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忘却のアルテミス  作者: 二四野 鏡
落ちこぼれの編入生
2/38

再会

 お祭り騒ぎ状態の大通りを抜けてレアルがまず向かったのは酒場だった。

 馬車の護衛をしていた期間は約一週間。その間レアルは日持ちする干し肉とパンと盗み食いをした林檎しか食べずに過ごしていた。

 久しぶりにちゃんとした料理が食べたいと思い酒場へと赴いたのだ。

 酒場に入るとレアルに視線が集中する。けれど、それは一瞬のことですぐに収まった。

 昼の時間を大分過ぎている所為か中にいる客の数は少なく、がらんとした雰囲気だった。

 レアルは適当な席に座って近くにいた給仕服を着た女に声を掛けた。

「あのさ、飯食いたいんだけど」

「はい、畏まりました。何にしますか?」

「あ、え~と、お任せで」

 レアルはこの店で何を出しているのか分からなかったので適当に答えた。

 給仕は「分かりました」と頷いて店の奥へと消えていった。

「案外通じるもんなんだな」

 常連客とかがよくそんなことでもいってるのだろうと推測した。

 しばらくすると先ほどの給仕がトレイを持ってこちらに戻ってきた。

「お待たせしました。こちらサンドウィッチと果汁酒です」

 差し出されたのはハムや野菜を挟んだサンドウィッチと黄色の果汁酒だった。

 出された料理をレアルは早速いただくことにした。

「お、これはなかなか」

 レアルはサンドウィッチの美味さに少し驚く。腹が減っていた所為かどんどん残りのサンドウィッチも原の中に納めていった。

 サンドウィッチを全部食べ終えると果汁酒を飲む。程よい酸味が口の中に広がり喉を潤していく。

「ごちそうさんっと」

 最後に顔の前で手を合わせてから感謝の言葉を述べた。

「この店の料理は気に入ってくれましたか?」

 すると、突然先ほどの給仕から声を掛けられた。

「え、ああ、美味かったよ」

「それは良かったです。ところでお客様は旅人の方ですか?」

 給仕は人懐っこい笑みを浮かべて聞いてくる。

 レアルの身なりを見てどんなことをしているのか興味を持ったのだろう。

「まぁ、そんな感じかな」

「やっぱり、そうなんですか。他の国とかどんな感じでしたか?」

「いや、俺もそこまでいろんなところ言ってるわけじゃないんだ」

「そうなんですか・・・」

 給仕はあからさまに落ち込んでいる。どうやらこの給仕は王都の外のことについてとても興味があるらしい。

「あ、それじゃあこの国にはどのようなご用件で?」

 客の前で落ち込んだ姿はまずいと思ったのか給仕は急遽話題を変えてきた。

「えっと、人に呼ばれたんだよ。あ、そうそう。あんた道とか詳しい?」

「はい、この辺りのことは詳しいですけど」

「それじゃ、ちょっと道教えてくれないか?呼ばれた場所がどこにあるのか分かんなくてな」

「いいですよ。どこですか?」

「確か、どこだったけな」

 レアルは荷物を入れている袋の中から何かを取り出そうとしている。

「お、あったあった」

 レアルが取り出したのはよれよれになっている一通の手紙。その手紙の封筒を開けて中身を取り出す。

「目的地はえっと・・・王立エールトリス魔導学院だな」

「え!?」

 目的地の場所を答えると給仕の顔が驚きに染まった。そして、その顔はすぐに怯えたような表情になった。

「も、申し訳ごございません!!とんだご無礼を!?」

「え?」

 給仕は突然体を折り曲げて頭を下げる。

 給仕が大声で叫んだためか他の客が何事かとレアルの席に視線を向けてきた。

