『複合魔法』、あと特殊な例を入れたら『古代魔法』とか」

「・・・・正解です」

 ミレイナはどこか悔しそうに顔を歪めて授業を再開した。

 このやり取りもレアルにとってはほとんど恒例化したものだった。

 また、寝てしまうとミレイナに怒らせそうなので残りの時間は起きていることにした。レアルは大きな欠伸をして黒板を見つめる。

 現在の授業では一年の時の復習をやっているようだ。

 黒板には大きな魔法陣が書かれており、横には様々な解説が書かれている。

 古い本によれば、魔法は本来この世界に存在しなかったもので、世界の理に当てはまらないようだ。レアルは前に読んだ本にそんな風なことが書かれていたなぁ、と思い出す。

 その本の言葉、レアルはあながち間違いではないと思っている。

 この世界の理、つまりは物理法則とか自然現象といったものを完全に無視して、全く別の方法で自分の願った現象を実現させる。

 魔法は別の理、本当は無いもの、つまり世界に対する嘘だ。

 人は魔法という嘘を使って世界を騙す。もし、世界に人格があるならそれは疑うことを知らないのか、余程の馬鹿だろうとレアルは思った。

「ま、流石にそれはないだろう」

 レアルはそんな馬鹿なことはあるわけがないと苦笑する。

 思考を止めてもう一度黒板に目を向ける。

 どうやら、魔法の発動の仕方について書かれているようだ。

 魔法を発動させるためには、魔力、魔法陣、呪文が必要となる。まず、発動させたい魔法陣を展開させ、呪文を唱えて、魔力を流すことで魔法が発動するのだ。

 魔法の補助的な道具として魔具というものがある。

 魔具というのは魔石と呼ばれる鉱石から作られた道具だ。魔石には周囲の魔力を取り込んでため込む性質を持っている。これを利用して魔法陣に魔力を流す速度を上げることができる。

 必ずしも持っていなくては駄目というものではないが、あったらいいという代物だ。

 魔具の形状は指輪が一番多い。

 それは何故かというと、魔石が取れにくいためだ。魔石は長年魔力をため込んだ鉱石、なので魔力が潤沢にある土地でしか取れない。そういった土地がいくつもあるわけではないし、魔力が潤沢な土地には精霊が住み着いていることが多いため、取れる数は多くない。

 それに魔石は基本的に国が管理している、もっと詳しく言えば軍部の管轄だ。当然、魔具の生産も軍部に委託される。なので少ない魔石で多く量産できるように考えた結果なのだろう。

 次に先ほどレアルが答えた魔法の種類だが、『基礎魔法』、『属性魔法』、『複合魔法』、『古代魔法』以外にも『儀式魔法』、『大規模魔法』、『精霊魔法』とさらに三種類ある。

 『基礎魔法』は全ての魔法の原点と言われていて魔法を扱うものなら誰もが使えるものだ。魔法と言っても魔法陣は展開されないため『無法陣魔法』などとも呼ばれたりする。

 武術に例えると、体力作りや型を覚えるための足運びといった基礎の基礎といったところだ。

 内容は自分の魔力の操り方や魔力の形質化、肉体に魔力を循環させて強化したり、治癒力を高めたりなど。あまり実戦で使えるようなものはなく、初心者の練習用の魔法だ。

 他の全ての魔法にこの『基礎魔法』の技術が使われているそうだが、それが何なのかははっきりしていない。

 『属性魔法』は自然界の属性を魔法に付与したものだ。その属性は火、水、風、土、光、闇の六種類がある。

 この六種類の属性には単に自然界の現象を起こすだけでないくそれぞれ正と負の性質があり、それによって様々な効果を生み出す。

 火属性の性質は活性と破壊。

 水属性の性質は治癒と減衰。

 風属性の性質は増幅と隠蔽。

 土属性の性質は錬金と奪取。

 光属性の性質は浄化と消滅。

 闇属性の性質は混沌と侵蝕。

 『属性魔法』というのはこの全ての属性を誰もが使えるわけではない。個人が扱える属性は体に流れる魔力の属性によって決まる。

 火の魔力を持つものなら火属性、水の魔力を持つのなら水属性と生まれながらにして決まっているようだ。大抵の魔導師は生まれながらに二種類の魔力を持っているのだが、ごく稀に三種類や一種類だけの魔力を持つ者もいるそうだ。別の種類の魔力が後から増えるということはあまりない。学者は生まれた時の環境や血筋が何らかの影響を与えているのではないかと考えている。

