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ハロウィン!「魔法青年と絵」

作者: 麻生かなえ

 魔界ハロウィンタウン。

 丘の上で、キャンバスに向かっている魔法使いの15歳の青年がいた。

 彼の名は、イザール。絵が描くのが好きな眼鏡をかけた優しそうな顔つきが印象の好青年である。

 魔界では、主に魔法絵画が主流だが、彼は人間界で書くような絵画を描き続けている。

 パレットにオイルで混ぜたライトグリーンをペイティングナイフで混ぜてから、キャンバスに絵筆で描いた。

 つまり、彼は油絵を描いている最中なのである。

 

 薄紫の空と桃色、桜色、サーモンピンク色、等様々な色のピンクの雲をバックに魔法の箒で空中散歩を楽しんでいる外ハネと左右に分けた長い前髪が特徴の黒髪魔女がいた。

 レベッカである。

 「ん?」レベッカは、イザールに気付いて、ヒューと下るように地面へと降りたった。

 「イザール。あんたまた油絵描いているの?しかも、魔法絵画じゃないの」

 イザールは、驚いたように言った。

 「う…うわっ!?び…びっくりした…。ていうか、レベッカいついたの?」

 「あんたが、油絵描くのに集中している時から」

 「へ…へー。」

 ふたたび、クルッとキャンバスの方に体を向けて創作活動に専念し始めた。

 「ねえ、絵を描いている途中で、悪いだけどあたしの話聞いてくれる?」

 「…うん」

 ペタペタとイザールは、描きながら言った。

 「なんで、魔法絵画は、絵が動いたり、すばやく描けたりする事が出来るのに一回も魔法を使用しないわけ?あたし達は、魔法を使いたい時に使える事が出来るのに…」

 イザールは、絵筆を置いて少し黙ってから言った。

 「…僕だって、昔は魔法絵画を描いていたさ。小さい頃画家の父と一緒に。でも、ある時僕の運命を

変えたんだ。エニブライド図書館で見た『人間界絵画コレクション』という本で」

 「…………」

 レベッカは、黙って耳を傾けた。

 「あれは、僕が13歳の時かな…」

 

 二年前。

 イザールは、エニブライド図書館に行った。

 魔女&魔法使いのヴィッチ・タウンエニブライド図書館。

 魔界の歴史の本、童話、伝記、魔法絵本の他に人間界の本も管理されている。

 すべて上製本タイプで高く棚に本が積みあげられており、手に届かない本は、魔法で自分の手元に来たり、元の位置に戻る。

 本の貸出し等図書館司書をしているのは、幽霊ゴースト

 他にも、不死体のアンデット・タウンにグールインダ図書館。

 吸血鬼のヴァンパイア・タウンにロッキング図書館がある。

 なお人狼族の村にはない。

 「さてと」

 イザールは、絵画コーナーの棚に向かった。

 そして、金色の薄めの本を手に取って、机に座って見始めた。

 その本は、『人間界絵画コレクション』だった。

 彼は、その絵のすばらしさに目を奪われた。 

 ピカソのゲル二カ。

 ゴッホのひまわり。

 グランド・ジャット島の日曜日の午後。

 ムーラン・ド・ラ・ギャレット…。

 ルソーや、ダリ、ゴッホ、ピカソ、セザール、ゴーギャン等の有名画家が描いた西洋絵画が載っていた。

 イザールは、目をキラキラさせながら思った。

 (凄い…なんて素晴らしいだ…魔法を使わなくてもこんなにも素晴らしい絵画が出来るのか…。

 僕も描いてみようかな…人間界で活躍してきた画家達のように…)


「…と、言うわけなんだ。僕が魔法絵画じゃない普通の絵画を描いているのはたしかに、魔法絵画は素晴らしいと思うよ。絵が動いたりして楽しいし、魔法使えばもっと絵を描く腕が上がるかもしれないけど、僕にはつまらないんだ。僕は僕自身の力で絵を完成させたいんだ」

 照れくさそうに、イザールはヘヘっと笑いながら言った。

 「ふうん…」そうなんだとレベッカ。

 「あ、そうだ。今、『草原と少女』の油絵創作中なんだけどどうかな?今度ブルゼール魔法美術館(魔女&魔法使いの町)で今年開催された学生絵画コンクールに出品してみようと思うだけど…」

