編入生
「編入早々、遅刻するとはどういうことですか、レアル・フリーシア?」
遅刻したレアルに対して刺々しい言い方で理由を求める教師。
栗色の髪を三つ編みにして、きりっとした銀縁メガネにスーツ姿。レアルの印象ではいかにも仕事ができそうな女性といった感じである。
遅刻に関してはレアルに非があるわけではないのでどう説明すればいいか困っている様子である。
「それについては私が説明します」
「学院長代理が?」
肩書きだけって言っても認知はされているんだな、と少しレアルは驚いた。
「今回、彼が遅刻した原因は私が学院長の言伝を頼まれていたからです。その話が少々長くなってしまい始業時間に間に合わなくなってしまいました。誠に申し訳ありませんでした」
セルフィは事情を説明した後、深々と頭を下げた。
彼女の動作は一つ一つが精練されていて無表情で告げられる謝罪でもかなり誠意が込められているように見える。
教師の方も自分より上の立場の人物に頭を下げさせて居心地が悪くなったのかすぐに顔を上げるように促した。
「と言うわけなので、今回の遅刻に彼の非はありません」
「分かりました。この件に関してはお咎めなしとしておきます」
「ありがとうございます。では、後のことをお任せします、エディプス先生」
そう言うとセルフィは一礼してその場を後にした。
「レアル・フリーシア」
「え?」
「え?ではありません。今回はお咎めなしですが、次からはこのようなことはないようにしてください」
「あ、はい」
何故か、最終的にレアルが悪いようにまとめられてしまった。当の本人は本当に悪くないというのに。
レアルは釈然としないまま返事を返した。
やる気のなさそうな返事が気に障ったのか教師の顔は少し険しくなる。
けれど、それ以上の追及はなかった。
「では、自己紹介です。私はこのクラスの担当のミレイナ・エディプスです。よろしくお願いします」
「どうも」
「ホームルームの時間も少ないので手短に説明させてもらいます。まず、私が中に入ってクラスに編入生が来ることを伝えます。そして、あなたは私が声を掛けたら中に入ってください。分かりましたか?」
「了解」
レアルが了承したことを確認するとミレイナは教室の中に入ろうとする。
けれど、ドアに手を掛けたところでレアルの方に振り向いた。
「あと、院内ではあまり問題を起こさないように。もし、起こした場合は自分で解決するようにしてください」
一言忠告を残してからミレイナは教室の中に入って行った。
「何で俺が問題を起こすの前提みたいになってんかな?」
ミレイナの言葉を思い出してレアルは自分の信用度の低さを実感した。
「ま、いいけど」
レアルは壁に背を預けて教室の中の声を拾った。
『皆さん、おはようございます。まずは時間に遅れてしまって申し訳ありません』
生徒に対して敬語を崩さないところを見るとミレイナは根っからの真面目根性が染みついているようだ。
『ホームルームを始める前に今日は皆さんに紹介したい人がいます。前に話していた編入生です』
ミレイナの言葉を聞いて教室の中がざわざわと騒がしくなる。
中の生徒が編入生であるレアルに対して想像を膨らませているのであろう。
『静かに!編入して間もない間は何かと不慣れなこともあると思うので皆さんで手助けをしてあげてください。では、入って』
レアルはミレイナの合図が聞こえたので教室のドアを開いて中に入った。
先ほど騒いでいた時とは違い、中は静まり返っていた。
レアルは教卓の横まで行って生徒たちの方に向き直る。
教室は後ろに行けばいくほど机が高くなっていく構造になっておりクラス全体の視線がレアルに集中していた。
「それでは、自己紹介を」
「レアル・フリーシアだ。これからよろしく」
無難な自己紹介をした後に少し頭を下げて締めくくる。
レアルに注がれた視線は様々なものだった。その中に期待や歓迎といった視線は多くなかった。一番多いのは裏切られた期待から来る落胆だった。それ以外のものはほとんどが興味なさげに見つめている。