 そして、魔力にも相性というものがある。魔力同士の相性が悪いものを反属性と呼ぶ。

 それぞれの反属性は火と水、風と土、光と闇となっている。

 さらに魔法は威力や効果によって『下位魔法』と『上位魔法』に分けられる。

 そして、火、水、風、土の属性は『上位魔法』になると炎、氷、雷、岩の属性へと変化する。けれど、変化するのは属性だけで性質はそのままだ。

 光と闇の属性は変化しない。それはこの二つの属性自体が『上位魔法』に分類されるからだ。

 この二つの属性は強力なため、その魔力を持っているものも少ない。

 ちなみに光と闇の魔力は王族や名のある貴族が持っていることが多い。

 『複合魔法』はその名の通り別の属性を合わせて発動する魔法だ。

 例えば、火の塊を放つ魔法【火球ファイアボール】という魔法に風属性の魔法を掛け合わせると、【火炎球フレイムボール】になる。自然界でも火が風の力で勢いを増すように、火属性に風属性の性質である増幅を付与したのである。

 このようにそれぞれの属性や性質を掛け合わせてより強力な魔法を生み出すことができる。 

 けれど、何でも掛け合わせられるわけではない。

 『複合魔法』で掛けわせることができる属性の数は最大で三種類まで。これは三種類の魔力を持つ魔導師が少ないのと多すぎると魔法の制御が難しいからだ。

 『複合魔法』は単一の魔力だけを流す『属性魔法』とは違い二種類以上の魔力を必要とする。しかも、二種類の流す魔力は均等ではない。そこがこの魔法の難点だ。

 魔法は魔法陣に魔力を流すことで発動するが、『複合魔法』の場合流す魔力が決まっている。それは掛け合わせる属性の効果を発揮させるためだ。

 どちらかの魔力が多すぎても少なすぎても駄目で、『複合魔法』を使うにはかなりの訓練が必要だ。

 ちなみに反属性の『複合魔法』はあまり多くない。

 『古代魔法』は謎の多い魔法だ。この魔法には決まった形などはなくどれだけ存在しているのかも分からない。

 一子相伝の技術だったり、特別な血筋でしか使えなかったりと魔力以外にも制限がある。

 『古代魔法』を使う魔導師は少なく、レアルも実際に見たことはなかった。

 最近では『古代魔法』自体が眉唾物で存在しない魔法だとも言われている。

 『儀式魔法』は魔力以外にも触媒を必要とする魔法だ。

 この魔法は人が魔法陣を展開して発動するものではなく、建物の壁や床に魔法陣を刻み込んだり、魔石などの触媒を配置して発動したりする。

 よく古い遺跡などの中にその祭壇があったり、儀式の内容がまとめられた書物があったりする。けれど、どれも使い方が分からなかったり、字が掠れて読めなかったりというパターンが多い。

 一昔前には人を生贄にして異界から神を召喚するという魔法があったなど言われていたが本当かどうかは定かではない。もし、あったとしてもそんな異教徒の集団がやりそうなことは誰も手を出さないだろう。

 『大規模魔法』とは戦争で運用される戦略魔法の事だ。

 少なくても二十人、多くて百人ほどで行われる強力な『複合魔法』だと思えばいい。

 今はどの国も戦争はしていないが、五十年ほど前は世界はかなり荒んでいて、今の時代のように国同士の交流などほとんどなかった。

 その所為か、些細な問題でも戦争に発展してしまうような時代だったようだ。だが、ある戦争を境に終戦となった。

 『大規模魔法』はその頃に盛んに研究されていた魔法で今も残っている。

 今はそれぞれの国の友和が進んでいるが、まだ研究は続けられている。

 『精霊魔法』は精霊自体が使える魔法や人間が精霊の力を借りて発動させる魔法の事だ。

 精霊にも『属性魔法』と同じように属性があり、単一の魔力しか持たない。なので精霊は『複合魔法』を使うことはできない。

 けれど、精霊しか使えない特殊な魔法を持っており、それは『固有魔法』と呼ばれている。

 精霊と契約した人間は精霊から加護を受けることができ、精霊魔法を使用することができる。この加護というのは魔法を使いやすくしてくれたり、魔力が増えたりなど効果は様々だ。

