従者の後悔と主の決意
うーん
今回も展開が早いかな
まあお楽しみください
ヴァンは窓から外を見ていた。ヴァンがいる王都は綺麗に整えられた貴族の屋敷が建ち並び美しい街並みだった。ヴァンはため息をついた。いくら美しい街並みに囲まれていても富に溢れていてもヴァンは何一つ満たされた気がしなかった。ヴァンは神の力が欲しかった。それはヴァンより以前の者達もずっと考えていた事だった。神の血を引くとされる王族は眩い銀の髪を持ち、その髪に透ける紅い瞳がとても美しく、妬ましく、羨ましかった。
ヴァンも一度だけ見たことがあった。逃げ延びた王族が捕まって城に引きずられて来た時だった。あの頃はほんの少年だったヴァンの目には言葉では形容できないような程美しく映っていた。兵士に取り押さえられ床に伏してはいても王族の誇りを失わず凛々しくヴァンの父親を睨み付けていた。この時の王族夫婦は大分年老いていたからきっと子供がいてどこかにいるに違いない。ヴァンはいつしか反乱を起こされるという恐れより王族を手に入れたいという欲求が上回っていた。ましてや手に入れた王族が女ならば…。ヴァンは舌舐めずりをした。
カインは子供達と遊ぶソフィアを離れた所から見ていた。ソフィアが動く度に銀色の髪に日の光が当たってキラキラと輝いて見えた。カインは眩しそうに額の辺りに手をかざした。子供達と教会の庭で駆け回るソフィアの姿は世界の醜く汚ならしい物には全くの無縁のようだった。自分は彼女を汚ならしい泥の中へ引きずりこもうとしている。カインは自分の腕に爪を立てた。だがこの国の改変は平民達皆の願いだ。それを成すためには王族という存在は革命軍の士気をあげるためにも結束をあげるためにも必要な物だ。何よりソフィアもこの国の改変を望んでいる。革命軍の上に立つ事も躊躇しなかった。カインはソフィアの瞳にしっかりと決意の火が灯るのを見た。なのに何故今更巻き込んだ事を後悔しているのだろうか。カインの自問自答は底も果ても見えなかった。
「ねぇそんな所にいないでこっちに来たら?皆貴方にも遊んでもらいたがっているわ。」
ソフィアがカインに手招きをする。カインは少し戸惑ったが立ち上がりソフィア達の所へ駆けていった。
カインは皆の輪に入ったはいいが途方に暮れてしまった。カインは幼少時からあまりにも熱心に剣の稽古や勉強に励んでいたせいか遊びというものがわからなかった。カインの足にはカインに遊んでほしい小さな子供が3人ほどぶら下がっている。
「ど、どうしたものかな。」
「カイン、貴方の得意な事は何?」
ソフィアは困りきった様子のカインに声をかけた。カインは少しの間考え込むと少し照れながら言った。
「剣術を少し。」
「あら、剣術に長けているの?それだったら大きい子達の相手をしてあげてくれない?最近興味があるみたいだから。」
ソフィアが庭の奥の方を指差すと10代の少年が数人棒切れを持ってじゃれあっている。カインは辺りに落ちていた棒切れを適当に見繕うと少年達の所へ行った。
切り株の上に薪を置き、カインはその前に立った。周りには少年達が食い入るようにそれを見つめている。
「はっ!」
カインが棒切れをふりおろすと棒切れは薪に触れていないのに薪はすっぱりと2つに割れた。周囲の少年達から歓声が巻き起こる。カインは少し照れたように頭を掻いた。カインに剣術を教えてくれた父親はこれぐらい当たり前だとカインをあまり褒めてくれなかった。カインも父親のその言葉を信じ、更なる高みへと突き進んだ。「カイン、私にも剣術を教えて。」
カインが回想からふと我に返るとソフィアがカインの手をがっちりと握りしめていた。
「革命軍の上に立つなら私はお飾りじゃ嫌。皆と戦いたいの!!」
ソフィアの目は真剣だった。カインのさっきまでの後悔や罪悪感など吹き飛ばす程に。
「貴女の御心のままに。」
カインは頷いた。