そういった視線を向けられるのはレアルが平民だということだろう。
この学院では貴族と平民を見分けるために貴族の生徒にマントの着用を義務付けられている。
レアルのクラスも大半の生徒が青いマントを付けている。ちなみにマントの色は一年が赤、二年が青、三年が緑と分けられている。
けれど、そんな視線を向けられている当の本人は全く気にした様子はなかった。
「自己紹介も終わりましたね。それでは、あなたは空いている席に座ってください」
レアルは空いている席を探すと一番後ろの窓際の席を見つけた。他の生徒が散らばって座っているところを見ると毎回自分の席は自由に選ぶようだ。
教室に二つある後ろへと続く階段を上っていくとレアルは見知った顔を見つけた。
それは学院に来て間もないころに図書館で出会った少女だった。その横にはもう一人の少女もいた。
だからと言ってレアルは少女たちに声を掛けるほど親しい間柄ではないので何事もないように通り過ぎていった。
レアルが着席したのを確認してミレイナがホームルームを始めた。
ミレイナの話も聞かずレアルは窓の外を見ながら欠伸を漏らした。
そして、しばらくしてホームルームが終了して授業開始の鐘が鳴り響いた。
◇◆◇◆◇◆
その後の時間は特に何事も起こることなく過ぎて行った。
編入生が来たからと言って他のクラスメイトから質問攻めになることもなく、というか歓迎されている雰囲気でもなかったのでレアルに近づいてくるものはいなかった。
初めて受けた授業の内容もレアルにとっては一度受けたことがある内容ばかりだったので適当に聞き流していたのだ。
そのため午前中にレアルがやっていたことと言えば、窓の外をぼんやりと眺めているか、せめて初日くらいは寝ないでおこうと襲いかかる睡魔と闘っていたことぐらいだった。
そして、午前の授業を終えたレアルは現在自らの空腹を満たすために食堂に来ていた。
「えっと、じゃあ日替わりランチで」
「かしこまりました」
食堂にあるカウンターでは学院の生徒と同年代くらいの給仕が注文を取っていた。
食堂のメニューには何やら豪華そうなお品書きが書かれていて、どんな料理なのか分からなかったため目に留まった庶民的な料理を頼んだようだ。
「お待たせしました」
注文を頼んだ給仕が料理を乗せたトレイを運んできた。
注文して間もないというのに料理が出てきたので、レアルは少し驚いていた。
作り置きでもしておいたのだろうと考えながらレアルは空いている席を探す。
食堂の中は丸いテーブルに椅子が四つついてあるのが疎らに感覚を開けて置いてある。外にはテラスがありそっちでは優雅なティータイムに洒落込んでいる生徒が多い。
レアルはテラスと食堂を隔てているガラス張りの壁のところにあったテーブルに向かった。
光を遮るものがないので日光が体にあたって心地いい場所だ。
レアルはトレイを置いて椅子に腰かける。
「やっぱり、どこに行っても見られてるってのは鬱陶しいな」
常にというわけではないが院内にいるときはかなりの頻度で視線を注がれている。
レアルを見て小言で何か話しているものもいれば、目が合ってあからさまに嘲笑を浮かべるやつもいる。
実害はないがレアルは何かの見せ物になった感じで落ち着かないでいた。
けれども、今はどうしようもないのでレアルは早く時間が解決してくれることを願った。
「とりあえず、飯食うか」
レアルはいったん思考することをやめて昼食を食べることにした。
日替わりランチのメニューはコーンスープに野菜サラダ、ステーキにパンだった。
「さすが貴族たちが使う食堂だな」
やたらと豪華な料理に感嘆としながらレアルは手を合わせる。
「いただきます」
「おい、そこのお前」
食事の始めの挨拶を終わらせてステーキに手を付けようとしたところで誰かに声を掛けられる。
首を動かして声を掛けてきた人物の方向を見る。
そこには青いマントを付けた金髪の男子生徒がいた。その表情は無駄に自身満々といった感じだ。
後ろには取り巻きのこれまた青いマントを付けた数名の男子がいる。