 照れくさそうにイザールは言った。

 『草原と少女』。

  それは、黄色の大陽と青空をバックに麦わら帽子を被った白いワンピース姿の少女が草原に立って風を感じて髪を耳にかけている姿の絵だった。

 ちなみにイザールは高い画力の持ち主である。

 「いいと思うよ。なんていうのかな…なんか絵が生き生きとしているかも」

 レベッカは、そう言った。

 「!?ほ、本当かい!?」

 ガタッ!!と、イザールは座っていた木の椅子から立ちあがった。

 ビクッ!となるレベッカ。

 「いやあ、君が褒めてくれてよかったよ。もし、ダメ出しくらったらどうしようと思っていたんだよ~。いやあ、ありがとう!!」

 イザールは、レベッカの両手を握り、ブンブンさせながら興奮したかのように言った。

 「………」

 レベッカは、ただただあきれるように見るしかなかった。

 「あ!そうだ。一週間後に学生コンクールの絵画部門、石像部門があるんだけどさ、あ、もちろん僕は

 絵画部門だけどね。それで、参加した全員の作品が展示されんだけど、入賞作品も展示されんだよ!

 金賞、銀賞、銅賞の!あ~!僕の絵が入賞していたらどーしよう…ああー。」

 ベラベラとイザールは、話始めた。

 「それで、もしよかったら、僕と一緒にブルゼール魔法美術館に行かない?暇だったらさ。

 もちろん友達連れて来てもいいよ」

 「…一週間後ちょうど暇だし、マジョリカ連れて行くよ。マジョリカ、彼氏のジャスデビとデートの予定入ってなければ」

 「じゃあ決まりだね!よーし!頑張って描くぞ―!目指せ!金賞ーッ!!」

 ウオオオオ!とオーラを放出させて、イザールはふたたび創作活動を開始した。

(イザールのやつ頑張っているな…)

 レベッカは、クスリと笑い、空飛ぶ箒に乗って丘をあとのした。


 学生絵画コンクール当日。

 ウィーンガチャン。ウィーンガチャン。

 ブルゼール魔法美術館に、ロボットのように歩いている、眼鏡をかけた魔法使いの青年がいた。

 「大丈夫?イザール」

 一緒に歩いていたレベッカが訪ねた。

 ギギギと錆びたロボットのようにレベッカの方を向いてガクガクさせながら言った。

 「だだだだ、だいだい大丈夫!だ大丈夫!」

 「大丈夫じゃないじゃん」

 レベッカは、呆れるように言った。

 「イザール君平気ぃ?」

 鼻をくすぐるような可愛い声が特徴のフワフワ金髪美少女魔女マジョリカが言った。

 「う、うん…多分平気かも…」

 「イザール君。緊張した時には、リラックスよ。緊張を和らげる方法の一つで、全身に力をいれてから、少しずつ力を抜いていく方法があるの。はじめから力を抜こうとせず、逆に一度力を入れるのがコツで、よりリラックスすることが可能なのですって。これを2、3回繰り返すのよ。

短時間でどこでも出来る方法だからいますぐ行った方がいいわよ❤」

ウフッ❤とニッコリと微笑んだ。

 「マ…マジョリカさんがオススメの方法を教えてくれたにはやらなくては…」

 早速イザールは、マジョリカに教わったリラックス方法をやった。

 そして、緊張を和らげる方法三回目。

 「ふー。あれ?心臓がバクバクしなくなったぞ」

 「でしょう」

 「よし、これで緊張がなくなったぞ。ありがとう。マジョリカさん」

 「どーいたしまして」

 「ねえ、マジョリカ。あんたどこでそんな方法知ったの?」

 「魔法辞典でよ。調べたい言葉や物の名前等を言ったり書いたりすれば、細かく出てくるものね。

 ほんと便利だわ。人間界で言うと、パソコンのインターネットと同じね」

 「ふーん…。あ!ついたよ」

 ブルゼール魔法美術館。

 魔界で活躍した画家の作品絵画、石像等が展示されている。

 「うわあ…凄い数のお客さんだわ…魔女に魔法使いに吸血鬼、狼男、ゾンビ、フランケンシュタイン…。これも、学生コンクールの作品見に為に?」

 マジョリカは、びっくりしたかのように言った。

 キョロキョロとマジョリカは、誰かを探すように辺りを見渡した。

 「どーしたの?マジョリカ」

 レベッカは、不思議そうに聞いた。

 「ジャスデビ様来ているかしらと思って…」

  ジャスデビ。種族は吸血鬼ヴァンパイアで赤髪のイケメン。マジョリカの彼氏で

  ドラキュラ伯爵の息子である。   

 「来るわけないでしょ?あいつ、おじさんと人間界に旅行中なんだからさ」

 「そっか…」

 シュン…とマジョリカはがっかりしたかのように、首をうなだれた。

 「ま、まあそんな日もあるって。あたしもロウに断わられたし…」

 