 レアルは黒板の前で授業をしているミレイナの話を聞き流しながらふと思った。

 魔法はもともとこの世界に存在しなかった嘘。この世界の理とは違う理。

 ならば、その嘘はいったい誰がついた嘘なのだろうか?

 何のためについた嘘なのだろうか?

 柄にもなく小難しいことを考えているなとレアルは頭の中の思考を払った。

 魔法が何のために作られたとか、誰が作ったとかどう考えても分かりっこないのだ。それを突き止めたところで誰かが得するわけでもない。

 すると、考え事をした所為かレアルはまたも睡魔に襲われていた。

 時計を見ると授業時間はあと十分ほど、これなら寝ていても気づかれることはないだろうと思い、レアルは瞼を閉じた。

 瞼を閉じると目の前には闇が広がり、だんだんと意識も薄れていく。

「寝るな!!」

「のわぁっ!?」

 ミレイナの怒声が聞こえた後、レアルの眉間に衝撃が走る。その衝撃によりレアルの体は後ろに大きく仰け反り、盛大に後ろに倒れこんだ。

 レアルは目を開けて衝撃の正体を確かめた。倒れたレアルの横に落ちていたのはミレイナが持っていた分厚い教本だった。

 教卓から一番遠い後ろの席にいるレアルに向かって投げてきたようだ。ミレイナは見かけによらず運動ができるようだ。

「レアル・フリーシア、昼休みに職員室に来るように!!」

 それを聞いてレアルは大きなため息をつく。本当に熱心な先生だ。

 それからしばらくして授業終了の鐘が鳴り響いた。



  ◇◆◇◆◇◆



「はぁ、疲れた」

 レアルは若干ぐったりした様子でため息をつく。理由は先ほどまでミレイナからお説教を食らっていたからだ。

 昼休みが始まって約三十分間、これ以上はお互いに昼食の時間が無くなってしまうからという理由でやっと解放されたのだ。

 他の教師はもうすでにレアルに対して注意すらしないのによく頑張るなとレアルは感心する。

 職員室から食堂に向かったレアルはここ数日で定番になってしまった日替わりランチを注文した。他にもメニューはあるのだが食べたことのないようなものよりこういったものの方がレアルにはちょうど良かったのだ。ちなみに毎回どんなものが出てくるかも一種の楽しみであったりもする。

 昼休み開始から時間がたっているのでいつもより人は少ない。けれど、レアルに対する軽蔑の視線はどこに居ても付きまとっていた。

 だが、それももう慣れたものでレアルは全く気にしていなかった。

 かといって、また面倒事に巻き込まれるかもしれないので食堂にはあまり長居はしないようにしていた。

 今日もとっとと昼食を済ませてしまおうと料理に手を掛けられたところで誰かに声を掛けられた。

「お、もしかして、あんたがレアル・フリーシアか?」

 そう問いかけられてレアルは何も答えず、うんざりしたような目で声を掛けてきた人物を見た。

 背丈はレアルと同じくらいで茶髪に緑の瞳、表情はそれほど硬くなく爽やかな好青年といった印象を受けた。その男子生徒の背中にはいつぞやの金髪やアイシャと同じ青いマントがついていた。