レアルは知り合いかと思い頭の中で該当する人物を探すが、この学院で知り合いなどいるわけがないとすぐにやめた。
「えっと、俺?」
一応確認を取ってみる。
「そうだ。お前以外に誰がいる」
初対面でいきなりお前呼ばわりとかあからさまに見下してるな、と思いながらレアルはため息をつく。
金髪の男子生徒は嫌そうな顔をするレアルを無視して要件を言ってきた。
「僕は今から食事をする」
「あ、そう」
「なのでお前は僕に席を譲りたまえ」
「嫌だ」
レアルと男子生徒の間でしばらく沈黙が流れた。
すると、男子生徒は一度咳払いをしてまた口を開いた。
「僕は今から食事をする」
「さっき聞いたよ」
「だから君は僕に席を譲りたまえ」
「嫌だって言っただろ。話聞いてたのか?」
男子生徒はレアルの言葉を聞いて固まってしまった。
「あのさ、もういいか?」
「よ、よくない!」
「・・・はぁ、何がよくないんだよ」
レアルは男子生徒に対して心底面倒くさそうな顔をした。
「な!?貴様さっきからなんだその態度は!!」
男子生徒の声が大きなり食堂にいる生徒の視線が集まってきた。
「普通に話してるだけだけど」
「僕は貴族だぞ!!いいからお前はさっさと席を譲ればいいんだ!!」
「だから?」
「え?」
「お前が貴族だからなんだ?どこに席を譲る理由がある?」
突然の問いかけに男子生徒は狼狽える。
「正当な理由とかがあるなら言ってくれよ」
レアルは怒っているわけでもないいつもどおりの口調で問いかける。
けれども、男子生徒は若干後ずさるように狼狽えた。この男子生徒も自分が間違っていることをしているという自覚はあったのだろう。
というか、そもそもこういう反応をさせるこを想定していなかったのか対処に困っているという感じだ。
「おい、お前!ふざけた態度もいい加減に・・・・」
狼狽えている男子生徒を見てじれったく思ったのか、後ろにいた取り巻きの一人がレアルに掴みかかろうとした。
「ちょっと、何をやっているの?」
レアルは特に身構えることなく立ったまま、掴みかかってくる男子生徒を投げ飛ばしてやろうかなどと考えてると、男子生徒たちとは違う声が聞こえた。もちろん、レアルでもない。
聞こえてきたのは透き通った女性的な声。見てみるとそこには先日、図書室であった女子生徒が立っていた。その後ろにはもう一人オロオロと狼狽えている女子生徒もいた。
「ア、アイシャさん・・・!?」
狼狽えていた男子生徒が彼女の名前を呼んで、レアルは確かそんな名前だったなと思い出す。
「もう一度聞くわ。あなたたちはここで何をやっているの?」
「そ、それは・・・ですね・・・」
狼狽えていた男子生徒はさらに焦りが加わり、しどろもどろに言い訳を考えている。
「その平民が僕らのことを馬鹿にしてきたんです!」
今度は先ほどレアルに掴みかかろうとしていた男子生徒が答えた。
「それは本当なのかしら?」
「いや、違うが。俺は食事中に強引に席を譲れと言われて断っただけだ」
「う、嘘を付くな!?僕らがそんなことをするわけがないだろう!!」
どうやら、男子生徒たちはレアルを悪役に仕立て上げようとしているらしい。
アイシャは少し考える素振りを見せて口を開いた。
「それなら、この状況を見ていた周りの生徒に聞いてみようかしら?」
「え!?そ、それは・・・・」
「何か問題でもあるかしら?」
「いえ・・・別にそういうわけでは、ただそこまでする必要はないのでわ?」
「それもそうね」
アイシャの言葉を聞いて男子生徒は安堵の表情を浮かべる。
けれど、それもつかの間だった。
「どう考えても嘘を付いているのはあなたたちの方だもの」
「!?ど、どうしてでしょうか?」
「その焦った態度が自分たちの首を絞めていることが分からないの?」
アイシャに指摘されて男子生徒は押し黙った。
狼狽えていた態度はすでに怯えに似た何かに代わっていた。
「ア、アイシャさんはそこの平民とど、どういった関係で?」
苦し紛れに出た言葉はくだらない質問だった。
「そんなことは今あなたに言う必要なにでしょ?あと私のファーストネーム気安く呼ばないで」