「ちょっと待ってくれよ。急にどうしたんだ?」

「ですから、あなた様が貴族の方であることを知らずに慣れ慣れしい態度で・・・」

 だんだんと声が小さくなっていったので最後方は聞き取れなかった。

「別に俺は貴族なんかじゃないけど」

「え、ですが魔導学院に向かうのではないですか?」

「それはそうだが、俺は単に人に呼ばれただけだから」

「そう、だったんですか」

 レアルが貴族ではないことを理解した給仕はほっとして胸を撫で下ろした。

 先ほどの会話の所為で少し居心地が悪くなったためレアルは学院への行き方を聞いてその酒場を後にした。



  ◇◆◇◆◇◆



「しにても、目的地の名前を出すだけで貴族に間違えられるとはな」

『魔導学院ともなれば仕方がないだろう。なんせ貴族のために作られたようなものだからな。平民が通うなどまず思わん』

 レアルは給仕に教えられたと通り、王都の西門から外に出てそこから伸びている街道に沿って歩いている。

 今向かっている王立エールトレス魔導学院は王都の中には存在しておらず、それより少し離れたところに建てられているらしい。

「そうなんだけどさぁ、いきなり謝られると思わなかったよ」

『平民にとって位が高いものは面倒なものだからな。下手に刺激して不敬罪などと言われたら堪らんと思ったのだろう』

「ああいう反応するってことはまだそういうのがいるってことだしな。全く国は何をやってんだか」

『そういう輩は国の重鎮や国王に対してはいい顔ばかりしているのだろう』

 今のレアルは独り言をぶつぶつと呟いている怪しい人なのだか、誰も見ていないので本人は特に気にしていない。

 尤もレアルはこの声の主と話すときは必ず周りに誰もいないことを確認するのだが。

「お、もしかしてあれかな」

 レアルは歩いている先に高い塀に囲まれている建物を見つけた。

「流石貴族さまが通う学校だな」

 離れている街道から見るここからでもかなりの大きさであることが伺える。

「一体、タリアはあんなところに呼び出して何のようなんだか」

『そもそも、あの女があそこにいること自体が疑問に思えてくるな』

「確かにタリアには縁のなさそうな場所だ」

 タリアとはレアルを王立エールトリス魔導学院に呼び寄せた張本人である。

 レアルはそのタリアという人物を思い浮かべたが、どう考えても学院とイメージが結びつかない。

「なんであれ、行ってみれば分かるだろ」

 そういってレアルは学院へ向かうスピードを少し速めた。

 学院はもうすでに目と鼻の先だったのですぐに到着した。

「近くで見ると本当にでかい学院だな」

 レアルは学院の門の前で立ち止まって建物を見上げる。

 あまりの大きさにレアルは王都にある城と同じくらいはあるのではないかなどと考えてしまった。

「それにしても結構な距離歩いて疲れたな。中に入ったらどっかで休ませて貰うかな」

 そういって学院の門を潜ろうとしたときレアルの目の前に槍が現れた。

 左右両方から現れた槍はレアルの前で交差して、ここから先は通さないという意志を示していた。

 見てみると門の内側に鎧を着た衛兵が立っていた。

「貴様、何者だ」

 右側にいた衛兵が高圧的な態度でレアルに質問した。

「何者って言われてもなぁ、なんて言えばいいんだろ」

「見たところによると旅人のような格好をしているな。ここに来た目的は何だ?」

「目的?一応人に呼ばれてここに来たんだけど」

「それを証明するものはあるのか?」

 証明するものと問われてレアルは考え込む。しばらく考えたあとレアルは荷物の中からよれよれとなった手紙を差し出した。