 昨日の夜。

 「もしもし?ロウ」

 レベッカは、まず始めにロウに電話を掛けていた。

 ちなみに、この世界の電話器はすべてアンティーク電話器である。

 レベッカの家は、黒。

 『おー!レベッカどーした?なんか、面白い話か?』

 ロウ。種族は人狼。銀髪で童顔が特徴。レベッカと付き合っている。

 「いや、今日あたしと、マジョリカとイザールと一緒にブルゼール魔法美術館の学生絵画コンクール見に行くんだけど行かない?イザールそれに作品出したからさー」

 『えっ!マジで!?イザール作品出したの!?』

 ロウは驚いたように大きな声で言った。

 「う…うん」

 耳がキーンと鳴りながらレベッカは言った。

 『うーん…俺も本当は行きたいだけど、今日村のアギルとデイブとグリブナーと一緒に人間界日本に行くだけど…前から約束してたんだよね…』

 「どこに?」

 『焼き肉屋牛角にテヘッ☆』

 テヘッ☆じゃねえよ。

 レベッカは、そう思いつつも話しを再開させた。

 「そっか。用事あるなら仕方ないよねじゃあ切るね」

 『おう。レベッカまた話そうな』

 「うん」

 向こうが電話を切ってから、レベッカも切った。

 他に、一昨日からジャスデビはおじさんのオスコット卿と一緒に人間界フランス.ベルサイユ宮殿観光&ドイツウィーンでのモーツァルトコンサートツアー3日間に出かけている為行けない。

 クラティス&ソフィアは、当日の日に、体の点検の為に博士の所に行かなくてはならない為、行けないという事だ。

 ちなみに、西洋妖怪達は人間界に行く時は必ず人間に化けてから行かないといけないと決まりがある。

 

 (あーあー。他のみんなと一緒に美術館行きたかったなあー)

 レベッカは、口をとがらせながら思った。

  「あのー?レベッカ?ボーとしているけど平気?」

 心配そうに、イザールがレベッカの顔を覗きこんだ。

 ビクッ!!おもわず驚くレベッカ。

 「へ、平気だよ!ほ…ほら、あんたの作品どんな結果なのか見に行こうよ!マジョリカ行くよ!」

 レベッカは、マジョリカを引っ張て行った。

 「あ…ちょ…!」

 

 学生コンクール絵画部門コーナー。

 「もー!レベッカ急にマジョリカの事を引っ張るなんてひどいわ!」

 マジョリカが、ほっぺを膨らませながら怒った。

 「ごめんごめん」

 あははとごまかすように笑うレベッカ。

 ゼエゼエハアハア。

 息切れさせながら、後からイザールが来た。

 「ハアハア…。レ…レベッカ、ハア…。速過ぎだよ…」

 「あ!ごめん、イザール。忘れてた」

 忘れてたって…。

 おいおいと思いながらイザールは、レベッカを見た。

 

 三人は、他の人達の作品を見た。

 涙を流す貴婦人の絵。

 ボールがはねまわる絵。

 おしゃべりする人達の絵。

 さまざまな、魔法絵画が飾られていた。

 「うわあ…。見て。絶対あそこ、入賞している絵画三作品飾られているんだよ。だって、客の集まりが他の作品よりも多いもん」

 と、レベッカは言った。

 「あ、本当だ」

 「見に行きましょ」

  三人は、入賞の絵画の所に言った。

  「すみません…。あたしたちも見せて下さい…」

 人ごみをかきわけながら、三人は入賞した絵画を見た。

 「…あ!」

 「うそ…」

 「う…うそだろ…」

 三人の目に止まったのは、金賞の絵画だった。

 金賞の絵画の作品は、『草原と少女』。

 そう、イザールの絵画だったのだ。

  「し…信じられない…。僕の作品が入賞しているなんて…」

 イザールは、ウッ…と涙を堪えた。

 