「席はどかないからな」

「え?ああ、俺はそういうんじゃないから」

 男子生徒はレアルの返答に一瞬だけきょとんとするが、すぐに否定した。

 レアルはそこに少し違和感を感じた。違和感と言っても悪い意味ではなく、他の生徒との違いを感じたのだ。

「座ってもいいか?」

「・・・・どうぞ」

 レアルが相席を了承すると男児生徒はレアルの前の席に座った。

 男子生徒からはレアルに対する嫌悪の感情は見受けられなかった。むしろ、好意的な目で見ている感じだ。

「一応、自己紹介しとくか。俺の名前はカイト・オルフェウス。見ての通りお前と同じ二年だ」

「・・・それで、オルフェウスはなんか俺に用でもあんのか?」

 この学院でレアルに必要以上に関わろうとする人間はいない。なのでレアルは早く要件を聞いてお引き取り願おうと思ったのだ。

「カイトでいいって。用ってほどのもんじゃないけど、ちょっとどんな奴が見てみなくなってな」

 本当に用ってほどのもんでもないな。どうやら単なる暇人のようだった。

 すると、カイトはレアルを見ながらう~んと唸る。

「男に見られる趣味はないんだが?」

「いや、案外普通なんだなぁって」

「何がだ?」

「氷姫の鉄仮面を剥がしたやつだからどんな美男子かと思ったが・・・・」

「悪かったな、期待外れで。ていうか氷姫って誰だよ?それとなんだ、鉄仮面?」

「あれ、知らないのか?公爵家のお嬢様だよ」

 どうやら氷姫とはアイシャのことだったらしい。有名人には渾名の一つや二つあってもおかしくはないか。

「あのお嬢様ってさ、容姿端麗、頭脳明晰、魔法の才能もずば抜けて、公爵家の一人娘。この学院の男子たちがほっとかないのは分かるだろう?」

「まぁ、何となく」

「入学した当初はお近づきになろうと毎日お嬢様の教室にこぞって男子が詰め寄ってきてな。おまけに女子にも人気あるから半端なかったぞ」

「そりゃ、すごい」

「けど、お嬢様は誰のどんなお誘いも受けず、冷たい言葉で一蹴したんだ。この学院の半分くらいはお嬢様にフラれてんじゃないかな。それでついた渾名が氷姫。鉄仮面っていうのはあんまり表情が変わらないからだ」

 レアルは数日前のアイシャにあった時のことを思い出す。確かにアイシャは微かに感情を見せるくらいだった。

「ところがあるとき、彗星のごとく現れた編入生は何と!!一日でお嬢様を籠絡して、全学年の男子の悲願であったお嬢様とのお食事を強要させたのであった!!」

「勇者が現れたみたいに悪事を語るな」

 カイトは突然芝居がかった口調で訳の分からない解説をしだした。

「てな噂が学院中に広まってるけど、実際そこんところどうなんだ?」

 レアルは結局はそれか、と深いため息をつく。単なる真相を知りたいだけの野次馬。

「あのお嬢様を籠絡した覚えはないし、悲願のお食事とやらも強要させた覚えもないな」

「お~やっぱりか。けど、じゃあなんでお前はお嬢様と食事してたんだよ?初対面だったんだろ?」

「いや、前に図書館で会ってたようだ。それでそん時のお礼を言いに来たらしい」

「図書館?あの馬鹿でかいところか」

 カイトが思い出したように呟く。あまりカイトには縁がなさそうな場所だ。

「へぇ、礼を言われるようなことしたのか?」

「ただ、持ってた本を渡しただけだ」

 すると、レアルは不意に立ち上がる。

「あれ、便所でも行くのか?」

「飯は食い終わったからな、教室に戻るんだよ」

 そう言われてカイトはレアルの持っているトレイを見る。皿に盛られていた料理はすでに全てなくなっていた。

 レアルはカイトとの会話の間で食事を続けていたのだ。

「それじゃあな、オルフェウス」

「もう行っちまうのかよ。もっと話そうぜ」

「俺は質問攻めは嫌いなんでね。しゃべり足りないなら他をあたるんだな」

 レアルは後ろを向いて手に持った食器を片づけに行った。

「あ、俺今度の魔導大会に出るからな~」

 後ろからカイトが大声で言ってきた。

 一瞬何でそんなことを言うのか疑問に思ったが、レアルは後ろは振り返らずそのまま食堂の外に向かった。

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