「これは?」

「俺を呼んだやつが書いた手紙だよ」

 衛兵はすぐに中身を確認した。そしてその手紙を流し読みするともう一人の衛兵に対して小言で何かを呟く。

 それを聞くともう一人の衛兵は学院の中へと走っていった。

「少し待っていろ。確認を取ってくる」

 レアルは状況を理解して素直に待つことにした。

 衛兵が戻ってくるのにそう時間は掛からなかった。

 衛兵は戻ってきたということはこれで学院に入れると思ってレアルは再び学院の中へ入ろうとする。

 だが、期待は裏切られ、またもレアルの前に槍が突き出された。

「え、あれ?どういうこと?」

 レアルは衛兵の行動が理解できずに困惑する。

「先ほどの手紙だが、今日ここに客人が参る予定はなかった。つまり、貴様は学院の中には入ることが出来ない」

「はぁ?」

「おかしいと思ったのだ。貴様のような輩がこの学院に呼ばれるなどどう考えてもありえんからな」

「おまけに白昼堂々とこの学院に侵入しようとするとは相当馬鹿な賊もいたものだ」

 どうやらどこかで話がこじれて衛兵たちの中ではレアルが貴族の通う学院に真正面から忍び込もうとした大馬鹿な賊ということになっているらしい。

「いや、賊ってなんだよ?確かに俺はタリアに呼ばれたはず・・・」

「何をぶつぶつと言っているんだ。今回は見逃してやるからさっさと行け」

 衛兵は早く立ち去れと手を払いながら言う。

『見事に門前払いを食らってしまったな、ククク』

「笑い事じゃねぇって」

 またも頭の中で声が響いたのでレアルは小声で答える。

『今回も見事に騙されてしまったようだな』

「いや、それは違うと思うんだけど」

『何が違うと言うのだ。あの女から呼び出されて無駄な労働をさせられる、今までと変わらないだろう?』

「無駄なことさせられてんのは同じなんだけど、これじゃああいつに何にもメリットがないんだよな」

『どこか遠くから私たちを監視して腹を抱えて笑っているのではないか?』

「流石にあいつもそこまで性悪で面倒なことはしねぇよ」

「お前、いつまでそこにいる気だ!!」

 頭に響く声と話していたレアルは突然の怒鳴り声に意識を向けた。その声を発したのは先ほどの衛兵だった。

「いくら待ったところで入れないものは入れん。これ以上そこに居座るつもりなら・・・」

 衛兵はそういってやりの先端をレアルに向ける。

 これ以上ここにいるつもりなら実力で排除すると言うことだろう。

 それを見てレアルはここで騒ぎを起こすのも面倒なので一度退散することにした。

「へいへい、すぐに退散しますよ~」

 レアルは両手を顔の横に上げてその場を立ち去ろうとした。

「待ってください」

 すると、今度は衛兵たちとは別の声が聞こえた。

 その声につられて後ろに振り返ると、衛兵たちの後ろに一人のメイドが立っていた。

 まず目に入ったのは淡い翠色の髪だ。頭の後ろで一つに纏められポニーテールにしてある。そしてその頭にはメイドキャップが乗っていた。肌も白く顔立ちも整っているが今は表情がない。黒のメイド服に肩口にフリルのついたエプロンを身に着けている。

 そのメイドは背筋を伸ばしてゆっくりとこちらに歩いてくる。

「レアル・フリーシア様ですね?」

「ああ、そうだが」

 レアルはフルネームを呼ばれたので肯定した。

「私はこの学院の学院長に仕えさせていただいているメイドのセルフィ・パルマと申します。遠路遥々この学院にお越しいただきありがとうございます。それと、お出迎えが遅れて申し訳ありません。ですが、何分こちらもレアル様がいつ到着されるのか存じておりませんでしたのでそこはご了承ください」

