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紅き月  作者: 桜酒乱酔
3/5

王に仕える者

何やら話の展開が早すぎる気もしますがまあこいつはこんなもんだと笑い飛ばしてください

ソフィアは窓から射し込む日の光で目を覚ました。昨晩の出来事はまるで現実ではないようだった。何も出来ない普通の子供だと思っていたのに実は滅んだはずの王族だったという事実にも驚いたが革命軍の先頭に立つ事にまでなるとは。ソフィアは図らずもヴァンの恐れていた状況を作り出してしまっていた。

ソフィアがベッドから出ると目の前にカインが膝をついていた。

「おはようございますソフィア様。」

カインは満面の笑みでソフィアに挨拶をした。

「え?何でここにいるの?」

ソフィアはベッドから下ろしかけた足をベッドに戻した。

「ソフィア様のお近くでお仕えするためです。申し上げた通り、我が一族はずっと王族にお仕えしてきたのですから私もそれに従いソフィア様にお仕えします。」

カインは使命感たっぷりにそう言った。昨晩のカインは紅い月に金色の髪がよく映えた美青年に見えたのにあれは見間違いだったのか。ソフィアは少しがっかりした。

「カイン、あなたの好意を踏みにじる訳ではないけどここは王宮ではなく孤児院です。ここでは私は他の子と同じただの孤児よ。他の子と対等に扱ってくれない?」

ソフィアはカインを立たせるとそう諭した。自分が王族と知っても傲る所がない。革命軍のトップに立つ事に対しても王族だからではなく圧政に怒る一民衆としてだと彼女は昨晩革命軍の前で宣言した。彼女の精神の潔癖さはきっと多くの人に受け入れられるに違いない。カインは自分の主を誇らしく思った。だが自分が尽くす事を拒否されるとはいささかショックだった。カインの一族は特に男児は16歳になり王族に仕えられるようになるのを何よりも望んでいた。それは王族が滅んだとされた後に産まれたカインも例外ではなかった。王族の生存を信じて疑わない祖父母や両親から王族がいかに尊く素晴らしいかを聞かされて育った。カインは生きているだろう王族の子孫を守れるよう剣に励み、学問に精をだし、今ここでソフィアの前にいるのだ。カインには2人の兄と妹が1人いるが兄達は王族の生存は絶望的と言ってあわよくば隣国の傭兵に雇ってもらえばいいとアーデリア家の務めを放棄した。カインはアーデリア家の務めに誇りを持てない兄達はアーデリア家にはいらないと兄達に言い放ち、取っ組み合いになった事があった。今からしてみれば懐かしい記憶である。結局日々精進を続けるカインと精進する事もしない兄達ではカインに到底敵う訳がなかったのだ。そしてカインは13歳になった日に王族を探すべくこの国を回り始めた。2年間カインはソフィアを探し歩き、去年この街でソフィアを見つけた時は喜びのあまり泣き出しそうになったという。王族は皆銀色の髪に紅い瞳を持つ。だが神の力を目覚めさせるまでは瞳は暗い褐色をしている。カインはソフィアに声をかけようと思ったが何を言っていいかわからずふと口をついて出たのが冒頭の神の力を目覚めさせるキーワードだった。紅き月の夜力は目覚める、そしてソフィアは力を目覚めさせた。

カインはこの日をどれ程待ち望んでいた事か。

だが喜びに浸っている訳にはいかない。忌々しいあの一族にこれ以上この王国を汚させないためにもソフィアには王女として戦ってもらわなければいけない。地に堕ちた権威でもこの国の疲弊しきった国民達には充分な起爆剤だろう。それにこの戦いは神の力をもってしなければ勝利は得られない。


「カイン、どうしたの?黙り込んで。」

カインがふと我に返るとソフィアが顔を覗き込んでいた。まだ少女だが人間離れした美しさを持つソフィアに至近距離で顔を覗き込まれるとカインはどぎまぎしてしまった。

「何でもございません、ソフィア様。」

カインは立ち上がるとソフィアの部屋を後にした。


戦いはもうすぐそこまで近づいている。

カインは握りこぶしを固めた。

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