  表彰式。

  恰幅の良い魔法使いの美術館長と一緒にイザールと他の受賞者の人達(男と女)がいた。

  他のお客さんが集まっている。

  もちろん、レベッカとマジョリカもだ。

  『えー。では、これより第一回学生絵画コンクール授与を開始する』  

 と、マイクで痩せ君の美術館員の男がしゃべった時だ。

 「納得いかないザマス!」

  突然の出来事にみんなは、声をした所に注目した。

  金色フェレットのマフラーをまいた、とんがった眼鏡をかけた女の人がいた。

  「どーして、魔法絵画ではないただの絵画が金賞なのか納得いかないザマス!他の皆様は、魔法絵画なのに、ただの絵画が入賞するのはおかしいザマス!この、金賞の絵画の青年は、絶対魔法絵画を冒とくしているザマス!」

 そう言って、女の人は、ビッ!とイザールの事を指差した。

 「たしかに…」

 「て、言うか魔法絵画ではない絵画が、金賞だなんてあきらかにひいきだよな…」

 ザワザワとなった。

 険悪な空気が流れ込む。

 自分が、魔法絵画を冒とくしていると言われ、くやしさでただ黙って唇をかみしめるイザール。

 「金賞の作品の入賞をいますぐ取り消せ!」

 「そーだ!そーだ!」

 「早く、あの金賞の絵画をはずしなさいよ!」

 

 他のお客さんがピリピリとしている。

 今でも、イザールの絵画に飛びかかって破壊しそうないきおいだ。

 「はずせ!」「はずせ!」

 マジョリカとレベッカ以外のお客さんのはずせコールが館内に響く。

 (どーしよう…どーしたら…)

 レベッカは、どうしたら良いかわからなかった。

 と、その時だった。

 「皆さん、冷静になって私の話を聞いてください!!」

 館長の鶴の一声で、騒いでいたお客が祭りの後のように黙った。

 コホン。とせきばらいしてから、館長は、マイクを受けとって話始めた。

 『皆さんが、お怒りになるのはわかります。魔界では、魔法絵画が主琉ですからね。

 今回、何故私達が、何故イザール君…彼の作品を金賞に選んだ訳を話しましょう。

 まず、色使いです。配色が正確で、しかも、デッサン力もあり、パースぺクティブ(遠近法)も良く出来ている。彼の絵は、人間界での学生絵画コンクールでも賞をとれるほどの実力です。

 たしかに、他の皆様は魔法絵画を出品しましたが、彼はそれにかかわらず普通の絵画を出品した。

 なぜ、彼は一切魔法を使わなかったのか?それは、彼は魔法を使わなくても本来絵は素晴らしいものだと、われわれに伝えたかった。そうですよね?イザール=ウィグナー君』

 そう言って、館長はジッとイザールの目をみつめた。

 「は…はい」

 そして、ふたたび館長は話を続けた。

 『それに…学生絵画コンクール応募の欄に、どんな作品でも自由!と、書いてありましたよね?

 あの、言葉の意味わかりますか?つまり、魔法絵画以外の絵画も良いて事なのですよ?

 しかも、応募条件で魔法絵画以外の作品は対象外ではなんて一言も書かれていませんが?』

 館長は、さきほどイザールの金賞について文句を言っていた女の人に言った。

 「う…」

 たしかにその通りなので、言い返せなかった。

 『他のお客様。それでも、彼の金賞に納得いきませんか?納得いった人は拍手して下さい』

 「……」「……」

 最初は黙っていたが、パチパチと一人の客が拍手を合図に拍手の渦がわきあがった。

 パチパチパチ!

 「金賞おめでとー!」

 「さっきは、すまなかった!」

 

 この後、無事に表彰式が再開された。

 イザールは、館長に表彰状を受け取る時に緊張のあまり、手と足が一緒にでながら歩いた。

 『金賞おめでとう。イザール=ウィグナー君』

 にこっと、館長はほほ笑んだ。

 「あ…あ…ありがとうございます…」

 顔を真っ赤にさせてイザールは、表彰状を受けとって言った。

 パチパチパチ…!

 祝福の拍手が聞こえた。

 レベッカも、マジョリカと一緒に拍手しながら、心の中でつぶやいた。

 金賞おめでとう。イザール。(終)

 

 

 


 

 






    



  

 

 


 

 ハロウィン「魔法青年と絵です」

 ぜひよかったら読んでください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 独特の世界観が好きです。たくさんの登場人物がいますが、きちんと性格が分かる、読みやすい文章でした。 主人公の天才(変人?)ぶりにはまりました(笑)
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