 メイドはセルフィと言うらしい。セルフィは淡々とした口調で告げながら丁寧に頭を下げた。

「あ、いや、こっちこそ悪かったな。来る時間教えなくて」

 随分と畏まって謝罪されたのでレアルも釣られて戸惑いがちに謝罪した。

「寛大なお心遣いありがとうございます。それでは立ち話もなんですので早速学院の中へ入りましょう。学院長もお待ちですので」

 そう言ってセルフィは踵を返すと学院の中へと入っていく。

 衛兵たちはセルフィとレアルのやり取りを見て唖然としていた。

「って、俺が呼ばれたのって学院長じゃなくて・・・」

 レアルは先を行くセルフィを追いかけながらセリアの言葉を訂正しようとした。けれど、学院に入った途端何かの違和感を感じて後ろを振り向いた。

 振り向くとそこにはまだ唖然としている衛兵と先ほどと変わらない風景しかなかった。

「どうか、なさいましたか?」

「え、あ、いや、なんでもない」

「そうですか。では、私の後について来てください。この学院は広いので逸れないよう気をつけてくださいね」

 セルフィはまた淡々とした口調で説明すると学院の奥へと足を進めた。

 仕方がないのでレアルも黙ってついていくことにした。

 その最中に先ほどの違和感について考えたレアルだが何も分かったことはなかった。



  ◇◆◇◆◇◇



 学院の中に入ったレアルは無言のままセルフィの後についていった。

 無言のままというのも何か気まずいのでレアルは先ほどのことについて聞くことにした。

「あのさ、セルフィ、さん?さっきこの学院の学院長が呼んでるって言ってたけど、どういう意味?」

「そのままの意味です。今回レアル様をお呼びしたのは学院長です」

「いや、俺はタリアの用事で呼び出されたんだけど」

「それは学院長がタリア様を通じてレアル様に来ていただくように頼んだからです」

 セルフィは丁寧にレアルの質問に答えた。

「それだったら話ぐらいは通してくれてもよかったんじゃないか?」

「そのことにつきましては先ほども申し上げましたようにレアル様が来られる時間が分からなかったということと、今回の件についてはあまり公にはしたくなかったためです」

「今回の件っていうのが俺を呼んだ理由なのか」

「ご存知ではありませんでしたか?」

 セルフィは一度振り返りレアルに問いかけた。

「ああ、手紙にはこの学院に来いとかしか書かれてなかったからな」

「そうでしたか。まぁ、タリア様ならありえる話ですね」

 どうやらセルフィもタリアの正確は知っているらしい。聞いている限りでは少なからず交流があったのだろう。

「では、後でまとめてご説明することにしましょう。授業が終わった生徒たちに見られて騒がれるのも面倒なのでなるべくお急ぎください」

 セルフィは前に向き直ると先ほどより速い歩調で歩き始めた。

 それからは話すこともなかったのでレアルも歩調を合わせてついていった。

 廊下を進んでいきいくつかの角を曲がって突き当たりの部屋にたどり着いた。

「学院長、レアル・フリーシア様をお連れしました」

 セルフィは部屋の扉を二階ノックして中からの返事を待つ。その返事はすぐに返ってきた。

「入りなさい」

 中から聞こえた声はそれだけでも声の主が年老いていることが分かる声だった。

「どうぞ」

 セルフィはドアを開けて中に入るように促してくる。

 レアルは促されるまま中に入る。そして、中に入った途端に銀色の物体がレアルに向かって飛んできた。

 レアルはそれを特に驚くことなく首を動かしただけでかわす。

 標的を失った銀色の物体は扉の横の壁に突き刺さる。見てみるとそれはフォークだった。

「いきなり何しやがる」

 レアル壁に突き刺さったフォークを抜いて投擲した人物に投げ返す。けれど、投げ返したフォークはあっさりと受け止められてしまった。

「お前が遅いからいけねーんだよ。あたしがどれだけ待ったと思ってんだよ」

 投げ返したフォークを受け止めたのは客人用のソファに座っている女だった。

 女は上着の袖を肘のところまで捲り上げてボタンも全開にしている。ズボンもところどころ切れ目が合ったりしてかなり荒々しい印象を受ける。深い紺色の髪は肩にかかるほどの長さで切れ長な赤い瞳は少し笑いながらレアルを見ていた。