その一言が止めになったのか男子生徒はがっくりと落ち込んだ。そして、しばらくすると肩を落としながら食堂の出口の方に向かっていった。
取り巻きも悔しそうにレアルの事を睨みつけたあと、トボトボと食堂から出ていく男子生徒の後を追った。
男子生徒が完全に食堂を出て行ったのを確認するとアイシャは方の力を抜いた。
レアルはアイシャの登場でかなり注目されていることに気づいて食事そっちのけでこの場を去ろうかと考えていた。
だが、それはアイシャがレアルの方に振り向いたことで阻止されてしまった。アイシャは少しレアルに歩みより口を開いた。
「相席してもよろしいかしら?」
「え、あ、どうぞ」
レアルの退路は完全に断たれてしまった。
◇◆◇◆◇◆
それからしばらくしてレアルはアイシャとの相席を了承してしまったことを後悔する。
レアルは先にアイシャの要件を聞こうとしたのだが、レアルが食事の途中だということを考慮して先に食べてからでいいと言ってきたのだ。
腹も空いていたのでレアルは二つ返事で頷いたのだが、アイシャと相席しているためか周りの視線が集中した。
レアルが食事をしている際、アイシャは無言のまま待ってくれていたのがレアルはなぜか待たせていることが気まずくなってしまった。
その所為であまり味わって食べられず昼食を食べた気がしなかった。
ちなみにその間に気づいたことだが、この食堂は生徒がテーブルに座って給仕が注文を取りに来るという店のようなシステムを採用しているらしい。
わざわざカウンターまで注文しに行った自分が馬鹿みたいだと思い、レアルは今度からはそうしようと心に誓うのであった。
そして、現在レアルの目の前に座っているアイシャは注文した紅茶を啜りながらティータイムを楽しんでいた。その隣には先ほど後ろでオロオロしていたユーナも座っていた。
「まずは自己紹介から始めましょうか。私はアイシャ・エテオクレス。家はこの国で公爵の地位を持っているわ」
「わ、私はユーナ・ドレアです。アイシャ様の付き人をしています。この前は失礼しました!」
ユーナにいきなり頭を下げられてレアルは面を食らう。
レアルはなぜいきなり謝罪されるのか理由が分からなかった。
「この子は初めてあなたと会ったときに怒鳴ってしまった事を謝っているのよ」
「ん、ああ、あの無礼者ってやつか」
レアルは思い出したように呟いた。それを聞いてその時のことを思い出したのかユーナは顔を赤くした。
「普段はこんな風に頼りなさそうに見えるけど、一応私の護衛も務めているのよ」
レアルはアイシャに疑いの目を向ける。
どう考えてもユーナがアイシャに襲い掛かる刺客を排除できるとは思えなかったからだ。アイシャが護衛でユーナを守っているのであればすぐにでも頷けるのだが。
「ユーナは巫なの」
「巫?ああ、それでか」
レアルはそれを聞いて納得した。
巫というのは精霊に仕える人間の事だ。普通ならば精霊が人間に仕えるのだが、巫は特別な例だ。
マナが豊かな土地というのは基本的に自然が豊かな場所だ。そうした場所には潤沢な資源があり、それを獲得しようと人が集まってくる。
けれど、それと同時にマナが豊かな土地には高位の精霊が住んでいるところが多いのだ。
そういった精霊は人との接触をあまり好まない。精霊は人よりも長く生きていて、住み着いた土地に人が入ってくるということは自分の家に土足で人が上がりこむようなものだからだ。
そこで出てきたのが巫だ。
精霊と言えど、長い間一つの場所に籠っていれば退屈する。巫はその精霊の相手をして楽しませるという役割だったらしい。そして、精霊を楽しませた報酬として人は土地から資源を得る。
その土地に住む人は精霊を崇めたり、供物を捧げたりしている。そのことから土地に住む精霊は土地神などと呼ばれたりもする。
なので巫は必然的に高位の精霊と契約していることになる。
けれど、巫という役目は大昔に考えられたもので、今ではその数も減っている。
レアルもその役目を担ったものと出会うのは初めてだった。