 そこにはレアルがあまり会いたくなかった人物、タリア・フィートが堂々と座っていた。

「無茶言うなよタリア。それに期限もないのに遅いも早いもあるか」

 レアルはため息をつきながら今回自分をここまで呼び出した人物に言った。

「師匠がよびだしてんだから弟子が早く来るのは当たり前のことだ」

「国境からここまで来たんだから時間がかかって当然だろ」

「いや、お前が走ったらもっと早く着いたはずだ」

「なんで俺がそこまでしなくちゃならないんだ」

「薄情な弟子だねぇ」

「俺様主義の師匠を持ったからな」

 部屋に入るなりお互いに憎まれ口を叩き合う。

「タリア様部屋に入ってくる客人に対していきなりフォークを投げつけるのはお行儀が悪いです。あなたも女性であるならいい加減フォークの使い方を覚えてください」

 レアルの後ろにいたセルフィがフォークを投げたタリアを注意する。

 フォークを人に投げたことを行儀が悪いで済ませられるのかとレアルは思ったが口にはしなかった。

「それとレアル様も師弟同士の仲がいいアピールは結構ですので早く中にお入りください」

「「仲良くねぇ!!」」

 セルフィの言葉にレアルとタリアは同時に否定した。

 そんな二人はお構いなしと言った感じでセルフィは部屋の中に入る。そして奥の老人の横ところで立ち止まった。

 その奥に座っている老人が学院長なのだろう。老人は椅子に座って豪華そうな机に手を置いて優しげにレアルを見ていた。

 白髪の髪に皺が目立つ顔。口には長い髭も蓄えていて純白のローブを着ている。見た目はどこにでもいそうな年寄りだ。

「君がレアル・フリーシア君だね。私はこの学院の学院長をしている、オズワルド・ミラ・クラフティスだ。どうぞ、中にお入りなさい」

 オズワルドはタリアの前のソファに手を向けてレアルに中に入るよう促してくる。

 このまま突っ立ったままでも意味はないのでレアルは素直に従うことにした。

 レアルがタリアの目の前のソファに座ると横からセルフィがティーカップを差し出してきた。

「紅茶でございます」

「どうも」

 レアルも喉が渇いていたので差し出された紅茶を飲んだ。紅茶など数得るほどしか飲んだことがないレアルであったがその中で一番美味いと言える紅茶だった。

「それで今回俺を呼んだ用件はなんだ?」

 ティーカップを一度置いてレアルが早速本題に入った。

「ああ、お前を呼んだのはなちょっとやってもらいたいことがあるんだ」

「・・・はぁ、またかよ」

「ん?何だよ、そのため息は?師匠のためにがんばろうとは思わんのか」

「思わない。毎回毎回俺だけが働いてお前は何もしないし、そう上ちゃっかり報酬とか持っててるし、面倒なだけだ」

「いや、そんなことはないぞ、あたしだってちゃんと働いてるんだからな」

 何を根拠にそんなことが言えるのかタリアは胸を張りながら言った。

「大体、いつもお前の持ってくる頼みはお前で・・・片、づけら・・・」

 レアルは立ち上がりタリアに抗議しようとしたがなぜか足に力が入らず、それに呂律が回らなくなった。

 その次の瞬間にはレアルはどっと睡魔に襲われた。

 レアルはすぐに睡眠薬を飲まされた事に気づいた。先ほどの紅茶の中に入っていたのだろう。

「悪いなレアル。ま、後のことは頼んだぞ」

 タリアは悪気など微塵も感じていないような顔でレアルに謝った。

「くそっ・・・・ま、て・・・・・」

 レアルはとうとう襲い掛かる睡魔に耐えられず意識が途絶えた。

 意識を失ったレアルの体はソファにゆっくり倒れこむ。倒れるとレアルはスースーと寝息を立て始めた。

「流石、セルフィさんの睡眠薬。効果覿面だな」

 タリアが立ち上がり横たわっているレアルに近づく。そして彼の荷物の中から何かを漁りはじめる。

「何をしておるのだね?」

「ん?ちょっとな・・・お、あったあった♪」

 荷物の中から取り出したのは丸く膨れ上がった子袋。どうやらレアルの財布のようだ。

「タリア様それは強盗かと」

「いいんだよ。持ってたら持ってであたしを追いかけてくる資金にするんだから」

「君は本当にその子の師なのか?」

「それは事実だ。それじゃ、爺さんこいつのこと頼むぜ」

 タリアは立ち上がり部屋を出て行こうとする。

「君にも戻ってきて欲しかったのだがね」

 オズワルドは名残惜しそうに声を掛ける。

「それは無理だ。あたしはこの国では目立ちすぎるからな」

「そうか。では、また会えることを楽しみにしておる」

「おう。爺さんもセルフィさんも元気でな。あ、心配しなくてもそいつは間違えなしに強いから」

 そういい残してたリアは部屋を後にした。

「良かったのですか?」

「ああ、彼女の事情を考えれば無理強いすることのできんじゃろ」

「ですが、それでは・・・・」

「今はまだ警戒しておる段階じゃからなんとも言えんが、この学院にいるものはそれほど弱くはない。最悪の場合わしも動く」

「・・・・分かりました。ですが、あまりご無理をされないようにお願いします」

「分かっておる」

 会話が途切れオズワルドはもう一度眠っているレアルを見つめる。

「それにしてもタリア様に聞かされた話は驚かされました」

「わしも聞かされたときは息が止まるかと思ったわい。一応、申しておくが他言無用じゃぞ」

「承知しております」

「できれば、その子も普通の生徒のように過ごせればいいんじゃがな」

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