「けど、大事な巫が土地を離れても大丈夫なのか?」
「それはリュカも許してくれているので大丈夫です」
「リュカ?」
「私の契約している精霊の名前です」
許しが出たらいい、と聞いてレアルは巫の決まりにどこなくゆるさを感じた。古い決まりなので今は巫の意味合いも少し変わってきているのだろうと考え、レアルは納得した。
「私たちの自己紹介はこれくらいでいいでしょ。あなたの名前も聞かせて頂戴」
「え、同じクラスなんだから俺の名前知ってるだろ?」
「相手が名乗ったら自分も名乗るのが礼儀というものでしょう?」
アイシャはそれがあたかも当然といった感じて言った。
レアルは面倒だと考えつつもう一度自己紹介をすることにした。
「レアル・フリーシアだ。これからよろしく。これでいい?」
「朝とは違うのを期待したのだけれど、まぁいいわ」
アイシャはそう言うが表情を見ると期待しているようには思えなかった。自己紹介なんてそんなにバリエーションがあるわけではないのだ。
「それで、エテオクレスの要件はなんだ?」
「この前のお礼を言いに来たの」
「お礼?ああ、あの時のか」
この前と聞いてレアルは図書館での一件を思い出す。
「律儀だな。それに一回聞いてるし」
「あの時は急いでいたから、こういうことはちゃんと言っておきたいの。ありがとう」
「ありがとうございます」
そう言ってアイシャとユーナは頭を下げる。
先ほどの男子生徒とは同じ貴族だというのに態度が大きく違う。
二人が頭を下げたことにより周りの視線がさらに強くなった気がしてレアルはため息が出そうになった。けれど、礼を言われているときにため息をつくのも何か失礼だと思って我慢した。
「まぁ、どういたしまして。話は終わりか?」
「なんだか感謝されているという割には素っ気ないわね」
「そこまで大したことをしてないからそういう風に感謝されると、逆に申し訳なくなるって思ってね」
顔を上げて不満を言うアイシャに嘘を言って誤魔化す。
「少し聞きたいのだけれど、あなたはどうしてこの学院に編入してきたの?」
「いきなり何でそんなことを聞くんだ?」
「あなたのような編入生はこの学院では珍しいから気になったの」
学院長に依頼されて編入したとは答えられずどうしようかレアルは迷った。けれど、聞かれて答えないというのも変なので適当に答えることにした。
「ええと、俺に魔法を教えてくれた師匠みたいな人がいるんだけど、その人に勧められて編入したんだ」
嘘は言っていない。実際は嵌められたが正しい。
「魔術の先生を雇っていたの?」
「いや、ここの卒業生で年中どっか放浪してるから先生ってわけじゃないな」
「放浪、ですか?」
今もどこにいるか分かっていない。
「各地を放浪しているということは何かの商いでもしているの?」
「金遣いが荒いからな。単に遊んでるだけだと思う」
説明していくうちにレアルの師匠であるタリアがどんどんとダメ人間になっている。
アイシャたちも話から人物像を頭に浮かべてみたのかどことなく嫌そうな顔をしている。
「・・・大丈夫なの、その人」
「教えることは教えてくれたし、性格悪いけど悪人じゃないから」
こうも悪口ばかり出てくる師匠というのも珍しいものだ。
「お、そう言えば俺行く所があったんだ」
話が一区切りついたところでレアルは突然切り出した。もちろん、これは嘘だ。
これ以上視線を浴び続けるのが嫌なのと、さらに質問されるのを避けるためだ。レアルも話の中でぼろが出るとは思っていないがあまり深く関わる必要もなかったので適当なところで切り上げたのだ。
「そうなの?長く引き留めて悪かったわね」
「別に気にしなくていい。それじゃ、助けてくれてありがとな」
レアルはそういって席を立ち食堂の外へと向かっていく。
外に出るまで視線が集まっていたがそれもようやくなくなった。
そして、レアルは大きく息をはく。
「たく、まだ半日しか経ってないのに何でこんなに疲れなきゃいけないんだよ」
そう愚痴を零しながらレアルは残りの昼休みの時間をどうやって潰そうかと考えていた。